Q.91 高齢者の介護保険の自己負担額が3割に引き上げられることになりそうです。今後はさらに上がるのか、それとも現状維持で保てるのか。将来的な予測をどう見ますか?(カンレキ・会社員)
1割から2割、そして3割へ…この割合の変遷について宇佐美さんはどう思いますか?また、今後はさらに上がるのか?それとも現状維持で保てるのか…上がるとしたらどれくらいのスパンで考えられるのか?将来的な予測はどう見ますか?
介護業界に「生産性革命」でも起こらない限り、自己負担割合はどんどん上がっていくでしょうね
高齢化という時代の流れで、介護ロボットの導入などで生産性向上が進まなければ、今後とも介護保険の自己負担割合は上がっていくことになるでしょう。
みなさんには釈迦に説法ですが、介護保険は「40歳以上の現役層が幅広く保険料を納めて資金がプールされ、要介護認定を受けた高齢者が介護サービスを利用する際に基金と税金50%ずつ折半で財源を負担して、介護事業者に給付がなされる」という仕組みです。
単純に考えれば<現役層(A)÷介護サービス利用者数(B)>の比率が高ければ財政的には余裕が生まれ、逆ならば余裕がなくなってきます。残念ながら日本では少子化でAに当たる現役層が増えることは“絶対に”ないのにたいして、Bにあたる介護サービス利用者は増える一方ですから、かなり厳しい状況ではあります。実際2000年には、介護費が3.6兆円で要介護認定者数が218万人だったものが、2016年度には総費用は10.4兆円で要介護認定者数が621万人に膨らんでいます。
他方でこのデータから言えることは、介護業界ではこの16年間ほとんど生産性の向上がなされなかったということでして、要介護認定者数の増加率と介護費がほぼ正比例しています。ITや製造業ならば制度利用者の増加に応じて技術革新が進み生産性が向上して、一人当たりの費用というものが減少するのはよくある話なのですが、残念ながらそのような現象は介護業界には起きていません。これが「保険」という硬直的な制度が原因なのか、それとも単純にこの16年間、介護分野でのイノベーションが停滞していたせいなのかはよくわかりません
いずれにしろ言えることは、このままの状況が続くならば要介護認定者数が増加するにつれ介護保険の自己負担率はどんどん上がっていくということです。仮にこの流れを止めるならば、介護ロボットの導入などで一人の職員ができる仕事の絶対量を無理なく劇的に増やすような「生産性革命」が必要です。そうなれば一人当たりの介護コストが低下するので、要介護認定者数が増えても自己負担割合を増やさずにすみます。
ということで小難しくいろいろ書きましたが、本質的には未来はあらかじめ決まっているものではなく、ロボットという新技術とそれを利用したみなさんの仕事の工夫次第で変わりうるということです。