「推し活」が高齢者の幸福度を段階的に向上させる!Jリーグと連携した「Be supporters!」の挑戦
高齢者施設では、入居者の生きがいづくりや活動意欲の向上が大きな課題となっています。
サントリーウエルネス株式会社は、高齢者や認知症の方が地元のJリーグクラブを応援する「Be supporters!」活動を2021年から展開。「支えられる」存在から「支える」存在への転換により、参加者の幸福度向上や職員の負担軽減といった成果を上げています。
2024年12月時点で全国約230施設・延べ約1万人が参加する本活動の実態と、「幸福寿命」向上への科学的アプローチをレポートします。
全国の介護関係者が注目する「Be supporters!」とは
2025年11月17日、東京・ウェスティンホテル東京で開催された「みんなの介護AWARD2025」。
全国5万8,000以上の介護施設の中から高評価を得た施設を表彰するこのイベントには、約350人以上の介護業界関係者が集まりました。
会場の展示ブースエリアでは、介護関連用品メーカー20社がそれぞれの注力商品をPRする中、サントリーウエルネス株式会社のブースには多くの介護施設関係者が足を止めました。同社が紹介していたのは、高齢者施設の入居者がJリーグクラブのサポーターとなる「Be supporters!(以下、Beサポ!)」という独自の取り組みです。
「いくつになってもワクワクしたい、すべての人へ」——このコンセプトのもと、2021年にスタートしたBeサポ!は、高齢者施設の高齢者や認知症の方など、日頃は周囲から「支えられる」場面の多い方が地元のJリーグのクラブを応援することで「支える」存在になることをめざす活動です。サントリーウエルネスとJリーグが全国で活動を推進しています。
「人生100年時代の物語大賞」で全国から感動の物語が集結
Beサポ!では、参加者一人ひとりに「推し」の選手ができることが特徴です。活動開始以来、全国各地で心揺さぶる物語が生まれています。
90代女性は"推し"の選手ができてから周囲との交流が増え、施設のムードメーカーに変貌。107歳の女性は、選手に「命尽きるときまでサッカーを楽しみなさい」というエールを送りました。認知症の状態にある80代女性は、遠い他クラブに移籍した"推し"の選手に会う夢を、施設職員と一緒に叶えました。
こうした物語を表彰する「人生100年時代の物語大賞」の第3回授賞式が、2025年12月4日に開催されました。
全国のBeサポ!参加施設の職員から応募のあった36の物語の中から、審査員による審査会での選考、および全国11,218人の一般投票を実施。第1部では得票順に選出されたゴールド、シルバー、ブロンズ、および新設の職員賞が表彰され、第2部では「幸福寿命~人生100年時代を幸せに生きるヒント」をテーマにしたトークセッションが行われました。
第1部:「人生100年時代の物語大賞」授賞式
授賞式のプレゼンターを務めたのは、お笑い芸人の安藤なつさん(メイプル超合金)、作家の岸田奈美さん、Jリーグ執行役員の辻井隆行さん、サントリーウエルネス株式会社代表取締役社長の栗原勝範氏。それぞれの立場から、受賞した物語の意義を語りました。
ブロンズ受賞:4年ぶりに外の世界へ ~植竹さんが教えてくれたこと~
ブロンズを受賞したのは、神奈川県横浜市のReHOPE東戸塚の植竹さんによる物語です。授賞式には職員の田中貴大さんが登壇しました。
元Jリーガーでもある田中さんは、横浜FCのサポーターや医療チームと連携し、4年ぶりの外出を望むご利用者様の夢を叶えました。残念ながらご本人は旅立たれましたが、「いくつになっても目標を持ち、人生は楽しめる」という教えは現場に刻まれています。
田中さんは「このたびのブロンズの受賞を大変光栄に思います。元Jリーガーである私が、サポーターの皆様や横浜FC、医療チームと連携し、4年ぶりの外出を望むご利用者様の夢を叶えられたことは、かけがえのない経験でした。この賞は植竹さんからの贈り物です」と語りました。
プレゼンターの岸田奈美さんは、「涙ながらに語る姿から、皆様が過ごされた素晴らしい時間が伝わり、深く心が動かされました。植竹さんの『笑顔が見たい』という一心で、求められる以上の優しさや思いやりを発揮されたことが物語から溢れていて、初めての朗読でしたが自然と胸が熱くなりました」と感動を語りました。
シルバー受賞:応援の魔法がもたらした、介護現場での驚きの変化
シルバーを受賞したのは、神奈川県川崎市の介護老人福祉施設「鷲ヶ峯」の阿部さんによる物語です。授賞式には本来出席予定だった阿部さんの代理で職員の鈴木勝利さんが登壇しました。
この物語では、引っ込み思案だった阿部さんが川崎フロンターレの応援を通じて変化していく様子が描かれています。スタジアムで大声を出して応援するサポーターへと変貌し、施設を超えて社会とも関わりを持つようになりました。
