年齢を重ねて筋力が衰えると、排尿をコントロールする筋肉も弱くなります。若いときは気にならなかったトイレの問題も徐々に気になってきたという方もいるのではないでしょうか。
尿もれの問題は人によって症状や原因が異なるので、それぞれの状態に合った治療方法を選ぶ必要があります。
尿もれ予防の運動が高い効果を発揮する場合もあれば、原因によっては効果を得られないことも…。
今回は、尿もれに関する概要を説明した後に高齢者向けのトレーニングを解説します。
尿もれの症状と原因はいくつもある
尿もれは「失禁」とも呼ばれ、自分の意思に反して尿がもれてしまうことを指します。尿もれの症状と原因は単純ではなく、個別の状態に応じて対応を考える必要があります。
尿もれの症状と原因
尿もれは、1つの症状に対して1つの原因があるのではなく、複雑に絡み合っていることがあります。以下に主な4つの尿もれ・失禁の症状と原因を紹介します。
腹圧性尿失禁
お腹に圧がかかったときに起きる失禁です。つまり、お腹に力が入ったときに尿が漏れてしまう症状です。
例えば、以下のようなタイミングで尿もれが生じるときは腹圧性尿失禁の症状かもしれません。
- くしゃみをする
- 笑う
- 重いものを持つ
腹圧性尿失禁の原因は、主に骨盤底筋群と呼ばれる筋肉がゆるむことだとされます。その要因として考えられているのは、加齢や閉経、出産です。
機能性尿失禁
排尿の機能に問題がないにもかかわらず、失禁してしまう状態を指します。つまり、トイレに行けなかったり、排尿の認識が難しくなったりすることで尿失禁をしてしまう状態です。
機能性尿失禁の原因には、運動機能の低下や認知症の進行などが挙げられます。若年層の方に比べて、高齢者に多い症状です。
溢流性尿失禁
尿を溜めておく膀胱から、尿が溢れるように流れてしまう失禁です。主に尿道が狭くなったり、排尿をコントロールする筋肉が弱くなることが原因だと考えられます。
尿道が狭くなることで少しずつしか尿が出なかったり、排尿をコントロールして止めることができずに漏れてしまうことで少しずつ尿もれが生じます。
切迫性尿失禁
尿意切迫感という急に排尿したくなる症状が出現し、トイレに辿り着く前に尿がもれてしまう状態です。この原因は、まだ明らかになっていないケースが多いとされています。
現状では、次のような疾患が影響していると考えられています。
- 脳血管障がい
- 骨盤臓器脱
- 前立腺肥大
排尿をコントロールする脳の指令系統がうまく働かなくなったり、前立腺肥大などによる臓器の圧迫で尿を貯めておけずに尿が漏れてしまいます。
また、過活動膀胱といって尿があまり溜まっていないにもかかわらず、膀胱が尿を排泄しようと動いてしまう状態も原因とされています。
しかし、過活動性膀胱については非常に多くの原因が考えられており、その機序はあまりわかっていません。
女性に多い尿もれトラブル
女性は、ホルモンバランスの変化や出産の経験といったことが原因で腹圧性尿失禁のトラブルが起きやすいとされています。
女性特有の変化が、骨盤底筋群をゆるめてしまいやすく、腹圧性尿失禁のトラブルが生じやすいのです。
男性に多い尿もれトラブル
男性は前立腺肥大症にかかりやすいため、溢流性尿失禁など、尿道を圧迫されることによる尿もれが生じやすいとされます。
名古屋大学大学院医学系研究科によると以下のような割合で発症するとされています。
- 50歳で30%
- 60歳で60%
- 70歳で80%
- 80歳で90%
比較的多くの男性が前立腺肥大症にかかり、尿もれトラブルが起きやすい状態になりやすいといえるでしょう。

尿もれの対策は原因に合わせて行うことが大切
尿もれ・尿失禁の治療は症状や原因のように非常にさまざまな方法があります。例えば、以下のような治療法があります。
