バリアフリーの考え方は十人十色だ
なんとなく、今年はみんなも「旅に行こう」という気持ちになっている人も多いと聞く。
ボクもその一人で、色々なところに行ってみたいと思っている。
というのも、妻が病気になったり、同居している義両親の健康が不安だったり、ボクの体の調子以外にも色々なことが起こり始めているからだ。
考えてみれば、旅行っていうものは無理して楽しめない旅をしても面白くもなんともない。今ならまだ間に合う?みたいに、行ける時に一緒に楽しみたいという気持ちもある。
旅は一人でもいいが、一緒に行った人間が楽しんでいる姿を見ているだけでもいい。それに旅行自体が子供の頃から大好きだった。
今、「無理して旅をしても仕方がない」と書いたばかりだが、「無理して」というのは精神面の話で、「行きたくないのに無理して」ということ。
旅は普段と違う不自由さも楽しみのひとつだと思っている。ボクの場合、動かない体で旅に行くことになるが、同行者もちょっと頑張らなければいけない部分が多々ある。
それでも行きたい旅。そこで「バリアフリー」というあれこれのお世話になる。
いつもと違う場所でいつもとちょっと違う自分でいられる。そして、ちょっと不自由な生活。家ならあれもこれもあるけれど、持ってきたものでなんとかやっていかねばならない。
そして、バリアフリーといっても自分用にはなっていない。まあ、こんなふうにバリアフリーになっていればいいと思っていても、なかなかそういう宿はない。世の中の人はバリアフリーをどう思っているんだろう。
そもそも、この設計って絶対体の不自由な人のために考えられていないよなあと思うことしばしば。今回は移動の話と、移動中のトイレの話をしようと思う。
今どきのバリアフリーはユニバーサルデザインでもあって、色々な人のために考えられていることが多い。同じ車椅子に乗っている人をひとつ取っても、障壁となるものは全く違う。
以前車椅子に乗ってる友人と話した時、トイレの話になった。彼はショッピングセンターの中の手すりの位置について「こうあってほしい」という話をした。ボクが「手すりは横に一本ついていればいい、ベッドが必要だ」というと「なんで?」という顔をした。
「ああ、だって立てないんだからオムツやパッドを変えるときだって寝ないとできないんだよ。それに、障がいのある子どもが大きくなったときだって、とても不便してるらしいぞ。あのベビーベッドには寝れなくなるから、簡易ベッドを車に積んでいるって話も聞いた。」そう話すと本当にびっくりした様に「目から鱗だ」そう言った。
ボクは、代わりに手すりがあれこれ付いていたって邪魔になることだってあると思っている。たった二人で話していてもそうなんだから、100人いれば100通り。いつもボクはそう思う。
旅行は1ヵ月前から準備を始めた
さてさて、今年始まったボクの旅プロジェクト。
蓼科にある老舗リゾートホテルに泊まった。たった一泊の旅だけ出かける地域には雪が降っているかもしれない。
和洋室バリアフリールームに3人で泊まった。泊まる1ヵ月以上前から始まるバリアフリー計画。
まず、予約時にはバリアフリールームのほか部屋にバスチェアも用意してもらう。
1時間の家族風呂も予約。駅からホテルまでは車で30分ほど山に入っていく。送迎バスのサービスがついていた。
電話で伺った。「車椅子なんですが大丈夫でしょうか?」ダメなら、レンタカーか、タクシーを手配しなければならない。「それでは、大型のバスのほか、大丈夫なような小型のバスも用意します。係員もお手伝いしますんで」ちょっと安心する。
さてさて、次の準備しなければならないのは、電車の手配である。指定席が予約できる期日になったら車椅子用の席を予約しにいく。これはまだネットなどではできないので、みどりの窓口などに購入するために出向かなければならない。
家族も一緒に行ってくれるのだが、購入するために小一時間はかかる。みどりの窓口で、慣れていない係員に当たると調べながら結構大変な作業のようで「え?ありますよね?車椅子用の席」なんてこちらから言っちゃうこともある。
