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群馬県内で最大の人口37万人を誇る高崎市では、電話1本でヘルパーが訪問する「介護SOS」など、高齢者福祉に力を入れている。2020年には、高齢化率の高い地域を巡回する無料タクシーも整備された。ほかにも行政関係者が注目する「全国初」の制度は多い。今回は「市民に使い勝手のいい制度であること」を重視する富岡賢治市長より、高崎市の取り組みについて話をお聞きした。

監修/みんなの介護

ヘルパーが電話1本でかけつける
「介護SOS」が家族の負担を軽減する

高崎市では、誰もが住み慣れた地域で安心して暮らすことができる街づくりを進めています。特に福祉については、「高齢者を大切にしない行政は立ち行かない」と考え、「日本一高齢者に寄り添うまち」を目指してさまざまな支援策を展開してきました。

中でも在宅介護でのご家族の負担や、高齢者世帯の生活不安を解消する「介護SOSサービス」は、全国初の取り組みとして市内外からご注目いただいています。

この取り組みは、電話をすれば24時間365日いつでも1時間以内に訪問や宿泊サービスを受けられるというものです。「何かあったときに電話1本で来てくれるサービスがあったら…」という私の発案でスタートしました。

高崎市の幹部職員が介護のために早期退職したこともあり、高齢者や在宅介護を行うご家族が使いやすい制度が必要だと考えたのです。

そのため介護SOSサービスでは、手続きをシンプルにして、ご家族の旅行時にも気軽に利用できるようにしています。待機するスタッフの確保や経費などの課題はありましたが、趣旨に賛同してくださる業者との連携によって実現しました。

「訪問」と「宿泊」で在宅介護の急なニーズに対応

2016年度から発足した介護SOSサービスは、介護が必要な方やその家族が専用ダイヤルに電話すると、1時間以内に2人1組のヘルパーによる「訪問」または「宿泊」サービスを受けられる制度である。

介護SOS専用ダイヤルに連絡すると、待機中の訪問スタッフが1時間以内に対応してくれる

「訪問」では、家族が急用で介護できない場合に、高齢者はヘルパーによる調理や洗濯などの家事代行、排泄や入浴の介助などのサービスを受けることができる。一方「宿泊」では、高齢者が指定の施設に宿泊して、食事や入浴をすることができる。

訪問サービスの利用シーンとして、例えば⾼齢者世帯でベッドから落ちてしまった夫を妻が助け起こせない場合などが考えられる。救急⾞を呼ぶほどではないが、助けが必要になるためだ。宿泊サービスの方は、家族が不在で⼀時的に⾼齢者の宿泊施設が必要な場合の利用を想定している。

低料金で使い勝手のいいサービスを実現した

富岡市長の言葉通り、介護SOSサービスは「使い勝手の良さ」が特長だ。要介護認定が不要なうえ「市内在住の65歳以上」なら誰でも利用できる。そして介護保険外のサービスでありながら、料金はかなり抑えられている。

訪問
料金:1時間あたり250円※税込み
回数:月5回まで

宿泊
料金:1泊2食付きで2,000円、送迎希望の場合は1泊2食付き3,000円※税込み
回数:月3回まで(連泊は2日まで)

富岡市長は、「仕事や冠婚葬祭のほか、ご家族のレクリエーションなどの際の利用も対象です。介護をされているご家族はゆっくり休む時間がないので、この制度を活用してリフレッシュしていただきたいと思います」と説明する。

ただし介護に際しての家事代行や介助が対象のため、医療・看護行為、水道・電気のトラブル対応、庭木の手入れ、ペットの世話など、専門性が必要なものや緊急性のないものは対象外だ。

在宅介護のメリットは、住環境を変えなくて済むことや施設に比べて高額な費用がかからないこと。一方で家族の負担は大きく、介護離職や家庭崩壊の可能性もある。介護SOSサービスは、こうした不安や負担を解消する有効策なのだ。

市民の生活を通して見えた課題に
「三つのゼロ」を掲げて取り組んでいく

私は、市民の皆さんの生活実態をよく見ることが大事だと思っています。特に高齢者の姿を見ていると、いろいろな問題点に気づきます。それを施策に盛り込んできました。皆さんが抱える将来への不安を、解決していきたいと考えています。

