いいね!を押すと最新の介護ニュースを毎日お届け

施設数No.1老人ホーム検索サイト

入居相談センター(無料)9:00〜19:00年中無休
0120-370-915

末期がんから驚異の回復 未病を改善して高齢者に笑顔を

国内外で「未病の改善」が進めば、私の父に起きた奇跡が、奇跡ではなくなるのではないか――末期の肝臓がんを患っていた黒岩祐治知事の父親が、漢方の概念である「未病」を治すことで劇的に回復したのだという。この体験から知事は「未病」を政策に取り入れ、広く普及させることを目標とする。また県民の健康増進と同時に未病産業を創出した神奈川県は、世界のヘルスケアビジネスをリードしはじめている。黒岩知事に「未病」が持つ可能性について伺った。

監修/みんなの介護

「未病の改善」で末期がんが回復
「ME-BYO」を世界に広めたい

ここに来るまでは、時間がかかりました。
やっと「未病」が言葉として認知されるようになりました。

2005年に私の父が肝臓がんで入院したのですが、病状は見る間に悪化し、余命2ヵ月と言われました。「未病」に出会ったのは、その頃です。

仕事を介して知り合った中国の未病の専門家で医師の劉影先生に相談したところ、漢方医学的アプローチから「未病を治すこと」をアドバイスされました。未病とは、「病気未満」の状態を指すということを教わりました。

末期がんなのに「未病」と言われても、最初はピンときませんでしたが、先生の指示に従ったところ、父は劇的に回復したんです。

奇跡的に父のがんは小さくなり、その後の約2年半を健やかに過ごし、大好物のステーキやビールも楽しめるようになりました。私は身をもって未病の改善や漢方の知恵のすばらしさを知ることができ、そして、これをもっと広めたいと思いました。

病気と健康を線引きしない考え方

人気ニュースキャスターを経て、国際医療福祉大学大学院教授として医療や福祉に関するメディア論を研究した後、2011年に知事に就任した黒岩知事。未病改善の必要性と具体策を中心にPRし、2014年には「未病」を「ME-BYO」として神奈川県として商標登録、未病改善のための産業の活性化にも乗り出した。

「病気」と「健康」をどこで線引きするか。
線引きはしないのが、漢方の考え方なのだという。

「病名を言い渡されるほどではないが、なんとなく調子が悪い」という「病気未満」の状態を「未病」とし、これを改善することで健康にしていくのである。

神奈川県では未病を「健康と病気を2つの明確に分けられる概念として捉えるのではなく、心身の状態は健康と病気の間を連続的に変化するものと捉え、このすべての変化の過程を表す概念」と定義する。

黒岩知事は下図のように健康を白色・病気を赤色として、「未病」の段階をグラデーションで示す。

出典:神奈川県 2018年10月02日更新

「ハーバード大学でお話をさせていただいた時に、『未病』をグラデーションで説明したら納得されたので、その後は『ME‒BYO』のコンセプトに統一しようと考えました」

赤色になる前に対応すれば、重症にならずに済む可能性が高くなり、知事の父親の体験が示すように、末期がんであっても漢方医学や食の知恵で、かなり赤色に寄っていた症状を白色に戻せる場合もある。

2017年2月、「未病」が国の健康・医療戦略に盛り込まれた閣議決定がなされた。

「国家戦略として、『健康か病気かという二分論ではなく健康と病気を連続的に捉える<未病>の考え方などが重要になると予想される。その際には、健康・医療関連の社会制度も変革が求められ、その流れの中で、新しいヘルスケア産業が創出されるなどの動きも期待される』とされたのです」

「ME-BYO」を政策に取り入れる

2015年の国勢調査によると、神奈川県の高齢化率は23.9%。過去最高だというが、全国的には下から4位と、若年層はかなり多い部類に入る。だが、団塊世代や高度成長期に県に転入してきた世代の高齢化が進んでおり、全国平均を上回るスピードで高齢化が進んでいる。

また、県の『将来人口推計』では、県内人口は2018年をピークに減少に転じ、年少人口(0歳から14歳)と生産年齢人口(15歳から64歳)はそれ以前から減少。一方で、1970年に25.6万人だった65歳以上の高齢者人口が2050年には約295万人と10倍以上になり、高齢化率は36.4%まで進むと試算される。

2017年11月、国際シンポジウム「ME-BYOサミット」が開催され、
未病概念の普及や未病産業の仕組みづくりが議論された(写真提供:神奈川県)

そのため、県では健康寿命の延伸を図ることを目的として、「かながわ健康プラン21」(2001年策定、現在は第2次)や「かながわ未病改善宣言」などを柱に、さまざまな施策を進めている。

「『未病』は西洋医学と相反するものではないのですが、より多くの方にご理解いただくために、県として『ME-BYO』を商標登録し、『未病の改善』を中心に『医食農同源』や『笑い』などを健康推進政策に取り入れています」

神奈川県発進で新たな産業
「未病産業」を創出する

2018年3月、超高齢社会を乗り越えるため、未病の改善と産業政策を組み合わせた「ヘルスケア・ニューフロンティア推進プラン」を策定しました。

このプランがめざすものは、「明るい超高齢社会」です。今の政策のままでこれからの超高齢社会を迎えたら、持続可能な社会ではなくなってしまいます。

未病の改善を中心に、産業政策と組み合わせることで関連産業の活性化を進め、神奈川発の「未病産業」という新たな産業の発展にも力を入れていきます。そして、県民の皆さんが健康で長生きできる社会をめざすことといたしました。これは神奈川県独自の取り組みです。

