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自治体初のマーケティング課を設置 人口減少時代に立ち向かう「量より質」のブランド戦略

「母になるなら、流山市」。東京都東部から千葉県内に住む人の中には、このキャッチコピーに見覚えのある人も少なくないだろう。秋葉原駅までつくばエクスプレスで20分の距離に位置する千葉県流山市は、少子高齢化の時代にあって右肩上がりで人口が増加している「勝ち組自治体」のひとつ。特徴的なのが30代の子育て世代の流入が多いことで、2017年の合計特殊出生率も1.62と全国平均である1.43を上回っている。そんな流山市の躍進を引っ張ったのが、アメリカで長年まちづくりに取り組んできた井崎義治市長だ。そんな井崎市長に、自治体が人口減少時代を生き残っていくための戦略について伺った。

監修/みんなの介護

自治体初のマーケティング部署を設立し、子育て世代を誘致

2005年のつくばエクスプレス(以降、TX)開通により、流山市から東京都心へのアクセスは格段に良くなりました。ですが、私が市長に就任した当初の流山市の知名度は、守谷やつくば、柏などに比べると低く、人が増えるどころか、TX開通に伴う区画整理によって、土地が大量に売れ残る危険性がありました。

そこで、流山市の魅力を知ってもらうために設立したのが、マーケティングの部署です。TX沿線で一番早く一番高く売れるまちにしなければならないと考えていました。

昨今は各地で自治体のPRが行われていますが、流山市が行っているのはあくまでマーケティング。どういうまちにしたいかをトップが経営戦略として打ち出すことが重要なのです。

流山市では、首都圏に住む共働きの子育て世代にターゲットを絞り、その層に向けたPR活動や施策を行いました。その結果、この10年で3万3,000人の人口増となりました。

調査結果に基づいた効果的なPR戦略

2019年4月21日に5度目の当選を果たした井崎義治市長。2003年の就任後、マーケティング課の前身であるマーケティング室を立ち上げた。

バブルの頃と違い、少子高齢化の波が押し寄せていた頃である。土地が大量に売れ残ると、約600億単位の負債が発生する可能性があった。

「世の中のすべての企業はマーケティングを行っていますが、行政だけは行っていない。何もしなくてもお金が入ってくる、世の中で唯一の組織だったからです。ですが、少子高齢化の社会にあって、行政もこれまでのような対応ではやっていけなくなりつつあります」

都心からほど近く、豊かな緑にも恵まれている。そんな流山市の強みやポジショニングを分析し、「30代、40代の子育て世代」へとターゲットを絞り込むことに決定。こうして「母になるなら、流山市。」というキャッチコピーのポスターが誕生する。ポスターは東京都内の駅構内を中心に張り出されたが、それも、調査の結果、その地域から転入してきた人の割合が高かったことが判明したためだ。

都内の駅構内に設置された広告。TX沿線で流山市を第一希望として流入してくる人も増えている

また、「たまごクラブ」「ひよこクラブ」等の子育て雑誌にも広告を出稿。少ない予算ながらも、効果的にターゲット層にアピールすることで流山市の知名度は飛躍的にアップした。

シティーセールスではなくてマーケティング

流山市が力を入れているのが、イベントだ。マーケティング課の職員によると、実際にイベントに来ることで子育て世帯が多いことを実感してもらう狙いもある。

中でも、市長の発案で駅前に設置された冬季限定のスケートリンク「ながれやまアイスワールド」は当初予想していた以上に訪れる人がいたという。

「当初、『やる人なんていませんよ』と反対する職員もいました。しかし、小さなお子さんのいる家庭だと、子どもに一度は滑らせてやりたいと考える人の方が多いと思ったんです」

市の中心部、おおたかの森駅前。夏季にはビアガーデンが、冬季にはスケートリンクが設置され、家族連れで賑わう

流山市のターゲットはあくまでも子育て世代。イベントは、子育て世帯が楽しめるかどうか、それが大きなカギだ。中身がなく、知名度アップのためだけのシティーセールスだと意味がないと井崎市長は語る。

「以前、流山をPRする方法として、飛行船の機体に広告を付けるという案が出ました。一時的な話題にはなるでしょうけど、これでは流山市が子育て、教育環境が充実していることは一切伝えられません。マーケティングにはメッセージが必要なのです」

マーケティングからブランディングへ

知名度がアップした今、流山市に必要なのはブランディングです。具体的には、より「上質なまち」にしていきたいと考えています。人口が減るというのは、デフレの時代になるということ。デフレの時代、人々が重視するのは「量」より「質」なんです。

流山市の財政は健全ですが、決して裕福ではありません。ですから、バラマキ政策ではない方法で住みやすさを追求する必要があります。あるものを工夫して組み合わせれば、住みやすい環境はつくれる、というひとつの例が「駅前送迎保育ステーション」です。

流山市は今、保育園の増設が急務ではあるのですが、ある意味でこれは「市民も解決策がわかっている課題」です。

一方、解決策どころか課題が顕在化していないけれども、どこか満足できていないとか、不便を感じているといったこともありますよね。それらをできるだけすくい出して、解決策を考えていく。

そのために「誰のために、何をやるのか」という、市民の需要を意識したマーケティングの考え方が必要なんです。それが、質の高い、住みやすいまちづくりにつながります。

あるものを工夫して、不便を便利に

マーケティングからブランディング戦略へとシフトしている流山市で、今、全国から注目されているのが「駅前送迎保育ステーション」だ。

流山おおたかの森駅、南流山駅前で子どもを預かり、そこから専用バスで市内の認可保育所まで送迎する。人気のある駅前に保育所を新設するのは財政的に厳しい。そこで、駅から離れた不便なところにある既存の保育所でも通いやすくなるシステムを考案したのだ。