鈴木さんは「本来出席予定だった入居者様の『代わりにとってきて』という力強い言葉に背中を押され、本日は代理で登壇いたしました。3年間の活動を通じ、誰かを応援することは、応援する側にも『必要とされている』という喜びや大きな活力を与えてくれるのだと強く実感しています」と受賞の思いを語りました。
プレゼンターのJリーグ執行役員・辻井隆行さんは「Beサポ!を通じて、スタジアムだけでなく、施設から応援してくださる皆様一人ひとりに深い物語があることを知り、Jリーグ職員であることを改めて誇りに思いました。入居者様を家族のように支える施設職員の方々の献身にも深く感銘を受けております」とコメントしました。
職員賞受賞:介護の新しい"3K"を目指して
新設された職員賞を受賞したのは、神奈川県川崎市のSOMPOケア ラヴィーレ久地の横山雅裕さんです。
横山さんは「Beサポ!の活動を通して、ご利用者様はもちろん、現場で働くスタッフともやりがいを創出し、笑顔あふれる介護をしていきたいです。私は『変えていく、価値ある、感動できる』という介護のニュー"3K"を目指しています。Beサポ!の活動はまさに、その『価値ある、感動できる』介護を実現するものです。私がやりたかった介護がここにありました」と力強く語りました。
ゴールド受賞:あきらめない91歳、転んでも立ち上がるヨシコさんの物語
そして、最高賞であるゴールドを受賞したのは、山口県山口市の「はるかぜデイサービスセンター」のヨシコさんの物語です。授賞式には本来出席予定だったヨシコさんの代理で職員の安立誠さんが登壇しました。
ヨシコさんは、レノファ山口FCの松田選手を推しとして選び、スタッフの支援のもと全力で応援活動に取り組みました。91歳という年齢にもかかわらず、目標に向かって困難を乗り越える姿は、支援者にとっても大きな希望となりました。
安立さんは「『ヨシコさんともっと楽しみたい』というスタッフの思いから始まった活動が、レノファ山口の松田選手との絆を結び、91歳の彼女に驚くべき活力を与えてくれました。目標に向かって困難を乗り越えるヨシコさんの姿は、私たち支援者にとっても大きな希望であり、原動力となっています」と受賞の喜びを語りました。
プレゼンターの安藤なつさんは、「推し活は本当に楽しく、明日への活力になると改めて実感しました。松田選手を全力で応援するヨシコさんを、職員の皆様が支え、そして松田選手もヨシコさんを支えるという、この温かい縁の循環にとても感動しました」とコメントしました。
さらに、授賞式にはJリーグ初代チェアマンの川淵三郎氏がサプライズゲストとして登壇しました。川淵氏は「Jリーグが目指してきた『スポーツを通じた地域社会への貢献』が、このような温かい形で具現化されていることに、感極まり涙が止まりませんでした。年齢を重ねると薄れがちな『生きがい』や『感動』を、皆様が全身で表現されている姿に、私自身が大きな勇気をいただきました」と感動を語りました。
第2部:トークセッション「よみがえる審査会"幸福寿命~人生100年時代を幸せに生きるヒント~"」
第2部では、お笑い芸人の安藤なつさん(メイプル超合金)、作家の岸田奈美さん、東京都健康長寿医療センター研究所副所長の藤原佳典先生、サントリーウエルネス生命科学研究所研究員の平野杉氏が登壇しました。司会は町亞聖アナウンサーが務め、「幸福寿命」をテーマにした深い議論が展開されました。
受賞物語に対する審査員の深い洞察
審査員を務めた岸田奈美さんは、ゴールド受賞作品について「今回、ゴールドを受賞した『あきらめない91歳、転んでも立ち上がるヨシコさんの物語』の中で気になった一文は、『この子はいい子だね~』ですね。本当に優しい人は、その行いが自分にとって当たり前すぎて、自らの優しさに気づかないものです。松田選手にとって自然な振る舞いであった拍手を、ヨシコさんが『いい子だね』と評し、さらにその何気ない一瞬をスタッフの方が見逃さずに書き留めたこと。誰かがその瞬間に気づき、書き残さなければ世に出るはずのなかったこの物語に、私はとてつもない価値を感じ、強く心を動かされました」と語りました。
藤原先生は、「高齢になると意識が自分に向きがちですが、選手に関心を持ち客観的に見ることは『社会的認知機能』の維持に不可欠です。今回の松田選手の施設訪問は、世代を超えたリスペクトと感謝が通い合う、人との繋がりの理想的な形だと感じました。相手の優しさに気づく広い視野を持つこと、それ自体が一番の優しさであり、そうした心の交流が生まれたことを大変嬉しく思います」と熱く語りました。
