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高齢化とともに多死社会を迎え、独居者も増える中で「終活」への関心が高まっている。横須賀市では、無料の登録制度などで市民の終活を支援、死後も「孤立させない」システムの普及に取り組んでいる。今回は、上地市長に終活支援のほか、市の活性化対策について聞いた。

監修/みんなの介護

目指すのは「誰も一人にさせないまち」
無縁遺骨の増加も課題だった

横須賀市では、「誰も一人にさせないまち」を目指し、さまざまな施策を講じています。中でも終活支援事業は大きな柱です。

2020年現在、市内には1万人を超える一人暮らしの高齢者が住んでおり、この数は増加傾向にあります。また、身元がわかっているのに引き取り手のいないご遺骨は年間50体に上り、今後も増加することが予想されます。

こうしたことから、2015年から資産のない独居の高齢者を対象にした「エンディングプラン・サポート事業(ES)」を開始しました。さらに2017年には横須賀市民であれば世帯構成や年齢に関係なく誰もが登録できる、「終活情報登録伝達事業(わたしの終活登録事業)」を開始しました。

ESはご本人に協力葬儀社と生前契約をしていただき、「終活登録」は終活情報を市にご登録いただくという違いはありますが、いずれも埋葬やお墓について生前のご希望をしっかり確認し、終活のお手伝いをする制度です。

事業の運営にあたっては、市福祉部の北見万幸福祉専門官を中心とした職員が葬儀社などと連携、住民登録なども確認しながら「行政ならでは」のきめ細かい対応をしてくれているので、頼もしく思っています。

資産が少ない単身高齢者でも安心

「エンディングプラン・サポート事業(ES)」は、一人暮らしで低所得の高齢者が葬儀や納骨について葬儀社と生前契約を結び、死亡時に備える制度である。利用には所得や所有資産の制限があるほか、葬儀・納骨にかかる諸費用26万円を協力葬儀社に支払うことが要件となっている。

市の職員がコーディネーターを務め、宗教や墓地のほか、延命治療などについて本人の希望を聞く。葬儀社と協議して支援プランを決め、市と葬儀社の連絡先などを書いた登録カードと登録証を発行する。携行しやすいサイズの登録カードは常に持ち歩き、登録証は室内などに掲示できるようになっている。

また、定期的な自宅訪問などによる対象者の見守りを市と契約葬儀社が連携して行うほか、緊急時には登録証を見た病院や警察などからの照会に市と契約葬儀社が応じる。

事業をとりまとめている市福祉部の北見専門官は、「立ち上げから5年間で約60名の方に登録いただき、死後にご希望のご供養で埋葬された方は15名であり、使命を果たせたと思います」と評価する。

終活事業開始後は、横須賀市の引き取り手のない遺骨の増加に一定の歯止めがかかった

「わたしの終活登録事業」は市民全員が対象

「終活情報登録伝達事業(わたしの終活登録事業)」は、若年者が登録できることも特徴である。未成年者は保護者の承認が必要だが、横須賀市民であれば年齢・世帯構成・所得にかかわらず誰でも申請できるので、この制度のために他県から移住した高齢者の例もある。

登録は無料で、手続きも簡単だ。ESと同様に持ち歩ける登録カードと登録証に氏名や住所、緊急連絡先、墓の所在地など11項目のうち自分が記入したい項目を選んで書くだけ。後で変更や加筆もできる。

本人が病に倒れ、緊急連絡先など大切な情報を伝えられない状態になると、医療機関や警察署などから市に問い合わせが入り、本人があらかじめ登録した情報を市が回答する。

また、本人が亡くなった場合、市は指定した相手からの問い合わせに遺言書の保管場所などを回答し、墓参希望者には墓の場所も開示する。(後見人による登録の場合は、墓の場所は納骨のときだけ回答。)

終活登録の発足当初は市役所の窓口で受け付けていたが、新型コロナの感染防止対策の一環で、4月からかかりつけ医療機関と緊急の連絡先に限って電話受付をできるようにした。電話で受けた内容を市職員が代筆、登録証を作って郵送し、その他の項目は後日、電話で追加できる。

行政が終活を支援することで
死後も尊厳(信教の自由)が守られる

市民の終活を行政がお手伝いすることは、いろいろな面で意義があります。

まず、市職員が登録希望者と葬儀社など関係者とのつながりをつくり、定期的な見守り活動を行うので、孤立しない環境ができます。市がハブとなって、市民の皆さまと葬儀社、ご親族や友人をつないでいくのです。住民登録に終活情報を加味するイメージなので、報道では「全国初のお墓の住民票」と紹介されたこともあります。

また、事前に埋葬について希望をお聞きしておけば、憲法第20条の信教の自由も守られます。引き取り手のいないご遺体の場合、「墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)」第9条によって、死亡した場所の自治体が無宗教で火葬します。もともと無宗教での火葬というご希望ならそれでもいいのかもしれませんが、希望する宗教があった場合、信教の自由が守られないままになってしまうのです。

これからは年間で人口の1.5%程度の方が亡くなる「多死社会」が到来します。このうち引き取り手のいないご遺体は最大で10%近くになると試算され、そうなれば人口40万人の横須賀市は年間で600人前後の市民の方々の尊厳が傷つけられる恐れさえあるわけです。

