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熊谷俊人「これからは地域力が問われる時代。それなのに千葉市内では“地域力の格差”が如実に現れ始めている」

最終更新日時 2016/07/18

熊谷俊人「これからは地域力が問われる時代。それなのに千葉市内では“地域力の格差”が如実に現れ始めている」

2009年、政令指定都市としては歴代最年少の31歳で千葉市長となった熊谷俊人氏。そうしたプロフィールに加え、インターネットのSNS(ソーシャルネットワークサービス)を活用した情報発信などに注目が集まりがちだが、どうして、その政治手腕は確かなもの。例えば2014年には待機児童ゼロを達成するなど子育て支援に積極的であるし、高齢者支援についても2013年から開始した介護支援ボランティア制度も精力的に推進している。そんな熊谷市長へのインタビューは、千葉市内の高齢化の話題に始まって、地域が果たすべき役割についてまで、多岐にわたった。

文責/みんなの介護

2025年問題に向けての準備が、国も市町村も含めて間に合うのか?その危機意識は強い

みんなの介護 熊谷さんが千葉市長に就任してから7年が経ちました。その間での市内の高齢化について感じるのは、どういったところでしょうか?

熊谷 そうですね。特に敬老会のシーズンなどに千葉市の各年齢層別の人数をじっくり見るんですが、この7年で歴然と増えていますね、高齢者の数が。団塊の世代が後期高齢者になる「2025年問題」が取り沙汰されることが多いですが、それが寸分の狂いもなくデータとして実証されてきている、という感じです。

市全体で見るとそこまで苦しい状況…というわけではありませんが、医療や介護の現場を見ると、それはもうどんどん苦しくなっていますよね。医療関係者の方からも、「病院に来る人たちがどんどん高齢者になって、身寄りのない人が増えている…」みたいな状態の話も聞きますし。介護で言うと、介護職員の確保が困難になっているのは本当に大きな問題です。着実に、2025年問題がひたひたと近づいている足音を感じますし、そのための準備が、国も市町村も含めて間に合うのか?という、かなりの危機意識を持っているのが現状ですね。

みんなの介護 高齢化率が確実に上がってきている、と。

熊谷 高齢化を考えるとき、その数字は全人口における65歳以上の人口の割合で算出するじゃないですか。それっておかしいですよね。市町村レベルで、現地で地域の住民と接している私たちからすれば、65歳を過ぎたばかりの人って、元気な方が多いですから。それを“高齢者”という言葉でくくって良いのか?と。

ですから千葉市では、65歳以上とひとくくりにするのではなく、65歳から74歳の前期高齢者と75歳以上の後期高齢者とを厳密に分けて考えるようにしています。特に後期高齢者の増加の現況はしっかりと把握して、施策を立てていこう、と。

「賢人論。」第19回(前編)熊谷俊人さんは「千葉市では敬老祝金を廃止の方向で進めています。おかげで高齢者の皆さんには嫌われたかもしれません」と語る。

全部の面倒を官が見る…みたいな昔のやり方というのは、これからの時代は到底通用しない

みんなの介護 千葉市における具体的な施策というと、どのようなものになるのでしょうか?

熊谷 現在の施策についてお話しする前に…、高齢者施策はこれまでいろんなことをしているんです。それらというのは、昔、高齢者が少なかった頃に行っているものがかなり残っちゃっていたんです。

みんなの介護 「残っちゃっていた」いうと、残しておいてはいけなかったけれども、残してしまっていた、という意味で良いでしょうか?

熊谷 その通りです。例えばですが、“敬老祝金”といった類の、一定年齢になるとお金を給付するといった制度も廃止の方向で進めています。こうした施策というのは、高齢者の数が少なかったから許された、そして実現できたものでした。でも今は、その見直しをして、財源を振り替えていくということが必要な時期に来ているんです。

みんなの介護 市の財政をはじめ、現状を見据えれば「見直しが必要な時期に来ている」というのはわかります。ただ、それを実行しようとすると市民からの反発があるのではないでしょうか?