送迎保育ステーションが駅前にあるため、通勤途中に子どもを預けることができる

同じ送迎バスを利用する保護者間で連絡網をつくるなど、安全を守るための決まりがある

流山市と同様に子育て世代にやさしいまちづくりを目指す自治体は多い。しかし、井崎市長はよく行われている、いわゆる「バラマキ政策」には懐疑的だ。

「流山市では子供の医療費が200円なのですが、それを無料にしたところで、流山市に引っ越そうと思うでしょうか?病院は毎日行きませんよね。日常の生活で、住みやすさを感じられることの方がはるかに人を惹きつけ、このまちに住みたいと思うに至るきっかけになるんです」

限られた予算の中で今あるものを利用し、より便利な仕組みを作っていく。流山市のブランディング戦略は、ひとつには市民の顕在化していない「不便」を解消することによって為されているのだ。

「子どものそばで働ける環境づくり」で、まち力をアップ

「仕事をしながら子育てが出来る環境づくり」の次に市が目指すのは、「子どものそばで働ける環境づくり」。流山市では民間企業が設置するコワーキングスペースに、企業がサテライトオフィスを構えるケースが増えてきており、市も補助金を出したり市の休眠施設を貸し出したりといった積極的なサポートをしているという。

市内のコワーキングスペースで働く女性たち

市内にサテライトオフィスが設置されることで、そこで働く母親たちは、子どもたちに何かあった際にすぐ保育園に駆けつけることができる。

「都心に近いと言っても通勤時間がないわけではありませんから、結局、仕事を辞めざるを得ないという方が東京近郊には多いと思います。その方々に活躍していただく場を、いろんな形で設けていきたいです」

「母になるなら、流山市。」――「母になる」というのは、子育てだけではなく、子どものそばで母親が自己実現することを意味している。

行政が丸抱えする時代は終わり、市民自治の時代へ

流山市ではさまざまな市民参加型のイベントや取り組みが行われていますが、市として常に重視しているのが市民の主体性です。

市民の方が何か始めようとすることに対して、行政が邪魔をせず、応援する。市民主体だとより一層、自由度が高まり、面白いアイディアが生まれてくるんです。今、流山市は市民もまちも、生き生きしてきていると思いますね。

また、流山市では観光にも力を入れています。日本全体の人口が増えない限り、定住人口もこれ以上増えませんから、これからは、自分のまち以外から遊びに来る「交流人口」をどれだけ増やせるかがカギになります。

「流山なら、やりたいことができるんだ」と思えるように

井崎市長は、市民自治に必要な要素に「市民の行政化」と「行政の市民化」を挙げる。

2018年6月、毎年度更新される「母になるなら、流山市。」のポスターモデルに自薦・他薦する「N総選挙」が、市民団体によって開催された。市が関与していない企画だったが、その選挙で選出された家族がモデルに採用された。

2018年度のポスター。「N総選挙」で選出された家族がモデルとなっている

「公益事業とか、こういう仕掛けに市民がどんどん入ってきてくれるというのが、『市民の行政化』です。そして、『行政の市民化』とは、こういった企画を考えてくれる人たちに、また流山のために何かをやってもらうようにすることです」

上述のサテライトオフィスも、市民発の試みだ。「場所がない」という声に、市は、これまで空き家店舗しか対象にしてこなかった補助金を住宅の改装にも使えるようにした。今では企業や企画の立ち上げを考える人も増えてきたという。

「なんでもかんでも行政でやるという時代は終わっています。行政は、民間企業や、市民だけでは出来ない部分はやりますけど、民でできることは民がやった方が良い。市の職員がいくら考えても考えられないことが、どんどん起こるのですから」

交流人口を増やし、まちを活性化させる

「流山でならやりたいことが実現できる」と、最近では市内のイベントの実行委員に市外の人も加わるようになった流山市だが、新たに力を入れているのが観光だ。

明治時代建築の建物や土蔵などが点在してレトロな風情を醸し出している流山本町や、自然豊かな利根運河をPRし、交流人口の増加による活性化を図る。

「ベッドタウンの町で観光なんてやっても無駄だという人もいますが、そんなことはありません。『知る人ぞ知る』で良いんです。まちづくりだけでなく、観光も、『量より質』。質重視のブランド戦略で、流山市は生き残りを図っています」

「都心から一番近い森のまち・ながれやま」を標榜する市が観光資源として注目する利根運河。豊かな自然が残る。

全国の自治体から注目を集める流山市の大躍進だが、「流山市だからできたのでは」という声もあるという。

「東京に近くても停滞・衰退している自治体は、いくらでもありますし、東京から遠くても頑張っている自治体はあります」

井崎市長が訴えるのは、まちを見る視点を変える必要性だ。

「一見、ただの石かもしれないけど、視点を変えて見ると実はダイヤモンドだったということもあるんですね。外へ広めるためには、磨き方、そして見せ方が重要になってきます。まちの可能性を引き出せなければ存在しないのと同じですから」

ダイヤモンドを発掘し、上手く見せられるのか。それが、少子高齢化時代に生き残るカギとなる。

※2019年3月28日取材時点の情報です

撮影:丸山剛史

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「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
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