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宇佐美典也の質問箱

質問 Q.197 在職老齢年金制度は高齢者の労働意欲を減退させ、経済活動に悪影響だからそれを撤廃しようという流れになっているようです。これについて率直なご意見をお聞かせいただけますか?(チョリソー・会社員)

在職老齢年金制度は高齢者の労働意欲を減退させ、経済活動に悪影響。だからそれを撤廃しようという流れになっているようです。私個人は定年後も働きたいし、働く時代になっていくのだろうなと思っているので、この動きにはアグリーです。しかし、この制度を撤廃したからといって経済が停滞するということは言えないという研究もあるのだ…というところまでは調べました。これについての率直なご意見をお聞かせいただけますか?

次回の財政検証のタイミング(2024年)まで年金財政の推移を見守り、大規模な実証調査を行って判断すべき

まずは謝罪から。

この質問に答えるのは、実は二度目になりまして、一度、制度改正の内容を正確に理解せず見当違いの回答をしてしまい、今回は再回答になります。この連載も190回を超え、長く続いてきて悪い意味で慣れが出てきて、また実のところ、もうすぐ終わりが近づいているという事情もあり、気が緩んでおりました。反省するとともに最後まで駆け抜けます。

さて、ご指摘の在職老齢年金制度の改正に関する議論の経緯をまとめますと、出発点は2016年6月2日の「ニッポン一億総活躍プラン」にまでさかのぼり、ここに「高齢期における多様な就業と引退への移行に弾力的に対応できるよう、在職老齢年金も含めた年金受給のあり方について、年金財政に与える影響にも留意しつつ、検討を進める」という文言が盛り込まれたことに始まります。

この文章は官僚言葉なので、少々翻訳して意味するところをまとめると「年金の財政検証が比較的堅調ならば、在職老齢年金を縮小・撤廃を前向きに進める」といったように霞が関では解釈されます。

在職老齢年金は、端的には「賃金と年金の合計額が一定額を超える場合には、超える部分の一部(又は全部)に見合う分の年金支給を停止する仕組み」ですから、これを撤廃すれば高齢就業者の年金支給額が増加することになるわけで、逆に言えば財政負担が増すことになります。

財政検証自体は、一年後の2019年6月頃に結論を出すスケジュールで進められるのですが、今のところ年金積立金の運用が堅調に推移していることから、すでに制度改正に向けて前向きな議論がスタートしたという状況のようです。

在職老齢年金については、2001年に厚労省に設置された「雇用と年金に関する研究会」において経済的インセンティブの観点から深い議論がなされ、支給開始年齢に到達した者について、

(1) 退職すれば年金を全額支給するが、在職中は年金を全く支給しないとした場合(退職年金構成) → 退職促進の方向に作用

(2) 在職中も年金を全額支給する場合(老齢年金構成) → 就業継続の方向に作用

というように整理され、同制度は「世代間の公平確保や年金財政の安定に資する一方で、年金受給権を有する者の就業に抑制的に機能し、また就業する場合にも低賃金の就業を促進することで高齢者の能力発揮を妨げている側面もあるのではないか。」と評価されました。

いわば現在と同じ議論がなされたわけですね。このときは在職老齢年金制度に関してバランスをとり、折衷案(せっちゅうあん)が採用されました。基本的に在職老齢年金制度の概要はこの頃と大きく変わりませんから、仮にこの制度が撤廃されるとなると「世代間の公平確保や年金財政の安定化」という観点からの十分な検証が必要になります。

こうした観点で見たとき、確かにいわゆるアベノミクスによる株高やGPIFの運用見直しで短期的には年金財政は順調に推移しているのですが、これが長期的に続くかはまだ疑問で、私としてはこの段階で在職老齢年金制度を縮小・撤廃するのは少々早計というか、シルバーデモクラシーの匂いがする判断のように思います。

私としては、今回の財政検証のタイミングではなく、次回の財政検証のタイミング(2024年)まで年金財政の推移を見守り、他方で経済インセンティブだけで考えるのではなく、「本当に在職老齢年金制度が就業を阻害しているのか」という観点で大規模な実証調査を行い、その上で判断すべきだと思います。

ただ、どうやら本件は官邸案件のようですし、この政策は高齢者票の獲得にもつながるバラマキ政策の一種ですから、現実には制度改正が進むように思えます。