撮影当時の関口監督の心境は?

認知症テストは、なんて失礼なテストだろうと思って撮影をしていました

介護保険につなげるためには、医師の所見が必要です。

この事実が、認知症初期の母にとっては大きなハードルでした。

だって、本人は、悪いところがあるとは思っていない…。

さらには、自他共に認める医者嫌いです。さて、どうするか?

たとえ遠方でも、高い評価を受けている認知症専門医にかかりたいと考えるご家族がいらっしゃるかもしれませんが、私はもっと実践的に考えました。

移動の少なくて済む地元の医師で、近くにレストランがあること(笑)。

「医師に行ったら、その後で外食をしよう」という、まさしく美味しい話で母を誘い出すことにしました。

「地元の医師で十分」と考えた理由は、母を連れて行く予定だった脳神経外科クリニックにはMRIがあり、母の脳がどうなっているのかは、一応、わかるだろうと思ったからです。

地元の医師の役割は、母の認知症の詳細を知るためというよりも母を介護保険につなげるためであると、割り切っていたこともあると思います。

あとは、自宅にへばりついている母を外出させるだけでも大変な労力だったので、何としても遠出は避けたかった。

本人の状況を考えつつ、目的である介護保険に最短でつなげたいという気持ちでしたね。

クリニックで行われた長谷川スケール式の認知症テストは、なんて失礼なテストだろうと思って撮影していました。

「さくら、ねこ、電車」「100-7」…こんな、小学生にするようなテストに、母のプライドはズタズタにされたと思います。

動画のキャプチャー①

常にわれわれ介護する側の視点で認知症の人とその進行の度合いを測ろうとする。ムッとした母の方が正しいと思って見ていました。

実際、この後から母は、クリニックへ行くのを猛烈に拒否するようになりました。

母の気持ちが痛いほどわかったので、私が代行でクリニックに行き先生に母の経過を報告するという形にして、必要な分の薬だけもらうようになりました。

そのとき関口監督がとった行動は?

説得というよりも、全身全霊でお願いした

大事にしていたのは、自分の心構えと目的意識でしょうか。

当時の母は外出することが日々難しくなっていたので、母の外出拒否に負けない強い心と、介護保険につなげるのだというしっかりとした目的意識を持ち、たとえ外出拒否されても、あきらめず、辛抱強く誘い続けました。

それは説得というよりも、全身全霊でお願いするという感じでしたね。

あくまでも低姿勢を貫きました。

ひとえに母のプライドの高さを考慮したうえでの戦略と姿勢です。そして、外食で誘惑する…。

まるで、馬の目先に人参をぶら下げているかのようでしたが、私の必死さが伝わったのか、母はクリニックへ行くことを、渋々とはいえ同意してくれたのです!

余談ですが、クリニックで正式に「アルツハイマー型認知症」と診断された後、母は、隣にある大型ショッピングセンターのフードコートで、それまでは大嫌いだと言っていたラーメンを注文し、美味しそうに食べていました。

これには驚きましたが、ヘルシー志向だった母が「蕎麦(体に良い)>ラーメン(体に悪い)」という呪縛から解き放たれ、自分の食べたいものを食べる姿に「良いじゃん!」と思ったことも思い出しました。

関口監督から読者へ伝えたいメッセージは?

外食を理由にするなど、本人にアピールできることを考え、あらゆる手を使い、本人の同意を得てください

認知症の診断を受けに行くというのは、家族にとって大きな覚悟が必要かと思います。

動画のキャプチャー②

なかには、本人が嫌がるから医者には行かない、という家族もいるでしょう。

私もそのような人たちを知っていますが、介護保険制度を活用していなかったことで、後で本当に助けが必要になったときにあたふたしてしまう例がたくさんあります。

私は、本人のためよりも、介護を担う家族のために、介護保険を身近に引き寄せておく必要があると考えています。

ですから、たった1回の診察、医師の所見のためと割り切って、何とか本人を病院に連れていく。

ただし、<説得する>という姿勢では厳しいかと思います。

理屈で説明しようとしても、例えば、私の母のように「自分には悪いところがない」と思っていれば理解してもらえる可能性は限りなくゼロに近い。

それに、<説得>という行為は、一般的に自分を高みに置くものだと思います。

そうではなく、私のように外食を理由にするなど、本人にアピールできることを考え、あらゆる手を使い、最終的に本人の同意を得てください。

グッドラック!ですね。

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