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波頭亮「介護業界の健全化を図るには介護従事者の給料を月額10万円上げるほかない」

最終更新日時 2021/03/29

波頭亮「高齢者の貧困問題に対処するにはベーシックインカムを導入するか生活保護の補足率を高める」

再雇用が期待できない高齢者をすくい取る成熟した社会を

みんなの介護 波頭さんはご自身の老後について、どのようなイメージを抱かれているのでしょうか。

波頭 自分の老後についてはまだ具体的には考えたことがありません。ただ一つ有難いと思っているのは、私の仕事には定年がないということです。元気で働ける間はこの仕事を続けていきたいと思っています。

みんなの介護 現在の生産年齢人口は、「15歳以上65歳未満」となっていますが、生産年齢の定義を実情に合った20歳以上70歳未満に引き上げるべきだ、という議論もあります。

波頭 過去数十年間の統計と連続性が保たれるのであれば、生産年齢の引き上げに対して、特に異論はありません。すでに比較的大きな企業では、60歳か65歳で定年後にそれまでの半額の給料で再雇用される制度も珍しくなくなってきています。

みんなの介護 給料が半額になるのは避けられないのでしょうか。

波頭 そうしないと、企業側がおそらく雇用を守れないでしょう。給料が現役時代の半分になったとしても、生活費のすべてを年金でまかなうより豊かに暮らせると思います。その給料だけで生活が成り立つのであれば、年金受給年齢を先延ばしして、その分受給額を上乗せすることもできます。

とはいえ、そうやって再雇用してもらえる人はまだ幸せですね。問題は、再雇用が期待できず、生活できるだけの年金をもらえない高齢者が多数存在すること。そういった方々をどうすくい取るかが、介護の問題と並んでこれからの日本の成熟型社会の大きな課題だと思います。

若い頃は借金してでも自己投資すべき

みんなの介護 高齢者の貧困の問題は確かに深刻です。中には、「高齢者の貧困率は将来9割にまで達する」と予測する専門家もいます。

波頭 貧困状態に陥った人を救済するには、私は政府が全国民に無条件で一定の生活費を支給する「ベーシックインカム」を導入するのが良いと思います。

ベーシックインカムは「国がすべての国民に最低限の生活を保障する」という考え方で、16世紀ごろからイギリスなどで議論されてきました。21世紀の現代においても、2016年にはスイスでベーシックインカムの是非を問う国民投票が行われたり、2018年にイタリアで低所得者層向けベーシックインカム導入が検討されたりもしました。日本でも国政選挙が行われるたびに、ベーシックインカム推進を公約に掲げる候補者が現れています。

先ほども述べたとおり、私は生活に困窮した人をベーシックインカムで救済すべきという考え方ですが、日本でその議論を始めると、なかなか結論が出ません。空しい議論に時間を費やすくらいなら、現行制度である生活保護を適用したほうが話が早いでしょう。

重要なポイントは、生活保護の補足率を思い切って高めることです。日本の生活保護の補足率は2割程度で、先進国では最低レベル。逆に補足率が高いのはドイツで9割近くだと思います。所得要件さえ満たせば、ドイツではほぼすべての人が生活保護を受給できています。日本も見習うべきです。

みんなの介護 こういった状況を受けて、日本の若者が老後に備えて貯蓄しているとよく耳にします。

波頭 日本の若者は、公的年金制度を信用していない人が多いですね。

しかし経済合理性からいえば、そういう行動は必ずしも正しくありません。むしろ若い頃は借金してもいいから、専門学校に通って資格を取ったり、留学したり、一人旅したり、とにかく思い切って自己投資すべき。そのほうが生涯所得は圧倒的に増えるはずです。若い頃から閉塞した社会の中で消極的に暮らしていると、本人にとっても、日本という国家にとっても良いことは何もありません。

ロボットが現場に導入されてもあえて人手を。それが介護という仕事の本質だと思う

介護施設に入居する母。今年は会えずに正月を過ごす

みんなの介護 波頭さんご自身は介護のご経験などありますでしょうか。

波頭 1年ほど前から、母親が地元の介護施設に入居しています。

それまでは毎年、正月とお盆には必ず郷里の実家に帰省して、母親と食事をすることにしていました。この約束事は30年以上、一度も欠かしたことがありませんでした。

ただ、5年くらい前から、母親の認知機能が少しずつ衰えてきたのを感じていました。正月の三が日を実家で過ごし、東京に帰ってから「今着いたよ」と母親に電話すると、「おや、今度はいつ帰ってくるの?」と聞かれたりしました。つい数時間前まで一緒にいたことを忘れてしまっているんですね。

それで、妹が仕事を辞めて母親と一緒に暮らすようになり、直接会って話をすると嬉しそうな顔をしてくれていましたが、昨年から介護施設のお世話になっています。

みんなの介護 今は新型コロナの影響で、施設に入っているご本人となかなか会えなくなっているようですね。

波頭 はい。昨年の夏以降会えておらず、2021年の正月も直接顔をあわせることができませんでした。この30年で初めてです。年老いた親に会いたくても会えないのは、やはりつらいですね。

行政が現場の「救いのない現実」をどこまで感じ取れるか

波頭 介護現場ではほかの入居者の方を怪我させてしまったりした結果、退所となる人もいるそうです。そういった方をどう扱えばいいのか、現場のスタッフは皆頭を抱えているそうです。

役所で介護行政に携わる人たちは、そういう救いのない現実をどこまでリアルに感じ取れているのか、ときどき不安になりますね。一人では生きていけない弱者をどう包摂できるかで、その社会の民度が試されるのだと思います。

みんなの介護 令和3年度の介護報酬改定では、介護人材の確保と介護現場の革新に向けて、テクノロジーの活用が明記されました。問題行動のある入居者の見守りについても解決に兆しが見えるかもしれません。

波頭 モニタリング・システムやパワードスーツなど、介護現場で働く人の労働環境を改善するためのテクノロジーは、もちろん積極的に投入すべきだと思います。ただし介護という仕事は、看護師さん以上に心の交流で成り立っている部分があるので注意が必要です。

例えば、看護師が患者に寝返りを打たせるという作業は、患者の体位を変えるという物理的な側面が強いため、ロボットに代替させて構いません。しかし介護士が高齢者を抱き起こす作業は、その人を座らせるという物理的な側面より、「体に触れてあげる」という心理的な側面が強い。こういう仕事は、たとえロボットがあっても人手で行うべきだと感じます。そこにロボットがあっても、あえて人手を掛けてあげたいと思うことが、介護という仕事の本質なのだと思います。介護の仕事は相手とのコミュニケーションが大切ですから。

こういう、介護の仕事の素敵な部分が世の中に伝わっていけば、介護にまつわるイメージも良い方向に変わっていくのではないでしょうか。

撮影:小林浩一

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森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07
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