ちきりん「何千万円も資産を持っていて、オレオレ詐欺のターゲットにされているような高齢者を、資金補助する必要なんてありません」
顔はもちろん、実名や年齢も非公表ながら、確かな知見や鋭い眼識で、その発言が常に注目を集めるブロガー・ちきりんさん。「Chikirinの日記」はアクセス数が月間200万を超え、著書「自分のアタマで考えよう」(ダイヤモンド社)、「未来の働き方を考えよう 人生は二回、生きられる」(文藝春秋)
などベストセラーも連発。“社会派ブロガー”として、時に日本の社会保障体制についても持論を展開する彼女に、介護現場が抱える問題について率直な意見を伺った。
文責/みんなの介護
介護業界全体に流れ込むお金を増やさない限り、介護職員の待遇は良くならない
みんなの介護 ブログを拝見していると、ちきりんさんは、日本の介護の現状にいろいろご意見をお持ちのように見えました。
ちきりん 率直に言って、今の介護保険はムダ過ぎです。かなりの資産を持つ豊かな高齢者と、食べるに困ってる貧しい高齢者を同条件で支援するなんて、巨額の財政赤字を抱える国の制度としては不適切です。
みんなの介護 とはいえ、その裕福な層の方が、絶対数としては少ないですよね?
ちきりん 貧しい人が裕福な人より多いのは、どこの国でも同じです。でも、この国の金融資産の6割は、60代以上の人が保有してるんです。特殊詐欺にひっかかるような、80代になっても何千万円も貯金がある高齢者でさえ、介護費用は1割しか負担しなくていい。お金の使い途がないから、タワーマンションを買って相続税対策をする。こんなの変じゃないですか?
みんなの介護 「使う予定はないけれど、税金として持っていかれるのはイヤ」という心理なんでしょうか。
ちきりん 富裕高齢層が貯め込んでるお金を消費に向かわせるのは、日本経済の活性化にとっても重要です。あと、介護に関しては、もうひとつマクロの問題があります。それは、医療業界と同じで、業界全体の収入が保険収入に限定されていることです。
みんなの介護 というと?
ちきりん 業界全体の収入が介護保険に規定されてしまうと、個々の介護スタッフがいくらスキルアップしても、報酬を上げることができません。医療もそうですが、介護も“入浴補助”など、行為ごとに国が料金を設定しており、スタッフの技能が上がっても収入は増えません。
たとえば同じ手術をした場合、1年目の脳外科医も、30年のベテラン脳外科医も同じ報酬しかもらえない。これは介護士も同じです。努力をしてスキルアップしても報酬があがらないから、長く続けられない。病院だと一日数万円の個室料や人間ドッグで稼ぐこともできますが、介護業界にはそういう収入もありません。
みんなの介護 キャリアのステップアップを望みづらいというのは確かに、介護職員にとって大きな課題となっていますね。
ちきりん 長く続けてもお給料が上がらないとやる気もでないし、一生の仕事にできません。医療業界も同じ問題を抱えていますが、全体の給与水準が高いのでなんとかなるのと、自分で分野を規定できるため、儲けたい人には「眼科になってコンタクトの処方に専念する」といった選択肢もありますが、今の介護業界だと一生薄給のままです。
みんなの介護 介護業界全体に流れ込むお金を増やさない限り、介護職員の待遇は良くならないですよね。
ちきりん スキルアップすれば報われる、経験を積めばお給料が上がるという仕組みにするためには、介護保険という国からのお金だけでなく、顧客からも直接お金が入ってくる形に変える必要があります。
裕福な高齢者は、介護保険の自己負担が5~6割でもいいと思う
ちきりん 介護にしろ年金にしろ、日本の高齢者福祉の問題は、お金持ちほど優遇されているという点にあります。一番ひどいのは年金で、あれって、お給料が高かった正社員ほど年金額が高い。長く正社員で働いた人は、貯金もあるし退職金ももらってる。そういう人ほど年金額が高いなんて、社会福祉じゃなくて積み立て貯金です。裕福な人の積み立て貯金に税金を投入する必要はありません。
一方、ずっと低いお給料で働いてきて、失業も経験し、国民年金もなかなか払えませんでした…みたいな人は、年金も少ない。それなのに介護保険の自己負担率は裕福な人と同じ。これでは“福祉”とは呼べません。
みんなの介護 裕福な層と貧困者層とで介護保険の適用にも幅をつける、ということですかね。
ちきりん 最近は1割負担と2割負担に分けるという話になってますが、まだまだ甘いです。本当に貧しい人からは自己負担なんてとらなくていい。その代わり、資産がたくさんある人は介護保険も5~6割負担にすればいい。3,000万も4,000万も資産を持っていて、オレオレ詐欺のターゲットにされているような人を、資金補助する必要なんてありません。
みんなの介護 これは介護だけでなく医療も同じような感覚でしょうか?
