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堀ちえみ「”ステージ4”から前進できたのは、愚痴に寄り添わなかった家族のおかげ」

今回のゲストは歌手の堀ちえみさん。堀さんは、2019年2月に口腔がんの一種である舌がんのステージ4の宣告を受けました。その後、食道がんも見つかり、3ヵ月の間に2度の手術を受けています。医療スタッフや家族に支えられての懸命なリハビリの結果、歌手としても復帰。口腔がんの啓蒙に精力的な活動を続けています。今回は、初期の段階で口腔がんを見つけるポイントや闘病の支えになった家族との絆、遺伝子検査の意外なメリットについて漫画家くらたまとのお話が弾みました。

著者:堀ちえみ 扶桑社(2019/10/19)

口内炎との見落としから舌がんのステージ4と診断されるまでの経緯、闘病やリハビリの葛藤、「生きたい」という思いを抱かせてくれた家族との絆...。病に向き合う堀さんの率直な思いをしたためた闘病記。「鉄のメンタル」の一端を垣間見ることができます。

正しい診断が下ったときにはステージ4

くらたまくらたま

以前テレビでお見かけしたときよりも、話す力がかなり戻っていらっしゃいますね。でも「口腔がん」がわかったときはステージ4。ご著書にも書いてありましたが、がんだとわかるまでに半年以上かかったそうですね。

堀

そうですね。いろいろな医療機関で診てもらったのですが、正式な病名がわかるまでには半年かかりました。

くらたまくらたま

そんなにわからないものなのかな?と思いながら読んでいました。

堀

最初に診てもらった先生には、「これは口内炎ですね。それよりもそろそろホワイトニングをしないとね」と言われました。

くらたまくらたま

それはひどい診断ですね。

堀

ええ。

がんが進行するまで正しい診断がされなかったのは悔しいです。でも、私と同じかそれ以上に主人が悔しがっていました。この悔しさをどこかに発散したかった。

それから、私と同じような思いをする人を減らしたい。早期発見につなげられれば、病気に意味を見出すことができるのではないかと思うようになったんです。堀ちえみ

 

口腔がんは見えるところにできるため、正しい知識を持つことで初期の段階で治療できるんです。

悲劇のヒロインにはなりたくなかった

くらたまくらたま

肉眼で見えるということは、大きなヒントですよね。

堀

そう思います。私や家族は舌がんや口腔がんの知識がありませんでした。私は今まで口内炎もできなかったんです。だから「口内炎って治りにくいものなんだな」と軽く考えていました。

くらたまくらたま

口内炎になったことなかったら、そう思っても不思議はないですね。信じていた歯科医師に言われたわけだし。

堀

ええ。それに痛みに波があることも、がんだと気づくまでに時間がかかってしまった理由の一つでした。私の場合、静まっては、また暴れるということを繰り返していました。

くらたまくらたま

その後どうなったんですか?

堀

舌の裏側が腫れ、その部分が痛かったんですが、時間とともに引いていきました。その代わり、舌の側面が割れ、痛くなっていきました。

あれ?と思ったときには、舌の厚みが増して、しこりができていました。その頃は、もうリンパに移転していたんです。

「ステージ4」と聞いたとき、これだけ放置してきたんだから、もう助からないと思いました。

くらたまくらたま

本当の病名がわかった途端、ステージ4ですからね。絶望してしまうのもわかる気がします。倉田真由美

堀

ええ。今言えることは、お口の中に違和感を感じて2週間治らなかったらがんを疑った方が良いということです。

くらたまくらたま

なるほど。それはぜひ皆さんに知ってほしいですね。

万が一、2週間以上口内炎に悩まされている方がいらしたら、今すぐに口腔外科で検査を受けてほしい。そうした警鐘を鳴らすという意味で、公表した方がいいのではないか。主人も、同意見でした。