そうならないためにもESと終活登録をより多くの方にご利用いただきたく、今後も力を入れていきたいと考えています。

ひとつの遺書で終活支援の必要性を再認識した

独居者の死亡に際して行政などが親族を探す際は、通常は死亡者の住民票から本籍を調べ、戸籍の附票で親族の氏名と住所を確認してNTTタウンページの「電話番号案内」で調べる。 だが、最近の携帯電話の普及と固定電話使用の減少により、住所から電話番号を調べることは難しくなっているのが現状だ。そこで、横須賀市では親族の住所に「お悔やみとお願い」とした手紙を郵送するが、ほとんど返信はない。親族と連絡がつかなければ、法令(墓地埋葬法第9条)で自治体が火葬することになる。

生前の意思を把握しておこうとESがスタートして間もない頃、自宅から仏式を希望する遺書と貯金が見つかったことがあった。「私を引き取る人がいません」そう書かれた遺書はテレビや新聞でも大きく取り上げられた。

引き取り手のない遺骨は市の費用で火葬され、職員が納骨堂に安置している(左)、独居の高齢者の自宅で発見された仏式を希望する遺書(右)

この遺書を大切に保管しているという北見専門官は、「ご遺志に沿えず残念でしたが、この方のおかげで制度の意義を再認識することができました。市民の皆様の心の安寧のためにも行政の終活支援は必要です。今は賛同して協力してくれる葬儀社も増えて、心強いです」と話す。

歴史的に公共の墓地が必要とされた背景も

神奈川県南東部の三浦半島に位置し、中核市に指定されている横須賀市の歴史は古い。江戸時代には肥料用の干鰯(ほしか:鰯を干した肥料)の生産などで栄え、幕末には黒船来航の地ともなり、急速に発展した。

全国からたくさんの人が集まったことから、300年以上続いた無縁墓地もある。老朽化のために2017年11月に閉廟されたが、1963年から半世紀にわたって横須賀市が管理してきた。行政が管理する無縁墓地は全国でも数少ない。

浦賀無縁納骨堂は老朽化で閉廟。横須賀市は移設後の新たな納骨堂を今も管理している

「引き取り手ないご遺骨は、職員たちが1つひとつ納骨堂に安置しています。納骨堂は常にいっぱいの状態なので、定期的に合葬墓に移します。職員が骨壺からお骨を出し、合葬墓に安置しに行くのです。身元がわかっているのに自分の希望するお墓に入れないご遺骨が多いことに、職員たちは心を痛めてきました。終活支援とは、まさに尊厳を守る事業なのです」と上地市長。

「福祉」は政策の最上位
多様性を認めつつ誰もが住みやすいまちに

私は、「福祉」はすべての政策の上位にある概念だと思っています。行政が福祉を重視するのは当然ですが、さらに横須賀市は古い歴史の中で、相互扶助の気持ちを大切にしてきました。困っている人がいれば他人でも助け合いますし、子どもたちはコミュニティの中で、みんなで育てます。私自身も近所の皆さんに育てていただきました。

いろいろな生き方を認めるというのは、横須賀市では自然なことであり、多様性を認める県内初の「パートナーシップ宣誓証明制度」の実施はメディアで取り上げていただきました。一方で、首都圏にありながら人口減少が課題となっています。

横須賀市は平坦な地が少なく、丘陵地には明治初期に軍港関係者のために谷戸(やと)と呼ばれる住宅地が発達しましたが、住みにくいという指摘もあります。しかし最近では、若い人の移住も増えてきました。独立した地形を生かして「アーティスト村」「スポーツ村」などの楽しいコミュニティをつくりたいと考えています。私自身も音楽が好きなので、音楽やエンターテイメントの力で横須賀市を盛り上げたいですね。ただこれらもすべて、最終的には、福祉の充実に収れんさせるものです。

福祉の総合相談窓口「地域福祉課」を新設

横須賀市では、2020年度から消防局庁舎1階に福祉総合相談窓口である「地域福祉課」を設置。「困っている人がいつでも相談できるコンシェルジュのような役割」を目指すとしている。

現代社会では、少子高齢化にともなって課題も複雑化している。介護や育児のダブルケア、若年者の引きこもりの長期化による「8050問題」などさまざまなものがあるが、窓口がわからず、相談を躊躇している市民も少なくない。

気軽に相談できる窓口をつくって対応し、不安を解消するのが狙いだ。この地域福祉課に、終活支援センターや成年後見制度の相談窓口が設置された。

困っている人をテクノロジーで支援する取り組みも

横須賀市では、2018年から産学官連携のもと新たなテクノロジーを用いた社会課題の解決に取り組むプロジェクトである「ヨコスカ×スマートモビリティ・チャレンジ」を推進、市内外から注目を集めている。このプロジェクトのうち東京大学や佐川急便などとの共同研究による「不在配送問題の解消」に向けた世界初の実証実験は、特に興味深い。

昨今、宅配便の需要が増加する一方で、注文者不在による再配送のコストとCO2排出量の増加が問題になっている。そこで、通信機能を備えた「スマートメーター」の各家庭の電力データを元にAIが配送ルートを示すシステムを開発、2020年秋の横須賀市内で実証実験の実施後に実用化を目指すという。過去の実験では不在配送を9割減少させており、導入が期待される。

また、「誰もが外出を諦めない社会」を目指す「ユニバーサル・マース(高齢者や障がい者など移動に困難を抱える人が公共交通を使って安心して外出できる移動サービス)」の実証実験も行われている。

上地市長は、「横須賀市は昔から地域の絆が強く、困っている人を皆で助け合うという気質が受け継がれている素敵な市です。今後もみんなで助け合い、それを誇れるまちづくりを進めてまいります」と結んだ。

※2020年7月9日取材時点の情報です

撮影:丸山剛史

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「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
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