いいね!を押すと最新の介護ニュースを毎日お届け

施設数No.1老人ホーム検索サイト

入居相談センター(無料)9:00〜19:00年中無休
0120-370-915

滋賀県の東近江圏域にある「三方よし研究会」では、医療や福祉の枠を超えて多職種のメンバーが集い、連携を進めている。自治体が地域包括ケアシステムの構築を目指す一方で、患者が必要としているケアを病院間の連携によって十分に行えている地域はまだ多くない。今回はその成功事例のひとつとして、地域医療や福祉に興味を持つ100名以上のメンバーが住みよいまちづくりへの参加に至った理由を、活動継続の秘訣とともに小串輝男会長に伺った。

監修/みんなの介護

「三方よし研究会」は
一人ひとりの思いがマグマになって発足した

「三方よし研究会」が設立したのは、2007年の改正医療法の施行で「4疾病・5事業」の医療連携体制が必要とされたことがきっかけです。「4疾病・5事業」とは、「がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病 」と「救急医療・災害時における医療 ・へき地の医療・周産期医療・小児医療」を指しています。

その際、東近江の保健所の所長が「医療関係者同士で顔の見える関係づくりをしよう」と号令をかけました。そして、東近江医師会の会長を含む医師や保健師、老人ホームの元所長などが参加し、20人程度からスタートしました。その後、Webを活用した会議を重ねるうちに、100人近くの方が集まるようになりました。

三方よし研究会という名前は、近江商人の家訓であった「買い手よし・売り手よし・世間よし」から取ったものです。「患者よし、機関よし、地域よし」という思いを込めています。また、医療法の改正と同じくして、全国で医療崩壊が起こっていたことも、活動に大きな影響を与えました。患者が思い思いの病院に行くことで、急性期病院では一人の医師が抱えきれないほどの患者の診療にあたる状況が生まれていたのです。

2市2町からなる東近江圏域には回復期・維持期の病院が多く、医療やリハビリ関係者の中で、「施設間で連携して患者を診ていきたい」という傾向が高まっていました。そして、このマグマのような思いが爆発することで三方よし研究会ができたのです。その後は軌道修正を行いながら、患者本位による医療・保険・福祉・介護の切れ目のないサービスの提供に努めています。

多職種が連携して特技を活かした市民講座などを実現

「三方よし研究会」が最初に取り組んだのは、「脳卒中パス」の実現だった。脳卒中パスの目的は、連携する病院間で情報共有を行うためのカルテをつくること。そして、急性期の治療後は、回復期の病院にスムーズに移動できるようにすることだ。これによって、急性期病院の混雑を解消し、治療が必要な患者が急性期病院にスムーズに入れる状態をつくることができる。

また、研究会の特徴として多職種連携が挙げられる。医療関係者や福祉関係者、行政関係者とともに、三方よし研究会の理念に賛同するジャーナリストや出版関係者、経営コンサルタント、企業の代表者なども参加するほか、患者やその家族などさまざまなメンバーが集まる。

垣根をつくらない会のあり方は、メンバーが活き活きと自主的な研究や提案を行うことにつながっている。例えば、高齢者医療を扱った市民講座の演劇などでもその効果は発揮されている。

高齢者医療に関する演劇を実施したときの様子

また、看取りを伝えるためのアニメをつくったり、平均の半額以下で参加できる介護職員初任者研修を実施したりという活動も、メンバーの自主性を活かしてのものだ。

住民主体の地域まるごとケアシステムの構築へ

「三方よし研究会」は、2021年6月に162回を迎えた。100回目からは、NPO法人となった。担当者が自主的に企画することを、研究会がサポートする形をとっている。

NPO法人化して迎えた、第100回目の研究会の様子

また、三方よし研究会の精神を受け継ぎ、「子三方よし研究会」としてほかの地域の介護施設や急性期病院などで同様の取り組みを実践する団体も増えている。

三方よし研究会の自主的精神に基づく活動は、結果的に住民主体・行政参加の町づくりへと発展。サポートを受ける人も、する人も元気になれる地域まるごとケアシステムの実現に向かい、日々着々と歩みを進めている。

本音でぶつかれるフラットな関係づくりが
活性化の理由

三方よし研究会のような医療分野の勉強会では、会長となった医師が座長になって仕切り、その主導のもとで物事を運ぶことが多いです。しかし、三方よし研究会では、市民が座長を務める会に医師が参加し意見を述べることが抵抗なく行われております。

このようなフラットな関係づくりは、地域に住む一人ひとりのなかにある「マグマ」のような思いを尊重するため、発足当初から大切にしてきました。そのため、誰もが委縮せずに自分の意見を堂々と発表できる場所になっています。また、課題解決を目的に本音で思いをぶつけあえることも、三方よし研究会の活性化につながっています。

顔の見える関係づくりも大切にしています。月に1度の研究会では、輪になって座る「車座」で会議を行っています。それは、設立当初からメンバーが100名を超えた今でも変えていません。また、新メンバーの自己紹介から始めるという原則も守り続けています。