(『Stage For~ 舌がん「ステージ4」から希望のステージ』P45より引用)
堀

早期発見できたら、私のようには言語の障がいは残りません。だから、この病気の知識を一般の方にも広げようと思いました。

くらたまくらたま

闘病の支えというところでは、ご家族の力の大きさを感じますね。

堀

そうですね。家族が「かわいそう」という接し方ではなかったことに一番救われました。私がいないところでは、子どもたちも泣いていたようですけど。

くらたまくらたま

同情されると、自分で自分のことをかわいそうだと思ってしまいますもんね。

堀

そうですね。口腔がんを公表するにあたっても、絶対悲劇のヒロインにはなりたくないと思っていました。

くらたまくらたま

公表されたとき、ものすごく騒がれましたよね。あらゆる媒体で堀さんを見かけた記憶があります。

堀

正直私もこんなに騒がれるとは思っていませんでした。今は2人に1人はがんになる時代です。「そんなに騒ぐことかな」と思いました。でもよく考えたら、表に出る仕事をする人で、口腔がんや舌がんの公表をした人がこれまで少なかったからだと思うんです。

初期段階で気づいていれば、手術は歯科医院でできた

くらたまくらたま

もし最初の段階で気づけていたら、残せていた舌の大きさも違いますよね。

堀

はい、違ったようです。それに、初期の段階で見つかれば、歯医者さんの処置室で簡単に切って終わりだったと言われました。

くらたまくらたま

えー!それだけ?

堀

そうなんです。それを聞いたとき私もびっくりしました。

検査も簡単です。新型コロナのPCR検査のように粘膜を少し擦ることで良性か悪性かの判定がつくそうです。でも、口腔がんは血液検査などではわからないと言われました。人間ドックの項目にも入っていません。

くらたまくらたま

血液ではわからないんですね。

堀

口腔がんであることを見つけてくださった先生は、ぱっと見てがんだと診断されました。

くらたまくらたま

お医者さんによって、全然診断力が違いますね。でも、こうやって口腔がんのことを少し知るだけでも予防できそうな気がしました。堀さんがされていることは、すごく意味のある啓蒙活動だと思います。

堀

「助かりました」と言っていただいたり、「私はリハビリなしで大丈夫でした」というお手紙をいただいたりすることも増えました。そんなメッセージをいただくと「私のつらい経験は無駄じゃなかった」と感じます。堀ちえみ

がんになって「よかった」とは到底思えませんが、この病気を通していろいろ学べていることを考えると、私はがんという病気をしたことで、とても大切なものを得ていると思うのです。

(『Stage For~ 舌がん「ステージ4」から希望のステージ』P157数より引用)
くらたまくらたま

多くの人を救っているじゃないですか。

遺伝子検査の思わぬメリット

くらたまくらたま

あと、遺伝子検査を受けたことも本に書かれていましたね。結果はどうでした?

堀

面白いですよ。細かくチェック項目があるんです。例えば、お酒が強いか弱いかもわかります。

くらたまくらたま

どうでした?

堀

弱いという結果が出ました。もともとはすごく飲めたんです。でも、病気で1、2年前から受け付けなくなりました。飲めるはずなのに…と思って飲んだら、眠くなったり顔が真っ赤になったりするんです。ちなみにお酒を飲んで顔が赤くなる人は食道がんのリスクが高いと主治医からお話がありました。

くらたまくらたま

そうなんですね。

堀

その上、やはり食道がんは注意すべき項目だと遺伝子検査に出ていました。

くらたまくらたま

すごいです、遺伝子検査。

堀

唾液を採取するだけでたくさんの項目の検査ができます。先祖はどこから来たのかというルーツまでわかるんです。結果を見ると、私の遺伝子の先祖はヒマラヤ山脈やエベレストなど、いろいろなところを渡ってきていたということがわかりました。アメリカに行かずにマレーシア方面から朝鮮半島を通って日本に入ってきた民族だと書かれていました。

くらたまくらたま

面白い!

