Q.56 そもそも厚生労働省に入省したいと希望を出している人は、介護業界を良くしようという考えを持っているのでしょうか?(まるちん・介護職員)
お上が法律を作っているんだから、厚生労働省の役人には介護の現場を良くするための法律を考えてもらいたいんですが。実際、それを実感できることはありません。そこで生じた疑問なのですが…厚生労働省を希望する理由として多いものには、どのようなものがあるのでしょうか?
“介護だけ”に問題意識を持っている厚生労働省の志望者には、私は会ったことはありません
少し昔話をしたいと思います。
私が官庁訪問(=就職活動)をしていたのは2004年のことでしたが、その時の厚生労働省はかなりの人気省庁でした。私から見れば「厚労省に入省したらバッシングだらけな上、抱えている問題が多すぎて大変だろう」と不思議なことでした。そこで同級生たちに厚生労働省を志望する理由を聞いたのですが、彼らの志望理由は大きく分けて「日本の社会保障を立て直さなければ、政府の財政悪化は止まらない」という国家経営的な視点から見た理由と、「国民の命を守ることに直結した仕事をしたい」という身近な視点から見た理由の2つがありました。
どちらの理由ももっともなものだったので、同級生たちもどちらか一方のみを志向していたというよりは、各々の価値観に応じてどちらかの観点を強調しているといった印象を受けました。このように厚生労働省志望者の多くは「厚生労働行政全般」に興味を抱いており、その中の一分野として介護を考えていました。他方で特別に「介護業界に思い入れがあって厚生労働省に入省したいと思った」という志望者は私は一人もあったことがありません(ごく少数いるのかもしれませんが)。
それもそのはずで、実際厚生労働省に入省した場合、少なくともキャリア官僚事務官は、当初の10~20年はところてん方式で労働—年金—介護—医療—衛生、場合によっては他省庁への出向、といった様々な分野を担当して適材適所を見出されていくのであり、初めから特定の業界の専門家として育てられるわけではありません。なので志望者の問題意識もそれに応じた「厚生労働行政全体」に対するかなりざっくりしたものとなっているのです。
このように、厚生労働省の事務官志望者の多くは特定の行政課題に問題意識を持っていると言うよりは、「厚生労働分野の行政を国家経営的な観点から見直したい」「厚生労働行政分野に携わり国民の命を守りたい」というざっくりとした問題意識を持っている、ということが私の実感です。