ユネスコ無形文化遺産に登録されている「秩父夜祭」や豊かな自然で知られる秩父地域は、年間で1,000万人もの客が訪れる観光地だ。一方で、少子高齢化は深刻な課題となっている。日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)による試算で「2040年までに消滅する可能性がある」と指摘されたことで、以前から姉妹都市関係にある東京都豊島区と連携し、移住促進を中心とした人口減少対策に取り組んでいる。 久喜邦康市長は、「秩父は都内から特急に乗って80分ほどで、四季折々の美しい自然や祭りを楽しめます。ぜひ移住を考えていただきたい」と意欲的だ。
監修/みんなの介護
【ビジョナリー・久喜邦康の声】
2016年から東京都豊島区との「二地域居住政策」をスタートさせた

秩父市では、「秩父市生涯活躍のまちづくり」(秩父版CCRC)の一環として、2016年から東京都豊島区と連携した二地域居住政策をスタートいたしました。
平日は都会で働き、週末は地方で過ごす二地域居住のスタイルは、現在、全国で注目されています。秩父市では豊島区など都市部からの移住も視野に入れて、支援に取り組んでいます。
豊島区とは、1983年からの姉妹都市です。秩父市と豊島区はともに「消滅可能性都市」の指摘を受けたことから、地方居住について意見交換や職員の相互派遣などを続けてまいりました。
そして、この11月には市内の花の木地区に60歳以上を対象にしたサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)「ゆいま~る花の木」をオープンいたしました。豊島区をはじめ都市部や周辺地域から移住者を募集しています。
常駐スタッフの見守りや、コーディネーターによる生活相談のほか隣接地に新設した交流センターでのコミュニケーションなどで、利用者の皆様の生活を支援します。このプロジェクトは秩父版CCRCの代表的なモデル事業であり、他にも多くの魅力的な施策を進めています。
「都会から近い田舎=ちかいなか」のアクセスの良さと自然環境が魅力
埼玉県の北西部にある秩父市は、人口約6.2万人、面積は約578㎢と県内で最も広く県の約15%を占める。市内の87%は森林で、市の中央を荒川が流れ、浦山ダム、二瀬ダムなどの大きな4つのダムがダム湖を形成するなど、豊かな自然が特徴だ。このダム湖は、2019年に台風19号などが上陸した際、首都圏の水害を防いだことでも評価されている。

西武秩父駅は豊島区の西武池袋駅から約80分と、比較的近い距離にある。双方が「消滅可能性都市」の指摘を受けたことで、より充実した受け入れ環境の整備が進められてきた。住民登録は豊島区のままで秩父市に移住した際も、福祉など豊島区の行政サービスを受け続けることができる。
久喜市長は、「豊島区をはじめ都内から多くの皆様に『都会から近い田舎=ちかいなか』の魅力をもっと知っていただきたいと思っています。市内のモデルハウスを活用した「お試し居住」や農業体験を通じて、『住んでみたい』と思っていただければ」と力を込める。
高齢者から若者まで、幅広い世代が「住みたくなる豊かなまち」を目指す

私自身は秩父で生まれ育ち、祭りや自然など秩父の良さはよくわかっておりますが、ほかの地域からの移住となると簡単ではありません。観光でいらっしゃるのと、実際に住んでみるのとでは違いもあります。
そこで秩父市では、2017年4月から「住みたくなる豊かなまち」を目指し、「移住相談センター」を開設いたしました。
移住のための就労や住まい、環境などに関する相談会や、「移住体験ツアー」の開催、無料の「お試し住宅」の運営、「ちちぶ空き家バンク」との連携などのほか、関連する各種助成制度などのご紹介も行っております。ぜひ、お気軽にいらしてください。
助成制度にも力を入れています。市内の移動には自動車が欠かせないことから、軽自動車購入費を助成する制度もあります。これは他の自治体にはない制度だと自負しております。
また、一定の要件のもとに、若者の移住者には「就職奨励金」を支給するほか、秩父地域雇用対策協議会と連携した合同就職説明会も随時行っております。
移住(二地域居住)のお試し体験も可能
都内からそれほど遠くないとはいえ、移住を決意するのは簡単ではないことから、「移住相談センター」ではきめ細かい施策を展開中だ。
西武秩父駅から徒歩10分ほどのところにある「お試し居住」のための木造2階建て住宅は、市内の建築業者のモデルハウスを活用したもの。3日から7日間まで滞在が可能で、水道光熱費も含めて無料となっている。

