山田昌弘「格差社会が進んだことが結婚離れの原因にもなった。4人に1人が未婚というのが日本の置かれている現状」
賢人論。第47回のゲストは、「婚活」「パラサイト・シングル」など、世相を映す流行語を生み出してきた社会学者・山田昌弘氏。“家族”と“結婚”をキーワードにお話を伺った。未婚化・シングル化の進む現代日本のボトルネックは「雇用の不安定」と「世間体」にあると山田氏は語る。
文責/みんなの介護
雇用の格差が、結婚の格差を生んだ
みんなの介護 山田さんは日本人の“シングル化”が進んでいるということを提言されています。
山田 私は大学の講義で、「今ここにいる皆さんの中で、4人に1人は生涯独身ですよ」という話を必ずするんです。1975年頃を境に結婚をしない人が増えてきました。今70、80歳の人の結婚率は97~98%もあるんですが、40歳以下となると75%程度になると予測されている。また、一度でも離婚を経験する人も4人に1人くらいの割合でいる。
未婚率が4人に1人、離婚率が4人に1人ですから、多く見積もると2人に1人が独身で高齢を迎える、ということになりますよね。今はまだ低いですが、今後、今の若い人が50、60代になるにつれて未婚率・離婚率ともに上がってくる。
みんなの介護 1975年頃から未婚化が進んできたというのは、高度経済成長の後に続いた不況の影響もあるのでしょうか。
山田 私は、何でも“不況”のせいにするような考え方は取りたくないんですよね。不況というのはあくまでも、一時的な状態のことですから。そのせいで未婚率が上がったとするならば「いつかまた好況が来れば解決する」ということでしょう。そんな単純な問題ではないと思うんです。それに不況ということは、みんなの給料が平均的に下がるわけですから、それがただちに結婚率の低下につながるとは思えません。
みんなの介護 では、いったい何が“シングル化”の進む原因だったのでしょうか?
山田 経済構造そのものが変化したことです。要は、男性の雇用格差拡大ですよ。全員を正社員では雇わない、新しい形の経済が浸透した。その結果、派遣、フリーター、非正規雇用が増え、収入が高くて生活が安定した人とそうではない人にだんだん分かれていき、自営業でも、安定したものとそうでないものの差が生まれ始めました。
みんなの介護 その結果、経済的な事情で結婚ができない人も増えていった、と。
山田 今も、多くの若者が、結婚したら男性の収入が主な生活費と考えているからそうなるんです。女性からしたら、結婚する相手として収入が多いに越したことはありませんから。それも単に月収が1~2万違う、という程度の話ではなくて、雇用が安定しているか、そうでないかという点は大きな違いになりますよね。「格差社会」が結婚の格差まで生み出しているわけです。

非正規雇用者の立場が“質的”に変わるべき
みんなの介護 “格差”という言葉が一般化して久しいですが、まだ解決する気配はないでしょうか。
山田 学生を見ていても「親の格差が顕著になってきた」ということは感じています。実家の家計が厳しく、奨学金をもらっていて、朝から晩までアルバイト漬け…という学生がいる一方で、親が公務員で共働き、それなりにバイトをすることはするけれども、気軽に海外旅行に行ったりできる学生もいる。
奨学金をもらっている学生の割合も、半々に近くなってきたようです。今の経済状況や雇用制度が変わらない限り、格差問題の解決は当分無理だろう、と私は考えています。
みんなの介護 制度はどう変わるべきなのでしょうか?
