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樋口恵子「生きることは耐えること。つらさと喜びの相克こそが人生」

最終更新日時 2021/12/06

樋口恵子「生きることは耐えること。つらさと喜びの相克こそが人生」

長年、女性問題・福祉・教育などの分野で評論活動を行ってきた東京家政大学名誉教授の樋口恵子氏。1983年に仲間とともにNPO法人「高齢社会をよくする女性の会」を結成してから現在に至るまで、高齢社会のあり方を模索してきた。その功績が認められ、2021年度「津田梅子賞」も受賞している。現在89歳になる樋口氏。時代と社会が移り変わる中で感じること、自身の老いに対する考えについて聞いた。

文責/みんなの介護

生きることは、つらさと喜びの相克

みんなの介護 樋口さん自身、89歳になられた今も現役で執筆や講演、社会貢献に奮闘されています。いくつになっても幸せに生きる秘訣を教えてください。

樋口 私は「生きることは耐えること」だと思っています。そのような覚悟を持って生きるから、幸せを感じる瞬間が見つかるのではないでしょうか。年齢を重ねると身体のあちこちに不調が起こったり、同級生の旅立ちが続いたりします。悩みが増えるのは仕方がないことでしょう。特に中年以降は老化の毎日です。そのような変化に向き合いながら、つらくないわけがありません。

私は長い間、読売新聞で「人生案内」というコーナーの回答者をさせてもらっていて、様々な悩みを見てきました。みんな悩んだり愚痴を言ったりしながら、少しでも良く生きようとしている。そんな姿を垣間見ると「人間はなんて健気な生き物なんだろう」と思います。

つらいことは多くても、生きることは素晴らしい。人との出会いや誰かの役に立てる喜び。日々の中で人間として成長できたと感じるときなど、さまざまな感動を得ることができる。だからこそ、人は生きようとするんだと思います。今日はつらさの方が勝ち、次の日は生きる喜びが勝つ。そんな相克の中で人は生きています。

みんなの介護 樋口さんも落ち込む時はあるのでしょうか。

樋口 私もよく、くよくよします。だけど、落ち込んでいても現実は変わらない。「くよくよの谷の底にも福がある」と毎日生活していれば、また楽しいことが出てきます。

「落ち込んだら、また立ち直る」ということを繰り返しながら最期のときを迎える。それができたら幸せなんじゃないでしょうか。

みんなの介護 その考え方はどの世代にとっても指針になりそうです。ご自身で心身に変化を感じることはありますか?

樋口 身体的な面で言えば、最近の私は朝起きたときから身体がきしみます。それにこの間、自宅の階段で転落事故を起こしてしまいました。手すりはついているのですが、手すりを握ると肩が痛いので指先だけで持っていたんです。すると滑った瞬間身体を支えられず、転落してしまいました。大きなケガにつながらなかったことが幸いでした。

目も耳もわりと良い方ですが、目は今年の夏に白内障の手術を受け、生まれて初めて眼鏡を作りました。眼鏡がなくても平気ですが、あった方がずっといい。耳はだんだん聞こえにくくなっています。1・2本は差し歯がありますが、幸いなことに入れ歯ではありません。

人間は、成長の過程で身体にいろいろな部品を増やしていきます。そして、老いていく過程で入れ替えていくんです。医学の発達のおかげです。

みんなの介護 確かに。「部品」とは面白い捉え方ですね。ちなみに今「楽しい」と感じるのはどんなときですか?

樋口 若い人と何も変わりません。みんなと一緒に仕事をしたり美味しいものを食べたり、面白いものを見たりするときです。一緒に知恵を出し合って、より良い状況をつくっていくことが楽しいんです。

年をとると、まるっきり世界観が変わる方もいるかもしれません。しかし、若い頃からずっと続けてきたことは、いくつになっても楽しいと思うものです。身体のつらさはありますけどね。

子どもの命が大量に奪われる時代を生きてきた

みんなの介護 樋口さんは、介護保険の制定や社会運動にも尽力されながら時代の変化を見てきたことと思います。日本社会が大きく変わったのはどんな所でしょうか?

