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樺沢紫苑「高齢者が増加する人生100年時代に突入。認知症をいかに予防するかが鍵に」

最終更新日時 2021/06/21

樺沢紫苑「高齢者が増加する人生100年時代に突入。認知症をいかに予防するかが鍵に」

樺沢紫苑氏が精神科医の視点から精神医学や心理学、脳科学に基づいて著したビジネス書は36冊にも上り、累計180万部を突破している。SNSの総フォロワー数は60万人を超え、「日本一情報発信する精神科医」としても知られている。2021年3月に出版した『精神科医が見つけた 3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』(飛鳥新社)では、個々の感性に委ねられていた幸福というものを医学や脳科学に基づいて解き明かしたことで話題になっている。介護の現場では3つの幸福をどのように当てはめることができるのか、お話を伺った。

文責/みんなの介護

幸福というものを脳科学的に解説

みんなの介護 まずは、著書のタイトルでもある「3つの幸福」とはどのようなものか、教えていただけますか?

樺沢 3つの幸福というのは、「セロトニン的な幸福」「オキシトシン的な幸福」「ドーパミン的な幸福」です。これは、私たちが幸福と感じるときに、脳の中でどんな反応が起こっているのかということを調べたのが最初ですね。

幸福というと漠然としているし、人によって考え方や定義や状態も違います。だから非常にとらえどころがないのが幸福という概念だと思います。私は精神科医として脳科学もやってきましたので、脳の中で幸せなときにどういう物質が出ているのかということを科学的に考えました。その結果、「ドーパミン」「オキシトシン」「セロトニン」という3つの脳内物質が関与していることがわかったのです。

その結果をそれぞれの脳内物質の特徴にあわせると、セロトニン的な幸福というのは「健康の幸福」ですね。オキシトシン的な幸福というのは「愛・つながりの幸福」、ドーパミン的な幸福というのは「成功あるいはお金、富などの幸福」です。

私はこれまで多くの精神科の患者さんを観察してきました。そのほとんどの人は、セロトニン的な幸福やオキシトシン的な幸福を犠牲にして、仕事を頑張っちゃうんですよね。そこからメンタル疾患になったり、体を壊したり、脳卒中になったりと、病気になってしまう。まず1番重要なものに健康の幸福があって、次につながりの幸福があります。そのうえで一生懸命頑張ることが成功につながりますよ、というのがドーパミンの幸福になります。

体調に無理をして働いたり、家族をないがしろにして仕事に没頭したりすることで不幸になっていたのが、一昔前に多かった日本人のイメージだと思います。

求める順番を意識するだけでいろいろなものが変わってくるので「3つの幸福のバランスを取ってください」というのが、『精神科医が見つけた 3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』の趣旨ですね。

100歳以上の人の認知症の割合は90%に

樺沢 現在の日本は人生100年時代を迎えたと言われています。100歳以上の高齢者の中で認知症を発症している人の割合をご存知でしょうか?認知症の患者およびMCI(軽度認知障がい)という認知症予備軍を含めた数字なんですが。

みんなの介護 5人に1人でしょうか?

樺沢 いえ、正解は90%です。80歳以上になると、5人に1人が認知症です。90歳以上になると、5人に3人の割合です。100歳を越えると90%が認知症ないしはMCIという認知症の予備軍になります。これはあわせると90%なので、100歳の高齢者で頭がしっかりしている人は10人に1人しかいないんですよ。これは皆さんが知らない、ある意味恐ろしい事実なんですね。今の生活習慣が変わらない場合、認知症の特効薬でも出ない限りは増えていくだろうと思います。そうなったときに一番重要なのは、認知症にならないということだと思うんですね。脳は年齢とともに老化するので、長生きすればほとんどの人になる危険性があるわけですから。

認知症予防の方法はいくつかあります。まず1番良いのは運動ですね。1日20分の散歩で、認知症のリスクを半分以下に減らせると言われているんです。逆に言うと、家から一歩も出なくなると、ほとんど運動していない状態になってしまいます。「膝が痛い」とか「腰が痛い」といって出かけなくなることが良くないのです。そうやって出かけなくなると一気にフレイルが進み、要介護や認知症の危険性が出てきます。実際、コロナ禍で高齢者が家から出なくなり、認知症になる人がかなり増えているという話もありますね。