山田 まずは新卒一括採用がなくなること。それから、終身雇用がなくなること、解雇されても、簡単に再就職できるようにすること。雇用環境がそのような柔軟な制度に変わるとともに、正社員と非正規社員の社会保障における格差がなくなること。そうなれば、非正規雇用の方の立場は良くなっていくと思うのですが。
法律が変わるというよりも、慣習や、企業の行動を変えなければいけないでしょうね。新卒一括採用・終身雇用によって、大学を卒業した時点で格差が生まれ、それが一生ついてまわってしまう。多少雇用の流動化が進んでいったとしても、この状況はそれほど変わらないですよ。特に大企業・公務員においては、今後もなかなか崩れないと思います。
みんなの介護 日本だと、新卒一括採用でない雇用システムというのがイメージしづらいほど、定着してしまっていますよね。
山田 本来は、そうでない方がグローバルスタンダードなんですよ。新卒一括採用・終身雇用は高度経済成長期に形成され、そのまま定着したものであると私は捉えています。経済が伸びていた時期ですから「とにかく人が欲しい」「とにかく早く人を採らなきゃ」ということで、卒業する直前の学生を確保したんです。
昔はこれを「青田刈り」なんて言ったりもしました。そして、一度採用したら二度と離さない。こんな制度を採用しているのは日本と韓国くらい。極めて特殊です。
みんなの介護 正社員が“守られすぎる”ことで非正規雇用者が苦しい思いをしている、ということは、「賢人論。」第41回「労働市場が流動的ではないから長時間の残業、地方への転勤、転職の不利など問題が生まれている。年功序列と終身雇用の廃止が必要」で城繁幸さんも問題提起されていました。未婚化を食い止めるためにも、非正規雇用者の待遇を改善していくことは喫緊の課題と言えそうです。
山田 結婚が可能になるには、単に給料が上がるだけでなく “質的”に雇用体制が変わらなければいけないと思います。
女性から見れば、男性の収入が多少増えようが関係ないわけですよ。仮にバイトの時給が50円上がったとしても、それを機に結婚しようと考える人はとてもいないですよね。将来に渡って一定以上の収入が保障されている、ということが本質的に重要な点なんですから。そういう男性じゃないと、多くの女性は結婚対象にしてくれません。

子どものことを想定しながら結婚相手を選ぶ女性も多い
みんなの介護 経済的な事情で結婚に踏み切れない人たちは多そうですね。
山田 あるとき、私が受け持った女子学生が「ハンサムな男性以外とは結婚したくない」ということを言っていました。「どうして?」と訊くと、「子どもが可愛い顔に生まれるために」と答えたんです。この例は少し極端ですが、結婚する前から子どもの将来のことを考えている女性は多いようですよ。容姿に限ったことでなく、雇用の安定した収入の多い男性と結婚したがるというのにも、同様の心理があるのでしょう。
「子どもにつらい思いをさせたくない」ということは、人の親なら誰もが抱く思いです。「周りの子がみんなスマホを持っているのに、僕のうちにはお金がないから買ってもらえない」とか「みんな習いごとに通っているのに、僕は行かせてもらえない」ということになったら子どもが可愛そうですよね。
経済状態が不安定なせいで、子どもに不自由な思いをさせたくない。それくらいなら、子どもは産まないことにしよう、産むとしても1人だけにしよう、と考える人がいても不自然ではないと思います。
みんなの介護 子どもを産み、育てるということは大仕事ですものね。
山田 他にも、結婚のためにはさまざまな条件がありますけどね。経済的な事情と同じくらい重要だと思うのは「旦那さんが非正規雇用でも堂々としていられる」ような雰囲気に社会が変わること。“世間体”こそ、日本人にとって大問題なんですよ。
そういう面で特徴的だと思うのは、沖縄です。沖縄では非正規雇用の人が多いので、女性が「うちの夫は契約社員なんです」なんて言っても何にも肩身の狭い思いをしなくていいそうなんです。
正社員かどうか、なんて肩書きにこだわらずに結婚できるような状況になっていけばいいなと思うのですが…私が思うに、5年や10年で変わるような簡単な問題ではなさそうです。
残業がなくなるということは、残業代もなくなるということ意味している
みんなの介護 最近では「働き方改革」という言葉も浸透してきたように思います。残業が減るなど、給与以外の面からも待遇を見直すことで未婚化・少子化に歯止めをかけられると言われていますが。
山田 講義中、女子学生にアンケートをとったことがあります。「旦那さんが早く帰って家事や子育てを手伝ってくれる」のと、「夜遅くまで残業して、より多くのお金を持ち帰ってくれる」のと、この2つではどちらが良いか?集計した結果、答えは半々でした。
給料が同じで、働く時間が短くなるのだったら、誰も残業なんてしませんよ。でも実際には、残業がなくなるということは、残業代もなくなることを意味するわけですから。
みんなの介護 「働き方改革」が仮に上手く実現したとしても、自分の意志で残業する人もいるだろう、と。
山田 日本の正社員システムは“みんな同じ”ということを前提にして、「一斉に帰れ」「一斉に休め」というのが基本ですよね。働き方改革にしても、「一斉に残業をゼロにしよう」ということにするべきではなくて。「働きたいときには遅くまで働き、早く帰りたい日は帰る」という風に、状況に合わせて自由に働き方を選べることが大事なのではないでしょうか。
私たち大学の教員もそうですよ。アメリカやオランダでは、正規雇用の教授であっても、授業時間と給料が大学との交渉で決められるんです。
だから「子育てが大変なので、授業のコマ数を半分にしよう」とか、反対に「独身で時間があるからたくさん働き、たくさん稼ごう」とか、そういうことができるわけです。それがグローバルスタンダードですよ。日本だと、いくつ授業を持とうが給料は一律ですね。多少手当が出るくらいのことで。給料は半分でいいから、講義を半分にしてとは言えない。
みんなの介護 海外の働き方に足並みを揃えていく動きも出ていませんか。
山田 既得権で安定している方々が反対しますからね。しかも当然、この既得権者は次々に再生産されますから、一度できてしまった仕組みを変えるのはなかなか難しいことだと思います。

“パラサイト”を許す親が、子どもの婚期を遅らせる
みんなの介護 労働以外のところでは、どのようなことが日本の未婚化の原因なのでしょうか?