樋口 特に大きな変化を感じるのは、産まれる子どもの数と生き残る子どもの数です。昔は一人の女性が多くの子どもを生んでいました。合計特殊出生率(15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)が5人を超える時代もありました。その代わり、生まれてから亡くなる子どもも多くいたんです。

伝染病を克服できなかった時代で、大人になるまでに命を落としてしまう子どもは今では考えられないほど多かった。私の親は、子どもが成人するまでに3人のうち2人の子どもを亡くしています。逆縁社会でした。

樋口 それが私が出産したときは、一人の女性が生涯に産む子どもの数は1人~2人になっていました。昔に比べて、産まれる子どもの数が半減しています。いわゆる少子化です。

しかし今、3人産んだら3人とも育つのが当たり前になっています。まさに産科医学が発展したおかげです。

私の子どもが1歳の頃、小児麻痺のワクチンをソ連から輸入するかしないか大騒ぎになりました。まるで新型コロナのワクチン騒動のようでした。政府は当初反対していたのですが、市民の動きがあって結果的に大量にワクチンが輸入されました。「これで子どもの命が助かる」と安堵したものです。

以降、子どもの命を大量に奪っていくような疫痢・赤痢・百日咳・ジフテリア・猩紅熱などは消えていきました。多くの病気を防げるようになり、生を謳歌しながら子育てができるようになりました。

みんなの介護 樋口さんは戦争も体験されたのですね。

樋口 私の世代は集団疎開で生き延びることができました。私が住んでいた練馬は当時田舎で、家のすぐそばまで火が迫ってきたり、焼死体を避けながら家に帰ってきたり、という体験はしておりません。戦死したのは私たちより5、6歳以上の世代でした。

その後、日本は復興して私が中学・高校に進む頃には、食糧不足などは解消されていきました。高校へ進む頃には戦前より高い教育が当たり前になっていましたね。

そして高度経済成長の中で着るものが豊かになり、電化製品が出てきました。医療保険や介護保険ができて、社会保障も一定の充実が図られるようになったんです。本当に、時代の恩恵を十分受けてこの年まで生きてくることができたと思います。

人間の美しさは、つらくても良く生きようとする健気さにある

高齢者の栄養失調という新たな問題

みんなの介護 長寿社会になったことで新たな問題も出てきましたね。

樋口 一人暮らしをしている女性、とくに80代半ば以上の方の栄養状態がよくありません。このことは国民栄養調査にも反映されています。私自身も80代半ばで栄養失調になってしまいました。つい面倒くさいから食事を粗末にしてしまったのです。

これには、女性の習性も関係しています。女性は長年「誰かのために食事をつくって、一緒に食べる」という役割を負ってきました。

しかし、80代半ばになると夫が亡くなり女性が後に残ることが多いのです。

「飯はまだか」と言われなくなるのは、楽かもしれません。その反面、誰にも料理を要請されなくなった途端、食事がおざなりになる傾向があります。自分のためにつくることに慣れていないからです。

また、年をとるとお腹が減らなくなります。食べないまま疲れて寝てしまったりもします。そんな生活を続けていると栄養失調になるんです。

ですので「一人になったとしたら、自分自身のためにちゃんと生きる」と覚悟を決めて食事をとることです。

最低2食、できれば3食、自分のために食べること。長寿社会になったからこそ、それまでにない生活習慣に変える必要があるんです。そうしないと、早目に倒れて周りの力をより多く借りることになります。

介護保険は申請主義。積極的な情報収集と行動を

みんなの介護 樋口さんは、介護保険の制定に向けて尽力されてきました。その制定で多くの人の人生が変わったと感じます。

樋口 かつては、家庭に介護が必要な人がいると介護離職せざるを得なかった。でも、「介護保険があるから、介護しながら働いて子どもの学費を稼ぐことができる」と伝えてくださる方もいます。そのような声を聴くと、あのとき頑張って良かったと感じます。

みんなの介護 介護保険制度の申請主義という課題についてもご著書で触れられていましたね。

樋口 介護に悩む人の方から相談を持ち掛けないと何も起こりません。「困っているのですが、何とかなりますか?」と役所にかけ合うことが出発点です。救済する制度を教えてくれる可能性があります。もっと介護保険について若い頃から学び、周りの人も「申請したら」とお節介してほしいと思います。

