ツアーで旅行するのはきっと便利なんだろうな
ずっと前から言っていた。「元気な頃と何ら変わらない、普通の旅がしたい」と。
自分の好きなように計画を立てて自由に旅するのが好きだった。
車椅子や高齢者、お手伝いが必要な方用の専門のツアーがないわけではない。旅行会社に任せて、ツアーを利用すればとても便利だということはわかっている。
料金が高いというイメージがあるが、それらのツアーは本当によく考えられている。例えばHISユニバーサルツーリズムデスクが企画するこんなツアー。
【東北】ユニバーサルルーム&リフト付きバス利用!世界遺産平泉と松島 3日間
東京駅から新幹線で出発し、現地ではリフト付きの観光バスで回るツアーだ。世界遺産の中尊寺金色堂や毛越寺をガイドが案内してくれて、日本三景の松島も船で見学したりする。
宿泊先はもちろんバリアフリールームも予約できる。旅程中の食事がついて、2泊3日で大人一人169,000円(2人1室料金)。
ツアーの特色は、旅行介護ボランティアがつけられるサービスがあること。別室で184,000円、同室で169,000円だ。
最小催行人数は7人。添乗員は、車椅子介助の研修を受けた派遣添乗員が務めるそうだ。ツアー中の食事や自由時間なども、可能な限り同行してくれるそう。
もちろんツアーなので他にもお客さんもいるから専属ではない。トイレ休憩もまめに儲けてくれていたり、行程中の食事は全て椅子席を用意してくれているが、それでも不安なら旅行介護ボランティアをつけることだってできるわけだ。
旅行パンフレットにも「たびのわ会員のお客様からかねてよりリクエストをいただいていた世界遺産平泉の中尊寺金色堂を訪れます。金堂までのアクセスは傾斜や砂利道で個人旅行だとハードル高めですが、添乗員が一緒なので安心です。」と書かれている。
個人で行ったらきっと砂利道で諦めてしまうところだが、これは嬉しいし、ちょっと行きたくなる。利用者からのリクエストで旅先が増えたってことは、きっとリピーターも多いのだろう。
旅行の計画を立てるのは面白い
他社ではあるが、以前このようなツアーに取材で行ったことがあった。
団体旅行は、一体感が生まれて心強い。何も考えなくても基本的にはボクのような体でも対応している。それはそれで楽しい旅になる。それはわかっているんだけど、やっぱり自分で好きなように旅をしたいと思う。
車椅子の人間でもこんなに安く行けるんだよっていうのも実証したい。そんなことを思ったり。
例えば、最近は歩くのもおぼつかない義母と温泉旅行に行った(102回参照)。きっとツアーであれば、車椅子の人間でも入れる温泉をパッケージにしたものがすんなり見つかるかもしれない。
自分で宿泊先を探すのは大変だ。温泉旅行に行っても温泉に入れないこともしばしば。バリアフリールームの部屋、バリアフリーになっている旅館といった謳い文句をしている場所でも、足湯にすら入れなかったこともある。
だから、個人で探す場合は口コミなどの写真を目を皿のようにして見るようにしている。
ここの段差はどうなっているんだろう。
入り口はどうなっているのか?
洗面所の下はくり抜かれているか? など
洗面所の下は、くり抜かれていなければ車椅子で使うことは困難だ。手が届かないから。そんな普通の方が見ないような写真まで探して、自分が使いやすい仕様になっているか確かめるのだ。
ツアーだったら、ここはこうなっている、車椅子の人でも問題なく移動できます、などなど事前に調べてくれているだろう。
それにユニバーサルツアーならば添乗員さんが困ったことに対処してくれる。
「バスチェアーが部屋にないんだけどあるかな?」そんなオーダーも聞いてくれるかもしれない。
もちろん個人旅行であれば、そんなことも全て自分たちでやらなければいけない。予約の時にバスチェアの件も、送迎の車が車椅子の人間でも可能なのかということも。
けれど、自分で組み立てた旅行はそれだけで楽しい。大変なのになぜか楽しい。ボクは旅の予定を組み立てることが楽しいのかもしれない。
バリアフリー情報も簡単に手に入るようになった
先日の温泉旅行の話。
要介護5のボクにとっては宝の持ち腐れなバリアフリーの部屋も、体が弱ってきた義母にはちょうどいいバリアフリー具合なんだなと思った。
今までは、「バリアフリーってうたっているけど、全然バリアフリーではないじゃないか」と思っていた。
そういう部屋も義母にはちょうど良いバリアフリー具合なのだ。トイレは広くバーもついていて立ち上がりやすい。段差もなく、足が引っかからないので歩きやすい。それだけで充分バリアフリーなのだ。
体の具合は100人100通り。義母のような高齢者には車椅子に乗っていなくたってバリアフリールームは使いやすいんだなと改めて思った。
ボクみたいな体の人はなかなか来ないだろう。だって、この体の具合で旅に出て、さらに風呂まで入ろうなんてなかなか思わないだろうから。そんな人用に作られていない。
だけどボクも旅にも出たいし風呂にも入りたい。そんな旅館はないか、いろいろ探す。
海外旅行の場合はどうだろう?友人はよくユニバーサルツアーを使って旅に出ている。困ったことがあれば現地のスタッフが相談にも乗ってくれる。
現地のツアー事務所に車椅子の貸し出しもあったりするそうだ。便利でいいじゃないか。僕はいつも昔と同じように普通に旅をしたいと言っているので、ツアーに参加した事は無い。けれど聞いていると便利そうだと思う。
ボクのように個人で行く場合は、一昔前だったら海外のことを調べるのはちょっと大変なことだった。今はネットを駆使すればすぐ調べられることであっても、ミシュランガイドや海外の電車の時刻表など、特別な本屋に買いに行って調べていたのだ。
今はそれほど大変な思いをしないといっても、それでもまだまだバリアフリーの情報は少ない。
台湾旅行に行ったときの話
先日、3泊4日の個人旅行で台湾に行った。同じような日程、行程のバリアフリーの旅でツアーを使うと、30万円前半台から40万円弱(2~3名一室1名料金。料金は出発日で異なる)。
ツアーで行けば、嫌になるほど並ぶ鼎泰豐での小籠包のランチなんかもついている。観光も九份やランタン上げ、夜市見学など、今回ボクが行ったようなところも車椅子でも大丈夫な車で案内してくれる。
一方、ボクの個人旅行では、まずは飛行機の予約から。どんな車椅子でいくのか、その車椅子で搭乗口まで行くのか、歩けるのか、どういう手伝いが必要か、などなど登録する。
今回は「食べやすいお食事」という機内食をリクエストしてみた。介護食みたいなのが出てくるのか気になったから。
内容は、みかんゼリー、ポテトサラダ、白身魚のチーズ焼き、アボカドとチキンのあえもの。チキンやアボカドは一口大に切ってある。普通の機内食よりはずいぶん配慮されているかなといった印象だった。

