息子が結婚!
息子には本当に苦労させてしまった

息子が結婚した。30歳。ボクが倒れたのが息子が23歳のときだった。就職して2年目。スポーツジムに通い、大好きな本のためにはけっこう本屋にも貢献していた。わりと彼は多趣味だった。大学から付き合っている彼女もいた。ごくごく普通の若者だった。

それが、ボクが倒れてまもなく、彼の肩に重く「介護」という現実がのしかかって来る。

妻はよれよれになっていたし、娘はまだ高校2年生だった。自由業のボクは働かなくなった数ヵ月後には入金も無くなった。1年もの入院生活はそれなりにお金もかかった。

しかも、昨年までの税金や家のローン、もちろん生活していくためのお金もいる。収入の無くなった家計では少しばかりあった蓄えも保険のお金も見る見るうちに減っていったという。

妻も友人の会社を手伝って少しでも収入を得ようと働き始め入院中のボクの食事やリハビリに通ってくるというとてつもない重労働をした。

けれど、何より大変だったのは息子の気持ちだった。そんなグルグルうごめく家庭の中を、事務手続きをこなしていった。まだ、23歳。

移転先のリハビリ病院を探したり、家のローンのこと、区役所のこと、「駄目かもしれない」の宣告、手術をするかどうかの決断、胃ろうをするかの決断…。母親の片腕として懸命にやってくれた。

仕事もしながらボクの世話
「大変だった」なんてもんじゃないだろう

毎日病院に来ては動かなくなった身体をさすってくれた。ときにはおじいちゃんのところに頭を下げにいって厳しいことを言われて、もう駄目だと絶望を味わった。

そんな中でも「高校生の妹はボクが面倒見るから」そう言い放った。火の車だった家計のために「付け焼刃かもしれないけれど」と言ってスポーツクラブも大好きな本も買うのを辞めた。

仕事も忙しく、彼女とも付き合っていけるか不安になったそうだ。このままでは彼がつぶれてしまう。みんながそう思ったそうだ。

けれど彼は頑張ってくれた。ときには辛そうな顔も陰では覗かせていたらしいが、いつもいつも彼はボクに優しい顔で接してくれていた。

彼の話してくれる話は面白かった。いつの間に学んだのか、マッサージもかなりの腕前になっていて、固まった足や身体をさすってくれた。

大好きだったがまだ全然できないでいた将棋の相手もしてくれた。ボクの変わりに年末のお節つくりも買って出てくれた。

オムツ変えもお風呂も完璧にこなした。仕事を抱えた彼は大変だったというもんじゃないだろう。

息子の友人や彼女、そして家族…
多くの人に支えてもらった!

そんな中、何が彼を救ってくれたかといえば、彼の友人や周りの人たち。彼女はもちろん、彼女の家族、幼稚園からの友人、生徒会の仲間、大学の友人…そんな人々が彼を支えてくれたときく。感謝の言葉もない。

それと家族が一致団結して介護に向かってくれたこと。入院は1年にも及びほぼ毎日家族は通ってきてくれた。まだ自分ではご飯も水も飲めなかったボクにご飯を食べさせにきてくれた。

リハビリにも付き合ってくれて励ましてくれた。娘を含めた家族がみんなで団結をしていたから介護をしてこれた、そう言う。一人だったらきっとつぶれていたと思うと。

大変なのは目に見えてるのに
妻「一緒にいたほうがきっと良くなる」

病院から退院するときプロの皆さんは介護施設をすすめてくれた。けれど、家族は迷わず自宅に帰ってくることを選択したという。

「一緒にいたほうがきっと良くなる」そう思ったそうだ。息子も妻も娘も帰ってくれば今以上大変になるということは解っていたはずのなのに。

こんな大変なことなのにそういう話は後からきいたことでボクはまったくそんなことも知らずに解らずにいた。家族を一番に守っていきたいと思っていたボクがまったく逆のことをしている。謝っても謝りきれない。

しかし、妻が「パパが帰ってきてくれて家にいることでみんなが明るくなった」そういってくれる。あの切羽詰った苦しさみたいなものは少しずつ薄らいでいったように思うと。

それでも退院後4年ぐらいは試行錯誤。そうこうしている内にボクは大腸がんになったり…なかなか波乱万丈な生活は続いていった。

彼も介護生活が日常になっていくと同時に大人にもなっていったのだろう。楽になったわけでも、すべてがうまくいっているわけではないだろうが、6年かけてゆっくり我が家の介護のパターンができていったし、いろいろな問題も乗り越えていった。

妹も今年、無事に就職した。その間、息子の彼女も資格取得のため頑張っていたのだと聞く。

息子よありがとう!
何回言っても言い足りない

そして、めでたく大学時代からの彼女と9月に結婚した。はやく結婚してほしいと願っていた。ようやくその日がやってきたのだ。

「いままでありがとう」その言葉に尽きる。何回いっても言い足りない。

どんなにつらい思いをさせてしまったかどんなに頑張ってきてくれたか、親としてふがいなさを感じるとともにいい息子と娘を持ったことを誇らしく思う。本当によくやってくれた。

そして息子を見守ってくれいる彼女にも感謝している。こんなに優しい二人なのだからきっと幸せになると思う。なってほしい。

この秋は我が家も新しい生活がはじまった。