昔は肩書き、今はからだの状態?
みんなのボクへの評価は??
ボクという人間にいろいろな人がかかわり、その人たちからの評価というのは人によってそれぞれまったく違う。面白いほど違う。いったいどれが自分に一番近いのだろうと思うことがある。
昔のボクでいえば、「あ!テレビで見たことある人だ」「ラジオでファンでした」「サブカルの変な人」「コラムニスト」「酒場の飲んだくれ」「こわい人」「やさしいパパ」。そんなとこだろうか。
けれど今は、「しゃべれない」「なにもわからない動けない人」「コラム書いてるんだから頭はしっかりしてるんだろう」とか、「穏やかで怒らない人」「カラオケ好きなおっさん」「何を考えているかわからない人」などなど、いろいろな自分に思われてるんだろうなあ…と感じる。
ときには、その人が思っているボクを演じているんじゃないかと思うこともある。結局、昔は肩書きや職業というフィルターをかけて見られることが多かった。あたりまえだけど、今は人間としての状態でボクをみる。そんなふうに人を分類することもあるんだなあと関心する。考えてみれば、健常なとき「あの方は足が不自由だから○○した方が良いかもね」なんて、打ち合わせの場面で普通に話していた。ボクの尺度で見たその人の評価だ。
あのー、ボク車椅子なんですけど…
ボクを見たこともないのに、すごい配慮
つい先日、広島県呉市の豪雨災害の説明会を聞きに呉市東京事務所を訪れた。あちらに迷惑がかかってもいけないので、申し込みのとき、ボクが車椅子である旨を伝えてあった。
すると後日、呉市東京事務所の方から電話があり、「車椅子ならば車でお越しですか?もしかしたらビルの車椅子用のところを確保できるかもしれませんので」。そうおっしゃってくださった。
こんなこともある。べこ亭という焼肉屋さんの予約のとき、車椅子の旨を伝えると、入り口にいつもはないスロープが取り付けてあったりする。こちらから要求することなく、さりげなく配慮されている。見たこともないボクという人間を、良い意味で「こういう人」と評価してベストの状態だと思われることをしてくれているのだ。
しゃべれなくたって、寝たきりだって…
わかってる、わかってるんだぞ!
ボクはいろいろな場所や人たちに助けられ、介護してもらい、リハビリを行なってもらっている。1週間でいえば延べ30人近くの人がボクにかかわってくれている。
名誉のため、今かかわっている人ではないことを先に付け加えておくが、ボクは週に何回か、清拭、着替え、足浴の朝のメニューで1時間ほど時間をとっている。すると、身体を拭くってそんなんだっけ…?と思うやり方で仕上げて帰ってしまうスタッフがいた。ボクが「しゃべれない」「なにもわからない」と思っているからだ。誰も見ていない密室だからばれないと思っている。ボクはたしかに、その場でその人を「ちょっとちがうんじゃないの?」。そう怒ることはできないけど、「ちゃんとわかっている。わかってるんだぞ!」と思っている。その人はボクの評価を間違えている。結局、ボクが何かをいう前に来なくなったから、きっと他の利用者さんに文句でも言われたにちがいない。
けっして割りの合う仕事ではない。だからこそ、本当にありがたいと思っている。こういうスタッフが1万人に1人いるだけだとは思うが。しゃべれなくたって、寝たきりだって、「あなたが思うボクは違うんだから!」と言いたい。
プールでの高評価は嬉しい!
それにしても、評価って本当に人それぞれだ
あと、こんなことも。最近は水泳のリハビリに通っているが、その施設と妻の連絡帳のやりとりを読んで、自分のことながら笑ってしまった。
施設:朝は時間節約のため水着着用で、その上からジャージなど動きやすい格好でお越しください
妻:尿意のタイミングわからないので、水着だけではちょっとご迷惑をかけてしまうかもです
施設:ご本人に伺ったら、トイレに行きたいのはわかるとおっしゃったのですが…。では、下にリハパンなどを履いてきてください
ここでのボクの評価はわりと良い。動けないけれど、プールで指示された行動をこなせているからだと思う。施設側と妻のズレを解説すれば、ボクは尿意はある。ただ、それを知らせる手段がない。出たいと感じたときが出るときで、いつでも緊急事態だ。家族は自宅で、ボクの微妙な身体の動きを見てトイレだとわかる。息子も娘もそのサインがわかる。「パパ、まだ出てない?」。そんな会話でトイレにダッシュする。プールでそれは不可能だということなのだ。「尿意はありますか?」という質問に首を縦に振ってしまったボクが悪いが、一応はそうなのだ。
プールでのボクはちょっと評価の高いボクだった。嬉しかった。でも、迷惑をかけてしまうといけないので、その評価は控えめに修正された。
30人にかかわってもらえば30通りのボクへの評価があり、ときにはその人の思っているボクになりきっているときもある。本当に人それぞれなんだなあと思って驚く。どれも当たっているのかもしれないが。