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毎日250人が利用する施設経営術 利用者のニーズは「楽しさ」である

カジノ、麻雀、パチンコ、カラオケ――これらの単語を聞いて、すぐ「介護施設のリハビリプログラム」だと思う人はいないだろう。愛知県一宮市にある「たんぽぽ温泉デイサービス一宮」は、利用者のニーズを的確に捉えた250種類以上のリハビリプログラムに取り組む大型の通所施設である。施設を運営するステラリンク株式会社の代表取締役・筒井健一郎氏に、生き残れる介護施設経営のヒント、新しいビジネス構想を聴いた。

監修/みんなの介護

カジノは利用者が心底楽しめるプログラム
止める理由は見当たらない

介護事業者が他社との競争の中で利用者を的確に得るには、ほかとは違うサムシングを実行する必要があります。ですからカジノの導入の経緯はいたってシンプル。「ほかがやっていないから」なのです。

カジノテーブルでは、常に場が白熱しています。ディーラーを負かすため、参加者は脳をフル回転。勝てば大笑い、負ければ悔しがる。やはり勝負事は人を熱くさせますよ。

カジノで勝てば施設内通貨「シード」を得られます。リアルな金銭ではないとはいえ、勝負に勝って良い結果を得られたわけですから、達成感で胸がいっぱいでしょう。これはカジノの参加者にとって何よりのご褒美。皆、満面の笑みを浮かべます。

利用者が心底楽しめるリハビリプログラムとしてのカジノならば、止める理由は見当たらないのではないのでしょうか。

リハビリプログラムとして効果を発揮

「たんぽぽ温泉デイサービス」がリハビリプログラムとして導入したカジノは単なるアミューズメント。施設内通貨「シード」のやりとりは行われるが、あくまでもお遊びであり、極めて健全だ。

ある男性利用者は一番好きなリハビリプログラムについて、「そりゃ、カジノだわ」と即答する。さらに「夢中になれるもんがあるから、ワシはここがお気に入り」と満面の笑みを浮かべながら語ってくれた。

カジノのリハビリプログラムを楽しむ利用者たち。脳のトレーニングとしても効果があるという

「介護施設で勝負事とはいかがなものか」という批判的な意見が飛び交っているのも知っている。しかし、勝負事をリハビリプログラムとして運営する方針を明確に打ち出していたため、筒井氏や現場が揺らぐことはなかった。頭や指先を使うことで脳の活性化につながったり、引きこもりの防止や自立支援を促すこともできるとの確信を持って臨んだカジノ。実際に効果は表れている。

実はここではカジノだけでなく、パチンコや麻雀に興じることもできる。特にパチンコはカジノと並んで大人気。勝負事に取り組む利用者は、まるで子どものように元気いっぱいで、はつらつとしている。感情を豊かに表現し、今を謳歌している姿を見ると、筒井氏もスタッフも微笑ましい気持ちになるという。

利用者が施設に求めるものは「楽しさ」

「たんぽぽ温泉デイサービス」では現在、250種類以上ものリハビリプログラムが用意されている。その内容は、ウォーキングやレッドコード、プールなどの運動系をはじめ、陶芸、書道、パン教室といったカルチャー系も充実しており、すべて利用者が自由に選択・決定して参加できる仕組みだ。

パチンコ、麻雀、カラオケ、温泉とレジャーランドと見紛う光景だ

自分が好んで取り組むリハビリは、与えられて取り組むそれよりも、得られる満足度は高い。さらに、リハビリ内容に応じて施設内通貨ももらえる。となると、利用者は夢中になり、ここで過ごした時間を「楽しかった」と認識し、「また来たい」と愛着を示すようになる。

リハビリに積極的になれる環境だからこそ、機能回復にも効果が見られる。シードの獲得に意欲を示し、1周100メートルの歩行訓練に励んだ車椅子の利用者が、自力で歩けるようになったという事例はここでは珍しくない。本人だけでなく、家族からも感謝の言葉が多数寄せられている。

「利用者が施設に求めるものは、楽しさ。人はどれだけ歳をとっても、楽しいことをして日々を過ごしたいんですよ」と筒井氏は力説する。確かに、楽しいことにめぐり会える場所なら、高齢者でなくても足を運びたくなる。一連のユニークな取り組みは、利用者の楽しみを追求した結果なのだ。

取り組みを運営できる人が現場にいるか
優れた人材は生き残りを左右するカギ

2000年に介護保険法が施行されて以来、一気に介護施設が増え、今や利用者の獲得競争も激化しています。そんな中、継続的に利用してもらうには、施設が立派で面白いリハビリプログラムが揃っているだけでは到底無理です。

「たんぽぽ温泉デイサービス」は世間に開かれた施設ですので、どなたも見学自由です。もちろん同業者も受け入れています。施設をご覧になって、私たちの取り組みを真似ていただくのは一向に構いません。

ですが、取り組みをきちんと運営できる人が現場にいなければ、すぐにその施設は衰退するでしょう。優れた人材は生き残りを左右する大きなカギです。

独自性で注目されるようになった私たちですが、これを突き詰めていくことに終わりはないと思っています。引き続き、差別化の強化も忘れてはなりません。

誰でもウエルカムの採用はNG

「たんぽぽ温泉デイサービス」には、毎月20〜30人の求職者が採用選考を受けに来る。

筒井氏は「まずは質の高い人材を確保することが肝要」だと語り、「面接において理念の共感性の有無や介護業に対する考え方、退職理由などをしっかり聞き出すことを忘れてはいけない」と説く。