- 薬物療法
- 行動療法
- 手術療法
- 保存的療法
- 電気刺激療法
- ボツリヌスを利用した治療法
尿もれ治療法としてよく骨盤底筋のトレーニングが紹介されますが、症状や原因によっては改善が難しいケースもあります。
例えば、切迫性尿失禁の症状があった場合、行動療法を選択してもうまく改善しないこともあるでしょう。その際は、抗コリン薬という膀胱の筋肉をゆるめる薬などで改善する可能性もあります。
反対に、腹圧性尿失禁の場合、骨盤底筋トレーニングで尿もれの症状の改善が期待できます。
尿もれ予防・改善のための簡単トレーニング3選
尿もれ予防のための運動として、一般的に骨盤底筋のトレーニングのみが紹介されます。
しかし、排泄しやすい姿勢があるように、排泄をコントロールするためには姿勢が重要なのです。
姿勢がうまくコントロールできずに排泄しやすい体勢になりやすい状態で、骨盤底筋のみを調節しても尿もれ対策するのは難しいでしょう。
そこで、尿もれ予防・改善のために必要な股関節の柔軟性や体幹の安定性などを含めた総合的なトレーニングを3つ紹介します。
仰向けで脚まわし
股関節まわりを柔らかくする運動です。以下の順序で運動してみてください。
- 仰向けでリラックスする
- 両膝を立てる
- 片方の足を床から離す
- 股関節を大きく動かすように太ももを回す
上記の運動を左右の足で行いましょう。片足30秒ほど回すようにしてください。途中で休憩しても、膝が曲がった状態で足を回しても構いません。
股関節をやわらかくする運動なので、なるべくリラックスした状態で、体の力を抜いて行ってください。
ゆっくりハイハイ|お尻歩き
体幹を鍛える運動です。以下の順序で運動してみてください。
- 四つ這いの姿勢になります
- 右手と左足、もしくは左手と右足を同時に挙げます
- ハイハイをするように進みます
ハイハイをゆっくりするように動いてみてください。バランスを取るのが難しい方は、まずは擦るように動いても問題ありません。徐々に大きく手足を床から離してゆっくりとハイハイするようにしてみましょう。
膝が痛くてハイハイするのが難しい方もいるかと思います。そういった方は「お尻歩き」をしましょう。
- 両足を伸ばした状態で座ります
- 片方の骨盤を引き上げて左右どちらかのお尻を前に出します
- 反対の骨盤を引き上げて②と反対のお尻を前に出します
なかなか前に進むのが難しい場合は、片方の骨盤だけを引き上げて左右に重心をずらすだけでも結構です。
体幹の運動なので、なるべく姿勢を崩さずに体を起こして運動できると効果的です。
肛門や尿道を締める
骨盤底筋のトレーニングです。骨盤底筋がゆるんでしまうことが原因で生じる腹圧性尿失禁の改善や予防に良い効果を与える可能性があります。
- 仰向けでリラックスした姿勢を取ります
- 両膝を立てます
- 尿道や肛門の全体をキュッと数秒間締めます
- リラックスした状態に戻ります
姿勢は②の状態のまま、③と④の動作を繰り返しましょう。30秒~1分の間で何度か動作を繰り返し、うまく締める感覚を身につけるように練習をします。
尿の排出をコントロールする運動のため、短い時間のみ締めることを練習してもあまり効果を期待できないため、徐々に長く締められるように練習してみましょう。

まとめ
今回紹介した尿もれ予防トレーニングは、保存療法や行動療法と呼ばれる領域に分類されます。主に腹圧性尿失禁を予防・改善する方法の1つです。
一般的に高齢になると骨盤底筋を含め、体幹などの全身的な筋力が衰え、体が硬くなることが多いでしょう。
筋力の衰えによる尿もれを予防・改善するのであれば、本記事で紹介した運動が役に立つかと思いますので、ぜひお試しください。
原因のわからない尿もれについてお悩みであれば、医師などに相談してください。