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民間との連携が大成功した保険外サービス。行政の介入なしでふつうに暮らせる幸せを

愛知県名古屋市の南東部に位置する豊明市は、介護保険サービスだけでは高齢者の要介護状態からの回復は見込めないとの懸念を示している。そこで、民間企業と連携して、独自の介護保険外サービスを創出することで、高齢者の自立を支援しようとしている。行政が特定の企業と組むというタブーを打ち破った豊明市の取り組みは、今や全国の自治体からも注目を集めている。「介護保険には頼らない」と言い切る小浮正典市長に、これまでの取り組みと今後の展望を伺った。

監修/みんなの介護

福祉分野でも、民間企業との連携が認められるべき

豊明市はこれまでに多くの民間企業と連携を図り、高齢者の生活を守ってきました。しかし、民間企業との連携を始めた当初、一部から批判の声をもらっています。

福祉以外の、例えば、防災分野では多くの自治体が民間企業と手を組み、対策力を高めています。なぜ防災での連携が認められて、福祉では認められないのか。これについては疑問を抱かずにはいられません。

企業は行政との連携によって新たな事業を確立できます。一方、市内に住む高齢者の方々にとっては、より良いサービスが受けられる環境が整うことになるので、まさに“WIN-WIN”ですよね。

市民の立場になって考えれば、デメリットは生じませんので、連携はベストな選択肢だったと思っています。

高齢者の“足”を確保する

愛知県豊明市が官民連携に本格的に乗り出したのは2015年。市の健康長寿課の職員が、名古屋市緑区にある温泉施設「楽の湯」の送迎バスを見かけたことがきっかけとなった。

当時、そのバスは利用者数がまばら。そこで、市内の高齢者を乗せ、彼らの“足”として温泉施設の送迎に活用するというアイデアを思いついたのだ。

大きな温泉施設には、風呂だけでなく飲食店や娯楽設備も揃っている。もしも高齢者がデイサービスに通うように温泉施設に楽しんで通うことができれば、外出促進ひいては健康増進につながっていく。

サービス開始から3ヵ月ほどでバスの利用者数は増加。1年後に2倍、2年後には3倍になったという。

「楽の湯」への無料送迎バスに乗り込む地域の高齢者

高齢者はデイサービスに対して「日常とかけ離れた場所に隔離される」という負のイメージを抱きがちだという。

しかし、温泉施設に出向くとなれば、自身の選択による行動で、あくまでも日常のひとコマだ。

年を重ねても普段通りの生活を送ることができる――。

そんなポジティブな意識を醸成させるからこそ、利用率も上がっていったのだろう。

14の民間企業と協定を締結

無料送迎バスの運行を実現させた市は、次に買い物での困りごとを抱えている高齢者を救うため、生活協同組合コープあいちと連携。名古屋鉄道の前後駅前にある店舗で購入した商品を、すべて無料でその日のうちに玄関先まで配送するサービスをスタートさせた。

また、大手自動車部品メーカーのアイシン精機と薬局・ドラッグストアチェーンのスギ薬局とは、ライドシェアサービスの実証実験を実施。交通不便地域などに住む高齢者が医療機関やスーパーマーケットなどを巡る車両に乗り合うことで、気軽に目的地に向かうことができる仕組みだ。

アイシン精機が専用のシステムを構築し、利用者の要望と予約を受け付け、効率的な巡回ルートを作成する。

乗り合い送迎バス「チョイソコ」

2017年、豊明市は9社の民間企業と「公的保険外サービス創出・活用促進に関する協定を締結」。これは全国初の事例である。2019年6月現在では14の民間企業と協定済み。今後も増える見込みだ。

介護保険サービスの枠組みの中でもがいても突破口を開くことは難しい

介護保険サービスは、居宅・施設・地域密着型の3つに大別され、要介護認定を受けた利用者がケアマネージャーにケアプランを立ててもらい、それに従って適切なサービスを受けられる仕組みです。

これまでは介護保険サービスの枠組みの中から、介護が必要な方に対して最適であろうと考えられるサービスを割り当てていました。

しかし、同じ要介護度でも個々の身体機能や生活環境は異なります。ですから、割り当てたサービスがすべての高齢者にジャストフィットするとは限りませんでした。

自立生活を目指したはずの介護保険サービスの効果が十分でない――この問題は看過できません。ならばどうすべきか。

豊明市が出した答えは、介護保険外サービスを拡充することでした。それには、民間企業との連携だけでなく、市民との協働も大いに必要となります。

もはや枠組みの中で何とかしようともがいても、突破口を開くことは難しくなっているのではないでしょうか。豊明市には、市民を巻き込んだ取り組み事例もあります。

困ったときはお互いさま

ゴミ出しや家具の簡易修繕、庭の手入れなど、ちょっとした困りごとも、高齢者だけの世帯にとっては大きな問題だ。そういった問題の解決に乗り出す仕組み「おたがいさまセンターちゃっと(以降、ちゃっと)」に注目したい。

ちゃっとは、JAあいち尾東農協、生活協同組合コープあいち、南医療生活協同組合、そして市民の協働によって運営されている。前段で述べた連携事例は、民間企業が主体的に動いていたが、ちゃっとは市民が高齢者の生活サポーターとして活躍。「困ったときはお互いさま」を具現化したサービスなのだ。

