お母さんが毎夜、徘徊をしてしまう。家族が引き止めると暴言を吐いたり、叩いたり…お母さんはアルツハイマー病で脳が萎縮してしまったから、こういうことが起きるのね!?
認知症の原因は脳にあると考えると、家族や介護職はできることがなくなり思考停止に
原因と結果を間違えてはいけない
お年寄りがボケる原因は多彩かつ複雑です。ボケたことによって起こる症状のすべてを脳のせいにしていたら、一種の思考停止に陥ります。きっと「問題行動」の原因を考えない介護者ばかりになってしまうでしょう。
認知症の原因が脳の萎縮や変性にあるという一見医学的な説は、原因と結果を取り違えています。寝たきり老人の足の筋肉が萎縮していたとしても、萎縮が原因で寝たきりになったと思う人はいないでしょう。寝たきりの結果として 委縮が起こったことは明白です。
ALS(筋委縮性側索硬化症)や筋ジストロフィーであれば筋肉の萎縮が寝たきりの原因ですが、そのような人は全体のごく一部でしかありません。
同じように、脳の萎縮や変性もボケた結果と考えられます。ボケた生活が長く続いた結果、脳の萎縮や変性が起こったのです。
若年認知症に見られる真性のアルツハイマー病やピック病は、確かに脳の萎縮や変性による器質的な認知症だと思われます。しかしそれは、認知症全体の数パーセントにすぎません。
「問題行動」という言葉について
認知症のお年寄りが起こす徘徊や暴力は、かつて問題行動と呼ばれていましたが、周囲が問題と感じるだけで、本人にはそうせざるを得ない理由があるのだという考えから、次第に使われなくなりました。近年ではBPSDとか、それを訳した「認知症に伴う行動・心理症状」または「行動・心理症状」と呼ぶのが一般的です。本コラムでは、「問題介護に伴う老人の行動」の略語として、カッコ付きの「問題行動」と表記します。
環境の変化や身体の不調などいろいろな原因が考えられる。見逃すな!
老いた自分との「関係障害」ではないか

本来人間は、多くのものに囲まれた豊かな関係の中で生きています。それが障害や加齢によって狭くなり、一方的になった状態を「関係障害」と呼びます。認知症は、老化した自分を認められないお年寄りが起こす、自分との関係障害と考えられます。
「問題行動」の原因は、脳の萎縮や変性より、むしろ環境の変化や体の不調にあることが多いのです。それを発見して改善させるのが、家族や介護職の役割となります。

脳の萎縮によって認知症状が出ているとは限らない