山田 やはり、「パラサイト・シングル」の増加が大きな問題だと思いますね。
みんなの介護 「パラサイト・シングル」とは“学校を出た後も家族と同居し、衣食住を親に頼っている独身者”を指す概念ですね。1999年『パラサイト・シングルの時代』という著書の中で山田さんが提唱し、大流行しました。
山田 アメリカやヨーロッパなどでは、親が子どもを引き離すんです。そうして子どもの一人暮らしが始まるわけですが、1人より2人で暮らす方が、経済的にも精神的にも良い生活ができるわけですから、自然と同棲・結婚を意識しだすようになる。
親と同居していると、非正規雇用で収入が少なくても生きていけるわけで。結婚する必要性が感じられないのだと思います。低収入のまま結婚し、経済的に苦しい思いをするくらいなら、親と同居していた方がいい、という。
欧米の人は独りにならないために“努力”するんだそうです。他人と積極的に関わるようにしたり、異性から好かれる魅力的な人になろうとしたり。でもパラサイト・シングルたちはその必要さえない。カッコ悪かろうが、口下手だろうが、収入が少なかろうが、世話してくれる親がいるわけですから。「私たちは“社会福祉”で結婚するわけじゃない」という痛烈なことをおっしゃる女性もいました。魅力的でない、努力さえしない男性をわざわざ結婚相手に選ぶ女性はいませんよね。
みんなの介護 そもそも、なぜ日本にはそういった「パラサイト・シングル」が多いのでしょうか?
山田 基本的には、親が許すからですよ。日本の親は甘いんです。欧米人の親は、良い年した子どもが実家に同居していると「早く出て行け、出て行かないなら金を払え」とさえ言うそうですから。日本だって、50年ほど前はみんな親に仕送りしていましたよ。家事だって手伝って当たり前。「子どもだからっていい思いをさせてはいけない」というのは普通の考え方でした。
それが逆転してきたのはやはり高度経済成長期、日本が豊かになってきた頃ですね。余裕がある親は子どもを抱え込み、パラサイトを許すことで、むしろ子どもを苦しい状況に追い込んでいるんです。

経済的な理由で孤立する高齢者が増えている
みんなの介護 高齢世代のシングル化、というのも問題のひとつとしてあるそうですね。
山田 高齢のシングルには何通りかあって。大きくは「子どもが近くに暮らしている」パターンと「未婚、死別などで身寄りがない」パターンに分けられます。この2つでは状況がまるきり違い、当然、問題が大きいのは後者です。その他、経済状況、健康状況などで分けてもさまざまなタイプのシングルが何百万人という単位で存在しているとみられています。
みんなの介護 独居していて、しかも身寄りがない高齢者の方々にはどのような問題があるのでしょうか。
山田 女性の平均寿命は男性より6歳長く、しかも、夫は妻より平均3歳年上です。つまり女性は夫の死後、平均計9年間シングルで暮らすことになる。亡くなった夫やその妻自身が大企業の正社員だったり、公務員だった場合には、退職金も含めて十分な老後資金を用意できているケースが多いです。しかしそうでない場合、多くの高齢者シングルは生活に不安を抱えることになる。
日本は年金制度や社会保障制度が充実していますから、最低限の生活はできます。しかし、それでは十分に人と友達付き合いすることができないわけですよ。“世間体社会”である日本では、お金がないと人と関わることが困難なんです。
例えば高齢者の集まりに行くとしても、みんなが500円のコーヒーを頼んでいるときに自分は水だけ、なんてわけにはいかないでしょう。公的な機関がいくら「地域へ出ましょう」と言ったところで「お金がなくて惨めな思いをするくらいだったら…」と、家に籠もってテレビを見ている高齢者の方も多いそうです。
みんなの介護 社会的孤立が経済的不安を生み、それがさらに社会的孤立を深める…という悪循環が起こりうるのですね。
山田 「お金がなくて恥ずかしい」という感情は、政治家やマスコミや官庁職員、大学の先生も含めた、中流の暮らしが当たり前になっている方々には理解されにくく、なかなかスポットライトが当たらない部分でもあると思います。
みんなの介護 そもそも、なぜ社会的に孤立する高齢者が生まれてしまったのでしょうか?
