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現場の声で、国を動かす。「大同団結」で挑む、持続可能な社会保障とプロフェッショナルの未来

設立以来、急速な拡大を続け、現在では法人会員数5,600社超、事業所数約4万拠点という圧倒的な規模を誇る日本最大級の介護団体「一般社団法人 全国介護事業者連盟(介事連)」。その舵取りを行う理事長、斉藤正行氏が掲げる最大のテーマは、サービス種別の垣根を超えて業界を一つにする「大同団結」だ。

これまで「多極分散」による政治力の弱さから、現場の実態にそぐわないルール変更に翻弄されてきた介護業界。斉藤氏は、現場のリアルなデータを武器に国に挑み、2024年の「処遇改善加算一本化」をはじめとする歴史的な制度改革を実現してきた。

「生産性向上」や「科学的介護」を推進する真の目的と、介護職が全産業平均水準の年収を目指す「選ばれるプロフェッショナル」としての未来への道筋を聞いた。

監修/みんなの介護

「大同団結」×「データ駆動」で現場主導の制度改革を推進

これまで介護業界は、特養、老健、訪問、通所といったサービス種別ごとに職能団体や事業者団体が細分化されており、業界全体としてのまとまりに欠けた分散状態にありました。

その結果、3年に一度の報酬改定やルール変更のたびに、現場の切実な声よりも、政治力の強い医療業界などの他業界やステークホルダーの意見が優先され、現場の実態に合わない「ねじ曲がった制度」が作られてしまうことがありました。

現場の職員が抱く「なぜこんな非効率なルールになるのか」という無力感。これを打破するためには、我々自身が横串を通して「大同団結」し、圧倒的な当事者の数を持って、現場主導の制度改革を提言していく必要があります。

介事連がいまや約4万事業所という巨大な組織へと成長したのは、この危機感が業界全体に共有された証です。我々は単なる利益団体ではなく、データと論理に基づいた「提案型」のアプローチで、国の政策決定プロセスに深く関与しています。

持続可能な制度を守るための「5大政策方針」

斉藤氏は、単に「報酬を上げてほしい」と叫ぶだけではない。生産年齢人口が急減し、高齢者がピークに達する「2040年問題」を見据え、社会保障制度そのものを持続可能にするため、業界側も責任ある変革が必要だと説く。そのために掲げているのが以下の「5大政策方針」だ。

  1. 1. 現場視点によるサービス品質向上を目的とした制度改革の推進
  2. 2. 科学的介護手法の確立と高齢者自立支援の推進
  3. 3. 業務効率の向上を目指し、制度のシンプル化、介護現場のICT化・ロボット活用の推進
  4. 4. 介護職の処遇改善・ステータス向上等の人材総合対策の推進
  5. 5. 将来を見据え、海外・アジアの介護産業化の推進

中でも「生産性向上」や「産業化」という言葉は、現場では「効率優先で冷たい」「手抜きだ」と誤解されがちである。しかし、斉藤氏の真意は、人材不足が深刻化する中でサービスの供給体制を守るための防衛策にある。

「2040年には労働力が決定的に不足します。従来と同じ人海戦術では、物理的にサービスが維持できなくなるのは明白です。サービスの質を落とさず、むしろ高めていくためにこそ、テクノロジーやデータの力で生産性を高め、少ない人数でも質の高いケアを提供できる体制を作らなければなりません」

ICT活用は「手抜き」ではなく、限られた人数で質を維持するための必須手段だ

「真心」をデータで証明する。科学的介護とテクノロジーが導くプロの処遇

現在の介護職員の平均年収は全産業平均と比較して100万円弱低いという厳しい現実があります。これは、介護が高度な専門職でありながら、社会的に「誰にでもできる仕事」と誤解され、正当に評価されていないことの表れです。

