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尊厳死の目的
患者本人、家族のための延命治療中止という選択

尊厳死は、本人やご家族の意思に基づき、延命措置が必要な状態になった時に、延命措置を行わずに自然死を迎えることを言います。
現在の医療では、治る見込みがない末期がんの患者でも、延命治療が行われます。
なかには、過剰な延命治療が行われることもあります。
治療を受けても治らない状態が続くことは、患者本人のみならず、家族への精神的・金銭的負担が大きくなる問題もあります。
治らないのに治療を続けなければいけない状況は、患者本人への精神的負担が大きいものです。
ただ苦痛なだけの延命治療を続けて生きながらえるよりも、自分らしいままで死を迎えるために延命治療をやめることは、その人の尊厳を守る目的が第一ですが、同時に本人の希望を尊重しつつ、家族への負担も軽減できる方法なのです。
安楽死との違いは
「安楽死」は、尊厳死と混同されやすいもので、なかには安楽死と尊厳死が同じものだと誤解している人も多いようです。
しかし、安楽死と尊厳死には明らかな違いがあります。
安楽死は一旦延命措置を開始した状態で、延命措置を中止します。自らの意思で死を選択するという点では尊厳死と似ていますが、安楽死の場合は末期状態の苦痛を回避するため、回復の見込みがない状態になる前に、人為的な方法によって死期を早めます。
安楽死には3種類の方法があります。
1つ目は、苦痛から逃れるために故意に致死薬を投与して死を迎える「積極的安楽死」。この方法は「自殺幇助」として扱われるため日本では違法とされていますが、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクやスイスでは合法とされており、アメリカの一部の州では自殺幇助が合法となっています。
2つ目は、苦痛を緩和するために意識レベルを下げて眠った状態にし、治療を控えて死期を早める「間接的安楽死」。そして3つ目は、人工透析や胃ろうなどの生命維持治療を中止し、延命治療をやめて死期を早める「消極的安楽死」です。
このように安楽死と尊厳死は、目的や死に至る過程が異なるものです。
日本で言う尊厳死は、積極的安楽死と間接的安楽死とは明らかに異なりますが、実は3つ目の消極的安楽死と同義とされています。
尊厳死は法律上どうなっている
現在の日本の法律ではグレーゾーン
先述のように、一部の国では合法化されている安楽死ですが、日本ではそれほど活発に議論されてきませんでした。
できるだけ長く生きるための医療が最善だと考えられてきた日本では、死を自由に選べるようにすることはタブーと考えられてきたからです。

安楽死は、刑法第202条の「嘱託殺人罪」に当たります。
過去、病院内で行われた安楽死の処置を巡る事件において処置を行った医師が有罪判決を受けています。
尊厳死のガイドラインは、厚生労働省や日本医師会で策定されています。
これに基づいたうえで、患者本人と医師、患者の家族が合意すれば尊厳死が許されるという考えが、近年医療の現場で徐々に容認されてきている傾向がみられます。
ただし、尊厳死として延命治療を中止したケースにおいても、減刑はされたものの患者本人の意思が明確だったと認められないという判断が下されており、いまだ法律的な裏付けが不十分な尊厳死は、グレーゾーンにあるといえるでしょう。
法制化に8割が賛成!しかし慎重を極める
超高齢社会を迎え、年間死亡者数も増加している中、今後ますます尊厳死の必要性が出てくるケースが増えることが見込まれます。
国会でも、尊厳死について議論が行われ、「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案」がまとめられました。
この中では終末期の定義や判定方法をはじめ、死期が近いと判断された患者に対する延命措置の内容、さらに新たな延命治療を行わないという「延命措置の不開始」が定義されました。
そして、対象者の年齢は15歳以上、知的障害や精神障害を持っている人は対象外となっています。
延命措置をするか否かの大前提は、患者本人との信頼関係に基づきつつ意思を尊重することです。
さまざまな議論がなされた結果、延命措置の不開始、そして中止いずれの場合も医師の免責とすることが盛り込まれました。
しかし、前の項目でも触れたように、尊厳死のガイドラインは制定されていますが、ガイドラインと法制化は大きく異なります。
法律案がまとめられたものの反対派も少なくなく、法制化の動きは慎重にならざるを得ないのが実情でしょう。
リビングウィル(終末期医療における事前指示書)が有効に
医師の95%がLWの内容を受け入れ
終末期を迎えた状態で、自分自身で意思を伝えるのは難しいケースが多くなります。
そのようなときでも、自分の意思を伝えられる方法として、「リビングウィル」というものがあります。
「尊厳死宣言書」ともいわれるリビングウィルは、自分自身が終末期を迎えた時、延命措置を控えるまたは中止するよう、意思表示を宣言するための書面です。
尊厳死が法制化されていない現時点では、リビングウィルそのものに法的効力はなく、これを残していたとしてもその内容通りに延命治療をストップできるとは限りません。
しかし、患者にリビングウィルを提示された医師の95%がこの内容を受け入れたという調査結果もあるので、自分らしい最後を迎えたいという希望がある人は、あらかじめリビングウィルを作成しておいてもよいでしょう。
いつでも撤回・破棄が可能

