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地域包括ケア先進地の施策 介護の労働力不足 ハイテクで支援

介護現場に労働力が足りない――今、一番難しいと言ってもいいこの課題に、真っ向から立ち向かうのが茨城県笠間市の山口伸樹市長だ。「介護検診ネットワークシステム」「みまもりタグ」「服薬支援ロボット」などのハイテクサービスを次々と実施、市内の要支援・要介護者の情報を集約・共有したことで、省力化と同時にケアの質向上も実現している。地域包括ケアの先進地「福祉の街・笠間」の魅力を探る。

監修/みんなの介護

介護はニーズに対して労働力が足りない
この問題をハイテクで解決する

茨城県議時代から福祉対策は最重要と考えていました。福祉施設を経営している立場で現場に触れながら、福祉の充実には特に力を入れてきました。

県議だった私が笠間市長に就任した2006年は、市町村合併による新制の笠間市がスタートした年でもありました。既に少子高齢化の問題は指摘されてはいたものの、実際には対策が十分には進んでおりませんでした。高齢者福祉施設についても各市町村で急速に整備が進められはじめました。

一方で、福祉には人の手が不可欠であり、介護についてはニーズが増えているのに対して、現場における労働力の不足が大きな課題となっています。

こうした問題を解決する手段のひとつにハイテクがあります。テクノロジーとネットワークを駆使することで、足りない人手を補うことができるのです。

「介護健診ネットワークシステム」で情報を共有

茨城県の中部に位置し、古くから笠間城の城下町として栄えてきた笠間市は、2006年3月に旧友部町などが合併されて誕生し、総人口約7万5,000人、2万8,000世帯(2018年9月1日現在)を擁する。

「みんなで支えあう 福祉のまち かさま」を基本理念に、子どもからお年寄り、障がい者など誰もが住み慣れた地域で安心・安全に暮らすための施策を進めてきた。

「特に2014年から日立グループの協力で笠間市が進めている『介護健診ネットワークシステム』は、お年寄りが住み慣れた地域でいつまでも元気に過ごすためのシステムとして注目されています」

「介護検診ネットワーク」は地域包括ケアシステムに有効な取り組みと言われている

このシステムは、笠間市が保有する要支援・要介護者等の健康や服薬、要介護認定状況、緊急連絡先などの個人情報について、要支援・要介護者等とそのご家族など当事者の同意を得て、クラウド上に集約して、地域の介護事業者、医療機関、救急隊、薬局などが共有するもの。関係者は必要な情報をパソコンやタブレット端末を通じて活用できる。日立の技術による高いセキュリティ性も特徴だ。

全国の市町村が2025年を目途に進める「地域包括ケアシステム」の実現をめぐり、笠間市は全国の自治体に先駆けて「介護健診ネットワークシステム」を構築、包括ケアシステムの好事例とされているのだ。

介護情報を集約・共有することのメリットは?

「在宅介護を進めるうえで、一番の課題は認知症です」――山口市長はそう指摘する。

厚生労働省の発表では、2025年には日本国内の高齢者のうち約5人に1人が認知症になるとの推計もある。

「少子化や転出で市の人口が減る中で、在宅介護は既に限界に来ています。ネットワークシステムでは、情報を共有することで、できるだけ多くの人たちが関わりあいを持って対応していくことができます」

たとえば、以前はケアマネージャーなどが要介護者の情報を入手する際には市の窓口や当事者の自宅に出向かねばならなかったが、ネットワークシステムにより、認定審査会の翌日には各事業所のパソコンで最新情報を常に把握できる。

また、独居高齢者等の救急搬送の際も、救急隊員がタブレット端末で速やかに親族等の緊急連絡先情報を得られるので、迅速で的確な対応が期待でき、メリットは非常に大きい。

「みまもりタグ」を活用しながら
地域で「お年寄りを見守る目」を育てる

行政だけに頼らないで――私は市民の皆さんにそう呼びかけています。

そのために地域の皆さんにお年寄りの見守り活動にご協力をお願いするシステムとして、「みまもりタグ」の実証実験も行っています。

これは徘徊のリスクのあるお年寄りに電波を発信するタグをつけていただき、感知器やスマホなどで受信するシステムです。専用のアプリをダウンロードしたボランティアのスマホとタグがすれ違うことで、位置情報が記録され専用のWEBページでの確認ができます。

核家族化が進んだことで、独り暮らしのお年寄りが増えていますが、できるだけ住み慣れた環境で暮らしていただくためには、地域のみんなでお年寄りを見守ることが大切だと考えています。

広がるか「見守りボランティア」

笠間市では、綜合警備保障株式会社との協定による国の実証実験として、2019年3月末まで徘徊のリスクのあるお年寄りなどに「みまもりタグ」の貸与を開始している。

タグが発信する電波を感知器やスマホなどで受信することで、お年寄りの位置情報が確認できる仕組みだ。電波を受信できる「みまもりタグアプリ」を市民に利用してもらうことで、「見守りボランティア」として、手軽にきめ細かい見守りネットワークを作ることができる。