私は「平均年収500万円」を目指すべき水準として掲げていますが、これは単にお金の話ではなく、社会的地位を確立するための戦いです。

その鍵となるのが「科学的介護」です。これまで介護は「真心」や「経験則」で語られがちでした。しかし、これからはLIFE(科学的介護情報システム)を通じて、利用者のADL(日常生活動作)や栄養状態がどう改善したかというケアの質を、データ(エビデンス)で可視化する必要があります。

例えば、Barthel Index(バーセルインデックス)を用いて移乗動作の改善を数値化したり、BMIデータを基に栄養ケアを見直すことで、利用者のQOLは確実に向上します。「なんとなく良くなった」ではなく、「データで成果を証明できる」ことが、我々の仕事の価値を社会に認めさせる唯一の方法なのです。

テクノロジーは「人の温かみ」を守るためにある

斉藤氏が描くのは、テクノロジーと人が協働する未来だ。実際、先進的な現場では以下のような変化が起きている。

  1. 見守りセンサーの導入:夜間の全室巡回を廃止し、モニターでの確認に切り替えることで、利用者の睡眠を妨げず、職員の夜勤負担を激減させる。結果、利用者の「ぐっすり睡眠時間」が延びるというデータも出ている。
  2. 移乗支援ロボットの活用:「持ち上げない介護(ノーリフトケア)」を徹底し、介護職の職業病である腰痛をゼロにする。

「間接業務や肉体労働をロボットやICTに任せることで、人は『人にしかできない対人援助』や『コミュニケーション』に集中できる。これこそが、利用者の尊厳を守り、職員が長く働き続けられる環境を作るのです」

斉藤氏が提唱する「介護職」への転換
これまでの介護職 プロフェッショナルとしての介護職が目指すべき姿
経験と勘、精神論頼み 科学的根拠(LIFEデータ)に基づくPDCAサイクル
現場に属人化した人海戦術 見守りセンサー・ロボット協働による生産性の高い現場
全産業より100万円低い年収 全産業平均(500万円)以上の給与と高い社会的ステータス
外国人材にとっても、日本の「科学的介護」を学べる環境は大きな魅力となる

現場の声が政治を動かした。歴史的な「処遇改善一本化」推進の先に見据えるもの

我々の活動は、着実に政治を動かし始めています。その最大の成果の一つが、2024年度報酬改定における「処遇改善加算の一本化」です。

これまで「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」と複数に分かれていた制度を一本化し、事務負担を劇的に軽減させました。

さらに重要なのは、新加算の要件として「月額賃金への配分」が義務付けられた点です。これにより、一時金ではなく、毎月の給与(ベースアップ)が確実に底上げされる仕組みを作りました。

また、職種間の配分ルールも柔軟化され、チームケアを支える全職員に恩恵が行き渡るようになりました。現場を知る我々が声を上げれば、制度は変えられるのです。

課題先進国である日本がリードする介護エコシステムの創出

斉藤氏の視座は、国内の課題解決の「その先」も見据えている。

「日本は世界で最も高齢化が進んでいる課題先進国です。しかし、裏を返せば、ここで持続可能なケアのシステムを確立できれば、それは世界標準のモデルになり得ます。これから急速な高齢化を迎えるアジア諸国に対し、日本の科学的介護のノウハウや制度設計、テクノロジーを輸出し、リーダーシップを発揮していく必要があるのです」

特に力を入れているのが「人材循環モデル」の構築だ。アジアの若者が日本で最新の介護技術を学び、将来母国に帰ってリーダーとして活躍する。そんな大きなエコシステムを作ろうとしている。

「変革を恐れず、共に声を上げてくれる仲間が必要です。この国で介護に関わる全ての人と手を取り合い、持続可能な未来を作っていきたいんです」

4万事業所からなお拡大を続ける介事連。斉藤氏の「大同団結」の呼びかけは、いま着実に、そして力強く業界全体に波及し始めている。

「ビジョナリーの声を聴け」は超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダー“ビジョナリー”にインタビューし、これからの我々が来るべき未来にどう対処し、策を練っていくかのヒントを探る企画です。普段は目にすることができない高齢福祉の最先端の現場を余すこと無くお届けします。
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