経験豊富な者であっても「おや!?」と思う発言が随所で飛び出したら、採用しない。妥協して採用すると、いずれミスマッチ現象が起き、互いに不利益を被ることになる。そしてその弊害は利用者に影響を及ぼす。だからこそ、人手が欲しい時であっても、誰でもウエルカムとはしない。

社内表彰制度、マイスター制度など職員のモチベーションを向上させる取り組みも

「たんぽぽ温泉デイサービス」は、開設3年で契約者数が623人に到達。「ほかを圧倒するペース」と筒井氏自身も改めて驚く。現在は約850人が契約し、1日約250人の利用者を受け入れ中だ。

100人定員の大型施設も増えたが、やはり250人という数字は群を抜いている。深刻な人材難に陥らない、そして質の高い人材が常に配置されるからこそ、これだけの利用者を受け入れる体制が日々整うというわけだ。

トップは方針を伝え、業務は現場に任せる

個性的なリハビリプログラムの多くは、現場のパートスタッフが内容を考えて運営している。上の者が考えて運営だけを任せていては、現場の士気は上がらず、リハビリの効果も期待できない。現場は現場の人間が一番よく理解している。ならば、その者たちが「やりたい!」と思ったことをどんどん実現させるのが筒井流だ。

自分で考えた企画なら、人は責任を持って実行に移す。指示を受けて動くのはロボットだけでいい。現場は「企画が採用されるならば!」と考えることに意欲的になる。利用者が笑顔になるリハビリプログラムは、現場に企画というやりがいある業務を任せているからこそ、次々に創造されていくのだ。

プログラムはパートスタッフが内容を考え、運営する。専門的な機材も導入される本格派

無数の施設がひしめく中、「たんぽぽ温泉デイサービス」は、今後も競合が真似したくなるようなユニークな介護サービスを拡充する考え。そのためには現場のアイデアこそが頼りになるので、上の者は方針を伝えるだけ。筒井氏にトップダウンという概念はない。

生き残るために施設がやるべきは
改革を起こし、独自路線を開拓すること

2018年8月から介護保険の利用者負担割合が、所得額によって3割の負担に変わりました。今後この割合は増えることも考えられます。仮に5割負担になったら、払える人は果たしてどれだけいるのでしょうか。

私たちは介護保険と密接に関わるビジネスを行っていますが、負担割合の増加が現実になることを想定した場合、そこから脱却する新たな高齢者向けビジネスに乗り出さなければならないとも思うのです。

新たなビジネスは模索中であり明言はできませんが、施設運営ではない気がしています。

施設の運営会社がこのようなことを考えるのは異例かもしれませんが、競争社会で生き残るには、ただ施設を運営できればいいというこれまでと同様のアクションを起こすだけではダメなのです。改革を起こし、競合とは違う路線を開拓すべきだと考えます。

会社に「経営戦略室」を設置、新たなニーズを探る

団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に達する2025年頃には、日本は5人に1人の割合で75歳以上が暮らす超高齢社会になる。後期高齢者人口が増えるということは、それだけ介護サービスの必要性も高まるということ。ゆえに、筒井氏は、この事態をビジネスチャンスだと捉えている。

新たなビジネスチャンスをモノにするため、筒井氏はどんなニーズが高齢者の中に眠っているかを抽出することに力を注いでいる。高齢者の数が増える分だけ、ニーズも多様化するだろう。今見えないニーズの中でビジネスにつなげられるモノをいち早くキャッチし、事業化に向けて動くことを今後のミッションのひとつに挙げている。

利用者の新たなニーズを掴み、サービスに反映させていくことに余念がない

2018年8月、「たんぽぽ温泉デイサービス」を運営するステラリンク株式会社では、経営戦略室を設置した。同室には異業種からの転職者を迎えたという。あえて介護業界にふれたことのない人物を配置したことで、まったく新しい考え方による高齢者ビジネスを生み出したいという狙いがある。

リスクを決しておそれない姿勢で挑む

「ほかがやっていないことに挑む」というビジネスの基本を愚直なまでに守る、筒井氏。彼がつくり上げた施設から成功の秘訣を学び取ろうと、今日も見学者が訪れている。

先ほど筒井氏は、「今後は施設運営だけでは事業が成り立たなくなる」との見解を述べてくれた。将来立ち上げる新たな高齢者ビジネスは、再び多くの業界関係者から注目を浴びるだろう。そして、そのノウハウを吸収した者たちが、筒井流とは違った高齢者ビジネスを創出すれば、業界の活性化も進行するはずだ。

前例のない試みを実行しようとする際でも筒井氏は、リスクを決しておそれていない。「尻込みしていたら進めません。進めなかったら終わりです」――とにかく前進あるのみという考え方は、筒井氏のビジネスポリシーとなっている。

介護に携わってから約20年の間に、ステラリンクを飛躍させた筒井氏。あくなき挑戦で、介護業界に大きな存在感を示した現在でも、チャレンジャーとしてのスタンスは貫き通したままだ。

※2018年7月25日取材時点の情報です

撮影:土屋敏朗

【第5回】末期がんから驚異の回復 「未病を改善」して高齢者に笑顔を
「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
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