先日、みんなの介護「ビジョナリーの声を聴け」で、高齢化率が46%になってしまった茨城県大子町の町長・高梨哲彦さんのインタビューや自治体が取り組むDX推進の記事が話題になっていました
総務省でもかねてより地方公共団体(自治体)のDX化には積極的に取り組む方針を掲げていました。2019年から「自治体DXの推進」を検討し始め、2020年に「デジタル社会の改革に向けた基本方針」という閣議決定がなされました。その結果、突然デジタル庁ができ、自治体にDXの推進を押しつけられたというわけです。必要なことではありますが、どうも大変そうではあります。
今回は、こうした自治体が置かれている現状について考えていきたいと思います。
無駄なデジタル化は余計に業務コストがかさむ!
自治体のDX推進といっても、すでにさまざまな状況や文脈が存在しています。過去には、電子政府や住基ネット導入ですったもんだが繰り広げられましたが、今回はコロナ禍で保健所と都道府県・自治体をつなぐコロナ陽性者や入院患者のデータ連携が問題となりました。
そして、コロナウイルスワクチンの3回目接種に向けて、今まさに問題が多発しています。自治体のDX推進と口で言うのは簡単ですが、大変な課題ばかりが残されているのだと思わずにはいられません。
デジタル化を進めて仕事を合理化しようというスローガンとは裏腹に、そもそも日頃の仕事の中身をデータ化して処理していくプロセスが明確でないと、せっかくPCやタブレットを新調しても効果を上げることは困難です。
そればかりか、さして重要でもない価値のない仕事もデジタル化しようとして取り組みの中に入れてしまうと、これといった受益もないのに業務コストだけが跳ね上がることもあります。こうした例は地方行政でよくみられます。
コロナ禍で地域経済はデジタル化どころじゃない!?
大子町にしても極端な高齢化に見舞われたレアケースというわけではありません。多かれ少なかれ高齢化に悩み、交通の便が悪い地域で人口そのものが減っていっている地方からすると死活問題です。亡くなる方が増えたり、地域から出ていく家庭も増えていくようであれば地域に未来はありません。
人口減少が深刻な地域を底支えするのが、デジタル技術であることに間違いはありません。そのスローガンまではいいのですが、今回のようにコロナの問題が出てくると、ただでさえ滞りがちな地域経済が低迷し、高齢化だけでなく貧困問題まで襲いかかってくるケースもあり得るでしょう。
とりわけ、過疎地域では高齢化率が4割を超えると地域経済に多大なダメージを与えます。その地域の収入が、地方公務員の給与と年金生活者、あるいは年金生活者が兼業で行う農業や林業など一部の産業で7割というような状態になってしまいます。
地元に払われる税収が乏しいので、中央から降りてくる地方交付税まで削減されてしまうと、地域の介護事業所など介護を支える現場の人たちも経済的な困難に直面します。加えて、医療や教育など基本的な自治体の機能そのものが回らなくなっていきます。
低迷する地域経済のしわ寄せは高齢者にやってくる!
近年の政治家は、簡単に「地方自治体の破産も検討できるようにしよう」という政策提言まで踏み込んでくるようになりました。それは結構なことではあるのですが、人口減少がどうしようもなくなった自治体をどうすべきかという議論は、お世辞にも進んでいるという状況ではありません。
単純に「このままでは自治体がまずい」とか「高齢者が増え、人口が減って、自治体が自然消滅したり破綻してしまう」などと言い始めると、過去にさまざま打ってきた地方経済振興策も含めてすべての施策が失敗に終わったことを認めて総括することになります。「あれはだれの責任だったのか」と問い直さなければならない状況になりかねないので、あまり積極的になれないのだと思います。
しかしながら、すでに地方経済が衰退の一途をたどっているのは厳然たる事実で、その理由は地方の人口減少で経済規模が縮小しているからです。
どこに住んでいても、年金をもらって生活できる高齢者と違って、現役世代は地元に家族を養えるだけの仕事がなければ地域を出ていかざるを得ません。さらに、子どもを生み、育てて地元で暮らして人口を維持しようにも、学校も病院も維持できない人口規模になってしまうと、そもそも地域で子どもを増やすことすらできなくなってしまいます。
そのしわ寄せは、基本的には子どもを養う勤労世帯と年金生活をする高齢者にいきます。そして、それらを支える介護事務所や学校は、社会のさまざまな機能を押しつけられることになります。経済が縮小しているので、忙しい割に制度によって定められた金額以上のお金はどうやっても得られない仕組みにならざるを得ないのです。
難問だらけの今こそ成長前提の社会から脱却すべき!
地方自治体の方々は、そのようなことは百も承知で、高齢化と過疎化に抗うためのDX推進を模索しています。最終的には「この地域は人口が減りすぎたので介護やインフラなどのサービスを提供できません」「公共の福祉に反しない程度の居住可能地域を設定し、それ以外の地域は地域代表が治める自治体ではなく、国家直轄とします」とでも言わないといけないぐらい、追い詰められた状態になるのではないかと思います。
なんとも暗い話なのですが、新型コロナのオミクロン株が地方でも猛威を振るい、自治体や福祉関係、町内会などの負担は大きくなる一方です。それを支える医療機関もパンクしかねない状況で、ここでさらに昨今地震のリスクも大きくなったとなると、もう何から手をつけたら安全なのかすら見失いかねません。
右肩上がりの戦後経済でつくり上げた仕組みが、現在のような人口減少局面にはうまく合致しない、いわゆる「制度疲労」となってしまっています。一刻も早く成長前提の社会からの撤退戦を始めないといけない時期なのではないかと思うのですが…。