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室井滋「”一人ではない”と教えてくれた、コロナ禍での奇跡の出会い」

今回のゲストは女優の室井滋さん。個性的な演技がお茶の間で愛され続けてきた室井さんは、エッセイや絵本の執筆にも長く携わっています。2021年2月に上梓した『会いたくて会いたくて』(小学館)は、自身のコロナ禍での体験にヒントを得て書かれたもの。続く3月に出版の『しげちゃんのはつこい』(金の星社)でも出会いと別れを切なく描き、幅広い世代の感動を呼んでいます。今回は、絵本制作の背景や今夏に体験したばかりの不思議な出会いの物語、室井さんが大切にしている価値観について漫画家くらたまがお聞きしました。

著者:室井 滋 (著)・長谷川 義史 (イラスト) 小学館 (2021/1/29)

絵に添えられた室井さんの温かい言葉に、彼女の人柄がにじみ出る。物語の主人公は小学生。「しばらく老人ホームにいっちゃだめ」とママに言われるも、知恵を絞って……そのストーリーは、コロナ禍で同じ状況に置かれた人たちの共感を呼びました。室井さんと長年交流がある長谷川義史さんのイラストも、室井さんの世界観を絶妙に表現しています。

祖母のオムレツに入っていた輪ゴム

くらたまくらたま

室井さんは介護の経験はありますか?

室井室井

子どものときに祖母が認知症になりました。両親が離婚して祖母と暮らしていた頃です。認知症がどういうものかは、若いうちからよく知っていました。最初は、おばあちゃんの様子が変わっていくことが信じられませんでしたね。

くらたまくらたま

そうですよね。

室井室井

ある日、おばあちゃんがつくってくれたオムレツの中に輪ゴムがパラパラ入っていたんです。ご飯を食べたことを忘れることもありました。

くらたまくらたま

それは、なかなかですね。

室井室井

そして最終的には町の病院に入りました。父が仕事でいないことが多かったので、私が大学に行く頃には祖母と一緒に住む人がいなくなったのです。

今は認知症になった方を病院や施設でケアすることは珍しくありませんけど、当時は「ボケたから施設に入れたんだ」と見る風潮があったんです。田舎だったので、なおさら風当りが強かったです。

私は東京の大学に進学しましたが、「地元の大学に行って、地元で就職した方が良かったんじゃないか」と後悔していました。そうすれば、おばあちゃんの面倒が見られます。それぐらい祖母が好きでした。

くらたまくらたま

その後、おばあさまは何歳まで生きられたんですか?

室井室井

98歳です。父方と母方の祖母2人ともそれぐらいですね。

認知症にならないために…電話番号を50個覚えている

くらたまくらたま

長寿だ!

室井室井

長寿なんです。2人とも年をとってから認知症になって亡くなっています。ただ、本人たちの最期のあり方としては、それほど不幸ではないように見えました。

私はこの2人によく似ているので、認知症の危険があると思っています。子どももいないし、一緒に住んでいる人も正式に籍が入っておらず、年も一回り離れています。だから、おばあちゃんぐらいの年になったときは一人だと思います。

そうなると「年とっても生活できるようにしておかないと」と考えますね。また、自分の意識がなくなったときにどうするかを考えないといけないと思っています。

くらたまくらたま

なるほど。

室井室井

認知症になると、セリフが覚えられなくなって女優の仕事はできなくなるでしょう。それが怖いから、人の電話番号を50個ぐらい覚えているんです。

くらたまくらたま

えーそんなに!それすごいですよ。でも良い方法だと思います。認知症の兆候に自分で気がつきそうですね。

室井室井

そうですね。認知症になって物事がわからなくなる前に、今住んでいる家や富山の実家の整理をしないといけないと考えています。コロナ禍でキャンセルになるお仕事もあるので、今はいろいろなことを整理するのに良い時期です。

「出会いの大切さ」をテーマに絵本を書きたかった

くらたまくらたま

『会いたくて会いたくて』は、心が温まる絵本ですね。どんな思いを込められたのですか?

室井室井

『会いたくて会いたくて』は、2020年の最初の緊急事態宣言のときに書き始めたんです。この頃、全然会っていなかった人からたくさんお手紙をいただいたんです。

学生時代や自主映画をやっていた頃の友達など、こんな状況でなければ手紙をいただかなかったような人もいました。メールアドレスを知っているわけではないから、事務所に肉筆の手紙で来るわけです。

くらたまくらたま

手書きのお手紙にはいろんな思いが詰まっていそうですね。

室井室井

それにお返事すると、しばらく会っていなくても一気に距離や時間が縮まって不思議だなぁと思うんです。会っていなかった時間は何なんだろうと考えました。

また、会わなくなってからの近況を伝えてくれるものも多くありました。「コロナ禍で、余命いくばくもないがんの母に会えない」とか、逆に「コロナ禍だったからリモートになって実家の家族のもとで仕事ができた」と伝えてくださる方もいました。そういったことがあって、人の出会いと別れをテーマにしたお話を書きたいと思い始めたのです。

会えない分、思いは強くなるよ。
その人のことを心のそこから考える時間が タップリあるからね。

何十回会うより、たった一回会った時のことを
ずっとおぼえてること、あるだろう?