熊谷 今までであればもらえていたお金が急にもらえなくなるわけですから、それは仕方ないですよね。市長になって、7年かけて…高齢者の中には嫌っている人も結構いると思います。高齢者は投票に行く人たちですから、政治的には極めて困難で、それは議会も相当大変だったと思うんですよ。だけど、私が市長に就任した初年度から時間をかけて議員も職員もみんなで頑張って市民に説明したりして、なんとかここまで来た、という感じでしょうか。

介護保険制度が変わっていく中で、家事支援的な地域の助け合いや支え合いというのは、市町村レベルにまでおりてきました。社会福祉協議会や地区部会、自治会など、地域レベルでいかに支え合い、助け合いをするか、そして団体を増やして、組織化するかというのが我々の大きな課題だと思っています。

みんなの介護 それは、国ではなく市町村レベルの対応だ、ということですね。

熊谷 国としての行政の成り立ちを考えてみてください。市町村でできないことを県がやる。県ができないことを国がやる。そう考えると、家事支援的な地域の助け合いや支え合いというのは、やはり市町村レベルで完結すべきことですよね。

「賢人論。」第19回(前編)熊谷俊人さんは「家事支援や生活支援に力を入れる地域や組織、団体を継続的に確立させることが極めて重要課題だと認識している」と語る。

中学校区や小学校区レベルでの地域の力や、それを上げようとする意識に差が出てきているんです

みんなの介護 市町村レベルで取り組まなければならない、ということは理解しました。では、もっと小さな集合体…つまり自治会などから上がってくる改善の要望ということも、千葉市が受け止めて、千葉市として対処する、ということになりますね。

熊谷 そうなりますね。ただ、そうした要望が上がってくるということの問題よりも、「行政に何かを要望するよりも、自分たちでどうにかしよう」という地域と、そうでない地域との格差が著しくなってきていることの方が大きな問題だと、私は捉えています。

みんなの介護 地域による“意識の格差”という感じでしょうか。

熊谷 そうですね。今までは、「行政が定めた制度の中で全部救うよ」という感じだったんですけれども、地域による、文字通りの“自治”が重視され始め、いわゆる地域力が問われるようになりました。そんな今、地域による支え合い・助け合いに力を入れている地域と、そうでない地域の差が如実に現れ始めているんです。

みんなの介護 先ほどから“地域”という言葉が出てきますが、それはどのくらいの規模の“地域”なのでしょうか?

熊谷 区や町レベルでなく、それこそ中学校区や小学校区レベルですね。それくらい細かな単位でさえ、地域力や、それを上げていこうという意識に差が出てきているんです。

みんなの介護 地区レベルで温度差があるとはいえ、そこでコンセンサスを取っていくのが千葉市としての役目ですよね?

熊谷 そうですね。これまでも私たちは、自治会や社会福祉協議会の地区部会などの地域団体で支え合い・助け合いができるように、そのために必要な費用を補助するような支援制度を整えてきました。そうした制度をいかして、もしくはそれがなくてもやっているような地域も出てきています。しかし一方では、やれない、もしくはやらない地域というのも出てきています。

住み慣れた場所でできる限り医療と介護を受けられるように。今、国としても地域包括ケアシステムの実現に力を入れていますよね。そのためには、地域力というものが不可欠になるのは間違いありません。地域で医療と介護を受けていくためには、どこまで生活支援がされる地域なのかということが問われているんです。

みんなの介護 小学校や中学校区レベルの“地域”の力を全体としてボトムアップすることができれば、千葉市という大きな“地域”の体力も上げることができる、というわけですね。

熊谷 その通りです。だから我々は、来たる2025年問題に向けて、家事支援や生活支援に注力する地域や組織、団体をひとつでも増やして、継続的に確立させていくということに対して、極めて重要な問題と認識しているんです。

地域力の格差を解消させるために、ハード面ではなくソフト面でのサポートに力を入れている

みんなの介護 地域というのは小学校区や中学校区レベルといった単位と伺いましたが、そこで中心的な役割を果たす組織というのは、どこになるのでしょうか?

熊谷 社会福祉協議会(以下、社協)の地区部会ですね。社協はもともとそうした支え合い・助け合いをするための、古くからある行政と連携した組織です。その地区部会がしっかりしているところもあれば、有名無実化しているようなところもあるというのが問題になっているんです。

例えば先日行った社協では、あんしんケアセンター(千葉市内の地域包括支援センター)の人たちを呼んで健康教室をやったり、地域の幼稚園に土曜日に園庭開放してもらって健康体操をやったりと、自主的な活動を行っています。地域の人たちの健康づくり、介護に陥らないためのいろんな事業をやっているわけです。

そうした取り組みができるように制度化しているわけですが、誰かが「やろうぜ!」ってまわりを巻き込んでやる地域と、「任命されているけれど最低限のことしかできません」っていうところでは、ものすごい差になってしまうんです。

みんなの介護 そうした取り組みができる地域とそうでない地域というのには、どんな差があるのでしょうか?