久喜市長は、「4人まで宿泊できて、小学生以下のお子さんは2人で1人にカウントします。豊島区民を対象にモニターツアーなども行っております」と説明する。
さらに10人程度の少人数で行う、市内の体験ツアーも続けている。サ高住や交流施設、地元商店街や農産物直売所、秩父ミューズパークなどを回り、住民との交流会もある。
「少人数のツアーは市の担当者とじっくり話せるので、むしろ効率がいいといえます。また、秩父は観光地なので、地元の皆さんも外部の方との交流は日常的ですから、いろいろ話してみてください」と久喜市長。
山間部はドローンの実証実験に最適だった 企業との協定で目指すは実用化

山の多い秩父市では、国土交通省や楽天、ゼンリン、東京電力などと連携して、買い物支援や災害救助などドローンによる生活支援の実証実験を続けております。
2016年10月よりドローンの販売などを手がける企業と災害支援活動協定を結び、2019年1月には荷物配送の実験も成功させました。
空での衝突事故を避けるために、送電線の上空に専用空域として「ドローン・ハイウェイ」を設置。このハイウェイ上を自動操縦ソフトで飛ばした「目視外補助者なし飛行」は全国で2例目となりました。
秩父の山間部は雪も多く、2014年2月の大雪では一部の住民が孤立するなど深刻な被害をもたらしました。このことから、無人で医薬品や生活必需品を運べるドローンは今後も活用が期待されています。都市部よりも秩父のような地方の方がドローンは活躍できるのです。
輸送用トラックなどよりエネルギーを使わないドローンは、CO2排出量削減にも有効です。ドローン関連事業による雇用の拡大なども期待できます。実は、私も操縦の資格を持っているんですよ。
買い物支援から災害対応まで用途は無限大
災害対策から買い物支援まで幅広い役割が見込めるドローンの導入を検討する自治体は多い。そのなかでも秩父市は最先端と言える。
2019年1月に行われた実証実験は、国土交通省と環境省の連携事業である「平成30年度CO2排出量削減に資する過疎地域等における無人航空機を使用した配送実用化推進調査」に基づいたもので、ドローン物流によるCO2排出量削減効果と費用対効果などが検証された。

また、今回は市内の送電線網を使った「ドローン・ハイウェイ構想」も目玉のひとつだ。東京電力が管理する送電線網をもとに、ゼンリンの三次元地図から鉄塔の20m上空に設定した空路を、ドローン専用のハイウェイとしたのである。
実証実験では、紙皿やウエットティッシュなどが無事に配達された。雨天など悪天候では難しいことや積載量が2キロ程度であることなど課題もあるが、このほか森林の保護や有害鳥獣の監視といった分野でも期待されている。
雇用創出などの移住政策をメインに「生涯活躍のまちづくり」を進めている

少子高齢化は、先進国が抱える共通課題でもあります。秩父市は「消滅可能性都市」と指摘されたことで、「秩父市生涯活躍のまちづくり」(秩父版CCRC)を進めてまいりました。
秩父版CCRCの特色は、雇用創出など秩父市民の皆様にもメリットのある総合的な移住政策を中心に、二地域居住のほか人口増加を推進する「総合事業」と、アクティブシニアを対象としたサ高住などの拠点を整備する「モデル事業」という2つのプロジェクトを豊島区などとの連携によって進めている点にあります。
もちろん生活の拠点が変わってしまう移住は、簡単には決断できないものですが、自然に恵まれ、都市部へのアクセスも比較的よい秩父にぜひおいでいただきたいと思っています。移住を考えていただくために、今後もニーズやご要望にお応えした受け入れ環境を整えてまいります。
秩父の魅力は、何といっても豊かな自然と祭りです。ユネスコ無形文化遺産に登録されている12月の「秩父夜祭」のほか多くの祭りがあり、祭りを通じて一体感を持っていただきたいと思っています。
人口が流出しにくい独自のコミュニティを構築する
「消滅可能性都市」の指摘は、国内の自治体に大きな衝撃を与えたが、秩父市と豊島区のように前向きに人口減少対策に取り組む自治体もある。
秩父版CCRCは、中高年齢者が「主体」となって、地域社会の中で健康でアクティブな生活を送るための先進的なまちづくりである。
「例えば、サ高住『ゆいま~る花の木』の隣には交流センターを設置し、さまざまなイベントを通じて入居者と地域住民の方などが、コミュニケーションを図れるようにしています。高齢者向けの施設を整備するだけではなく、住民の皆様の主体的な交流によりまちをつくっていきます」と久喜市長。

「ちかいなか」として利便性と豊かな自然とともに、さらに地域住民が交流しやすいまちづくりで人気を集め、人口減少に歯止めをかける。
また、秩父市ではドローン活用のほか森林保護など環境の整備にも力を入れており、2018年4月には太陽光や水力による電力小売事業を行う「秩父新電力株式会社」を設立、久喜市長が社長に就任した。
電力の地産地消モデルとしても注目されるなど、まだまだ伸びしろがありそうだ。
※2019年11月19日取材時点の情報です
撮影:丸山剛史