また、ゴールドを受賞した施設職員の安立さんも登壇し、「施設で選手の写真を掲示した際、入居者のヨシコさんが自ら松田選手に推しの付箋を貼っていたことが何より印象的でした。私たちがお膳立てするのではなく、ご自身で『今年はこの子』と楽しそうに選ばれたことに、本人の意思と喜びを強く感じました。実際に松田選手が来訪された際も、初対面とは思えない、家族のような距離感で接しており、その温かい光景に私たちスタッフも胸が熱くなりました。この『自分で選ぶ喜び』と選手との絆の物語は、どうしても皆様にお伝えしたかったエピソードです」と詳細を語りました。
安藤なつさんは、シルバー受賞作品について「今回、シルバーを受賞した『応援の魔法がもたらした、介護現場での驚きの変化』の中で気になった一文は、『引っ込み思案だった阿部さんが、いつしか施設を超えて社会とも関わりを持つように』ですね。元々は引っ込み思案だったということですが、スタジアムで大声を出して応援する推し活サポーターに変わり、生き生きとされている姿に希望を感じました。お料理などの場面でも、単に手伝ってあげるのではなく、人生の先輩である阿部さんに頼ることで、その輝きを引き出している点が本当に素晴らしいです。きっかけさえあれば、人はいくつになっても新しい世界に行けるのだと、阿部さんを見て改めて実感しました」とコメントしました。
「幸福寿命」を科学的に検証
サントリーウエルネスは2023年より、健康かそうでないかに関わらず、本人が幸福を感じて生きられる期間を「幸福寿命」と定義し、研究に取り組んでいます。
研究員の平野氏がBeサポ!に参加するシニアを対象にした研究について説明しました。「サントリーウエルネスでは2023年より研究に取り組み、健康かそうでないかに関わらず、本人が幸福を感じて生きられる期間を『幸福寿命』と定義し、その重要性を発信しています。
Beサポ!に参加している方々の調査では、推し活が『生きがい』と強く連動しており、他者とのつながりの質と量が豊かになることや、役割ができ、承認されることが幸福度の向上に寄与していることが確認できました。日常の中で心が動くワクワクを見つけ、つながりを感じ、誰かに認められる役割を持つこと。これら3つの要素が幸福寿命を延ばす鍵となりますので、ぜひ皆様も日々の生活の中で意識してみてください」と解説しました。
各登壇者が語る「人生100年時代を幸せに生きるヒント」
トークセッションの最後に、「あなたの考える、人生100年時代を幸せに生きるヒントとは?」について各登壇者がフリップで回答しました。
岸田奈美さん:「自分が楽しくて健やかなのがいちばんやで!」
「誰かのために尽くすだけでは長続きしません。まず自分が心から楽しむことで、そのポジティブなエネルギーが自然と周囲を助けることになります。親がイキイキと過ごす姿は、家族にとっても何よりの安心につながります」
藤原先生:「"3つのK" 感謝・寛容・感激」
「日々に感謝し、他者を許す寛容さを持ち、心を動かす感激を大切にすること。『感謝・寛容・感激』という新しい"3K"にあります。この要素こそが、現代の私たちが幸福寿命を延ばすための羅針盤となります」
安藤なつさん:「好きぃー」
「お笑いと並行して、介護の仕事がとにかく『好き』で、20年間関わってきました。利用者さんが喜んでくれると心が踊ります。ご家族の介護をされている方には、プロである介護職の私たちを頼っていただき、私自身も『好き』という熱量で関わり続けたいです」
研究員 平野氏:「趣味を持つ、続ける」
「研究においても、趣味は幸福度向上や生きがいに繋がることが明らかになっています。趣味を通じて他者との交流や『先生役』という新たな役割が生まれる事例もありました。社会との接点を作り人生を豊かにする鍵として、趣味を大切にしてほしいです」
全国230施設に広がる活動の今後
Beサポ!は2024年12月時点で、全国約230施設・延べ約1万人の参加者に広がっています。この急速な拡大の背景には、活動がもたらす具体的な成果があります。
参加施設からは、「入居者の表情が明るくなった」「会話が増えた」「食事量が増えた」「夜間の睡眠が改善した」といった声が寄せられています。また、施設職員にとっても、入居者の新たな一面を発見できる機会となり、ケアの質向上につながっているといいます。
サントリーウエルネスとJリーグは、今後もBeサポ!の活動を全国に広げていく方針です。単なるレクリエーションではなく、「幸福寿命」という新しい概念のもと、科学的根拠に基づいた高齢者の生きがいづくりを推進していきます。
介護現場が抱える課題は多岐にわたります。人手不足、業務負担の増加、入居者のQOL(生活の質)向上——。そうした中で、Beサポ!のように入居者の主体性を引き出し、「支えられる」だけでなく「支える」存在としての役割を創出する取り組みは、介護の未来を切り拓く一つのモデルケースとなるでしょう。
「いくつになってもワクワクしたい」——このシンプルな願いを実現する仕組みづくりが、今、全国の介護現場で静かに、しかし確実に広がっています。
<説明会へのご参加はこちら>
▶Beサポーターズ!スタートアップ説明会 申込アンケートフォーム