高崎市では「三つのゼロ」を掲げて、「買い物困難者、孤独死、特別養護老人ホーム待機者をなくす」という施策を進めています。

2019年度からは、街のにぎわいを駅周辺だけではなく、より広いエリアにまで波及させるために「お店ぐるりんタクシー」の運行を開始しました。これは、高崎駅西口から中心市街地の商店街までの約3.3㎞を周回する無料タクシーです。高齢者や障がいのある方の買い物支援としても利用されており、車椅子も1台まで乗車が可能です。

こちらも使い勝手を重視していて、事前登録や予約などは不要です。ルート内でタクシーを止めて乗車した後は、ルート内のどこでも降車できます。歩行に大きな負担がかかる方でも、気軽に商店街で買い物できるようになります。これは、まちの経済の活性化にもつながります。

「お店ぐるりんタクシー」がご好評をいただいたことで、2020年度からは高齢化率の高い地域を無料巡回する全国初の「おとしよりぐるりんタクシー」もスタートしました。地域内の医療機関や大型スーパー周辺を回るルートが設定されていて、高齢者や障がいのある方をはじめ、誰でも利用できます。

「おとしよりぐるりんタクシー」で高齢者の外出を促す

「せっかくつくっても手続きが複雑だと使っていただけないから」という市長のポリシーは、多くの施策に反映されている。「お店ぐるりんタクシー」「おとしよりぐるりんタクシー」は、事前登録と予約が不要。原則として年中無休で運行している。

「お店ぐるりんタクシー」は、高崎駅から離れた場所にある、商店街などが集まった中心市街地への移動をスムーズにすることも目的だ。走行ルート上には幟旗(のぼりばた)が建てられ、2台のタクシーが10時から18時までルートを巡回する。交差点など法令で駐車できない場所を除いて、乗り降りは自由。交通事情にもよるが、だいたい約15分~20分間隔で運行している。

また、高齢化率の高い市内3地域を巡回する「おとしよりぐるりんタクシー」は、9時から17時まで各ルートを1日2台で巡回し、運行間隔は約30~40分と長い。そのため、電話で車両現在位置などの問い合わせができるほか、スマートフォンやパソコンによる検索も可能だ。

「おとしよりぐるりんタクシー」の行灯が目印。スピーカーから流れるオルゴール調の音楽で接近していることがわかる

気軽に外出ができれば運動不足が解消されて、介護予防につながる。そのほか、運転免許証の自主返納も望める。

全国初の警察署と協定した徘徊対策を実施

高齢者が安全に暮らすためには、見守り活動に加えて、散歩の帰り道がわからくなったときの捜索システムも重要だ。GPS(衛星利用測位システム)を活用したシステムは、多くの自治体が採用している。

高崎市でも、2015年10月からGPSを使った「はいかい高齢者救援システム」を整備。高崎警察署と全国初の『認知症高齢者の徘徊対策に関する協定書』を締結している。服や靴に装着できるGPS機器が、高齢者に無料貸与される。重さは30g、フル充電で2週間稼働する。GPS機器を貸し出す自治体は多いが、無料での例は少ない。

位置情報を把握するためのGPS機器は、靴や杖、バッグに取り付けて使用する

利用者は2020年8月末日現在で累計277人。事業を開始した2015年10月から2020年8月までに884件の通報があり、すべての方が無事に保護されている。しかも、1時間以内に約9割が見つかっているという。

また、「はいかい高齢者救援システム」のほか2012年から独居の高齢者のための「高齢者等あんしん見守りシステム」をスタート。市が委託した「見守りセンター」が24時間365日体制で見守りを行い、健康や犯罪などの生活不安に関する相談を受け付ける。これらも通信費を除けばほぼ無料で、2016年からは障がい者も対象とされている。

この取り組みでは、市内在住の65歳以上の独居または高齢者世帯のうち希望者宅に、緊急通報装置と安否確認センサー(人感センサー)を設置する。本人が非常ボタンを押したときや12時間以上センサーの反応がなかったときに、「見守りセンター」が事前登録した家族などに連絡をする。

