ボクと世の中を隔てる大きな“壁”
それはたった14段の階段…

我が家の玄関から門までの間には14段の階段がある。しかも、家は坂の一番上に立っている。ベランダからは、遠く離れた東京タワーやベイブリッジが見えてしまうぐらい高台なのだ。とても気持ちが良い。

まさか、高齢になったときのことまで考えて家の土地を買うなんて思う人は少ないと思うが、高齢になったり、ボクみたいに身体を悪くしたりしたときのことも頭に入れた上で家は買った方が良いだろう。家は一生ものだ。

我が家は元々、義理の両親が若いころに買ったものなのでそんなことを考えることもしなかったのだが、今の車椅子生活ではその“14段の階段”がかなりのネックになっている。大げさでなく、ボクと世の中を大きく隔てる“壁”となっている。

このままでは不便過ぎるので、退院してきてしばらくした頃にリフトをつけた。階段に大きな支柱を立てて、上から車椅子ごと吊り下げる。上にあげたり、下に降ろしたりする力をリフトがやってくれる。前後へ動かす力は人力でちょいと押す感じだ。

「すごいですね。いろいろなところを見てきましたが、このシステム使っているのは見たことがありません」。そう言われていたが、実際に自分の身体がこうなるまでは階段に何がついているのかまでは気にも留めていなかったので、それが特殊なものなのかどうかもよくわからなかった。

雨の日は使えなかったし不便もあったが、とりあえずそのリフトのお陰でボクは外に出ることができていた。

危険だから辞めた方が良い?
やっぱりボクは家に閉じこもるべきか…

ところが2017年12月、そのリフトが壊れた。充電をしても動かなくなってしまったのだ。修理をお願いした人から「充電池の磨耗でしょう」。そう言われて高価な充電池を交換してもらっても動かない。しかも、「このリフトはもう日本でのメンテナンスができないんです。充電地もこれが最後です」。そう言ってきた。「さあ困ったぞ」。

高額な修理代を支払っても今後のメンテナンスもできないのならば次を考えたほうが良いのではないか?

そう言っている間にもデイサービスへ行かなければならないし、義母の誕生日会だってある。デイサービスみたいに、決まった外出にはヘルパーさんとかのマンパワーをお願いできる。けれど、急な用事なんかはなかなかお願いできない。マンパワーのスケジュールを確保できないのが現状だ。

そこで、妻と娘が二人で担いで上げ降ろしをしてくれる。相当な重労働だ。しかも、みんなに話したら「危険だから辞めた方が良い」。そう言われる。ではどうしたら良いのか?やっぱり家を出ないで閉じこもっていれば良いのだろうか?

ボクが出かけることにそんなに乗る気でなくたって、楽しみにしている行事に行くのをボクのために家族の誰かがやめたり、そもそも行事を取りやめにしたり…。「私たちがパパを担ぐのなんてそう大したことない。パパの方が大変だから」。そう言ってくれる家族だってぎっくり腰になったり…。

「やっぱりこの方法は無理があるなあ」と、次のリフトが届くまでとはいえ思うのだ。「もういいよ、大丈夫」。そう本当の気持ちを伝えているが、「だって」と妻は不満げなのだ。ずっと家にいるのだって何てことはない。本当だ。

次のリフトが来るまでは「スカラモービル」
みんな講習を受けてくれて感謝!

次のリフトを取り付ける手続きのため、いろいろな人がボクや階段を見に来た。どんなに急いでも2ヵ月はかかるという。「やっぱり、そうか…」。高い高い壁が我が家の玄関にできた気分だ。

「出かけたくない」と「出られない」では大違い。その落胆ぶりといったら妻が一番で、自分が外に出られないかのようにがっかりしていた。

そこに救世主がやってきた。そういえば、退院するときにその階段昇降機が一度候補に挙がったと聞く。けれど、それを操作するためには一人ひとりが操作の講習を受けたりしなければならず、多数の人にやってもらう可能性のあるボクには条件が合わないということで没になったという。

次のリフトが完成するまでの短間ではあるが。「スカラモービル」。車椅子ごと乗せるタイプもあるが、ボクの家に来たのは椅子式のもの。僕は座って、ちょっと後ろに倒れる形で斜めになる。階段の縁まで行くとストッパーが効いて、そこからモーターが回って一段降ろしてくれる。「うい~~ん」と一段ずつ降りていく。機械は25キロ。車のトランクに積めば外でも使える。今まで諦めていた地下のBARにも行けるかもしれない。

我が家では、妻、息子、娘が講習を受けてくれて、その他にも、いつもお願いしてるヘルパーさんの会社の人、一応ケアマネさん、うちに出入りしているリハビリの先生まで講習を受けてくれた。「もしものときに」。そう言って3時間ほどの講習を受けて免許皆伝。

申し訳ない気持ちでいっぱい
でも、ある一人の言葉に救われた

ボクのために講習まで受けてくれて本当に申し訳ない。そう思う。その中の1人がボクに言ってくれた、「神足さんのお陰でいろいろな経験できて、そのいろいろなことをみんなで考えられて、いろいろな人に反映できるのですよ。だからお礼を言うのはこちらの方です」。そう言ってくれた。「プロでも知っていることはわずかで、いろいろな人から情報が入れば、その分みなさんにお知らせできる」と言う。

そう言ってくれて、ボクはすごく気持ちが楽になった。きっとそれがわかっていて、その人はそんな風に話してくれたんだろうと思うけど…それでも肩の荷がすっと下りた気がする。