もし途中で意思が変わった場合は、いつでも撤回・破棄が可能です。
終末期医療に対する支持や希望を表明する書式は、リビングウィルにかかわる各団体で発行されており、ネット上でダウンロード可能なものもあります。
このような書式を利用すれば、より自分の意思を明確に残しやすくなります。
リビングウィルの内容
アドバンス・ケア・プランニング(ACP・人生会議)とは
アドバンス・ケア・プランニングとは、ご本人とご家族、そして医療関係者や介護職員などと一緒に、死ぬ直前の終末期医療について先に話し合って決めておくことで、いわゆる「終活」といわれます。
最近では、終末期医療の内容も重要視されており、代理意思決定者を誰にするか、将来受けたい医療ケアと受けたくない医療ケアについて、希望する看取られる場所など多岐にわたり話し合われます。
また、一度話し合って終わりではなく、病気や介護が必要になるなど、ご本人の状態が変化し、新たに決めなくてはいけない項目がある度に話し合いの場を設けます。
ACPの特徴として、医療関係者も参加していることが非常に重要です。
一緒に話し合うことで、ご家族や医療関係者もご本人の価値観や人生観をあらかじめ共有することができるので、予期せぬ事態に陥ったとき、判断が難しい場合にでも、医療関係者の意見を含めてご家族で対応することが可能となります。
意思を明確にするには公正証書「尊厳死宣言書」を作成する

リビングウィルの書式は特に決められていませんが、意思をしっかりと伝えるために、以下のような内容を含めて作成します。
- 尊厳死を希望する意思表明
- 尊厳死を望む理由の明示
- 家族の同意
- 医師などの医療関係者の刑事責任・民事責任に対する免責
- 内容の効力について
最後の項目にあるリビングウィルの効力については、本人が健全な状態の時に作成したことのほか、自分自身が撤回または破棄しない限り、この内容が効力を持つことを明示します。
以上の内容を記した書面は、ただ書き残しておくだけではなく、公正証書として作成しておくことをおすすめします。
そのためには、内容を決めた後に公証人と打ち合わせをして公正証書文案を作成・内容確認・校正を行い、公証役場において公正証書を作成します。
特に書式などが決められていないリビングウィルは、必ずしも公正証書として作成する必要はありませんが、このような手続きを踏むことにより、尊厳死に関する意思を明確にし、確実に内容を保管・管理できるようになります。
法制化には延命措置の明確な基準が必要
安楽死はもちろん、回復の見込みがない終末期に行われる尊厳死であっても、生き続けられる状態を意図的にとめることに対しては、賛否両論が絶えません。
患者本人の意思を尊重し、その人らしい最期を迎えるための方法のひとつとされている尊厳死ですが、実際は急増する高齢者の医療費や介護費用の抑制という目的があるのでは、ということも指摘されています。
また、どこまでを延命措置と判断するかの難しさもあります。
尊厳死にとらわれるあまり、本当に治療が必要な人への治療ができなくなる事態にならないよう、法制化するにあたっては明確な基準が必要となるでしょう。