山田 戦後の日本社会では、経済的・社会的に弱い立場に置かれた人を、その家族に任せきりにしていました。90年代までは“家”文化がまだ十分に機能しており「家族で支え合う」という充足感でその負担を埋め合わせることができましたが、それもしだいにうまくいかなくなってきた。親や子の面倒をみることは、家族だけでこなすには大きすぎる役割だったんです。結果的に持て余されて、独居を余儀なくされる高齢者も出てきました。
現在の社会保障は相変わらず、支えてくれる家族がいることを前提として組まれています。そのため、高齢者に限らずシングル化してしまった人たちをうまくフォローしきれていない。これは問題だと思います。
みんなの介護 日本社会では、単身で暮らす人に対して十分な配慮がなされていないのですね。具体的な課題については、後編で詳しく伺いたいと思います。
日本の社会保障はシングルに対して冷たい
みんなの介護 先ほど、高齢者シングルの問題について伺いました。
山田 高齢者に限らず、日本の社会保障は“シングルに対して冷たい制度”だと思います。年金制度には、それが端的に現れています。例えば、未婚の女性が50歳で両親を亡くし、他に身寄りがなくなったとしても、この女性は両親の遺族年金を受け取ることができません。
これは、遺族年金の受給対象者が「妻」、55歳以上の「夫」「父母」「祖父母」、18歳未満の「子」に限ると定められているからです。「結婚適齢期を過ぎても親と同居しているシングル」というのは、年金制度の中に組み込まれていないんですよね。
また、離婚した女性がもらえる年金額についてもとても少ないと思います。最近では「年金分割制度」ができ、夫が納めていた厚生年金の半分が、別れた妻の年金に反映される仕組みになっていますが、それでも十分な額とは言えません。年金制度は、離婚を「ごく例外的なケース」としてしか捉えていないんです。
みんなの介護 冒頭、現在は4人に1人が結婚しておらず、結婚しても4人に1人は離婚を経験する、というお話を伺いました。シングル化が進む現代では、年金制度と現実の間に齟齬が生まれ始めているのかもしれませんね。
山田 制度そのものは、充実していると思いますよ。しかしそれは、保障される対象枠に入ることができれば、の話なんです。保障の対象にならなかった人や、ぎりぎり枠に入れなかった人たちへのサポートは何もない。
例えば、日本の保育園は世界最高水準です。海外の方も、口を揃えてそう言いますよ。費用も安いし、保育士の質もいいし、児童を平等に扱ってくれる。でも問題なのは、その保育園に入れないということ。
もっとも苦労し、助けを必要としているのは、保育園に入れなかった人たちなんです。アメリカならベビーシッターの費用が税金から控除されたりするんですが、日本にはまだそういうものがないですよね。

順番やタイミングで社会保障に差が出るのはおかしい
みんなの介護 介護業界でも、特別養護老人ホームの入居待ちが問題になっています。
山田 私の父は、運良く特別養護老人ホームに入ることができました。入ってしまえれば万々歳なんです。保育園と同じで、希望者全員が入れるわけではなく、しかも入れなかった人たちへの補填はやはり用意されていないんです。だから結局、家族で世話をするしかなくなる。
「特養に入れるまでの間だけ」と在宅介護を頑張っている方もたくさんいるそうですが、結局最後まで入ることができないことも多いですし、いわゆる「介護疲れ」になってしまう人もいるでしょう。特別養護老人ホームに入れず、しかも民間の介護施設を利用するだけの経済的余裕がない、という人たち向けに支援をもっと充実させておくべきだと思います。
みんなの介護 制度から漏れた、本当に助けが必要な人に支援が行き渡っていないのが現状なんですね。
山田 保育園や特養に入れた人たちには多くの税金を投入し、順番やタイミングなどのちょっとの差で入れなかった人たちには1円もあげないというのは、ほとんど差別と言っても過言でないくらい、良くないことだと思います。
こういう制度の抜け漏れは、昔からあったことで。40~50年前、若い人たちが公団住宅(※当時の日本住宅公団が、サラリーマン向けに安価で提供した住居。いわゆる団地)に入るときに5~10倍もの厳しい倍率があったんです。運良く抽選で入れれば、少ない家賃で経済的に楽になるわけですが、たまたま入れなかった人たちは高いお金を払って民間の住居に入らなければならなかった。たかがその抽選に当たるか当たらないかで生活がガラッと変わってしまう。