熊谷 昔から地域のまとまりがある場所っていうのは、そういうことを率先してやる人たちがいるし、一方で地域への意識が薄い場所というのは、新しく引っ越してきた人が多い場合が多いでしょうか。そうした意識というのは医療や介護だけの話ではなくて、普段から見えているんですよね。消防団の活動が盛んであるとか、お祭りとかでも一致団結してやってるとか。

みんなの介護 そうした地域格差を解消するために、千葉市としてはどのような取り組みをしているのでしょうか?

熊谷 地域が自分たちの課題を自分たちで解決しようとするときに、背中を押してあげられるような制度を用意しています。例えば防犯パトロールひとつをとっても、自主的に、例えば青色パトロールカーなどを自分たちで調達しようとしている人たちに対して、車の屋根に載せる回転灯をはじめ、様々な必要物品を支援したり。

また、災害が起きた時の避難所を地域のコミュニティが自主的に運営するように、市から促したり。直接的な…例えば施設などの箱モノをつくったりといったハード面でのサポートではなく、やる気のある人たちが、そのやる気を発揮できるような制度を構築していくというソフトの面でのサポートに注力しているんですよ。

「賢人論。」第19回(中編)熊谷俊人千葉市長は「私が市長になって7年。高齢者関連の福祉政策についてはかなり再構築してきたし、確実に整理はできている」と語る。

数億円かけて施設設備をつくる…。そんな財源の使い方は見直すべきで、これからはソフトの面を重視していくべき

みんなの介護 施設など箱モノをつくるのをセーブするとなると、市の財政としても負担が軽くなりますね。

熊谷 その通りです。千葉市内でも、「いきいきセンター」のようなものをこれまでにつくってきましたし、それはそれで一定の効果がありました。しかしそれでも、市内に10~20ヵ所しかつくれないわけで、そこに通える高齢者はその地域に住んでいる人だけです。全体をカバーできないのに、そこにかけるコストが膨らみすぎているというわけですね。

みんなの介護 かけられるコストにも限界がありますしね。

熊谷 箱モノをひとつ作るのに数千万円から億を超えるお金が必要になります。維持費も含めればさらに、です。それをやるぐらいだったら、その数千万円を分割して、本当に必要な地域に、その担い手を育てることに使った方が良い。これからは、ハードではなくソフトの観点を重視していかなければいけないのは明白で、全部を官が面倒見る…みたいな昔のやり方というのは到底通用しない時代になっていくと思っています。

みんなの介護 ハードではなくソフト面のサポートに力を入れてきて、その成果に実感のようなものはありますか?

熊谷 私が市長になって7年、本来は見直さなければいけない高齢者関係の福祉政策については相当、再構築してきたと思います。確実に整理はできている…けれども、それが実感として、健康度の数値がどうとか、もしくはすごく自治会の数が増えたとか、そこまで歴然とした差が出てきたとは、まだまだ言えないとは思います。

みんなの介護 7年…というスパンでは、まだ測れないですかね。少し短い気がします。

熊谷 そうですね。10年、20年後には評価されて然るべき施策かもしれません。今、介護予防の先進事例として注目されている和光市の「和光モデル」も、実践し始めたのは10数年も前ですから、やっぱりそれくらいのスパンは必要だと思います。

先ほどお話しした、自主的に健康教室などを開催している社会福祉協議会も、「5年ほど前に、千葉市の補助金を受けて立ち上がったところから、ようやくここまで来たよ」って彼らは言うんです。そういう意味では、最初に火をつける補助金には意味があったわけです。もちろんそのあと補助金の切れ目が活動の切れ目のように消えていった団体はあるわけですけれども、少なくとも残っている団体があるということは、無駄な取り組みではなかったと考えて良いと思います。

「賢人論。」第19回(中編)熊谷俊人千葉市長は「「もっとやりたい!」という地域には他の地域に支払っている以上の支援金を用意しても良い。そうした差が出るのも仕方がない」と語る。

地域力が弱いところに住む人たちの危機意識を煽るためにも、“見える化”をどんどん進めていきたい

みんなの介護 社会福祉協議会や自治会など、地域レベルへの支援というのは、基本的に平等、という考えで良いでしょうか?