ちきりん ですね。元スポーツ選手とか有名芸能人などで、何十億円も資産がある人でも、手術費用は3割負担とか、変だと思います。そういう人は高名なベテラン医師に診てもらい、費用は全額自分で払ってもらえばいい。そういう話のほうが、相続税の話より先だと思います。
みんなの介護 というと?
ちきりん お金持ちに相応の負担をという話になると、すぐに「相続税を上げろ」っていう人がいるんですけど、相続税を徴収するというのは、国家が個人の資産を召し上げるって話ですよね。
一方、自分のお金で高額な一流医療サービスや一流介護サービスを買うのは、お金持ちが自分の買いたいモノに自主的にお金を払うということなんです。だから、相続税を上げろという前に、彼らが高い値段を払ってもぜひ買いたいと思うような介護サービスや医療サービスを売る市場を認めるべき。その方がよほど民主的だし、資本主義的です。
公的な補助というのは本当に貧しい人にだけ回せばいい
みんなの介護 年金をはじめ、医療や介護に関しても、補助に回すお金の使い方が問題ということですね。
ちきりん 生きてる間はお金持ちにも介護費用の大半を税金で補助してあげながら、「死んだら財産の大半を納めてください」って、チグハグでしょ? 生きているうちに、自分の意思で使ってもらおうという発想になぜならないのか、不思議でなりません。
みんなの介護 ちきりんさんは、「生活保護以外の社会保障は撤廃すれば良い」という発言もしていますね。
ちきりん あのブログのエントリはすごくたくさんの方に読まれました。私の主張は一貫しています。公的なお金、つまり福祉のお金は貧しい人にだけ渡せばよく、余裕のある人に渡す必要はありません。医療も介護もそうだし、あそこで書いたように障がい者年金なども同じです。
家族が大きな会社を経営していて相当に裕福な家庭でも、息子に障害があれば毎月10万円の年金など、一生にわたり収入が保障されます。国のお金が余ってるならそれでもいいです。でも、そういう場合は、家族が障害のある息子の生活費を負担し、浮いた10万円を原資にして、家族もいない障がい者の生活費に上乗せするほうがいいと思います。
みんなの介護 そう考えると、政策としてあがっている「低所得年金受給者に対する給付金3万円の支給」にも反対の立場、ということですね?