病気になってから治すのではなく、未病を改善して、県民の皆さんが健康寿命を延ばして明るい笑顔で過ごしていただきたいと思っています。

そうなれば将来的には結果として医療費や保険料も低く抑えられた上で、未病改善に関する産業の発展も期待できます。

2025年に2,500億円規模の市場を作る

「ヘルスケア・ニューフロンティア政策」とは、ヘルスケアの分野で、「最先端医療・最新技術の追求」と「未病の改善」という2つのアプローチを融合させ、持続可能な新しい社会システムを創造する政策である。

この政策は、県民の健康寿命の延伸に向けて、「生活習慣」「生活機能」「認知機能」「メンタルヘルスとストレス」という4つを重点領域に位置づけ、イノベーションの創出や産業化を図るものだ。

未病産業の展示会「ME-BYO Japan」などで情報発信を積極的に行っている。
また今年4月には食・運動・癒やしを体験できる拠点「BIOTOPIA」をオープンした(写真提供:神奈川県)

2025年への具体的なゴールとして、未病指標の利用者数を80万人に拡大し、県民の「糖尿病有病率者数」を22万人台に減少(2014年比でマイナス5%)、さらにメタボ該当者および予備軍を2008年度と比較して25%以上減らすことを目標とした。

未病産業や再生医療等関連産業の県内市場規模は、2025年において2,500億円を想定。まさに超高齢社会というピンチをチャンスへと転換できる可能性を「未病」が持っているといえる。

研究会には県内外の企業600社以上が参加

2014年度に県が設立した「未病産業研究会」には、2018年8月で612社が参加、新たなヘルスケアシステムの創造を模索している。

「県内、国内にはすばらしい技術を持っている企業がたくさんあります。ヘルスケアのためにそれを生かしたい」というのが知事の思いだ。

未病産業研究会には県内外の600社以上の企業が参加。
ヘルスケアは今後確実に発展する産業だ(写真提供:神奈川県)

注目されているプロジェクトは多く、声でメンタルヘルスの状態を分析する技術MIMOSYS(ミモシス、未病音声分析技術)や少量の血液でがんのリスクなどを評価できるサービスや、サイボーグ型のロボットスーツを使った未病改善トレーニングなどが県から「ME-BYO BRAND」に認定されている。

飲食産業からフィットネススタジオなどのサービス業、健康器具などのメーカー、保険会社まで県内の多くの業種と連携し、ヘルスケア関連ビジネスを充実させていく。

「ME-BYO」を世界共通の指標にして
「笑いのあふれる超高齢社会」を実現する

神奈川県では、2017年10月から未病の世界共通の指標づくりに着手するなど、よりわかりやすく正確な「未病」の可視化をめざしています。

「ヘルシー・エイジング」(健康な高齢化)の実現に取り組むWHO(世界保健機関)と連携を進めていますが、将来的には「ヘルシー・エイジング」のコンセプトに未病の指標を取り入れていただき、世界共通の指標にできればと考えています。

詳細はこれから詰めていくことになりますが、2017年秋のWHOとの会合でも概念としての未病は概ね評価されていました。日本の国家戦略と合わせて国際機関とも協働できれば、さらに未病関連産業も発展していくと考えます。

国内外で未病の改善が進めば、私の父に起きた「奇跡」が、「奇跡」ではなくなるのではないかと考えております。

「マイME-BYOカルテ」で健康状態を可視化

「未病の改善」とは、例えば、食生活や運動の改善によって心身をより健康な状態に近づけていくことである。

そのためには自分の健康状態を可視化し、内容を把握する必要がある。そこで、神奈川県は2016年3月からお薬や日々の健康情報をパソコンやスマホで管理できるアプリ「マイME-BYOカルテ」を提供している。アプリを利用できるのは神奈川県在住または在勤・在学者などで、2018年8月末現在で登録者数は6万3,000人を超える。

「マイME-BYOカルテ」では人気ゲームとコラボした取り組みも。右下は「母子モ」(資料提供:神奈川県)

また、2016年9月からは母子健康手帳アプリ「母子モ」(ボシモ)とマイME-BYOカルテの連携を開始、子どもの健康や成長の記録、予防接種日の案内などが無料で利用できる。

これらの登録された情報はアプリのサーバーに蓄積されるため、スマホの故障や紛失、災害などによるデータ喪失の懸念はまずない。

自分や子どもの健康情報を過去にさかのぼって検索できるだけではなく、将来的には県民の健康情報のプラットフォームに蓄積された匿名のビッグデータを感染症対策や子育て支援などの政策にも反映させる方針だ。

最終ゴールは「お年寄りが笑って暮らせる社会」

知事の目指す神奈川県は、「笑いのあふれる超高齢社会」だ。

知事室内には、知事が県内書道展で揮毫(きごう)した『未病』『共生』などの書が並ぶが、今年は『笑』であった。「今の私の気持ち」と知事は明かす。

「高齢化社会というと、どうも暗いイメージがありますが、お年寄りが元気で笑って暮らせる社会は、むしろ輝いていると思います」

今年も2017年のコンセプトだった「スマイルかながわ」が受け継がれ、子どももお年寄りもみんなが笑える神奈川県政のために今日も多くの施策や議論が進められている。

※2018年7月11日取材時点の情報です

撮影:丸山剛史

【第6回】地域包括ケア先進地の施策 介護の労働力不足 ハイテクで支援
「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
!

この記事の
要望をお聞かせください!

みんなの介護は皆さまの声をもとに制作を行っています。
本記事について「この箇所をより詳しく知りたい」「こんな解説があればもっとわかりやすい」などのご意見を、ぜひお聞かせください。

年齢

メッセージを送りました!

貴重なご意見を
ありがとうございました。

頂戴したご意見は今後のより良い記事づくりの
参考にさせていただきます!