また、家族が「おじいちゃん、膝が痛いのなら無理しないで休んでいなさい」というのが、実は1番良くない。高齢者も外に出るだけで良い運動になりますから、杖をつきながらでも散歩をしていただければと思います。特に良いのが、家族と一緒に散歩をしていただくこと。そうするとセロトニン的な幸福とオキシトシン的な幸福がそれだけで補充されるわけですね。

人生100年時代の到来で、100歳とか90歳の高齢者が今の倍ぐらいに増えてくると、認知症の人も倍の数になるわけですよ。誰かが寝たきりになってしまうと家族も大変です。ですから、毎日の散歩だけでもかなりの予防効果があるということを強くお伝えしたいと思います。

認知症を予防する2番目の方法は、「孤独を防ぐ」ことです。一人暮らしの高齢者などは、人と会うことがほとんどない孤独な状態です。人と会うと、脳ってすごく活性化するんですよ。人と会って、おしゃべりして楽しかったというだけでオキシトシンという物質が出ている。オキシトシンというのは、免疫力を高めたり、脳をリラックスさせたりするストレス解消の物質です。気力を高めて、心筋梗塞のリスクを減らす効果があり、長生きできるかどうかにもかかわってきます。

みんなの介護 例えば、孤独な状況に対して、地方に住む独居高齢者が自ら対策を講じたり、介護施設で実行できたりすることはありますか?

樺沢 基本的には「人と会うこと」です。普通に日頃からやっていると思いますが、みんなでゲームをしたりおしゃべりをしたりする「交流」が大切です。逆にいうと、独居高齢者よりも施設に入っていた方がいろいろな会話が出る。

人と話すということは簡単にできる最高の脳トレです。おしゃべりするだけで脳は活性化します。逆に言うと、人と会わず、おしゃべりもしないと、認知症のリスクがものすごく上がるわけです。

あと、家族が会いに行くというのもすごく良いことです。なので、現在のコロナ禍でお孫さんがおじいちゃんやおばあちゃんのところに会いに行けない状況というのはとてもよろしくない。

また、「SNSってどうなの?」という質問がよくあります。SNSが高齢者のうつを予防するかどうかという研究がいくつか行われているんですけども、「予防できる」というものと、「予防できない」というものの両方の論文があるんですね。会えないからSNSで連絡を取るというのは、やらないよりはいいのですが、実際に対面で会うことに置き換えられるものではないわけですね。

みんなの介護 介護施設では、なかなかご家族と対面でお会いできない入居者のために「オンライン面会」などを実施しています。そちらはいかがでしょうか。

樺沢 まあ、やらないよりはいいですね。直接会うというのを100として、会わないのを0とすると、50とか60とかの効果はあると思います。しかし、直接会うことこそが「コミュニケーション」だと思いますね。SNSと同じく、コロナ禍での補完的な方法に過ぎないということですね。

フレイルを早期発見する2つの方法

フレイルを早期発見する2つの方法

みんなの介護 次に介護者目線での話をお聞きできればと思います。親の介護で疲弊している人が3つの幸福を実感しやすくなる方法はありますか?

樺沢 介護の一歩手前の段階で、「親を要介護にしない」という努力を皆さんまったくしていない。何すればいいかを知らないのですね。なので、今回『精神科医が見つけた 3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』のセロトニン的な幸福の1番最後のところに、家族の健康にもっと気配りをしましょうということを書きました。「運動しなさい」といっても多くの高齢者はしないので、「一緒にお買い物でも行こうね、おじいちゃん」と言って一緒に外出することが大切です。

もう1つは、できるだけ会うこと。これは週に1回とか2回とか、多ければ多いほど良いです。そして、要介護にならないように、家族がもう少し勉強することが大切です。

例えば、フレイルという言葉を知っている人は福祉にかかわる人でなければほとんどいないと思います。フレイルに関していえば、虚弱状態を表す言葉です。歩幅が小さくなってちょこちょこ歩きのようになるのが、フレイルの兆候の1つだと言われていますね。

さらにもう1つは、握力。『ブレインメンタル強化大全』(サンクチュアリ出版)という本にも書いたのですが、握手して、お互いにぐっと力を入れて握り合うと、高齢者の握力がなくなっている場合には一瞬でわかるのです。手の筋力だけ強くて足腰が弱いという人はあまりいません。フレイルは、「歩幅」と「握力」。この2つの兆候でわかります。要介護の手前にあたるフレイル状態を早期に発見して、意識的に運動していくということが寝たきりの最高の予防になります。