「みまもりタグ」を使った見守りシステムを試験導入しながら、市民の認知症サポーター養成も行う

かつての共同体は、「全員が顔見知り」だった。しかし、それゆえのわずらわしさが敬遠され、個人情報も秘匿される時代へと変わった。「今後は可能な限りオープンにすることで、徘徊する高齢者の見守りなども可能になると思います」と市長は指摘する。

「市民の皆さんが認知症を理解することで、見守る地域の目を育てられると考えています。もっと認知症について知っていただきたい」

最近では、ツイッターなどSNSを活用した行方不明者の捜索活動も普及しており、親族による個人情報の開示の動きも見られることから、「みまもりアプリ」も評価を得られそうだ。

期待される介護ロボットの活躍

笠間市では、介護健診ネットワークシステムとともに「服薬支援クラウドサービス」の試験導入も実施した。

笠間市内の在宅の患者3名に「服薬支援ロボット」を提供し、介護健診ネットワークとの連携により患者の情報を共有できるようにしたことで、自発的な服用ができ、飲み忘れを防げる効果が報告されている。

服薬支援ロボットは自発的な服薬、飲み忘れを防ぐことが可能に

「この服薬支援ロボットの試験は終了していますが、適切な服薬は重要であり、医師や看護師などが不在でも管理できるシステムは今後、さらに求められます」

介護の分野でのロボット導入は服薬以外にもメリットが指摘されており、今後も低価格化や操作の簡便化が待たれる。笠間市が数々のハイテク機器を試験導入して得た結果が、介護ロボットの開発や普及に活かされることを期待したい。

「笠間版CCRC」計画を進行中
多世代交流型コミュニティを目指す

笠間市では、「笠間版CCRC」計画を進めております。

東京圏から約1時間の笠間市は、退職後のシニア世代の方々にゆっくり過ごしたり、若い方が気楽に遊びに来られる場としてもおすすめです。医療介護の整備はもちろんですが、日本一の栗の産地でもあり、おいしいものもありますから、ぜひ来ていただきたいと思います。

CCRCは国内でも多くの自治体が導入を始めており、差別化は難しい面もありますが、「笠間版」は「多世代交流型」のコミュニティ形成を目指しています。

まだ全国でも成功事例はありませんが、首都圏からの高齢者の「受け皿」づくりではなく、リタイヤ後の元気なシニア世代に前職や趣味を生かしていただくことで、まちを元気にしていきます。

「笠間版CCRC」は若い世代も集まる場所に

2016年8月、笠間市でCCRC推進協議会(会長・山口伸樹市長)の初会合が開かれた。

CCRC(Continuing Care Retirement Community)とは、アメリカ発祥の主に富裕層向けの高齢者居住コミュニティで利用者数は約70万人、増加傾向にある。日本政府は対象を富裕層にせず、地方に移住して地域の住民と交流しながら健康的な生活を送り、必要な医療や介護ができる地域づくりを「日本版CCRC」として定義、推奨している。

「笠間版CCRC」は、さらにハードルを下げ、より多くの世代の交流をめざし、元気なシニア世代や若手の転入を呼びかけていく方針だ。

「笠間版CCRC」設置のきっかけになった農地付き貸し別荘「笠間クラインガルテン」

「定住ではなく、週末だけ来ていただくことでも、有意義な時間を過ごせると思います。そのための居住施設も計画しています。住み方はいろいろですから、人生の楽しみを追及できると思います」

医療・保健・福祉のワンストップサービスは全国初!

もう1つ、笠間市の取り組みで注目されているのが、2018年4月にオープンした「地域医療センターかさま」(笠間市南友部)だ。

このセンターは、医療・保健・福祉の3つの機能を備え、総合診療、内科、皮膚科のほか「もの忘れ健康増進外来」や禁煙外来、さらにリハビリなどの在宅医療に対応し、市内の県立中央病院などとの連携を図る協定が締結されている。

「この施設は、『全国初』と自負しています。人手のほか、書類や電子データ、場所がバラバラだったものをひとつにまとめることは、かなり効率化が進みます」

センターには行政の支援窓口として、「子育て世代包括支援センター」と高齢者介護の相談に応じる「地域包括支援センター」が入り、生後6ヵ月~小学6年までを対象にした病児保育室も備える。また、「地域包括支援センター」は、市立病院などとの連携で在宅ケアを推進する。ワンストップで医療や福祉のサービスを提供できることは、利用者はもちろんスタッフもメリットは大きい。

効率化を追求した「地域医療センターかさま」は地域包括ケシステムの中心地になるだろう

「私は、高齢者が増えること自体は心配していません。お年寄りがどのような老後を過ごしていくのか、いろんな選択肢があっていいと思います。行政のみで支えるのは不可能ですから、今後も地域のみんなで支え合うシステムを考えてまいります」

人口増には抜本的な打開策は望めないことから、今後も模索は続く。そうした中で開発されるテクノロジーによる省力化は、ものづくり大国・日本の存在感を示せる機会といえそうだ。

※2018年7月31日取材時点の情報です

撮影:丸山剛史

【第7回】高齢化率45%地区の挑戦 リビングラボでまちは若返る!
「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
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