ちきりん 選挙前に投票率の高い層にお金をばらまくのは、政治家のマーケット感覚としては素晴らしい(笑)。自民党は政権を手放してしまったことに対する後悔がものすごく大きいんですよね。去年は安保法案への反対論が盛り上がったので、政権維持に危機感があるんでしょう。
1,000兆円も金融資産を保有している高齢者が、その1%を介護関連の消費に使うだけで今の業界規模は倍になる
みんなの介護 ここまで、介護を含む日本の社会保障体制についてお話しいただきました。さて今回は介護に注目していただきたいのですが。
ちきりん もっとサービスの幅が広がればいいのにと思います。今の介護保険は、排泄補助、食事補助、家事支援などと内容が細かく決まっていて、介護スタッフの方は短い訪問時間の中でやるべきことを全部さっさと終わらせて、次の高齢者宅に移動することを求められています。
でも、毎週一時間、半年間かけて何のことはない会話をするだけで、相手の高齢者の性格が深く理解できたり、相手が一番、心穏やかになるのはどんな時なのか、とか、いろんなことがわかってきます。今はそういう“規格外”の支援は介護保険ではカバーできない。
そういうのが、保険を使わず自費で購入できる介護サービスとしてメニューにあったらいいと思います。そして、スキルが高い人の時給はどんどん上がればいい。
脳の病気で倒れた後のリハビリだって、倒れてからすぐの間にどれだけ集中的に行うかによって、リカバリーが明らかに違いますよね。そういったことについて、もっと科学的な研究が進み、早く医学的に裏付けられたらいいなと思います。そうすれば、そういう時期にはお金を払ってでもスキルの高い介護士さんやリハビリの専門家を雇おうと考える人も増えてくるでしょう。
みんなの介護 何千万円も蓄えがあるような裕福な高齢者であれば、それも可能でしょうね。
ちきりん ひとり200万円のクルーズ代金を夫婦二人分払って楽しむ人とか、数千万円を特殊詐欺に払ってしまう人とか、そういう人をターゲットにしたサービスを、介護業界も売り出すべきだということです。
今、日本の金融資産は 1,700兆円。そのうち6割の1,000兆円を高齢者が保有しています。そのたった1%が介護関連の消費に向かうだけで、今の業界規模は倍になります。それだけ介護に関わる人の報酬も増やせるわけです。
貧しい人が多いからこそ、お金持ち向けの商品を積極的に開発してたくさん売り、業界に流れ込む資金を増やすべきです。そうしてこそ、余ったお金を貧しい人に回せるんですから。
みんなの介護 サービスの内容、そしてそれへの対価(金額)も重要になってきますね。
ちきりん 私の時代は、親が嫌いで、親から独立したいと考える子どもも多かった。でも今は、親と仲良しの子どもが多くて、みんなとても親孝行です。今後は大事な親に質の高いサービスを提供してくれる介護スタッフに対して、付加サービス料を払ってもいいと考える人は確実に増えてきますよ。
「専業主婦なのに夫の親の面倒もみないのは良くない」という感覚をもつ専業主婦はつけこまれる
みんなの介護 ただし、「介護にお金を使う」ということに対する意識が、現状では低いように思います。
ちきりん それも少しずつ変わるんじゃないでしょうか。昔は医療だって、すべて保険でまかなえて当然と思われてましたが、今は必ずしも富裕層でなくても、入院するとなれば「個室の方がいいんじゃない?」という話になります。そういう時こそお金を使うべき、そのために貯めてきたんだ、という意識の人もこれからは増えるでしょう。それよりも難しいのは、保守的な親族ですよね。
みんなの介護 確かに、介護を巡る家族・親族の問題は、横のつながりを重視する地方部に多いという話も聞きますね。
ちきりん 介護が必要になった高齢者の家に専業主婦がいる場合、「他人に介護を任せるとは何事だ!」と言い出す人が必ず出てきます。特に男性など、自分で介護をしたことの無い人ほど、そんなことを言い出す。今は老老介護が多いので、介護するほうも腰や膝に痛みがあって大変なのに。
みんなの介護 「お金は出さないけど口だけは出す」なんてことも言われます。
ちきりん 専業主婦は自分自身でも「専業主婦なのに夫の親の面倒もみないのは良くない」という感覚を持ってるので、つけ込まれがちです。
みんなの介護 「専業主婦だからその人が面倒をみるべき」という風潮ですね。あと、家族の中でも特に、きょうだい間のいさかいがフィーチャーされることも多いようです。
ちきりん 親の介護に絡み、兄弟で揉めるのは珍しくないです。相続の時にも、全く介護をしなかった兄弟が法律的な取り分を当然のように要求したり。介護が始まる前に、しっかり家族間で話し合っておくことが大事ですね。
親の介護が始まる前に、きょうだい間で役割分担を決めておくことが大事
みんなの介護 人手が多いと、そのぶん一人ひとりの負担が軽く思えますけど、そうではないんですね。
ちきりん 両面あるようです。一人っ子の場合、ひとりで親の介護をするのは大変ですが、その一方、介護の方針も一人で決められます。
兄弟がいると「俺は施設に入れるべきだと思う」「私は家で看てあげるべきだと思う」みたいに、意見が異なる場合も多い。死生観に関わる問題なので、50代を迎えた子ども側が意見を統一するのは簡単じゃないです。
みんなの介護 きょうだいで介護に臨むにあたっては、どうすれば上手く事を運べるのでしょう?
