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福祉施設の枠を超え、地域の活動に精力的に取り組む「高齢者福祉施設 西院」(京都市右京区)。認知症や要介護の高齢者たちによるものづくりブランド「sitte」の立ち上げに加え、近隣の住民が介護事業所に集まり交流する「おいでやす食堂」の開催などに取り組んでいる。ユニークな取り組みの原動力や今後の展開について、所長の河本歩美さんにお話を伺った。

監修/みんなの介護

「sitte」の立ち上げで目指したのは
高齢者の「本当の意味での社会参加」

施設内だけでなく、外ともつながること。それこそが、本当の意味での「社会参加」です。ものづくりブランド「sitte」は、そんな想いのもとで立ち上げました。

施設利用者さんたちによるものづくりブランドsitteを立ち上げたのは2018年のことです。きっかけは、高齢者の「自立支援」と「社会参加」を促すことでした。

レクリエーションの一環としてものづくりに取り組んでいただくことはそれまでにもあったのですが、施設内や関係者だけで完結してしまうことが多く、「本当の意味での社会参加」とは呼びにくいと感じていたのです。

ほかの施設でのものづくりとsitteが異なるのは、「施設の外」すなわち「社会」としっかり連携し、ブランドとして市場に流通させていること。そうすることで、施設利用者さんたちのやりがいを高め、社会の「高齢者を見る目」を変えることにもつながると考えています。

認知症や要介護の高齢者が手がける「sitte」とは

高齢者のものづくりブランド立ち上げに取り組むのは「高齢者福祉施設 西院」。デイサービスや居宅介護支援、小規模多機能型居宅介護など、幅広く介護サービスの提供を行っている介護事業所だ。所在地の京都府右京区には、約5万8,000人の高齢者が暮らしている。

sitteのコンセプトは、「より豊かな人と社会と人生のありかたを知ってほしい」というもの。認知症や要介護状態であっても、できることは多い。機会と環境さえ整っていれば、実は大きな可能性が秘められている。そんな高齢者の実態を「知って」ほしいという想いが、ブランド名に込められているのだ。

上質な木材を使用した製品は、表面のアフターケア(有料)によって長く使うことができる

現在、主に展開しているアイテムは、まな板とカッティングボード。これらはデイサービスを利用する高齢者が、丁寧にやすりで磨いて仕上げたものだ。認知症や要介護状態の高齢者も、有志で製作に参加している。

ファッションや無添加食品、雑貨などを扱う京都を拠点としたライフスタイルショップ「mumokuteki」とのコラボレーションにより生み出されたもので、「ほんとうに良いもの」を求める高感度な若年層に響くデザインにこだわっている。

「sitte」商品を扱う京都の店舗「mumokuteki」と、同店で開催されたマルシェ(左下)の様子

また、プロモーション活動は、地元の民間企業が協力。施設の利用者と外部の人々とが手を取りあうことで、魅力的なブランドがつくり上げられている。

施設外部との関わりが高齢者のやりがいに

京都・京北地域の林業分野と福祉分野が連携し、新たなモノづくりに取り組む「林福連携プロジェクト」も社会参加のひとつ。これは、山間地域の林業振興と地域活性化に取り組む「team kyo-so」の活動で、プロジェクトメンバーである西院も、京北産の木材をsitteの作品作りに活かしている。

「team kyo-so」の活動で京北の視察や高校生とのオンライン打ち合わせを行っている様子

さらにプロジェクトの中では、ICTを活用して作業を「見える化」する実験も行った。

「行政からのお声掛けで始めたプロジェクトで、地産地消はもちろん、衰退傾向にある林業のサポートにもつながる取り組みです。こちらからもぜひ参加させてほしいとお願いしました」と河本さん。

ほかにも、右京区役所が実施する企画の景品(ツボ押し棒)の製作などを行っている。

「活動の幅が広がり、注目を集めるほど、利用者さんたちのやりがいも高まります。社会に自分の居場所を見出すことができたからではないでしょうか。これからも、さまざまな業種の方々と共創していきたいと思っています」

「おいでやす食堂」で地域とつながる。
まずは存在を身近に感じてほしい

西院では、4年ほど前から「おいでやす食堂」というイベントを毎月開催しています。元々は「こども食堂」の趣旨に賛同し、近隣に住む子どもたちに飲食を提供する場をつくりたいと始めました。現在は子どもたちだけでなく、高齢者や主婦の方々など約100人が集まり、まるでお祭りのような賑やかな場となっています。