フレイル状態で発見できれば、運動で健全に戻れる

樺沢 要介護になってしまった場合、運動を行うことがものすごく脳に良いというのが証明されてきています。認知症になったときも、散歩やウォーキングマシーンなどでちゃんと運動してもらうと、物忘れの症状が軽くなったり、要介護度が上がることを遅らせたりできるという論文が出ているんですね。

最近の研究によると、認知症の一歩手前にあたるMCIの状態で運動してもらうと、なんと認知機能が改善するんですよ。認知症というのは、発症すると元には戻らないと昔から言われていましたが、MCIだと健常まで戻ることができます。ですから、とにかく運動。要介護になってからでも遅くないので、手をつないで散歩に行くことなどが重要です。

せん妄は散歩で防げる

みんなの介護 認知症高齢者の介護でよく問題になるのが、夜間のせん妄です。効果的な予防方法はありますでしょうか?

樺沢 「朝散歩」というのを私はおすすめしています。朝散歩をするとセロトニンが活性化して、体内時計をリセットしてくれます。

高齢者が夜中に起きるのは、体内時計が狂ってしまっているからなんですよ。朝きちんと散歩して、太陽の光を浴びると「今、朝ですよ」ということを脳と身体が認識してリズムが整います。

けれども、家の中や施設から一歩も出ない状態で生活していると、体内時計がリセットされない。そうなってくると体内時計がずれまくってしまうんですね。

朝の日向ぼっこでもいいんですよ。寝たきりの高齢者でもベランダの日の当たるところに行って、ご飯を食べてもらうとか、朝の30分間ぐらい座っていてもらう。起きてからできれば1時間以内、無理なら午前中に日向ぼっこをしてもらうというのが体内時計のリセットになります。また、朝散歩や日向ぼっこは、脳内物質の指揮者と言われているセロトニンを活性化するので、脳のバランスを総じて調整してくれます。

せん妄などの夜間の不穏状態というのは、脳内物質のバランスがおかしくなった状態です。そのため、朝散歩や午前の日向ぼっこは間違いなく効きます。また、人間というのは太陽の光を浴びてから15~16時間後に眠気が出てきます。

ですから、7時に散歩をして太陽の光を浴びると、ちょうど22時から23時ぐらいに眠気が出てくるんです。不眠症で睡眠薬を飲んでいるご高齢の方は、5人に1人以上いると思います。

散歩をすると、眠気が自然と出てきます。そして睡眠にも深く入りやすくなる。そうすると、夜間の不穏のリスクも大きく減らすことができるようになります。

みんなの介護 介護現場において夜間に対応できる職員も限られる中、夜間せん妄などはストレスや業務の負担になっています。そういったところから始めるだけで改善がみられる可能性が非常に高いというのは興味深いです。

徘徊とは自動運動装置である

みんなの介護 徘徊についてもなにかできることはありますでしょうか?

樺沢 徘徊ってなんだというと、自動運動装置だと思っています。運動は脳にいいのですが、普段から運動不足になっていることで、脳が強制的に運動させようとしているんじゃないかというのが私の考えです。誰もそんなことを言っている人はいないんですけども。だから足腰が悪くない徘徊のご高齢者って本当に、何キロもてくてく歩いて行っちゃうじゃないですか。逆に言うと、普段から運動しておけばそんなことにはならないんですね。夜間のせん妄と徘徊は、実はこんなに簡単な方法で予防できるということです。

あと、全力で介護するという問題もありますね。寝たきりは日本しかないと言われているんですけども、それは、本来だったら歩かせるべきところを「そんなに痛いんだったら無理して歩かなくていいよ」と言ってしまう部分が問題。家族が良かれと思って言っていることが、本当は介護状態や認知症をひどくしている可能性があるんですね。座ったままで手の運動や、立ったり座ったりの簡単な運動、体操でもいいので、そういうのを日常で行うことが必要です。

介護はマラソンと同じで全力でやると必ず燃え尽きるんですよね。なので、「介護は7割ぐらいの力でやればいいんじゃないか」というのが、私の考えです。本人になるべく動いてもらうなどして、ご自身の能力を奪わないようにすることも大切です。

みんなの介護 なるほど。各家庭で予防の知識を持つ人が増えることで、日本の介護問題は解決に近づくでしょうか?