介護保険は申請主義です。情報力と行動力が重要です。もちろん、どうにもならないこともありますが…。しかし、だからこそ私は「人生100年時代の第二の義務教育を」と唱えています。後半の人生でより良い生き方をするための法律・制度・心構えなどを学ぶ機会が必要です。

介護離職3つの不利益とは

みんなの介護 現在介護離職が社会問題化していますが。

樋口 介護保険が始まった20年前は介護離職者の8割が女性でした。ところが現代の家族介護者は、男性が3分の1を超えています。少数派でも30%を超えると無視できない存在になります。毎年10万人ほどの介護離職者が発表されます。そのうちの75%が女性で男性は25%です。未婚率や少子化など、さまざまな点から男性が介護に携わることがもっと増えてくると思います。

みんなの介護 数字としても具体的に出てきていますね。あらためて介護離職にはどのような問題があると思われますか?

樋口 私は介護離職には3つの不利益があると思っています。

まず「親の年金があるから何とかなる」と思って辞めますが、自分の年金は大変不利になることもあるわけです。親が生きている限り年金はもらえますが、親御さんが亡くなると生活自体が成り立たなくなる。老後の備えがとても不安定になります。

2番目は会社が損をします。日本の企業は、研修費にお金を使います。せっせと育て、管理職としてバリバリ働いてくれるようになったところで辞められてしまう。企業も困っているんです。

3番目が国家社会の問題です。個人所得税や個人社会保障保険料を一番しっかり納めているのは中堅以上の企業の正社員ではないでしょうか。累進課税で天引きされますからね。彼らは文句も言わず、税金も保険料も納めている納税者・担税者です。そのような人たちを失うのは、会社も政府も困るわけです。

みんなの介護 なるほど。ご本人だけではなく企業や社会にも影響が出ますよね。

樋口 そうですね。そして、それだけではなく老後に不安を持つ人が増えます。それによって日本の経済全体が重苦しく下向きになっていく。だからこそ私は、介護離職の問題は単なる福祉の問題としてではなく、経済全体の問題として考えてほしいと思うのです。

介護離職を避けられる状況を整えることは、日本経済の発展のために必須です。良い社会は健康的です。意欲がある人が働けて収入が得られ、生活が成り立つ。そして税金を払うことで社会に良い循環が起こっていく。そのような社会をこれからも維持していくことが必要です。

みんなの介護 そのような社会を講演会で「三ショクつきお値打ちコミュニティ」という言葉で語られていますね。

樋口 三ショクは、「食」「職」「触」です。一人で歩いて行ける距離に「ジジババ食堂」があり、ある程度の収入が得られる仕事がある。そして、何よりも地域の中での人間関係が築けることです。コミュニケーションが悪いと、さまざまな能力が低下することが、今日の新型コロナで明らかになりました。

介護離職を避けることは日本経済の発展のために必須

「嫁の役割」とされてきた介護が変わる

みんなの介護 なるほど。少し前までは、高齢者の介護をしないといけない人は運が悪い人のように思われていました。女性の中でも、お嫁さんという立場にいる人たちがその役割を担うことが多かったですね。

樋口 介護保険ができる頃までは、伝統的に「介護は嫁の役割」だと思われていたからです。

嫁の立場にある人は、舅姑が倒れたら介護離職していました。生きがいと言える仕事を持っていたとしてもです。特に地方などでは、お嫁さんが介護する側に回らないとさんざん攻撃されていたんです。涙ながらに仕事を辞めていくのが普通でした。私は「この状況はいくらなんでも不公平じゃなかろうか」と思っていました。

老若男女問わず国民全体で介護の問題を分かち合って支え合うことが必要だと感じていたのです。

「お年寄りが倒れたら、お嫁さんがそのあとの社会的人生を諦めないといけない」。そんな状況にならなくても済む制度をつくりたいと思いました。そして介護保険制定に向けて奮闘してきたわけです。