完璧を目指さず、軌道修正しながら取り組む

脳卒中パスに対して、ほかの病院へ「パスされる」と受け取った地域住民もいた。しかし、言葉の意味を説明し、顔を見ながら前向きな議論を続けていくなかで、少しずつ市民にも認知されるようになり、理解者が増えていった。

三方よし研究会が一貫して大切にしてきたのは、「完璧を求めないこと」そして「形から入らないこと」だ。「始めから100%を求めていたら、煮詰まってしまって長続きしなかっただろう」と小串会長は語る。

地域医療の質の向上や地域包括ケアの実現への道のりには、さまざまな問題が立ちはだかっている。しかし、「行き詰まったら適時改正」という姿勢が今につながっている。意識したのは、近江商人のように、走りながら考えること。研究会の方針を記した『脳卒中東近江連携パス手引書』という冊子は、現在も版を重ね続けている。

会議時間の厳守が無理のない継続のポイント

もう一つの長続きの秘訣は、時間厳守で行うことだ。会議では発表者が主役になりがちだが、聞いてくれる人を中心に考えることに努めている。そのため、月に一度、18時半~20時半の2時間で会議を行うと決めて、時間になると必ず終了する。

「三方よし研究会」では聞き手のことを尊重し、時間厳守での進行が行われている

また、100人集まると「話し手」と「聞き手」に分かれてしまうため、会議では、6・7人ずつのグループで話をして、グループで話し合ったことを最後に全体で共有する。このときの発表も、各グループごとの所要時間を1・2分にすることで、時間の延長を防ぐとともに、要点を絞った共有が実現している。

「得るものがあった」と思える内容にしたうえで、なるべく参加者の負担にならないように配慮しているのだ。

症状にあわせて転院できる
「脳卒中パス」の取り組み

脳卒中後の後遺症がある患者のケアを関係者で連携して行いたいという流れもあったことから、まずは脳卒中パスをつくり、関係者や医療機関での連携を図りました。また、これを機に、地域にある病院が急性期・回復期・維持期のどの病院に属するのか分類するようになりました。

一般的に患者は、入院した病院に最後までいたいと考えます。しかし、急を要しない患者のケアを急性期病院のままで行い続けると、急を要する患者に必要な治療を提供することが難しくなる可能性があります。

そのため、脳卒中パスで急性期治療が終わった患者には、回復期の病院に移ってもらうということを地道に続けました。

顔を見て行う前向きな議論で、地域の全病院が連携

小串会長たちは、活動への反対や不理解を示す医師たちとも顔を見ながら話し合いを続けた。その結果、地域にある12の大病院すべてが脳卒中パスを中心とした病院間での連携に参加したのだ。大学病院や県立病院内で、患者の病院移動の取り組みを行っているところは多いが、地域にあるすべての大病院が参加しているところは全国的にも珍しい。

道を拓いたのは、多職種の個性豊かなメンバーたちだ。いろいろな意見が出て話がまとまらなかったときに、要点を押さえた発言をする医師などの存在も大きかった。また、ユーモアを交えて関係者と協力し合いながら、輪を広げてきた小串会長の存在は潤滑油になった。

地域住民のあいだで、脳卒中パスの認知が広まり、病院間の移動がスムーズになると、医療崩壊が緩和され、急性期病院の混雑が解消されていった。

対応できる病気やサポートを広げ、地域まるごとケアの実現へ

三方よし研究会では、脳卒中のほかにも、慢性腎臓病や心筋梗塞など、病院間で連携して対応できるケースを増やしている。日本では、行政が課題を見つけて解決のための取り組みを行い、そこに住民が参加する「住民参加のまちづくり」が一般的だ。しかし三方よし研究会では、メンバーの自主性による地域の活性化を進めており、「行政参加のまちづくり」とも言える活動が実現している。そして、このような実践の蓄積が、地域包括ケアシステムの構築につながっている。

まちづくりの一環として実施されたイベントの様子

今後は、市民講座や低価格での介護職員初任者研修の継続、在宅での看取りができる体制づくり、子三方よし研究会の取り組みの充実などにもさらに力を入れていく方針だ。「年をとっても、認知症になっても、病気になっても、がんになっても、安心して暮らせる町づくり。それを応援できる三方よし研究会でありたい」と小串会長は語る。

※2021年6月14日取材時点の情報です

撮影:内田 光保

【第60回】ショートステイを特養にして有効利用!山梨県の介護待機者を発想の転換でゼロへ
「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
!

この記事の
要望をお聞かせください!

みんなの介護は皆さまの声をもとに制作を行っています。
本記事について「この箇所をより詳しく知りたい」「こんな解説があればもっとわかりやすい」などのご意見を、ぜひお聞かせください。

年齢

メッセージを送りました!

貴重なご意見を
ありがとうございました。

頂戴したご意見は今後のより良い記事づくりの
参考にさせていただきます!