カレー、からあげ、餃子、ベビーカステラなど、回を重ねるごとに提供する飲食物もバラエティ豊かになっています。現在では、読み聞かせや折り紙教室などを行うボランティアの方々にも参加してもらえるようになりました。

開催時刻が17時からなので、施設の利用者さんはすでに帰宅してしまっているのですが、前日の下ごしらえなどは協力していただいています。イベントを通じて、地域の人々に高齢者の存在を身近に感じていただければ嬉しいですね。(現在は新型コロナ対策として飲食物のテイクアウトのみ)

高齢者福祉施設が地域の憩いの場に

毎月第3金曜日に西院のデイサービスセンターで開催される「おいでやす食堂」は、まさにお祭り騒ぎ。施設内には食欲をそそる香りが漂い、乳幼児をつれた主婦や小学生、ボランティアなどのさまざまな人が集い、賑っている。

手づくりのカレーを囲み、自然と世代を超えた交流が生まれていく

参加者は「ふらっと気軽に参加でき、ご近所の人々と顔見知りになれる場です」と話す。子育て世代にとっては、貴重な情報交換の場でもあるという。

高齢者福祉施設が、地域の集いと憩いの場となる。全国的にあまり類を見ないケースだが、高齢者と地域の間にある見えない壁をなくし、高齢者の社会参加を促すという意味において、この取り組みはとても意義のあるものだと言えるだろう。

身近な存在になることで高齢者への偏見がなくなる

このイベントを行うようになってから、西院の職員は「おいでやす食堂の人ですよね?」などと街で声を掛けられることが増えたという。

利用者や関係者でなければ、高齢者福祉施設のイベントは参加しにくいイメージがある。しかし、誰もが参加できる地域に開かれたイベントを実施することによって、身近な存在になったということだ。

こうして地域とつながることは、認知症や老化への偏見をなくす大きな意義がある。楽しいだけでなく、高齢者が社会参加しやすい世の中をつくるためにも、「おいでやす食堂」は役立っているのだ。

高齢者の社会参加による活躍は
企業や地域の新たな可能性になる

今後はsitteのようなものづくりだけでなく、高齢者を受け入れる「社会づくり」が必要になっていくと思います。

認知症への偏見をなくすことや、老化への理解を深めることで、高齢の方々が活躍しやすい世の中になります。それは、企業や地域の活動にとっても、新たな可能性だと思います。

実際、私たちの取り組みを見て、声を掛けてくれた企業もあるんです。当初は企業が行っている事業について「高齢者の方々の意見を聞きたい」という打診だったのですが、当所の利用者さんたちと幾度か会ううちに「高齢者の可能性」に気づき、仕事を発注してくれました。

こうした成功体験を今後も積み重ねていきたいと思っています。

高齢者の活躍に期待してくれる企業を増やしたい

河本さんが語る某企業から発注された仕事内容とは、「社内封筒の宛名貼り」。初めは数多くある事業部のうち1事業部のみの発注だったが、仕事の成果が認められて全事業部の宛名貼りを請け負う予定になっている。

担当者から聞いた手順を通りに、指定された宛名を封筒に貼っていく

「高齢者の活躍に期待してくれる企業が増えていけば、理想的な社会づくりも進んでいくのだと思います」と河本さん。

こうした活動は、利用者のうち有志のメンバーが取り組む。さらに多くの高齢者に関心を持ってもらい、彼らを巻き込んでいくことも、社会参加を促すための課題のひとつだ。

高齢者のポテンシャルは無限大…新たな挑戦は「刺し子」

西院では現在、「刺し子」のアイテムづくりを進めているという。さらに、京都の高校生やアーティストなどとのコラボレーションによる新たな商品開発も進行中だ。精力的に業種・世代の垣根を越えて輪を広げていく様子は頼もしい。

手芸が好きな利用者が丹精込めてつくった刺し子。こちらも商品として店舗で販売予定だ

河本さんは語る。「手広くいろいろなことをさせていただいているので、最近、私の仕事って何だっけと思うこともあります(笑)。すべての活動の原動力となるのは『高齢者のポテンシャルや面白さ』を広めたいというものです。私たちの取り組みを通じ、高齢者の『真の社会参加』を少しずつでも理想とする形に近づいていければと思っています」

※2020年8月21日取材時点の情報です

撮影:濱西英秋(STUDIO-H)

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