日本の公的なサービスはいつもそうです。「平等に決めているから」という理由で、そこから漏れた人たちには何もしてあげない。若い頃、住宅の抽選に当たったか外れたかくらいならまだいいですが、介護の問題となると話はもっと深刻です。こんな仕組みはもう限界ですよ。
みんなの介護 時代の移り変わりに制度が対応しきれていない、と。
山田 働き方や家族形態が多様化してきていることで、制度にボロが出始めているんです。高齢化の他には、家族経営の自営業が衰退してきた、ということも大きな変化でした。昔みたいに自営業を家族で協力して切り盛りする、というスタイルの家庭はとても少なくなりましたよね。
国民年金の支給額は月額6万円と、生活保護よりも低い額です。それほど低額なのは、受給者に自営業の収入があるということを前提にしているから。子どもが跡継ぎとして同居し、農家や酒屋などを営んでいた時代なら、国民年金の6万円は“小遣い”として十分な額だったんですけどね。

「何かあったとき」に弱い日本の社会保障
みんなの介護 国民年金以外の収入源がない、というケースはそもそも想定されていなかったわけですね。
山田 だから、未婚や死別で子どもがいないとか、自営業を続けられないということになると一気に生活が最低ラインまで落ち込んでしまう。これからは、「支えてくれる家族がいる」ということを前提とした「家」単位ではなく、独居も加味した「個人」単位で制度を組み直していくべきでしょう。
みんなの介護 「家」をひとつのまとまりで捉えるやり方は時代にそぐわなくなってきたのでしょうね。
山田 それからもうひとつ社会保障の問題点としては、まさに今“落ちかけている”層の人たち、つまり「生活保護すれすれ」というラインにいる人たちが一番つらい思いをする仕組みになっていることですね。
日本の社会保障制度は、普通に生活している人にとって、また最低限の生活水準まで落ち込んでしまった人にもとても良くつくられているんですが。それまで普通に暮らしていたけれど急に何かが起こった、という人にとっては厳しい制度なんです。「家も何もかも失ってしまう」というところまでいくと保障を受けられるんですが、その瀬戸際で頑張っている人たちに対するフォローがない。
我が国は労働基準がきちんと定められていますから、健康で働ける限りは職があるわけです。しかしそれが、何かのきっかけで働けなくなったとたん、生活が一気に破綻してしまう。そういう恐怖と隣合わせなんですよ。
みんなの介護 日本の社会保障は、補助を受けられるか、受けられないかという「オール・オア・ナッシング」のパターンが多く、その中間のグラデーションが不足している、ということですね。
山田 大学の奨学金にしても似たようなことが起こっています。親が生活保護を受けていたり、年収200~300万円の場合は奨学金を返さなくていいことになっていますが、この条件に該当するのはほんの少数なんです。ほとんどの人は年収300~400万円でアップアップしているわけなので。
みんなの介護 制度の網の目が荒いことで恩恵を受けられない人が多数生まれてしまっている、という点は後編冒頭のお話と共通していますね。
山田 せっかく制度そのものは素晴らしいのに、その内側からこぼれた人たちに対するリカバリーは何も用意されていないんです。ライフスタイルの多様性に配慮し、もっと幅広く国民を支えられる制度にしていくことが、これからの社会保障制度に求められることだと思いますね。
撮影:公家勇人
連載コンテンツ
-
さまざまな業界で活躍する“賢人”へのインタビュー。日本の社会保障が抱える課題のヒントを探ります。
-
認知症や在宅介護、リハビリ、薬剤師など介護のプロが、介護のやり方やコツを教えてくれます。
-
超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダーにインタビューする企画です。
-
要介護5のコラムニスト・コータリこと神足裕司さんから介護職員や家族への思いを綴った手紙です。
-
漫画家のくらたまこと倉田真由美さんが、介護や闘病などがテーマの作家と語り合う企画です。
-
50代60代の方に向けて、飲酒や運動など身近なテーマを元に健康寿命を伸ばす秘訣を紹介する企画。
-
講師にやまもといちろうさんを迎え、社会保障に関するコラムをゼミ形式で発表してもらいます。
-
認知症の母と過ごす日々をユーモラスかつ赤裸々に描いたドキュメンタリー動画コンテンツです。
-
介護食アドバイザーのクリコさんが、簡単につくれる美味しい介護食のレシピをレクチャーする漫画です。
