チームラボプラネッツTOKYOへ
未知のアートを体験しに行った
9月下旬、豊洲のチームラボプラネッツTOKYOにおじゃました。
老若男女の間で話題になっているこの展示がどんなものなのか、そして車椅子に乗っているボクがそこを訪れて楽しむことができるのか、体験してみたかったからだ。
豊洲チームラボプラネッツの展示といえば、スケールの大きい作品の中に身体ごと入って行き、圧倒的な没入感を味わえるところが特徴だ。
その表現ではちょっとわかりづらいかもしれないが、例えば天地左右境目のない映像の部屋の中に身を置くというのだ。新しい感覚のアートだ。ボクはその未知のアートにドキドキしながら、車椅子での展示の体験の仕方や注意点について説明を聞いた。

入口で検温し入場。自分の車椅子を預けて展示内専用の車椅子に乗り換えた。そして裸足になり、ズボンをまくり上げる。
車椅子の左側についている緑のテープのところまで水に浸かるエリアがあるからだという。そう聞いても、「?」というかんじで、イメージが湧かなかった。
ロッカーに荷物を預けたらいよいよ出発だ。

「高齢者だから…」と
体験しないのはもったいない!
無数の光が空間いっぱいに輝く部屋があった。自分のスマホにダウンロードした専用のアプリから、その無数に光が輝く空間にいろいろな形を投影できる。

そのアートの空間に自分も参加しているのだ。キラキラな部屋は天までつながっているように見えて、ここはどこなんだろうと思う。ああ、ここにうちの義母や義父も連れてきたいなあと思った。驚く顔が見てみたい。
光の中に自分がいるような錯覚。自分が巨大な光のオブジェの一部になっている。

たくさんの経験をしてきた高齢の両親だが、これは体験したことないだろうな、と思う。ボクが体を悪くしてから思うことは、健常な頃「車椅子の人にはこれは無理なんだろうな」とか、「誘ったら悪いかな」って思っていたことも、それはこっち(健常者)が決めることではないということ。当たり前なことだけど、限界や「やめとくよ」は当事者が決めればいいと思う。
「高齢者だから…」も同じ。こんな素敵なところを体験しないでいるのはもったいない。新しいことをどんどん体験していってほしい。

言葉や年齢は関係ないアート
もちろん車椅子でも楽しめる
新しい試みの空間だから若い人ばかりだろうと思って聞いてみたら、家族連れや友人同士、カップルだけでなく、高齢の方、車椅子の方などさまざまな方がいらっしゃるという。
海外からの観光客の方の評判も思った以上に良かったと聞いた。どこかのサイトで話題になったのか、東京に行ったらぜひあそこにはいくべきだとうれしい噂もたったのだという。
どこかの国の元大統領もお見えになって楽しんでいかれたという。一方で、小さな子どもも寝っ転がって天井を見つめ大の字になっていたりもする。
そうなのだ、言葉や年齢など関係なくアートを体験できるのがここの良いところなのだと思う。

車椅子で水の中に⁉
人生みたいに儚い映像にウットリ
ある部屋に入っていくと、膝下ぐらいの水の中に入っていく。しかもずいぶん広い。車椅子ごと水の中に入っていくのだ。いや〜、日常の中ではこんな体験なかなかできるもんじゃない。

ボクの周りの水面には、たくさんの鯉がグルグルと泳いでいる。投影された鯉は、ボクだけでなく水の中にいる人を中心に泳いでいる。いつの間にか。子どもたちは大はしゃぎ。大人だって、その「非日常」の空間の中で足をパシャパシャしたくなる。
鯉を足でバシャバシャしていると形は崩れて花となる。持ち上げた水面の足の上で花が舞う。水面で花びらがひらひら舞う。手で摘めば花びらが拾い上げられるんじゃないかと錯覚するぐらいリアルだ。
しばらく大はしゃぎで車椅子でくるくる回っていると、水面がカラフルな螺旋を描いて、さらにアート感が強くなる。子供の頃やった、水面に絵具を垂らして紙に写しとる“マーブリング”を思い出す。大きな池でそれができたら…と子供の頃思ったが、それが実現してしまっているような、そんな感じである。
アートの中にいることはもちろん、アートに“触れている”という新しい感覚だ。
一つひとつの映像や動きは、その瞬間の唯一無二のもので、同じものは二度と見られないという。そのとき、そこにいる人のみが、その瞬間に見ることができる作品となる。今見ているのもが二度とない作品だと思うと、その儚さに、目に焼き付けておこうと思ったりするかもしれない。
けれど、「ああ、きれいだなあ、あの入り混じった色が…」なんて思った瞬間消えてなくなるのは、それはそれで人生を見ているみたいで好きである。ほかにもいろいろな部屋があって、その時々の作品を作っている。
ボクは花舞う宇宙に浮いたのか…
そんな体験を皆にしてほしい
一面に花が咲き乱れた空間で車椅子に座っていたボクは、車椅子のまま宙に浮いたのかと思った。入ってきた入り口が黒く遠くに見えるが、それも動いていくようだ。

映像が回っているのか、自分が部屋の中をまわっているのか一瞬わからなくなる。それは怖いものではなく心地良い。お花畑に漂っているようでもある。絵の中にいるようでもあり、今まで見たこともない空間にいるようでもある。
床に寝転んでみると宇宙にいるみたいだ。花の舞う宇宙空間に浮いている気分になる。360度花に囲まれている。無重力の空間で漂うのってこんな感じなのかな?と思う。
最初はドキドキしたが、しばらくすると心地良い子守唄にも似た効果がある。ふわふわ気持ちが良い。
そんな不思議な体験を、お元気な高齢者の方にもぜひしてもらいたい。今までに体験したことのない不思議な空間に驚いてほしいのだ。
高齢者や障がいを持っていても楽しめる、新しい感覚の場所を紹介したかった。ここは、久々にすすめたくなる場所だった。
そうそう、ここはトイレもバリアフリーで広くてシンプル。使いやすそうである。トイレの心配がないのも外出の決め手だ。

この日は台風が来ていたけれど、体験を終えて外に出ると雨も小雨になっていた。豊洲を車で走らせると海の向こうに高層ビルが見える。豊洲の街並みも未来を感じる。チームラボプラネッツTOKYOのアートを体験した後にここを走っていると、「ちょっと未来にやってきたなあ」という気持ちになった。
新型コロナで外に出ることを恐れていた高齢者たちが、足腰が弱くなったと口々に言う。足腰が弱くなると動くのも億劫になる。そして動かなくなればますます筋力は低下する。それでは体の機能も悪くなる。
もしも外出しても良いという気分になったら、ちょっと出かけてみるのも良いと思う。新型コロナ対策も、検温・空調・消毒とかなり気を遣っているように見えた。暗いし視覚的にも非日常的な空間なので、高齢で不安だったら、車椅子をお借りして付き添いの方と一緒に回るのが良いかもしれない。
ご家族で来ても、小さいお子さんから学生さん、高齢者まで一緒に楽しめる。チームラボプラネッツTOKYOはどんな人にもおすすめのスポットだ。

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