(『会いたくて会いたくて』より引用)
くらたまくらたま

コロナ禍だからこそ、出会いの大切さに気づく人もいますね。

室井室井

そうですね。出会いや別れについては、コロナ前よりも意識されるようになっています。価値観が変わりすぎて、コロナが明けたら何を大事にしていったら良いのか悩まれる人も増えそうです。

『会いたくて会いたくて』の最後の方に四つ葉のクローバーを登場させています。これはたまたまテレビで見ていた京都大学の山中伸弥教授からヒントを得ました。山中教授は「京都大学の近くの雑木林を散策していたら四つ葉のクローバーを見つけました」とテレビで話されていました。

「最新鋭の頭脳を持つ人でも、四つ葉のクローバーを見つけたらやっぱり嬉しいんだ!」と思ったことが心に残っていたのです。

くらたまくらたま

テレビで話しちゃうぐらい嬉しかったんですね。

十数年ぶりに乗った故郷の電車で奇跡の出会いがあった

くらたまくらたま

室井さんご自身も、コロナ禍で印象に残る出会いはありましたか?

室井室井

はい、実はあったんです。前置きになるのですが室井家の話をさせてください。富山の実家は本家ですが、県内に室井という苗字の家はありません。室井の10代目は私で、もう身内がいません。

くらたまくらたま

そうなんですか。

室井室井

ただ、分家が一つあったんです。そこには私が「かつみちゃん」と呼んでいた人が住んでいました。かつみちゃんは小学校の先生だったので、当時小学生になった私は勉強を教えてもらったり映画に連れていってもらったりしていたんです。かつみちゃんがお嫁に行ってしまってからは会わなくなりました。

ところが東京に出てかなり年月が経った頃、飛行機の中でかつみちゃんとばったり会ったんです。とっくに祖母も父も亡くなっていて、私に家族はなく、彼女の情報は何も知りませんでした。

くらたまくらたま

えー、すごーい!

室井室井

かつみちゃんは校長先生になっていて、東京からの出張帰りでした。私は富山に仕事で行く便でした。飛行機の右端と左端で偶然出会ったのです。

くらたまくらたま

すごい偶然!よくわかりましたね。

室井室井

向こうから「しげちゃんじゃない?」と声をかけてくださったんです。そこからまたおつき合いが始まりました。その後は、富山で講演会やライブがあるたびに見に来てくれるようになりました。

でも、ここ最近お中元やお歳暮を送っても戻ってくるようになったのです。もう80代でしたから「病院や施設にでも入られたかな」と思っていました。お電話をかけてもつながりません。かつみちゃんの娘や息子の連絡先もわからなかったのです。気になって仕方がありませんでした。

くらたまくらたま

それは気になりますね。その後どうなったのですか?

室井室井

『会いたくて会いたくて』が出版されると、富山のすべての老人福祉施設に送りました。「この本を見てくれたら、かつみちゃんが私の思いに気づいてお手紙くれるかな」という思いと、純粋に寄付もしたいという思いもありました。

大切なのは人を思う心。
気持ちが強ければ、行けなくても
会えなくても、いろんなものが
キラキラとかがやいて見えてくる。

夜空の星や月を あの人もながめてる。
雨や風の音に みんなもリズムをとってる。
会えなくたって、喜びをかんじられる。
時間を止めて、じっくり世界を見つめてごらん

(『会いたくて会いたくて』より引用)
くらたまくらたま

なるほど!

室井室井

しかし連絡はありませんでした。その後、長い間行っていなかった叔母のお墓詣りに、従妹や従妹の子どもたちと一緒に行きました。8月13日・14日の天気予報が悪かったので15日に行くことにしたのです。

帰りはみんなで駅に見送りに来てくれて、長いこと乗っていなかった私鉄に乗りました。その車内で女の人から「滋さんじゃないですか?」って声をかけられました。最初はファンの方かと思いました。そしたら「私、かつみの娘です」って仰るんです。

くらたまくらたま

すごいな。

室井室井

「お母さんどうされてる?」って聞いたら「もう亡くなった」と言われました。彼女も東京からお母さんのお墓参りに来ていたのです。「次の駅で降ります」と言われるので、2分ぐらいの間に急いで連絡先を聞きました。

くらたまくらたま

濃密な2分だ。

室井室井

私は娘さんが降りていった後、電車の中で号泣しました。

くらたまくらたま

それはちょっと不意打ちですもん。でも向こうもよくわかりましたね。

室井室井

はい、マスクをしてすっぴん、髪もおさげなのに、普通じゃ絶対わからないはずです。でも従妹と話していた声でわかったのかもしれません。

早速次の日電話をしました。そして、かつみちゃんが亡くなったあと、お骨を納骨堂に納めたと聞きました。

かつみちゃんはその娘さんのことをすごく心配していたんです。「東京で良いお婿さんがいたら紹介してあげて」という手紙をもらったこともあります。その手紙をなくしてしまって、連絡先がわからないままになっていました。