ちきりん 誰がお金をだす、誰が施設を捜す、いざというときに誰が仕事を休む、みたいな具体的なことを話し合い、決めておくことでしょう。
それと、親が倒れたときに兄弟が集まって、「お互いにいろいろ不満なコトが出てくると思うけど、なんかあったら本音で話し合って解決しよう。喧嘩だけはしないでおこう。あと、それぞれの配偶者には口を出させないようにしような」って。そういう合意を得ておくだけで、トラブルは避けられます。
裕福な高齢者は、介護保険の自己負担が5~6割でもいいと思う
ちきりん 親戚からの「主婦が自分で面倒を見るべき」論に対抗するための、もうひとつの後押し方法として、「プロのリハビリトレーナーに依頼すると、筋力の衰え方を防止できる!」とか、「プロの言語聴覚トレーナーをつけると嚥下機能の回復も早い」みたいに、「プロに任せた方が良い結果が出る」という具体的な話が広まればいいなと思います。そうしたら、「介護が嫌だから施設に預けるのではなく、本人のために施設のほうがいいのだ」という話にできるので。
みんなの介護 そうするとまた、「お金を使いたがらない人も多いのに…」という問題に戻ってきてしまいますが…。
ちきりん 日本人は、安くても完璧な物が手に入って当然だと思ってる人が多くて、ネットで売ってる2000円ほどのワンピースにも「縫製が丁寧でない」とかいうレビューが付いてて驚きます。
介護や医療など、国が提供するサービスについては特にその傾向が強い。病気になったらすぐに医者が診てくれて、介護が必要になったら完璧な介護施設にポンと入居できて、しかも料金は税金ですべてまかなわれて当然と思ってる。
みんなの介護 国の制度に頼る側面が強い、ということですね。
ちきりん でも本来、高品質のサービスや商品とは、情報を自分で調べて選択し、相応のお金を出して初めて手に入るものです。なんでも国が面倒をみてくれる。それが当然だと考えるのは、とても社会主義的ですよね。
そういえば病気になった時も治療方法について、「先生のいいようにしてください」みたいな人がいるでしょ。自分で自己決定せず、“お上”に任せておけばいい、という人です。結果が良くなかった場合、“言う通りにしたのに”と責任転嫁できますし。
みんなの介護 きちんとした制度が整っているのは良い。けれども、それによって提供されるサービスについて判断する力が弱い、という感じでしょうか。
ちきりん そうですね。でも最近は変わり始めていますよね。今までは形のあるモノにしかお金を払わなかった人でも、最近は形のないサービスにもお金を払うようになってきました。
たとえば、最初はオムツにしかお金を払わない時代。次は、オムツを替えてくれる人にお金を払うべきだと気が付く段階。その次は、オムツを替えながら「あーばっちい」とか言う人ではなく、「こういう食事の時に下痢が多いようですね」と気付いて、食事内容を変えてくれる人に、さらに高いサービス料を払う時代へと。
みんなの介護 そうするとまた問題は、そのサービスの価値をどのように伝えていくのか?ということになりますね。
ちきりん 日本は今、これだけ高齢者が多い国で、介護は馬鹿デカイ市場ですから、変な規制さえ取り払えば、今後はもっと発展していくと思います。市場が発達すれば消費者の目も肥えてきて、どういうサービスに価値があるか、少しずつみんなわかってくるでしょう。
年をとったときに“惨め”になりたくない人に大事なのは、断捨離
みんなの介護 ちきりんさんは、ご自身の老後についてどのように考えていますか?
