撮影当時の関口監督の心境は?
母がこれからどんなふうに変化していくのか…介護者としては不安でしたが、監督としては最高の状況でした
この動画を撮影したのは、2010年12月、私がオーストラリアから帰国して11ヵ月ほど経った頃ですね。
母はこの年の5月、正式にアルツハイマー型認知症というお墨付き (!)を主治医から貰い、介護保険につながった後だと思います。
私としては、まあ、取りあえずこの段階では、やるべきことはやったという気持ちでした。
そして、私のこの頃の母の印象は、<随分苛立っているなあ>ということに尽きます。

今から思えば、認知症の薬の量がドンドン増えていった頃なので<薬の副作用かも>と思えますが、当時は、そんなことまで考えが及びませんでした。
また、認知症の母が、これから先どんなふうに変化していくのか皆目見当もつきません。
これは、介護者としては不安でしたが、監督としては最高の状況でしたね。だって、予定調和とは真逆ですから(笑)!
そのとき関口監督がとった行動は?
<認知症を映像で表現するべし>。台所の物音に気づき次第、すぐに撮影を始めた
とにかく母の撮影をする。ひたすら母に対してカメラを回す。
当時の私の口癖です。
なぜなら、認知症であることが一目瞭然でわかるように撮ることは、そう簡単ではないからです。
<認知症を映像で表現するべし>。
当時は、枕元にビデオカメラを置いて寝ていましたよ。
そんな中での真夜中の事件でした!
台所の物音に気づき、カメラを片手に飛び出し、すぐに撮影を始めたのです。
カメラを回しながら必死に母に問いかけ、その結果、母が夕食を食べたことを忘れているのだと知りました。

<カメラを通して知る>ということは、母からエピソード記憶が落ちている瞬間を捉えたということなので、監督としてやや安心した後で、娘として「アッチャー、夕食を食べたことをすっかり忘れたか〜」と暗澹(あんたん)たる気持ちになったことも覚えています。
関口監督から読者へ伝えたいメッセージは?
冷静に現状把握をするために一歩引くことが、苦しくならない介護を続けていく秘訣
常に心がけなければならないのは、認知症の人の冷静な現状把握ではないでしょうか。
例えば、母は元々感情のアップダウンが激しい人です。
ですから、私はその感情の渦に一緒に取り込まれないようにし、なぜ今彼女の感情は揺れ動いているのかを探るようにしてきました。
答えは簡単に見つからないかも知れません。
でも、介護する側が理由を探ってみようと考えるだけでも良いのです。
なぜなら、そう思った時点で目の前の介護の修羅場(!)から一歩引くことができているからです。
この一歩引くということが、苦しくならない介護を続けていく秘訣のひとつだと思います。