ちゃっとを利用したい高齢者は、窓口に申し込みをし、30分250円でチケットを発行してもらう。そして、窓口から協力依頼を受けた生活サポーターは依頼者のもとに出向き、活動を終えたらその時間分のチケットをもらう。

チケットは換金、または生活サポーター自身が将来ちゃっとを利用する際の備えにしておくことができる。

ちゃっとサポーター会議の様子

2017年11月にスタートして以来、ちゃっとの利用者数は順調に伸び、2018年7月までに述べ136人が利用。管轄している市の健康長寿課も「介護保険サービスではカバーしきれなかった小さな隙間を埋めることに成功しつつある」と手応えを感じている。

市民同士で支え合う体制が理想

ちゃっとは、利用者だけでなく生活サポーターの登録者も増加の傾向で、2019年6月現在200人が登録している。これは予想を上回るペースだと、市長は語る。

生活サポーターの中には、定年後に「人の役に立てることを」との思いから登録を希望する人も多い。

ちゃっと一周年記念の会合。定年後登録をしたサポーターも多く参加した

「仕事の現場を離れても、自分が必要とされている場所があることが喜ばしい」といった声が市長のもとにも届いているという。ちゃっとの効果は、思いのほか広がりを見せていると言えよう。

また、認知症の人とその家族に手助けをするサポーターを養成するための講座も開講。こちらは2019年4月現在で、7166人が受講している。ちゃっと同様、市民ができる範囲で何かしらの手助けをしていく動きが活発になれば、頼もしい限りだ。

「『困ったときはおたがいさま』の気持ちを持つ市民が増え、地域で共に支え合っていく体制こそが理想ですね」

ちゃっと・認知症サポーター養成講座について、まだ存在を知らない市民も多いので、市としては引き続き周知に力を入れ、おたがいさまの輪を拡大していきたい考えだ。

介護分野で行政に頼り切るという考え方は払拭してもらった方がいい

遠くに住む自分の子どもが「一緒に住もう」と同居を提案しても、断る高齢の親は多いのではないでしょうか。なぜなら、高齢者にとって生活環境の変化は心的負担が大きいからです。

可能な限り住み慣れた地域で暮らし続けたいと願う人は圧倒的に多いはず。だからこそ、地域包括ケアシステムの必要性が提唱されてきました。

地域包括ケアシステムの理念については、大いに共感できます。共感しつつ、市民にとってベストな制度や環境を整えていくことが行政の務めです。

しかし、私たちにできることにも限界があります。極論を言えば、行政に頼り切るという考え方は払拭してもらった方が良いのかもしれません。

「ふつうに暮らせる幸せを支えたい」という行政の思いに共感していただき、小さなことからでも構わないので、地域での助け合いを実践していけば、高齢者はもちろん、全世代にとって住みやすい豊明市が実現できる。私はそう信じてやみません。

市民生活の最前線へ

普通に暮らせる幸せを支えるため、市は介護保険外サービスの拡充をこれからも進めていく。

しかし、拡充していくにも、ニーズをきちんと捉えた内容でなければ利用価値に乏しく、まさに絵に描いた餅となってしまう。市は、どのようにニーズを察知しているのだろう。

健康長寿課の職員によると「地域の高齢者の集まる場所などに出かけ、日常生活のお困りごとについて細かくヒアリングをしている」とのこと。

そう、答えは市民生活の最前線に潜んでいるのだ。

地域の高齢者の集まりで民間サービスの説明会が開催された

健康長寿課の職員が地区巡回を重ねる中で、市内には喫茶店が約70店営業していることがわかった。「社交場として活用できる」と気づいた市は、外出を促進するために高齢者に店舗を紹介することにした。

店主の中には民生委員もおり、見守り役としても心強さを感じている。

そんな担当課の活躍を後押しするのも、市長の熱意だ。

「実は市長自身も市内各所の行事には頻繁に顔を出しているんです。出向いた先ではWEBや広報誌だけでは伝わりきらない『ふつうに暮らせる幸せを支えたい』という私たちの思いを語ってくださっているので、健康長寿課としてもより動きやすくなりますね」

行政の介入が不要になる日

行政だけでできることの限界を訴える小浮市長だが、悲観的にはなっていない。

「豊明には価値ある資源が無数にあることがわかってきました。それを使わない手はありません」

今回、取材した連携事例は、まだ一部だという。今後も保険外サービスを拡充していく姿勢に変わりはない。

2019年6月現在、市内在住の前期高齢者の数は、後期高齢者の数を上回っている。つまり、今の前期高齢者が後期高齢者となったとき、介護保険給付費は大幅に膨らむのだ。

豊明市では2025年度の介護保険給付費は約57億円に上ると試算。これは2016年度の約1.6倍だ。

来るべきときに備え、保険外サービスを拡充させ、要介護の方にも積極的に利用してもらうことで、財源の有効活用を目指さねばならない。

最後に市長が語った言葉が印象的だ。

「介護保険外サービスと市民の協力が今以上に加わり、高齢者が介護保険に頼ることなく普通の生活を送ることができれば、いずれ行政の介入は不要になると思います」

大胆すぎる考えを打ち明けてくれた小浮市長。豊明市の取り組みから当分目が離せそうにない。

※2019年6月13日取材時点の情報です

撮影:土屋敏郎

【第27回】要介護者によるボランティアを奨励。「助け合い」を新しい文化に
「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
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