堀

そのルーツを持っている日本人は、ごくわずかだそうです。

くらたまくらたま

多くないですね。

堀

すごく少ないです。山脈を超えている間に病気になって息絶える人もいたそうです。そうやって淘汰されていく中で生き残ったと書かれていました。

くらたまくらたま

そんなことまでわかるんですね。やってみたい!倉田真由美

堀

その話を聞いて、「だから大きな試練をいくつも乗り越える鉄のメンタルがあるんだな」と主人が大笑いしていました。ちなみに主人はアメリカの方から来た民族だったという。

やってみて感じたことは、ルーツがわかると、自分の身体が愛おしくなるということ。もちろん病気の回避にも役立つと思います。

くらたまくらたま

確かに。リスクを知っておくって大事ですね!

堀

目の色のほか、髪の色や質までわかります。髪の毛が柔らかいか硬いか。毛深いかどうかといった身体的な特徴も全部出てるんです。

くらたまくらたま

すごいですね、唾液だけで。

堀

性格までわかると書いてありました。明るい・やや明るい・やや暗い・暗いにわかれています。生活リズムが朝方か昼型か夜型かも判定されていました。

くらたまくらたま

そんなことまでわかるとは!

堀

ええ。DNA検査はアメリカなどでは大変重視されているそうですね。予防できるものは先に予防しておこうという考えです。

くらたまくらたま

健康に役立つ以前に面白いですね。

堀

家族の会話のネタにもなります。主人は「会食での話のネタにもなる」と言っていました。

くらたまくらたま

堀さんは今年、読み聞かせの本を出版されたとお聞きしました。どのような思いを込められたんですか?

堀

言葉がここまで出て、話せるようになった。それを声で伝える方法はないかと考えていたんです。

そしたら主人が「絵本の語りができたらいいんじゃないか。長年応援してくださっている絵本作家の方にお願いしてみよう」と言ったんです。すると、絵本作家の方も快く引き受けてくださり、一冊の本が出来上がりました。

「お母さんには次の目標があるでしょ」

くらたまくらたま

リハビリのモチベーションはどんなふうに維持されていたんですか?

堀

最初は家族と会話したい一心です。それしか考えていませんでした。そもそも命が助かったときには、欲が全部なくなって「生きてるだけでいいや」と思っていたこともありました。

目に入るもの、耳から聞こえるもの、すべてが美しいと感じていたんです。その思いにしばらく浸っていましたね。

すると「お母さん、ファンの人のことを考えなきゃ」と、当時16歳だった娘に言われました。「お母さんには次の目標があるでしょ」と言うんです。堀ちえみ

そして「そうだ!私は歌うことを皆さんに約束したんだ」と思い出しました。人間ってやっぱり欲を出さないと次に行けないものだと実感しました。

くらたまくらたま

確かに欲は必要ですよね。

堀

言葉がここまで出て、話せるようになった。それを声で伝える方法はないかと考えていたんです。

やりたいことをどんどんつくらないと、前に進めない。心が折れてどんどん後ろ向きになっていく気がしていたんです。

くらたまくらたま

「歌いたい」という思いで、ずっと前に進んでこられたんですね。

堀

「何のためにリハビリやってるんだろう」とむなしくなる時も多々ありました。 私の話し方が聞き取りにくくて不快な思いをさせているかもしれない、と不安になったこともあります。筆談で会話すれば済む話だし、喋らない方が相手の反応が返ってこないから傷もつかないと考えたことも1度や2度ではありません。

そんなことを考えていると、あのときなんで早く見つけてもらえなかったんだろう、と過去を悔やむ思考回路に入ってしまいました。

くらたまくらたま

立ち止まることもあったんですね。

堀

そうなんです。でも、前に進むしかないと。そうしないと過去に戻されてしまうと自分を奮い立たせました。

2度の離婚を経験して出会えた夫への感謝

くらたまくらたま

確かにそういう発想になりますよね。その気持ちの転換は自分でされたんですか?