熊谷 そうですね。全部の地域において最低的な、その地域におけるミニマムな支援は平等であり、それを基本としてボトムアップを図っていくという考え方です。ただし、先ほども言いましたように、地域によって、地域力向上に対する温度差があることは否めません。「もっとやりたい」「もっとやれる」という声に対しては、平等な30万円ではなく、プラス10万円を支援しましょう、という形でも良いと思います。

30万円というのはあくまで例えばの話ですが、こうした差が出ても良いじゃないですか。その人たちのやる気に差があるわけですから。その場合に私が提案したいのが、そうした差がもっと見えた方が良い、ということです。やる気が少ない地域の危機意識を煽ることができるのであれば、どんどん“見える化”するべきでしょう。

みんなの介護 市民からしたら、見えていて欲しいものというのは数字だけではない気がします。

熊谷 そうですよね、私もそう思います。例えばですけど、住む家を探すとき、物件情報として「駅から徒歩○分」「コンビニ徒歩○分」なんて情報がありますが、そんなものはもう、Google Mapsを見ればわかることですから。それよりも、「この地域は高齢者の見守り支援がしっかりしています」とか、「消防団の活動で市から表彰を受けています」など、住んでいる人でないとわからないような“地域力情報”が欲しいですよね。

みんなの介護 “見える化”に話を戻すと、千葉市では「市税の使いみちポータルサイト」というWebサイトをたち上げていますね。市民が払っている税金がどのように使われているのかがひと目でわかるようになっていて理解しやすいですし、また危機意識も高まるように思います。

熊谷 見える化による危機意識というのは、何も市政に限った話ではないんですよね。例えば健康診断を受けたとして、「肥満度が高いですよ」「血糖値が高いですよ」というデータを見せられたら、治療を受けようという気になるじゃないですか。それと同じことです。

市政について言えば、地域の人にこれだけの支援をしていますよ、取り組みを行っていますよ、ということをちゃんと見える化すること。今後の理想形としては、「この地域の活動が盛んですよ」という、その地域活動の温度差まで見える化できれば良いなと思っています。

社会保障費が膨れ上がっていく中で、自治体レベルでできることについて、行政がしっかり指針を示していく

みんなの介護 先ほど、千葉市独自の“見える化”の取り組みとして「市税の使いみちポータルサイト」のお話を伺いました。千葉市に住んでいる人にとっては、「見えて安心」というのもあるでしょうし、外から見てもこれだけ正しく運用している自治体に対する信頼感は高まると思います。

熊谷 ありがとうございます。行政サービスの見える化というのはもっともっと進めていくべきだと思っています。千葉市では、資産カルテという形でインターネット上ですぐに見られるようにはしてあるんですが、極端な話を言えば、公共施設なんかでも、入り口に「施設の維持・運営費に年間3,000万円かかってます」なんて張り紙をした方が良いとさえ思っています。

私が市長に就任したとき、行政のコミュニティ施設の利用料が0円のところが多かったんです。でも、考えればすぐにわかるんですが、0円って結局100%税負担になるわけだから、それはやめましょうよ、と。利用者に20%くらいは負担してもらいましょうよ、と。決して値上げとかではなく、「利用者の2割負担、市の8割負担で成り立っている施設です」ということを、ちゃんと伝えていくことは大切ですからね。

みんなの介護 自分の財布が痛まないと自分事に感じられない、という人も多いでしょうからね。

熊谷 これから社会保障費はどんどん上がっていくし、税金は放っておいたら上がっていくばかり…。それは市民、国民の皆さんにとって良いことではないですよね。じゃあ一体、何をすれば税金を下げることにつながるんだ?という、その回答を、行政から見せていかないといけないと思っています。

国としては、介護保険制度の見直しに着手しています。「要支援レベルまで介護保険制度の予算でやっていくことについては、議論の余地がある」という話も挙がっています。要支援者へのサポートを地域で担うことで介護保険料そのものの値上げを少しでも抑えることができるのであれば、自治体としても考える余地は十分にあるでしょうね。

みんなの介護 自治体にかかる期待がどんどん大きくなっていきますね。

熊谷 実現はかなり難しいということを承知の上でお話ししますが、例えばですが「この地域の高齢者は明らかに要介護認定率が低いよね」「だったらこの地域の人が支払う介護保険料は安くすべきだよね」といった議論もされるべきだと思います。

「同じ町内会に住んでいる高齢者が健康になれば、自分が支払う介護保険料が安くなるのか。じゃあ、高齢者の健康づくりを全力で応援しよう」。そんなふうに当事者意識が高まれば、自分が取り組んでいることの意義もわかりやすくなりますよね。

「賢人論。」第19回(後編)熊谷俊人千葉市長は「自分に介護が必要になったら?そのイメージをもてるようになるために介護支援ボランティアへの参加は非常に有意義なんです」と語る

介護支援ボランティアに参加することで、自身の介護予防にもなる

みんなの介護 「自治体レベルでできる社会保障費の削減」というお話が出ましたが、千葉市では具体的にどのような施策に取り組んでいるのでしょうか?

