Q.37 介護業界が“業界全体”として良化していくためには、何が、どうなれば良いと思いますか?(tec・介護職員)
介護業界の尻すぼみ感がハンパないです。どうにか状況が改善しないものかと悶々としているわけですが、例えば「業界団体が力を持たなければ」「介護業界に精通した政治家が誕生しなければ」など、具体的な方向性があれば教えてください。
介護はもともと政治との結びつきが強い業界。政治的な働きかけを抜きにして、業界全体の構造が変わることはないでしょうね
まず「介護業界が全体として良くなるとはどういうことなのか」という点ですが、私は「介護事業者の利益が増え、介護職員の生活の質が改善していく」という現象が広がっていく状況だと思っています。
現状では、介護業界は全体として市場は拡大しているものの大手企業でさえ利益を増幅させるのは難しく、また介護職員の賃金も低い水準にとどまっています。要は「社長も社員も苦しい」という状況です。この状況を打開するには、短期的な対策と長期的な対策を分けて考える必要があると思います。
まず短期的な対策として考えられるのは、介護職員の生活を支援する政策です。現実として介護業界は儲かっていませんし、その上介護保険を支える国の予算もカツカツなので、介護職員の給与は短期的には大きな上昇は期待できません。そのため発想を逆転して「介護職員の生活コストを下げるための支援政策」が必要とされます。例えば介護職員の月収が20万円で変わらないとしても、家賃が5万円から2万円に下がれば職員の可処分所得が15万円から18万円に増えて、実質的な待遇が改善します。具体的には公務員宿舎を積極的に介護職員に安価に開放していくような政策が求められます。こうした政策が実現するには、介護職員が団結して特定の政治家を応援して、いわゆる「族議員」を囲って政府に働きかけることが必要になってきます。
ただこれはあくまで短期的な対策で、長期的にはやはり介護ロボット導入などによる生産性の向上が不可欠になります。今まで2人でやっていたことが1人でできるようになれば、職員の給与が2倍近くになってもおかしくないわけですから。ただ介護ロボットの開発を支援する研究開発費とその導入を支援する設備導入補助金・税制を政府予算から恒常的に確保するには、介護業界専門の税、すなわち「特別会計」が必要になってきます。ただ税や特別会計の新設には厳しい政治折衝や世論対策が求められるので、業界としてのシンクタンクなどを作り、時間をかけて構想を練って、経済産業省や厚生労働省の官僚に働きかけていく必要があります。
どちらもかなり厳しい道ですが、介護はもともと政治との関係が深い業界ですから、こうした厳しい政治的働きかけ抜きに業界全体の構造が変わることはないと思います。