車椅子は、チェックインの時にJALの車椅子に乗り換える。木製の車椅子でセキュリティチェックの時に金属が使われていない分、楽だった。
フライトまでラウンジで過ごしていたところ、車椅子の搭乗時間に間に合うようにラウンジまで係の方が迎えに来てくれた。その方が飛行機の座席まで連れて行ってくれる。乗るのは、乗客の中で一番先。座席への移乗は同行者が行ったがお願いすればやってくれる。
台湾に着いたら今度は、乗客が全て降りた最後に降りる。台湾の空港係員が座席まで迎えに来てくれて、入国審査、検疫、自分の車椅子への乗り換え、さらには空港から乗り継ぐ車まで送ってくれる。ありがたい。

空港からホテルまで車椅子とトランクが積めるタクシーがあるかどうかも調べた。台湾の車椅子用タクシーは、主に「無障礙計程車」と呼ばれ、車椅子に乗った人や、高齢者、身体障がい者、病気や怪我をした人などの移動をサポートしている。
無障礙計程車の利用には事前予約が必要になるが、最近ではアプリで呼び出すこともできるそうだ。基本中国語での対応になるので今回は利用できなかったが、このタクシーが使えれば百人力だなあと思った。
街中でタクシーは何回か使ったけど、なぜかドアが90度開かないで75度ぐらいで止まってしまう。介護者が移乗するのにはかなり不便だ。隣に止まっている車にぶつからないようになど、安全面を考慮した仕様なのだろうけれど日本と違ってちょっと使いづらく感じた。
公共交通はどうか?地下鉄は、一番前と一番後ろが車椅子の場所がある車両。ホームや電車には段差がなかったので手伝いも必要なく乗車できる。地上にもエレベーターやスロープで出られるようにもなっている。

バスには日本と同じく運転手さんがスロープを出してくれて乗車。停留所で手を上げたりすれば止まってくれる。行った時はちょうど4連休。どこも物凄く混んでいた。バスも満員。混んでいるので車椅子で乗れるかな?と思っていたが自然と空間ができた。ありがたい。
街の歩道に関しては、古い街並みも凸凹の歩道も、とにかく車道との境目は段差がないようにバリアフリー化が進んでいる。かなり強引な感じに突貫工事になっているところもあるがこれは日本より数段進んでいるのだろう。ただ、歩道は古いままのところもあるので凸凹が車椅子にとってはかなりスリリング。
観光名所もこの数年で、バリアフリー化が進んでいた。超高層タワー「台北101」は、車椅子や高齢者のためにエクスプレスラインも用意されていたし、九份も車椅子用の道が整備されていた。
ランタンを上げることで有名な十分(シーフェン)へは、線路近くまで車椅子で問題なく行ける。今まで困難だった滝も本当に滝の近くまで行けるようになった。ただ、かなりの坂道が続く。これ、下り坂が続くってことは、帰りはずっと上るんだよねえ…と、どこも坂道がキツかった。車椅子なら電動をお勧めする。
今回の台北の旅では車椅子でも問題なく個人旅行ができた。しかもちょうど航空会社のセールに当たってお安く旅ができた。
ちょっと勇気を出せば、ちょっと同行者が頑張ってくれるといえば、問題ない。そうそう、最後にホテルはバリアフリールームをお願いした。台湾でも高級ホテルとされている部類のホテルだ。
同行の方はコネクティングルームに泊まってもらって安心だった。到着までに何回かメールのやりとりをしただけだったが、問題のバスチェアーも事前に準備しておいてくれたし、送迎の車も手配できた。
食事を含めてツアーの多分半額ぐらい。お安く行けた。色々失敗もあったが、快適な旅だった。ツアーの安心感とお手軽さは旅にとって大きいが、どっちを選ぶか考えてみるきっかけになればいい。