ちきりん 自分の老後を考えると、少なくとも頭がよく回らなくなった段階からは、もうどうでもいいです。“わからなくなったもの勝ち”みたいに考えてるんですよね。
私が、食べるものもなく、服もボロボロで垂れ流しになって、道ばたに倒れて…みたいな状況になった時、周りの人は私を見てすごく惨めだと思うでしょうが、私自身はたぶんもう、そう認識する力さえなくなっていて、別に何も感じてないような気がします。
みんなの介護 うーん…考えたくはないですけど、ある意味、真理かもしれませんね。
ちきりん だから孤独死とかも、ぜんぜん恐く無いです。死ぬ瞬間に、周りに誰がいるかいないかとか、本人にはわからない。それが「かわいそうだ」「惨めだ」みたいに言うのは、外部者の意識です。それと、テレビの特集番組にでてくる貧困高齢者の人って、家がめちゃくちゃ汚いんですよね。家がきれいな貧困の人ってほとんど見ません。
よく「年取って貧しいと悲惨だ。かわいそうだ。惨めだ」って言いますけど、家が完璧にキレイで、床に何もモノがない部屋にテレビとちゃぶ台があって、介護職員が運んできたご飯を食べてたら、そんなに惨めに見えないのでは? だから、年をとって惨めになりたくない人に大事なのは断捨離ですよ。
みんなの介護 そこに話が飛びますか(笑)。
ちきりん 貯金が何千万円あっても、家が汚部屋だと惨めに見えます。貯金なんて無くても、家がすっきりしてたら惨めに見えません。とはいえ、私の家もモノが溢れててホントに悲惨。答えはわかってるのに、なかなか実行できませんね。
みんなの介護 断捨離って、意識してやろうとしても、とても難しいですよね。
ちきりん ものを整理するっていうのは、ものすごく高い知的レベルを要求される作業なんです。要らないものと要るものを区別して、あるべき場所に置く。簡単なように見えて、合理的な思考ができるうちしか、整理整頓や断捨離はできません。たまに実家に帰るという人は、親の家の散らかり具合をよく見て、親の判断力の衰えの目安にすればよいと思います。
気むずかしい人間と話すより、人工知能を搭載したロボットと話してるほうが心穏やかに老後を過ごせそう
みんなの介護 もうひとつ「かわいそう」と思われる理由のひとつに、「孤独」というのが挙げられると思うのですが。
ちきりん そうですね。隣家に同じ境遇の人がいて、毎日お茶を飲んだり、一緒にお昼ごはんを食べたりするだけで、まったく惨めじゃないと思います。だから生活保護のお金でパチンコに行っているとか、お酒を飲んでるってよく問題視されてますけど、あれは仕方がない。
みんなの介護 もっと根本的な問題…それが孤独、ということでしょうか?
ちきりん なぜパチンコに行くかというと、やることないし暇だし、孤独だからですよね。パチンコはひとりでもできますから。何人か友達ができれば、パチンコが将棋になったり麻雀になったりするし、一人でお酒を飲むのではなく、「鍋でもやろう」になったり、「カラオケでも行くか」になったりする。惨めさを減らすには、お金より日常を一緒にすごす仲間のほうが大事です。
みんなの介護 そういう環境をつくるにはどうすれば良いか、何か考えはありますか?