堀

家族が前を向かせてくれました。家族にも私の思いが伝わらないこともある。それはもう仕方がないと割り切りました。

一度「がんになった人しか、この気持ちはわからない」と主人にストレスをぶつけたことがあったんです。そのときに「冷たいかもしれないけど、僕はがんになったことがないから、君の気持ちは100%わからないよ。でも君もがん患者の家族の気持ちはわからないだろ」と言われたんです。

さらに「もしかしたら1年後、君もがん患者の家族になるかもしれないんだ。どっちがいつお互いの立場になるかもしれない。だからわかり合うことを追求するのはやめよう」とも言ってくれました。

くらたまくらたま

言葉の重みを感じますね。旦那さんとは結婚して何年ぐらいなんですか?

堀

10年です。

くらたまくらたま

10年でそんな言葉のやり取りができる関係性ってすごく良いですね。

堀

私の愚痴に寄り添って聞くというよりも、将来のためにどうすればいいかを考えたい人。リハビリがつらいときも「前はこんなんだったんだよ。確実に進歩してるだろ」と過去の動画を見せながら言ってくれました。

がんと確定されたことがショックで、気持ちがどんより沈んでしまいました。
そんな私に、主人はまたこう言うのです。
「やっぱり、君は幸運に恵まれているね」

主人いわく、舌がんを患ったからこそ、食道がんを早期に見つけることができた。それに、2か月前の検査入院の時に胃カメラを飲んでいたら、まだその時にはがんはできていなかったかもしれない。このタイミングで検査を受けられたからこそ、見つけられたのだろうと。

(『Stage For~ 舌がん「ステージ4」から希望のステージ』P89数より引用)

主人も私もバツ2で、お互い2回結婚がダメでした。「壊れてしまったものは仕方ない」というところからスタートしている者同士なんです。

くらたまくらたま

素敵だ。堀さんは思っていた以上にお元気だし、すごく前向きですね。

堀

メンタルは鉄ですね(笑)。主人も私も悔しさをバネにしていくタイプです。

くらたまくらたま

そのメンタルでいろいろな病気を乗り越えてこられたんですよね。

堀

原因がわからない病気ばっかりです。

くらたまくらたま

本にも出ていた大腿骨の病気は相当難病ですよね。

堀

痛くて痛くてどうしようもありませんでした。でも、病気を診断されたことで、痛みの原因がわかりました。

手術を受けるか聞かれたときも「痛みから解放された方が絶対に人生楽しいから、そっちを選びます」と言ったんです。そしたら、手術後は生活の質がとても良くなりましたね。

くらたまくらたま

それも前向きな考え方ですね。

堀

私は常に目標を持って生きたいと思っています。無理だと思うと、 主人が「進め!前しか見るな。先にはいっぱいヒントがあっても、後ろには何も落ちてないぞ」って言うんです。

くらたまくらたま

仲良いですね!実は今日、夫に「堀さんに、旦那さんとどうなのか知りたいから聞いてきて」って言われたんです。それで、さっきマネージャーさんに聞いたら「超ラブラブです」って仰ってました(笑)。

堀

ふふふ(笑)。

くらたまくらたま

「そんなにか!もう結婚して結構長いのにな」と思ったんですけど。本当に仲良しなのが伝わってきました。良い具合に助け合い、支え合っていらっしゃる。相当相性が良いんですね。

堀

2度の離婚を経験してやっと出会えたと思っています。

倉田真由美イラスト

堀ちえみ

大阪府堺市出身。1967年生まれ。第6回ホリプロスカウトキャラバンで優勝し、1982年デビュー。3度目の結婚で7児の母になる。2019年2月、自身のブログにて舌がんのステージ4と診断され、左首のリンパ節に転移していることを公表。同年10月に出版した『Stage For〜舌がん「ステージ4」から希望のステージへ』(扶桑社BOOKS)に闘病生活をつづっている。2020年1月には芸能活動復帰を報告。2021年6月、発語のリハビリ用の絵本『10のことば』(扶桑社BOOKS)を上梓した。同書では、巻末のQRコードで堀さんの読み上げ音声を聞くことができる。

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