緊急通報装置(左上)が安否確認センサー(左下)と非常ボタン(右)に反応して、必要時に家族に連絡を行う

こうした見守りシステムは、高齢者の自由を尊重しつつ、家族や介護職員の不安を和らげることから需要が伸びている。

市民の善意に頼るだけでなく
行政から働きかけることも重要

高崎市では、9ヵ所にあった地域包括支援センターを「高齢者あんしんセンター」として29ヵ所にまで拡充。保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員を配置して、より身近な相談窓口としています。これは、全国48の中核市で2番目に多い設置数です。

私は、以前から「待つ福祉」から「出向く福祉」に着目し、窓口業務だけでなく、各センターから高齢者の自宅への全戸訪問を積極的に行うようにしました。心配ごとのある高齢者の来所を待つのではなく、こちらから出向くことで、高齢者の実態を把握することができます。相談に行きたくても移動手段がないとか、付き添ってくれる人がいないなどの理由で、来所できない方もいらっしゃいます。いくら支援策を整えても、必要な方に届かなければ意味がありません。

また、高齢者だけではなく、障がいのある方や子育て世帯への支援も重視しています。ノンストップで相談を受け付ける「障害者支援SOSセンター」と「子育てSOSサービス」を稼働させ、「全国でも類を見ない制度」との好評価をいただいています。

財政が厳しい状況下でも高崎市が福祉に力を入れるのは、「福祉とは市民の善意だけに頼るものではない」と思うからです。

介護SOSを応用した「子育てSOSサービス」

広大な関東平野の北端に位置する高崎市は人口37万人を超え、面積は459.16㎢に及ぶ。2011年には、人口20万人以上を要件とする「中核市」に移行。人口も増加傾向にある。一方で少子高齢化は避けられず、高齢化率の上昇も深刻な課題となっている。

こうした状況を受けて2019年度から高崎市が進める子育て支援施策「子育てSOSサービス」は、そのユニークさで注目される。介護SOSサービスを子育てに適用しており、同様に家事や子育てのサポートが受けられる。

市内在住の妊娠期の女性や就学前児童の保護者を対象に、ヘルパーや保健師が保護者の在宅を条件に食事の準備や後片付け、掃除、洗濯、食料品の買い出しなどの家事支援や、育児支援、子育てに関する電話相談も行う。事前登録は不要で、受付専用ダイヤルに電話すれば、年末年始とメンテナンス日を除き、8時から20時まで1時間250円で利用できる。

富岡市長は、「お母さんだけががんばらないように、行政の支援は不可欠です。子育ての不安を解消すれば虐待などの問題もなくせます」と話す。

相談窓口のワンストップサービス始まる

もうひとつの「SOSサービス」の拠点「障害者支援SOSセンター(愛称・ばる~ん)」の稼働も好調だ。2018年5月にスタートしたもので、自治体直営のワンストップ・サービスは全国初だと言われている。

ばる~んでは、障がいのある方の就労や教育、育児などの相談のほか、介護する家族のストレス問題にも対応している。医療機関とも連携して支援に繋げている。相談は火曜から日曜までの10時から18時までで、精神保健福祉士や社会福祉士などが配置されている。また定期的にハローワーク職員による障がい者就労相談も開催している。

面談形式を原則とし、ストレッチャー型車椅子で入室できる相談室もある。相談内容はまとめられ、関係機関・部署で把握できるようにしている。

さらに「高齢者あんしんセンター」の拡充と同時に、各センターの職員が高齢者宅の訪問を開始。介護が必要な親と引きこもりの子の世帯が増加している「8050問題」や、介護と育児の「ダブルケア問題」など、複合化した課題も浮き彫りになっているという。

「課題は山積ですが、市役所や医療機関などの関係機関の連携で問題を解決していきたいと思っています」と富岡市長。取り組みの継続によって、高齢者、障がい者、子育てと諸施策の相乗効果が期待できそうだ。

※2020年10月7日取材時点の情報です

撮影:丸山剛史

【第48回】オーストラリア発のノーリフト(R)ケアとは?持ち上げない介護で高齢者の自立を促す
「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
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