ちきりん 同じような環境の人が集まって住むことと、彼らが知り合うきっかけを手伝う人を行政が雇うべきかな。そのお金は、ずっと言ってるように、お金に困っていない高齢者に支払われてる福祉費用から出せるはずです。
若い人はネット時代だというけれど、孤独な高齢者はネットなんか全然やってないので、リアルに、「あの家の人も一人だから、たまには一緒にご飯でも食べてみたらどうですか?」みたいなマッチングをしてあげないと知り合えない。そうやって孤独な人を減らす方が、お金を配るより効果的な気がします。
みんなの介護 つまりは、財源の使い方を考え直せばいろんな社会問題の解決につながる、ということですね。
ちきりん あとは自動化や機械化も大事です。成田空港では、歩いているだけで熱を計られ、高熱の人がいると検疫の人が飛んできて、デングやエボラ熱などに感染していないか、チェックしています。
介護施設や保育所なども最初に体温測定をしますが、ああいうコトひとつをとっても、ものすごく人手がかかります。個別に自動化できる作業は、まだいくらでもあるはず。
みんなの介護 「IT」とひとことで言ってしまうと、「コンピュータなんかに介護ができるもんか」といった反発が起こりがちです。
ちきりん 気むずかしい人間と話すより、人工知能を搭載したロボットと話してるほうが心穏やかに老後を過ごせそうですけど、コンピュータは人間味がないとか決めつける人も多いですね。
介護を成長産業と捉え、国が民間ビジネスの参入を促進することが大事
みんなの介護 結局、介護業界全体に入るお金を増やすこと、そして、そのために業務の効率化を図ることが大切だ、ということですね。
ちきりん 富裕高齢者に応分の負担をしてもらうことに加え、介護はオペレーションの効率化も大事です。ヘルパーさんが1時間の介護をして、次の家に行くのに30分かかって、また一時間の介護をして…となると、1日8時間働いても介護できるのは5時間。残りの3時間は移動時間でほとんど収入になりません。
でも、50戸の集合アパートに10人の高齢者が住んでいたら、その10人を朝から順番に8時から9時、9時から10時…と回って介護するだけで、移動時間は限りなくゼロに近づき、1日8時間分の介護報酬が受け取れます。これだけで介護士さんの収入は、今よりグッと増えるし、高齢者通しのつながりも作りやすい。
みんなの介護 そうした考え方は、生活のいろんなシーンでも起こり得ることですよね。
ちきりん 食事もそうです。今の在宅介護では、介護士さんがひとりの高齢者の家に行って、その人のためだけにわざわざ食材を買いに行き、ごはんを作って食べさせてます。
でも、食材はインターネットで注文しておいて、その人のアパートに介護士さんが到着すると管理人室に材料が届いてます、と。それを各部屋に持って行って料理してもいいけど、可能なら一部屋でまとめて料理して、できあがったものを各戸に配り、順番に食べさせていく…みたいなやり方が認められたら、相当に効率よく介護できる。
みんなの介護 「たまにはみんなで一緒にご飯食べましょう」といった感じで、同じアパートに住んでいる10人くらいが集まってみんなで食べるようになれば、お互いが交流するきっかけにもなりそうですよね。
ちきりん それと、富裕高齢者の自己負担率をもっと上げることも大事です。いまだとお金のある人でも1割か2割しか負担しなくていいので、安すぎて、民間の自由介護サービスを使おうというインセンティブが発生しません。
でも、貯金が一千万円以上ある人の介護保険の自己負担率は5割です、って言えば、保険で受けるサービスと、自費で買う介護サービスの価格差がぐっと縮まります。そうなれば、民間企業がすごく高いレベルのサービスを提供すれば、そっちを選ぶ人もでてきます。
みんなの介護 ビジネスとしての魅力も十分にありそうですね。
ちきりん 裕福な高齢者は限られてるけど、今でも高級クルーズ会社はそういう高齢者だけを相手にしてビジネスを成り立たせています。介護サービスだって、そういう人だけをターゲットにして、十分に儲けられるはずなんです。
ところが今は、国が税金で補助をして、お金のある人にまで「200万円のクルーズ旅行に20万円で行けます」みたいな制度を提供しています。そんな状態では民間のクルーズ会社は太刀打ちできず、誰も参入しない。
大事なことは、この産業を成長産業と捉え、国が民間ビジネスの参入を促進することです。富裕層が自分のお金をどんどん使おうと思うようなビジネスがでてくれば、そこで働く人も報われやすくなりますよ。
撮影:長尾浩之
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