樺沢 家族が知識を持つことが高齢者の介護予防につながると私は考えています。本を書いたり、YouTubeでの配信を通して、一人でも多くの人に知ってほしいと思っています。皆さん健康に関する知識や情報をあまりにも知らなさすぎるんですね。1日20分の散歩で認知症を半分に減らせるわけだから、全員やったらいい。それだけで医療費の問題はほとんど解決しますよ。1日20分の散歩で寿命が5年延びると言われています。たったそれぐらいの運動で、生活習慣病を予防することができるわけです。

こういうことを知っているか知らないか。皆さんも健康の情報をちゃんと集めて勉強していかないと、良かれと思ってやっていることが、実は病気の原因になっているということもあり得ます。

みんなの介護 孤独の解消というところで、悩みを周りに話せず抱え込んでしまう高齢者の方に対してはどのようにアドバイスをされますか?

樺沢 趣味に関するサークル活動がすごく良いと思うんですね。老人クラブ的なものや習いごとなどです。そういうところに行くと、自然とおしゃべりをしますよね。それに、お友達もできやすい。だから、コミュニティ(人の集まる場所)に参加するということがとても大切ですね。それは、いわゆる町内会とかでもいいんです。ご高齢の方が町内会の役員をするというのは、社会に参画するきっかけになるので、ご本人にとって良いことなんですよね。習いごとなどをしていないと、家にいるだけでどこにも所属していないケースが多くなりますよね。それが孤独なんです。週1回のサークル活動を通していろんな人達に会ったら必ずおしゃべりしますし、終わった後に皆でお茶に行くこともある。

あと趣味があるとお友達もできやすい。悩みを誰かに相談しましょうと言っても、普段から話をしてない人にいきなり打ち明けるわけにはいかないんですね。だから普段から雑談でいろいろなことを話せる友達をつくっておく、ということが重要なのです。そのためには、何かしらのコミュニティに参画することが大切です。ご高齢になると、次々と昔の親友も亡くなっていきます。そのため、家の中ばかりにいるのではなく、そういった趣味を通して友人を増やしていくことが心の安全装置になります。

相談はストレスを減らすガス抜きのため

相談はストレスを減らすガス抜きのため

みんなの介護 介護をする側も同様に、悩みを抱え込まないよう何らかのコミュニティで人とつながり、周りに相談するということが重要になりますか?

樺沢 そうですね。とにかく話すだけで約9割のストレスがなくなるというのが私の考えです。効率のいいガス抜きということですね。「相談する」という言葉がありますが、相談するというのはあんまり良くない。相談するというのは何がしかの問題解決を導くというイメージなんですね。だから、患者さんに、「なんでこんな悪くなるまで誰にも相談しなかったの?」というと、「相談しても解決できる問題じゃありません」というようなことをおっしゃる。上司との人間関係みたいな悩みだったらどっちかが辞めない限り、解決しないわけだから。解決しなくても「いやー、大変なんだよー」と誰かに話すだけで相当スッキリするし、人に話すだけでストレスホルモンというのが減るんです。

日本というのは恥の文化があって、介護のことは言いたくないということで我慢して蓋をしているケースが多くなっています。だから、介護がストレスになるんですね。話すことは、ものすごいストレス解消法だということを、まず皆さんに知っていただきたいですね。

みんなの介護 もし身近に相談相手がいない場合はどうでしょうか?

樺沢 話す人がいなかったら日記に書くだけでもいいんです。自分の感情を紙に書いて表現するだけで、ストレスが解消すると言われています。これはエクスプレッシブライティング(筆記開示)と呼ばれます。『精神科医が見つけた 3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』でも「ポジティブ3行日記」「親切日記」「感謝日記」として紹介しています。

また、介護の大変さばかりを考えてしまうと、実際楽しいことがあっても思い出せず、忘れてしまいます。ですので、今日あった楽しかったことを3つ思い出すというボジティブ3行日記は、つらい状況に置かれている人ほどやってほしいと思います。話す、書く、表現する、それだけでストレスの大部分は解消できるということですね。