みんなの介護 介護保険制度は、樋口さんや介護離職せざるを得なかった人たちの思いが形になった制度なのですね。

樋口 介護保険は理想通りに活用されていないところがたくさんあります。しかし、いろいろな人から「介護保険があったおかげで定年まで勤められた」という声を聴きます。男女ともにです。これは、ある部分では成功したと思っています。

これからさらに、介護が必要な人が社会に増えていきます。家族だけではなく、地域で誰がどんなふうに介護するか、キーパーソンは誰か、などをもっと考えるべきです。

老いたれど、我もなりたし微助っ人

みんなの介護 樋口さんは、社会が高齢者の幸せのためにできることは何だと思われますか?

樋口 高齢者が社会参加できる仕組みを、もっと整えることではないでしょうか。また、そのような人たちが地域社会にいることがわかるよう、見える化して伝えることだと思います。

ご高齢の方は、わずかな力しかないかもしれない。しかし「できることならば、みんなと一緒に楽しく過ごしたり、ささやかなボランティア活動をしたりしたい」と思っている方が多い。そのような気持ちを「微助っ人」(ビスケット)と表した人がいます。

私はそこから「老いたれど、我もなりたし微助っ人」というフレーズを考えて講演会などでお話ししています。

みんなの介護 面白いですね!

樋口 そのようにして、お互いに協力し合える社会を提言していくこと。それが私の最期までつづく役割だと思っています。

血縁がなくても助け合う社会に

みんなの介護 樋口さんは『老いの福袋-あっぱれ! ころばぬ先の知恵88』の中で「五つ星の高齢社会」というビジョンを掲げられていました。

  • 一、平和と豊かさの所産であり、それを引き継いでいく社会。
  • 二、家族減少時代になり、アカの他人と助け合うことが当たり前になった、助け合いの社会。
  • 三、0歳の人と100歳の人が共存する時代にふさわしい、多様性と新しい文化が生まれる社会。
  • 四、多くの人が超高齢になり、障がいを持つ人と健常者と呼ばれる人との距離が縮まった思いやりのある社会(他者を排除するのではなく、違いを取り入れて、自らを成長させる寛容な社会)。
  • 五、何歳になっても望めば学んだり、働いたり、何度でもスタートラインに立てる社会。

樋口 家族でなくても、血縁がなくても助け合う社会。私は、当面これが一番大事なことじゃないかと思います。

日本では夫婦別姓がいまだに反対されて実現できません。そして、血縁や家族、とくに男系の一族などのつながりを何よりも重視する。それが他人を寄せ付けない空気を作ってしまうことさえあります。お嫁さんが義父母の介護など家庭内の大変なことを引き受けさせられて、つらい立場に置かれることもまだ残っています。

日本の福祉は、家族の存在を前提にしてきました。ところが今、日本は急激な家族減少社会に突入しています。このことの背景には、婚姻率の低下や少子化があげられます。

例えば、2000年と2019年で、65歳以上を含む全世帯の同居家族を調べた調査結果には大きな変化が見られます。単独世帯は、2000年で19.7%だったのが、2019年には28.8%になっています。三世代世帯は、2000年に 26.5%だったのが、2019年には9.4%。婚姻率は、戦前は0.8%前後を推移していたのが、年々下がり続け、2020年は0.43%です。

まさに「ファミレス社会」とも言える状況です。これからは、血縁関係がなくても違いがある人が集まって助け合うことが鍵になると感じます。

先日荻窪に出かけて、そこで「ヨタへロ」した高齢の方を助けたこともありました。また、タクシーの順番待ちから離脱して座り込む高齢者のお手伝いをしたこともあります。こちらもよろけて支えてもらったことも。

この人たちは、外出はしたものの途中で力尽きてしまった。これからの日本社会は、街でそのような高齢者と会うことが増えるのではないでしょうか。ほんの少し未来の自分の姿だと思いました。これからの時代をより良い社会にするためにも、困っている人に気軽に手を貸せる日本にすることが必要だと感じます。

