Q.161 松戸市が保育士の地方流出を阻止する目的で行う”松戸手当”は限られたパイの争いを招くだけのような気が…(かに・会社員)
松戸市が行う施策に”松戸手当”なるものがあるらしいのです。これは地方に保育士を流出させることを防ぐために経験に応じた手当を支給するというもの。すごく立派な施策だというコメントをたくさん見たのですが、これだと限られたパイを争うみたいな感じで何の解決にもならなそうなのですが。
仮に「限られたパイを争う」という側面があっても、こうした競争を通じて保育士の処遇が改善していくことは、業界にとって望ましいこと
私は、このコラムでたびたび「保育や介護関連職員の処遇改善をこれ以上国に求めても多くは期待できない。それよりも、地方自治体が保育や介護関連職員の生活コストを軽減する政策を実行し、彼らの生活を助けて実質的な処遇改善を達成すべきである」と訴えてきました。
松戸市の政策(保育士への家賃補助、保育園への入所・保育料の優遇)は、まさに私がこのコラムで繰り返し地方自治体の役割として唱えてきたもので、端的に言って素晴らしいと思います。
保育や介護に関しては、資格を有しているにも関わらず処遇があまりにも悪いことから、他の仕事についている方が多いことが知られています。例えば、保育士に関しては資格取得者の半数程度しか保育の現場で働いていないと言われています。
松戸市のような政策は、こうした保育士の資格を持ちながら現場を離れている方々を処遇改善により呼び戻す効果も期待できますから、質問者様がご指摘する「限られたパイを争う」という指摘は必ずしも当たらないと思います。
また仮に「限られたパイを争う」という側面があったとしても、それこそが健全な自治体間競争であり、こうした競争を通じて保育士の処遇が改善していくことは業界にとって望ましいことと言えると思います。
その過程で、魅力的な条件を提示できない自治体は、保育士の確保に苦しむことになるかもしれませんが、本来「ダメな政治家を選んだ地方自治体は没落する」というのは当たり前の話で、むしろ全国津々浦々を国が指導して同じような生活を保証しようとするこれまでのあり方が異常だったのだと思います。
財政にも労働力にも余裕がなくなり、残念ながら「国土の均衡ある発展」を追い求められた古き良き昭和はいよいよ終焉しつつあるのです。
保育や介護といった福祉関連の業務従事者や働くママさんたちに「低賃金でもやりがいがあるから働けるはず」「私たちの時代の育児や介護はもっと大変だった」などと倫理を押し付けて、低待遇や二足の草鞋を強いる手法は持続可能性がなく、終わらせなければいけません。そのために、各自治体が福祉関連業務の従事者にどのような魅力的な条件を提示できるか、知恵を絞りあって競争する時代が来ているのはないでしょうか。