アメリカの高齢者の幸福度が高い理由

みんなの介護 幸福ということで考えると、先生のYouTubeチャンネルで、アメリカでは高齢者の幸福度が高いというデータがあることを紹介されていました。その背景についてご説明いただけますか。

樺沢 幸福度と年齢を調べたデータを見てみましょう。アメリカなどの諸外国は、年齢とともに幸福度がどんどん高まっていきます。だからリタイアメントしたあとの70歳ぐらいの人たちの幸福度が非常に高いんです。日本は35~44歳ぐらいがピークで、幸福度は年を取れば取るほど下がっていくんです。

実際にアメリカでは、リタイアメントすると、キャンピングカーみたいなのを買ってアメリカ中を旅しながら悠々自適に楽しんでいる高齢者がたくさんいるんです。だから、リタイアメントはむしろ楽しみであるというのがアメリカ人の捉え方ですね。「忙しくてできなかったことができる」と、ご高齢の人ほど人生を謳歌するわけです。

日本人は我慢するのが好きで、楽しむという発想がないんですよね。リタイアメントして時間がたっぷりあるわけですから、習い事など、何か今までやりたかったことに取り組んでいくことをしないと、毎日普通に生活しているだけだとつまらないし、幸福度は上がらないんです。年を取っても、やりたいことをやっていいんですよ。

みんなの介護 日本人の高齢者の方で、すごく楽しそうに意気揚々と暮らされている方ってそこまで多くないと思います。それは例えば、アメリカと比較してどのような意識の違いがあってそういった結果になってしまっているのでしょうか?そこから脱却するために必要な要素には何がありますか?

樺沢 趣味に関して言えば、65歳でリタイアしてそこから何か始めても遅いんですよね。なぜなら脳というのは、高齢になると新しいことを吸収するのがものすごく大変なんです。逆に若いときにやっていたものだとすぐに記憶が復活します。ですので、元気なうちに趣味やスポーツなどの楽しみを見つけてほしいですね。

『精神科医が見つけた 3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』の一番最後の章に「遊ぶ」というのを入れました。普段から皆さん「遊ぶ」というのが下手なんですよね。好奇心さえあれば、お金をかけずに遊ぶ方法もたくさんあります。例えば、本を読むのも、図書館で借りてくれば、ただで読めるわけですし。老人ホームだと、本がたくさん置いてあるはずです。あと最近だとネット配信で、動画や映画が安く見られます。またB級グルメのお取り寄せみたいなのでも、何千円かで結構楽しめます。「お金がないから楽しめません」みたいなことをおっしゃる人がいるんだけども、それは楽しみ方とか遊び方というのを知らないんですね。もっと皆さん遊びというものに対して貪欲になってほしいというのが私からのメッセージです。

高齢者に限らず、若い人もゲームやテレビ、スマホばかりをやってないで、スキルを磨くことも大切です。能動的娯楽と受動的娯楽というのを『精神科医が見つけた 3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』にも書いています。スキルアップが伴う能動的娯楽というのが脳トレになるんですね。将棋や囲碁、楽器の演奏あるいはスポーツなどはものすごく脳にいい娯楽なんですね。ゲームやテレビというのは、ただ座っていて見るだけ、やるだけなので、受け身の娯楽です。これは脳をあまり活性化させない。時間つぶしの娯楽ではない、能動的な娯楽というものを、若いうちから楽しめるようになっていってほしいなと思います。

みんなの介護 我慢が好きな日本人というところでは、一つの会社に縛られて定年まで生きるというこれまで日本人に多かった生き方がコロナ禍で変わりつつあります。そのあたり先生はどのようにお感じでしょうか。

樺沢 コロナ禍で自粛の必要性が出てきたことから、自由な時間がものすごく増えた人が多いと思います。そこで大切になるのが時間術です。今までの人生の中でやりたかったことや時間がないからできなかったことは必ず誰でもあると思いますので、せっかくのコロナ禍をそういうことができるチャンスととらえましょうということです。時間の使い方で人生が変わります。例えば何かを学ぶ、新しいことを始める、ということをしない限りは、今までと同じ人生が続いていくだけです。

みんなの介護 ちなみに、高齢者の介護問題に向き合う人におすすめの映画やアニメなどの作品はありますか?

