夜中だって昼間だって、介護は本当に休みがない
体が動かず「また迷惑かけてるなあ…」
ボクが在宅介護の話をすると、「そんなことできない、夢のような話だ」。そうおっしゃる方もいる。「どんなにしたくたって物理的に無理。泣く泣く預けている人の気持ちもわかってほしい。お互いのために施設で過ごす方が良い」という意見も聞こえてくる。
ボクだってそう思うこともある。妻だって子どもだって、仕事や自分の生活だってある。介護というのは本当に休みがない。夜中だって昼間だって目が離せない。自分のことでこんなことを言うのも申し訳ないが、ちょっとのことで体調を崩して入院したり、どこかから転げて骨折したり、楽しみにしていた家族での外出だって、雨が降ったというだけですべて中止になることだってある。
それに、我が家には高齢の両親もいる。ボクの家族がどんなに大変か。「またか」と嫌になることもあるんじゃないか?そう疑ってしまう。身体が思うように動かなければ、「ああ、ボクのせいで迷惑かかってるよなあ」。そう思って、取り繕うように眠ったふりをする。理想的な生活ができているか、それはわからない。けれど、介護のシステムを利用して、ようやく日常生活が営まれているというのが実情だ。
在宅介護を始めて早6年
絶妙なバランスで成り立つ我が家
今の我が家にとって在宅介護は(妻の精神的なバランスが)ベストの状態だということだ。ちょっとでも何かのバランスが崩れれば、それが維持できるかわからない。ボク自身、お互いもう少し歳をとったときを考えて、実は「みんなの介護」で密かに老人ホームの研究をしている。
いろいろな意味で、そして絶妙なバランスで介護生活が成り立っている我が家。いつものスタッフがいなくては、それは成り立っていかない。
それでも在宅介護を始めて6年。思い起こせばスタッフと多少の行き違いもあった。きっと、我が家にもいたらない点がたくさんあるだろう。それを承知の上で、歴代“驚いたスタッフ”上位を書いてみようと思う。どんなことに驚いているか、ぜひ聞いてもらいたい。
こんなことに驚いた!
でも、実際はなかなか言えない
まずは、きっと独り立ちしたばかりのヘルパーさん、年のころは60歳ぐらいの女性。1時間のサービスで、だいたい30分を過ぎた頃に家族が呼ばれる。ヘルパーさんが「すみません。私、移乗ができないんで車椅子に移してもらえます?コータリさんの歯磨きしたいんで」。ちょっと驚いたが、妻が車椅子に座らせてくれる。すると、「すみません。左手挙げてくれないんで、着替えができないんですけど」。そう、ボクは左手に麻痺がある…妻が手伝う。妻はリビングでパソコンや携帯に向かっていたんだと思うが、一見暇そうに見えても暇ではない。というか、その時間をつくるために訪問サービスをお願いしているわけだから、どうだろう。妻いわく、「正直な人なんだよ。できなくて、いい加減にする人だっているだろうから」とのこと。
その女性ヘルパーさんは、こちらから何かを言ったわけではないが、数回いらした後は来なくなってしまった。「ちょっと無理だなあと思う人がいたら申し出たら良いのに」。事業所を経営している知人にそう言われるが、なかなか言えない。
血圧計を使えない、おむつを当てられない、怒りんぼ…
本当にいろんなヘルパーさんがいる
細かいかもしれないが、上腕式の、ごく普通の血圧計を常に手首で測る人。ボクは「計れてるんだろうか?」。そういつも思っていたが、話せないのでそのままになっていた。
あるとき記録が必要になった。毎週◯曜日だけ血圧がかなり低い。どうしてだろうか?ということになり、やっとそれがわかった。思い込みとはすごいことだ。間違えを指摘すると、「血圧は手首で測るものだ」と思っていたとのこと。
さらに、こんなこともあった。「ぎゃあ」と大声がするからと、妻が慌てて部屋に入ってきた。床の上に便が転がったというのだ。どういう状況でそうなったかは覚えていないが、それを処理できずにヘルパーさんは立ったままになっている。妻はそれをティッシュで摘み上げて、使用済みのパッドの中にぽんと放り込んだ。
あと、リハビリ施設では、おむつを当てられないヘルパーさんや怒りんぼのヘルパーさんなど、かかわらないようにしていてもいろいろな人を見かける。悪気はない。もちろんわかっているが、現場では目ん玉が丸くなる。逆に助けられる部分もある。実はそちらの方が心に残る。
たくさんの珍事に囲まれて、たくさん助けてもらって
我が家は成り立っている
そういえば、こんなこともあった。仕事中の妻に同居の父から電話が入る。「気分が悪い。倒れそうだ」と。ボクはそのとき家にいたが、同じ家の中にいてもボクの部屋からそれはわからない。ちょうどボクのヘルパーさんが来ているときで、妻は「申しわけないけど父の部屋を見てきてほしい」とヘルパーさんに電話連絡。救急車を呼んでくれた。
家に人がいるということはそういうことだ。ボクだって、来てもらって何もすることがなくたって、安全に過ごしていることを確認してもらっているのだ。
階段で転倒してしまったボクを、24時間緊急呼び出しのシステムでヘルパーさんを呼び起こしてもらったり…。とにかく助けてもらうことを書いたらきりがない。
こんなさまざまな珍事が行なわれつつ、我が家の生活は皆さんのおかげで成り立っている