Q.162 確定申告で「スイッチOTC医薬品」が控除の対象となるらしいですが、こういうところの税負担が軽くなった場合は税制上、社会保障に充てるための財源って大丈夫ですか?(三太郎・会社員)
2025年には団塊の世代が75歳を迎えます。75歳になると病気になる確率が上がるといいますが、そのようなタイミングでは薬の購入から得る税収は社会保障に充てるための財源としては重要なものなのではないでしょうか。スイッチOTC医薬品の税収レベルは社会保障の財源としては関係がないか、微々たるものなのでしょうか。
税制の仕組み上、全体の負担が増えないようにバランスが取れています
結論から言えば、税制の仕組み上、きちんと全体の負担が増えないようにバランスが取れるようになっています。
少し、政府内部の税制に関する業務プロセスについて話をしたいと思います。各省庁が租税特別措置によって新しい税制を作るときは、必ず財務省の主税局という部署と折衝(せっしょう)しなければなりません。そのため毎年夏に、各省庁は財務省に対し、予算要望と合わせて「税制要望」というものを提出します。
この税制要望の原則は典型的な「スクラップ&ビルト」でして、新しい税制を創設するときは必ず代わりに古い税制を廃止しなければいけません。
わかりづらいと思うのでもう少し具体的な話をしますと、いわゆる減税措置は通常、期限が設定されており、各省庁の税制を取りまとめる部署は特定の税制の期限が到来した段階で、その税制の「延長・廃止・縮小・拡充」のいずれかを選択し、財務省主税局と相談することになります。
このとき、当然全ての税制を拡充ということは許されません。全体としての「減税総枠」は変えずに、一部の税制を縮小したり廃止したりすることで、他の税制を拡充したり新設したりする枠を捻出し、全体のバランスを取るという交渉が制度所管省と主税局の間で行われるわけです。
このように、社会保障という枠は超えますが、厚生労働省の所管税制という枠で減税の総規模は財務省の主税局によって総枠管理されていますので、今回の「スイッチOTC医薬品(医療薬から転用された医薬品)の控除」制度創設によって政府全体で減税枠が拡大したということはありません。
ただ、これは税制単独で見た視点で、むしろ政策効果を図るには「この税制の効果で、セルフメディケーションに力を入れる人が増えて医療費が減るかどうか?」というところに注目する必要があるでしょう。
個人的には、健康保険の窓口負担が増えない限りは、大きな構造に変化は起こりようがないと思うのですが、せっかくできた新しい税制、その点については今しばらく成果を見守ることにしましょう。