Q.156 民間から国家公務員へ転職する場合、国家総合職採用者と社会人経験採用者では出世スピードの差はありますか?(がっくせい・学生)
私は今年就職活動を控えている身ですが、人生一度きりなので5年間思いきり民間企業で働き、その後に国家公務員へ転職したいと考えております。5年というブランクは、国家公務員総合職採用の選考段階において受け入れてもらえるのでしょうか?
国家総合職採用者と社会人経験採用者は、そもそも役割が違うもの。同じ土俵で比べても意味がありません
なかなか難しい質問ですね。
私は新卒で経産省に入った身ですから、簡単に国家公務員総合職、いわゆるキャリア官僚の初期の育成システムについて説明したいと思います。
新卒で入ったキャリア官僚は、基本的にはさまざまな部局を回って、制度設計・部局間調整・渉外を担当する「ジェネラリスト」として育成されます。
私自身の経験ですと、入省からの5年間は、振り出しは「調査統計部」という部署で連絡調整や雑務など、いわゆる「雑巾掛け」をしながら省内の業務の流れの基礎を学びました。続いて「地域経済産業グループ」という部署で、工場立地支援制度にかかわる法律・税制等の見直しと農商工連政策の立案に参画。その後は「産業技術環境局」という部署で、これまた知的財産制度と研究開発用の組織制度にかかわる法律・税制等の見直しに携わりました。
5年間で3つの部局を渡り歩いたわけで、まさに「ジェネラリスト」として育成されていたわけですが、共通点として、それぞれの部局で制度設計業務に携わっており、その意味では「スペシャリスト」でもありました。
何が言いたいのかといいますと、そういう特定の専門分野を持たない汎用的な制度設計能力に富んだテクノクラートは省内で新卒から育成されてまかなわれているので、社会人経験採用で外部から入省を目指すような人には逆に、特定の専門分野を持ち、実務に精通しているような人間が求められるのではないか、ということです。
例えば、政府の重要な仕事として税制改正がありますが、官僚は定められた要件に従って制度を設計し、それを法律の条文に落とし込むことには長けていますが、「受け手である企業がその制度をどう活用するか」というユーザビリティの視点がどうしても弱くなる傾向があります。
そのために世の中には使いにくい税制があふれているのですが、これが省内でユーザー視点で物事を見られる人がいると状況が変わってくるわけです。これは補助金などにおいても同様です。
このように、国家総合職採用者と社会人経験採用者はそもそも役割が違うものであり、同じ土俵で比べても意味がありません。個人的には、新卒から国家公務員総合職になったような人は制度設計の専門家となり、社会人経験採用者はユーザー目線で制度の使用性を考えるという役割分担になると、相互補完的になって望ましいのではないかと思います。
その意味では国家公務員に限らず、各省庁の制度運用実務を担当している主要な独立行政法人なども、将来の転職先として見据えておくことをお勧めします。人生は一度きりですから悔いがないように、思い込みにとらわれず、よくよく考えて進路を選んでください。