撮影当時の関口監督の心境は?
騙されたのではないか!そう思うのがやっぱり自然
母が認知症初期の頃には、玉手箱をひっくり返したように、事件が次から次へと起こってびっくりしました。
母の記憶に直接対峙するドラマの連続でした。
そのせいか、この動画でもそうですが母はいつも不機嫌でした。
梅干しが送付されること自体に問題はありません。
母も私も梅干しが大好きなので、どこかで買って送ってもらったんだろうなという認識です。
びっくりしたのは、届いた箱詰めの梅干しの量が、私たち2人の生活にはあまりにも多すぎると思ったことと、肝心の本人に買った記憶がなかったことでした。
騙されたのではないか!そう思うのがやっぱり自然ですよね。
郵便局で梅干しの購入を誘導され、こんなにたくさんはいらないと言えずにお金を払ったのかな…。減塩梅干しを選んでいるのは、血圧が高めだった母の選択として納得できるな…。
私の頭のなかは、グルグルと考え始めます。
母は、どこかおかしく、どこかしっかりしている。そんな気持ちになったことをまざまざと思い出しました。
それと同時に、記憶に支障が出ると日常生活にこんなにも大きな影響が及ぶのかということを、改めて思い知らされたのがこの梅干し事件でしたね。
そのとき関口監督がとった行動は?
郵便局で、高齢者に<窓口で商品を勧める>のはいかがなものかと問うてみた
まっ先に事実関係の把握をしようと思いました。
ここでまず受け入れるべきは、もう本人には確かめようがないという事実でした。
何を聞いても覚えていないし、聞かれることを極端に嫌がる。
この動画でも、母は梅干しからテレビ番組に話題を変えていますからね。
まず、郵便局に電話で問い合わせ、母が地元の郵便局に行った際にキチンと代金を払って注文したことを確認しました。
騙された訳ではなかったのです。
次に郵便局に出向き、しばらく様子を観察してみました。特に窓口に注目しました。
窓口を利用する人は、圧倒的に高齢者が多く、確かにいろいろなギフト商品を窓口で勧めている!
そして、母のように、商品を勧められたらつい購入してしまう高齢者が多いようにも見えました…。
最後に局長と話をし、母の梅干し事件のことを伝えました。
窓口に来る高齢者のなかには、母のように認知症の症状がある人もいるかもしれない。
そういう高齢者に<窓口で商品を勧める>のはいかがなものかと問うてみたのです。
局長は、しどろもどろになり、「上の人間に伝えます」ということになりました。
それ以降、郵便局では、商品のパンフレットを置いていても、窓口での勧誘はしていない様子だったので安堵しました。
関口監督から読者へ伝えたいメッセージは?
家族にはつらいことだと思いますが、本人がお金を扱うことには終わりが来る
母の梅干し事件には、ヒヤッとさせられました。
今回の相手は郵便局でしたが、オレオレ詐欺のように、高齢者をターゲットにした犯罪が多発しています。
そういった事実を踏まえて、以下2点を挙げてみます。
- ①認知症の疑いのある本人からの聞き取り調査は、ほぼ無理であると考える
- ②事実関係の調査は、事実に基づいて動く("動く"ことが大事!)
母の梅干し事件は、郵便局から届いた<送り状>が、鍵でした。
送り状は、母が書いていましたが、家の電話番号はデタラメだったのを見逃しませんでした。そう、ここで探偵になっていろいろと調べるのです!
本人の<供述頼り>ではなく、物的証拠から事実関係の把握が少しでもできれば、次のステップに進めると思います。
最終的に消費生活センターなどに相談するにしても、事実経緯が話せれば相談しやすいですし、的確なアドバイスをもらいやすいのではないでしょうか。※消費者ホットライン:188(局番なしの"いやや")
そして、母もそうでしたが、騙されて高額な商品を購入してしまったりするリスクを考えると、本人がお金を扱うことにはいつか終わりが来るんですよね。
この事実は、家族にはつらいことだと思いますが、少なくとも詐欺の危険性からは解放されるという考え方もできるかと思います。