みんなの介護 知人であるか他人であるかに関係なく、助け合うことが必要になりますね。

樋口 そうですね。このようなお年寄りは、以前は家族が外出を止めたり、付き添ったりしていました。

私たちが若い頃は、日本人は結婚好きな国民と言われていました。97%の日本人が結婚していたんです。そして平均2人以上子供を産んでいました。今50歳通過時の独身率は、男性は4人に1人です。女性は7人に1人。これでは子どもが増えるわけがありません。

子どもが少ないので介護労働力も増えにくい。街中が年をとり、そばで助ける家族もいない。私たちはそのような中で老いを生きることになります。だからこそ、当たり前のようにみんなで助け合える社会をつくることが、大きな課題だと思っています。

ヨーロッパのカフェに見る、高齢者社会参加のヒント

みんなの介護 ほかにも「こんな社会になったら良いな」と思うことはありますか?

樋口 老いた人たちの姿がもっと街中で見られるようになったら良いなと思います。

ヨーロッパなどは、必ず広場があって、そこにカフェがあります。「このカフェの敷地はどこまでなんだろう?」と聞きたくなるぐらい広々しています。歩道にたくさんテーブルも出ていて、そこに老人がでんと座り込んで、行き交う人々を眺めている。私は、これも一種の社会参加だと思うのです。風景の中にいるという社会参加。

ご飯を食べるのにも、誰かの顏を見ながら食べた方が美味しい。毎日でなくても良いので、人と触れ合い、お喋りができる環境が必要です。社会にそのような環境が整うことで、これからは「ヨタヘロ」した人が外へ出る時代になります。

みんなの介護 そんな地域になったら良いですね。

樋口 「健康未満・要介護以前」と言ったらいいんでしょうか。介護ヘルパーが来てくれるまでにはちょっと時間があるけど、身体の機能が衰えている。そのような時期が非常に長くなっています。高齢人口の1割ぐらいはそのような人です。これを私は「ヨタヘロ期」と呼んでいます。しかし、必ずしも要介護認定をされる人ばかりではありません。

ですから、新型コロナが明けると、そういうヨタヘロしたお年寄りが多く街に出てくるのではないでしょうか。それも1人暮らしか2人暮らしの人たちです。家族数が歴然と減少しているからです。

超高齢社会では、お年寄りが自然に外出できる街にする必要がある

「ヨタヘロ期」が長い女性の体質を理解する

みんなの介護 樋口さんは、とくに「女性」に焦点をあてて取り組みをされていますね。

樋口 「男女で高齢者の健康状態に違いがあります。厚労省が出している健康寿命は、2016年に出されているもので男性72.14、女性74.79です。排泄・食事・入浴・歩行・着脱衣などが自立してできる上限の平均年齢です。

平均寿命から健康寿命を引いた期間は、男性が平均9年で女性は12年。要するに人の世話にならないと生きていられない期間ー。私がよく言う「ヨタヘロ期」です。女性の方が3年長いのです。

このような背景があって、私は女性の健康問題に注目しています。老年人口も女性の方が多いので、不健康者が増えれば当然国の医療費も増えます。

それに大抵の女性は骨細です。少し転んだだけでも、骨折したり骨粗鬆症になったりする可能性があります。手足や運動器系に影響を受けやすい。だから、動けなくなって人の世話になることも多いんです。男性は脳出血や心臓疾患など循環器系が多いです。

そのような性別による特徴も理解しておくこと。それが女性・男性双方の健康寿命を延ばし、ヨタヘロしながらでも健康に近い状況を保つために大事だと思います。社会全体のムードにかかわります。

みんなの介護 高齢者の健康を守ることは、国を守ることにもつながっているんですね。誰もが自分ごととして高齢化の問題に目を向けていく大切さを感じました。

撮影:丸山剛史

樋口恵子氏の著書 『老いの福袋-あっぱれ! ころばぬ先の知恵88』(中央公論新社)は好評発売中!

老年よ、大志を抱け、サイフも抱け! 88歳のヒグチさんの日常は初めてづくしの大冒険。トイレ閉じ込め事件から、お金、働き方、人づきあい、介護、終活問題まで、人生100年時代を生きる人に勇気を与える「知恵とユーモア」がつまったエッセイ。

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森田豊
医師・医療ジャーナリスト
2022/11/07