熊谷 千葉市では、介護支援ボランティアに力を入れています。65歳以上の高齢者が介護施設でボランティアをして、そうして得たポイントを介護保険料の支払いに充てられる、という制度にしています。または、ポイントを貯めておいて将来自分が介護サービスにお世話になったときに、サービスの利用料に使うことができるようにしています。

みんなの介護 多少なりともそうしたインセンティブが働けば、やる気になる人も出てきそうですね。

熊谷 この介護支援ボランティア制度が面白いのは、ボランティアの人数が増えるというだけでなく、ボランティアに参加した本人の健康づくりに役立つという点ですね。つまり、ボランティアに参加すればポイントとして使えるだけでなく、自身の介護予防にもなるんです。

さらに、自分の目で介護の現場を見て、介護を肌で感じることで、自分に介護が必要になったときの準備ができるようになります。

みんなの介護 自分の介護をイメージできるようになるというのは大きいですね。当事者も家族も、突然降りかかってきて慌てて施設選びをする…という方が多いですから。

熊谷 ボランティアに参加することで、早め早めにイメージすることがすごく大事なことなんですよね。そういうことについてもっと関心を持ってもらいたいし、具体的な内容について知ってもらいたいんですよね。

みんなの介護 千葉市をはじめ、各自治体で行われている介護関連の施策や取り組みに関しては、今後『みんなの介護』でもどんどん紹介していきたいと思っています。

「賢人論。」第19回(後編)熊谷俊人千葉市長は「自分たちが済んでいる地域なんだから、自分たちがやるべきでしょ?地域に対する認識というものをみんなに強めてもらいたい」と語る

「これが千葉市モデルです」と胸を張れるようなモデルを実証してつくっていきたい

熊谷 市として地域での支え合い・助け合い、そして健康づくりへの取り組みに注力していくとして、その結果が数字としてどんな状況になるかというのを、市政としては追いかけて行って、なおかつ見える化して、それが広い地域…いずれは全国にまで広まるようにしていきたいんです。

みんなの介護 千葉市だけじゃなくて、千葉県だけでもなく、全国に「これが千葉市モデルです」と。それが波及していって、国を動かすぐらいの感じにしたい、と。

熊谷 和光市の「和光モデル」がまさにそれで、国をも動かしているわけですよね。あれだけ和光市として取り組みを進めていって、数値上も明らかな変化が出始めているわけですからね。「これがみんな目指していた社会だよね」という認識をもてるようなモデルを、みんなで実証してつくっていくしかないと思うんです。

国は国で、そのための全体の設計を考える。市町村は地域でそうした成果が少しでも増えるように組み上げていく。そう考えると、ここが僕ら市町村の腕の見せどころですよね。

みんなの介護 ただ、これまでのお話をまとめて考えると、最終的には自治会や小学校・中学校区レベルの地域の自主性…つまり地域力も問われることになりますね。

熊谷 その通りですね。例えばですが、街路灯って誰が管理しているかご存知ですか?あれは、自治体じゃなくて自治会が管理しているんです。ゴミ置き場って誰が管理していると思いますか?あれも地域の自治会の管理下にあって、自治会員が輪番で見て回っているんです。

こうした当たり前のことが教えられていないのは大きな問題。すべてが税金で成立していると思われていることについて、我々は「地域でやってるんですよ」「地域での活動が大事なんですよ」ということをもっと訴えていかなければならないと思っています。

みんなの介護 いつの間にか…ですが、私たちが生活している基盤はあくまで自治会レベルの地域なんだ、という意識が薄れてしまっているんですね。

熊谷 その意識を、まずは取り戻していただきたいんです。自分が住んでいる地域なんだから、自分たちがやるべきでしょ、と。その上で、自分たちでできないことを市がやるし、市でもできないのを県がやる、県ができないのを国がやるという、その大前提となる考え方に立ち返らないと。

みんなの介護 地域との関わりが薄れてきている昨今、「孤立死」といった言葉が一般化するなど、課題は確実に顕在化していますが、熊谷市長の理念が浸透すれば、問題も解決に向かうでしょうね。

熊谷 地域力の高い自治会なんかは、例えば高齢者が自宅でぱたっと倒れたときなどに、かかりつけ医がどこで、持病が何で、薬は何を飲んでいるんだ、ということまでわかるわけです。千葉市の指令システムにも反映していますので、その地域に救急隊が駆けつけたときにまずは冷蔵庫を確認して、状況を把握できる。初動に差がでて、救命率を向上させることにつながるでしょう。

そういうことをやっている地域とやっていない地域は絶対に差が出ます。地域力というものがいかに大事かをもっと皆さんに認識していただきたいですし、そのための施策にこれからも取り組んでいきたいですね。

撮影:公家勇人

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森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07