娘さんと偶然会ったのは、かつみちゃんが「娘さんと仲良くしてほしい」と言っているんだなと思いました。娘さんのことは、生涯大事にしないといけないと思っています。

くらたまくらたま

不思議な絆ですね。

室井室井

お盆の出会いは、もう何十年も乗ってないような地方鉄道の中だったので、奇跡だとしか思えません。

くらたまくらたま

強烈すぎます。飛行機の話もすごいし、2回もそんなことが起こるなんて。

室井室井

かつみちゃんは「何か自分にあっても誰にも知らせるな」と言っていたので連絡しなかったそうです。「そのうちお知らせしなきゃいけないと思っていました」と娘さんに言われました。

校長先生まで勤め上げた人だから賢い人です。でも、すごくきっぱりしていました。自分が亡くなった後のことを考えて墓じまいをし、お家も処分していました。コロナ禍だったので、「こんなときだから誰にも連絡するな」と言っていたのです。死んでまで私にはそうやって知らせてくれたということに心が打たれました。

くらたまくらたま

本当にそうですね。

「一人じゃない」ということを教えてくれている

くらたまくらたま

つながり続けるって本当に得難い経験ですね。すごいな。

室井室井

かつみちゃんのことが気になって仕方ありませんでした。その答えが見事としか言いようがありません。その日が雨だったら、おそらく富山に行ってないかもしれないんです。

くらたまくらたま

すごい奇跡ですね。電車も一本ずれていたら会えないわけだし。

室井室井

しかもその電車に乗るつもりなかったんです。実は友達と別の約束をしていました。でもみんなぞろぞろついてきたから「早いのに乗っちゃおう」と思って乗った電車で娘さんと会ったのです。

くらたまくらたま

それはもう偶然とは考えられない。

室井室井

私って、みんなから「噓でしょ?」と言われるようなことがときどき起こるんです。心の奥底で密かに願ったり、考えていたりすると、現実になることがあります。

だから「もっと目に見えないものを大事にした方が良いんじゃないか」ということは、年をとって益々強く感じます。

くらたまくらたま

それは昔からですか?

室井室井

何かの宗教に強く嵌っているわけではないんです。でも「お前だけで生きてんじゃないよ」と言われているような何かが戒めのように起こります。だから、悪いことできないなと思っています(笑)。かつみちゃんの娘との出会いも「一人じゃない」ということを教えてくれているように感じました。

世界中の猫を幸せにすることはできない

くらたまくらたま

室井さんが普段大事にされているポリシーってありますか?

室井室井

友達や仲間などの限られた範囲の目が届く人たちは、困っていたら助けたいと思っています。

くらたまくらたま

素敵な心構えですね。

室井室井

できることはして差し上げるし、できないことは「できなくてごめんね」と言います。あちこちに多額の寄付をするようなことはできないんですけどね。

昔。捨てられる猫を助ける活動をしていたことがあります。そのときに、自分でも猫をいっぱい抱え込んでしまいました。

ボランティアの人に「世界中の猫すべては幸せにできないんだよ」と言われて「確かにそうだ」と思ったんです。だから、自分にご縁があって助けられる人は助けるようにしています。

くらたまくらたま

逆にすごく助けてもらった経験もあるんですか?

室井室井

たくさんの人に助けられていると思います。口に出しては仰らなかったけど、かつみちゃんも富山の田舎で本家の私が出来ないことをいろいろしてくださったと思います。

その一端を垣間見れるようなことがときどき起こりました。舞台挨拶をしていたら、チケットもあげてないのにひそかに見に来てくれていたこともあります。「陰ながら応援してくれたんだな」ということが伝わってきました。

くらたまくらたま

素敵な繋がりですね。私も人とのご縁を大事にし直していきたいと思いました。
 

室井 滋

富山県生まれ。早稲田大学在学中に1981年映画「風の歌を聴け」でデビュー。映画「居酒屋ゆうれい」「のど自慢」「OUT」「ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜」などで多くの映画賞を受賞。2012年喜劇人大賞特別賞、2015年松尾芸能賞テレビ部門優秀賞を受賞。2021年映画「大コメ騒動」、「草の響き」に出演。新刊絵本に『しげちゃんのはつこい』(金の星社)、『会いたくて会いたくて』(小学館)。近刊エッセイ『ヤットコスットコ女旅』(小学館)、『おばさんの金棒』(毎日新聞出版)、絵本『すきま地蔵』(白泉社)、『むかつくぜ!』『東京バカッ花』『すっぴん魂』シリーズ他電子書籍化含め著書多数。全国各地でしげちゃん一座絵本ライブを開催中。

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