特急列車「あずさ」で茅野までの席を予約しようとしたその時、あずさにはグリーン車しか車椅子用の席がないとおっしゃる。「そんなことはないでしょう。確かにグリーン車の隣り合わせの車両ではあると思いますが」
下調べをして行っているボクらは「あれ?そうなの?」という提案に、やんわりと聞いてみる。もちろんこちらが、間違っている可能性が高い。あちらは専門家だ。
車椅子のボクと介助者、それと一般の大人の切符が必要だ。イレギュラーなオーダーでてんやわんやしている。窓口から乗車する駅、降りる駅、乗り継ぎはないか?どのぐらいの手伝いが必要か?全て登録する。ありがたいことだ。
改札から電車に乗るまで手伝ってくれるし、乗り換えがあればそこまで連れて行ってくれる。切符を買えば全て手配されて連絡が各所に行く。なので、逆を返せば、一本早い電車に乗るなんてことは難しい。
改札からあずさの車両の入り口まで連れて行ってくれる。列車に乗るためのスロープも持って行ってくれる。

この度の係員さんは、ホームで少し時間があったのだが、「寒いからホームの待合室で待っていてください。時間前になったら呼びにきますから」と細やかな配慮。
そんな人間と人間のやりとりが旅を楽しくさせる。「ありがとう」が心から湧いてくる。東海道新幹線はマニュアル化されているのか、車椅子の乗客も多いのか、5分前にここ、10分たったらここ、などいつも慣れたものだ。
そういうものだと思って東北新幹線や他の列車に乗ってみたら、システムもやり方も全く違う。厳密に言えば会社も違うのだから当たり前か。
しかし、ボクら車椅子ユーザーや体が不自由な方が移動できるように本当に色々やってくれる。ありがたい。
あずさは、とても綺麗で重厚な列車だった。快適。車椅子用の席も通路に車椅子がはみ出ない設計。新幹線は横幅が狭いので通路に車椅子がはみ出て迷惑になる。ドアの前だと自動ドアが空いたりしまったりすることも。
一方、あずさはそんな心配もなくゆったりしているからありがたい。車椅子を利用していると、「邪魔になっていないか?」ということをささやかに気を使ったりもする。

人の優しさが身に染みる…
さてさてようやく茅野駅に着いたボクらは、駅員さんに列車まで迎えにきてもらい、スロープでホームに。若い駅員さんはとても親切で、荷物をバタバタやっていたら「改札までお持ちしましょう」言ってくれた。
「お戻りは明日ですか?」と話もしてくれて、きっと連絡が入っているんだろうけど、とても感じがいいのである。駅のロータリーを出ると色々な送迎車が待っている。キョロキョロしていると、別の宿屋の係員がコロコロのついたトランクを運んでくれた。
「どこですか?お泊まりは」「ああ、○○ですね、▲さーん」係の人を呼んでくれた。
そこには、観光バスのようなバスが待っている。「これには乗れないぞ…」と思っていたところ「神足様こちらご用意いたしました」と影に隠れていたマイクロバスも待っていてくれる。
「ああ、すみません…(ん、乗れないかも)」ステップ2段付きのマイクロバスだ。横のドアのところに椅子があったので、ここなら頑張れば乗れるかも…。同行者が頑張ってトランスしてみるが、お尻は10センチ以上座面に届かない。
ホテルの人だけでなく、そこにいた他の係員さんも手伝ってくれてようやく座れた。
「すみません、助かりました」「大丈夫だと思ったんですが、こちらこそすみません」
ご迷惑おかけしてしまったが、こういうマイクロバスに乗れただけでも嬉しい。普通がいいのだけど、そうすると皆さんに迷惑をかけることが多くなる。
しばらくバスに揺られていると、ようやくホテルに着いた。長い道のりだった。
ボクらのマイクロバスは、正面玄関の階段を登らなくていいように、宴会場の棟の玄関に横付けされた。そこからエレベーターでロビーのある2階に行く。大きな暖炉が燃えているロビーには優雅なスキー客もチラホラ見える。
移動だけでも、もっともっと書けることがあるくらいだけど続きはまた。
車椅子に乗っていると大変なこともたくさんあるけど、人の優しさに触れることもいっぱいある。時には嫌な顔をされることもあるのだけど、それを差し引いてもありがたいことの方が多い。
楽しい旅だったということはお伝えしたいと思う。 次回もバリアフリーの旅の話をお届けする。