樺沢 そうですね。『長いお別れ』という作品がおすすめです。山崎努が主演の映画で認知症が少しずつひどくなってくるお話です。もともと父親と疎遠だった娘たちが、父が認知症になってから、家族というものがむしろ結集していきます。認知症というと、ものすごくネガティブなイメージを持ちますが、この映画の中では、病気があったおかげで家族が協力するようになってマイナスの面だけではないですよということを描いています。

「発信する側」になることでインターネットはより面白くなる

ロールモデルとなったのは、ご当地作家の渡辺淳一

みんなの介護 先生は、もともと人と向き合うことを大切にしたいという思いから精神科医を選ばれたとお聞きしましたが、そもそもなぜ医師の道を志されたのでしょうか?

樺沢 私の祖父が視覚障がい者でいわゆる鍼灸師、あん摩さんだったんですよ。それで医療の一端にかかわっていました。私の父親は5人兄弟の長男で、祖父が父を医者にしたかったんです。しかし獣医になりました。その親子三代に渡る意思があってのことでした。また、幼稚園の頃から祖父のところに毎年帰省していましたので、鍼灸院の様子も見てきました。ご近所さんの信頼が非常に厚くて、人を癒やす・治療する、ということが素晴らしいことなんだなというのを見ていたんでしょうね。

もう一つは、小説家の渡辺淳一の影響です。渡辺淳一は『失楽園』あたりから恋愛の小説になっていますが、昔は医療小説を書く作家で、東野圭吾みたいな作品を書いていました。札幌医大出身のご当地作家なので北海道で大人気なんですよね。だからうちにも渡辺淳一の本が何冊もあったので、私も高校生のときに読んでいました。また、私は読書が好きで、「いつか本を出したい」と大学生の頃から思っていました。渡辺淳一は医者ですが作家になって大成功しているので、一つのロールモデルですね。そういった渡辺淳一の影響から札幌医大を受けたというのもあります。

アウトプットする力が未来を変える

みんなの介護 先生の今後の活動についてお聞きします。「ビジネス書はもう多く書いてきたので、次は多感な10代・20代に向けた本を」とおっしゃっていた記事を拝見したのですが、若者の力が生かされるとどのように日本は変わると思われますか?

樺沢 最近は、消極的でチャレンジを恐れる若者が増えていると思っています。ユーチューバーになりたいというような人もいる一方で、親の影響なのか、公務員など保守的な職業を選ぶ人も多く、安全思考が逆に強まっている傾向があります。将来に希望を持てないということも聞きます。

私は今の時代は有史以来、最もチャンスが多い時代になっていると思います。それはインターネットというものがあるからですね。インターネットを使うといろいろな情報を発信することができるので、例えばミュージシャンになりたいという人がYoutubeに投稿した動画が100万回再生されてプロデビューしたという話はいっぱいあるわけです。ほとんどの人にとってスマホは見るためのツールになっていますが、私はそれを「アウトプットのために使おう」と言っています。

見る側ではなく自分が発信する側に回って情報を出していかないと、インターネットの凄さ、おもしろさは、本当のところわからないのです。このあいだ『極(エッセンシャル)アウトプット「伝える力」で人生が決まる』(小学館)という10代向けにアウトプットを解説した本を出しました。これは、「アウトプットをしていくことで、あなたの可能性は無限に開かれるので、もっと未来に希望を持っていいんですよ」、という私の10代・20代に対するメッセージを盛り込んでいます。ほとんどの人は学びに対してインプット中心ですが、アウトプットが7でインプットが3ぐらいの割合が一番記憶に残り、自己成長につながると言われています。だから、皆さんに「もっとアウトプットしましょう」と伝えています。そうするといろいろな意味で成長が加速しておもしろいことが起き、夢が叶うようになると思っています。

みんなの介護 アウトプットする力がつくと日本の未来も変わりそうですね。では、介護問題に悩むご家族、施設の方などに1番お伝えされたいことはありますか?

樺沢 それもアウトプットというのがひとつの解決の方法だと思います。話したり、悩みをシェアしたりするということです。一人で悩むから大変なんです。だから「解決しないものを相談しても…」というのはとにかくやめていただきたい。一人で抱える・話さない・困っていても相談しない、ということが余計にストレスを増やしています。人と交流して話すだけでオキシトシンが出てリラックスできるので、介護で大変だという人ほどアウトプットしてほしいですね。

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森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07
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