Q.144 日本人の働き手だけではもう介護の労働市場を回していくことは不可能ですか?(はにわのくに・会社員)
外国人技能実習生についての動きが盛んになっていますが、日本人の働き手だけではもう介護の労働市場を回していくことは不可能ですか?
外国人労働力の活用もひとつの選択肢ではあるけれど…もっと大切なイノベーションがあると思います
日本人か外国人かと言うことにこだわらずに、どのように介護業界の労働力不足を解消していくか、ということを考えるべきだと思います。
まず介護業界の現状について復習しますと、2015年度時点では要介護者数608万人に対して介護職従事者は183.1万人です。おおよそ職員一人あたり3.3人の要介護者を見ている計算ですね。これが2025年度時点では要介護者数はおおよそ715万人程度まで増加すると予測されています。
仮に一人当たりの担当要介護者数の数が変わらなければ、217万人程度の労働力が必要になります。ですので、このまま大きなイノベーションが起きなければ介護業界は今後10年間で30万人以上の追加労働力を確保する必要が出てきます。他方で、人手不足は介護業界に限らず少子高齢化が進む社会全体の問題ですから、介護業界のみ人手不足を解消すると言うのは極めて困難と言わざるを得ないでしょう。
この労働力の不足を解消するには二つの選択肢があります。一つは東南アジア等の外国人労働力の活用で、もう一つはロボットやAIの活用等によるイノベーションで職員一人が担当する要介護者を増やしていくことです。近年、外国人労働力の確保は様々な業界で積極的に取り組まれており、実際フィリピン、ベトナム、ネパールといった国々の在留邦人は急速に増えています。
しかしながら、これら外国人の出稼ぎ労働力も日本人と同様に建設業界など相対的に人手不足で賃金の良い職場を求めるので、30万人に及ぶ介護業界の労働力不足を外国人労働力で埋めることは現実的ではないでしょう。残念ながら介護報酬が急速に向上することを許すような政府の財政状況ではありませんからね。
そのため、むしろ重要になってくるのはイノベーションです。仮にロボットやITの活用で職員一人当たり担当要介護者数を3.3人から3.9人まで増やすことができれば介護業界の労働力不足は解消されますし、おそらくは職員の皆様の給料も上がります。もちろん、皆様が今、置かれている状況で最善を尽くしての現状の数値と思いますので、やはりこうした劇的な生産性の向上には設備投資で環境自体を変えることが不可欠なわけで、そのためには政府の設備投資に対する財政や税制を通した支援が不可欠になってきます。
いずれにしろ、このままでは職員の皆様の負荷が増して介護業界がどんどん労働条件が悪化していくことが予測されますので、外国人人材の活用なり、新たな技術の導入なりを積極的に進めていくことが、要介護者、職員の皆様、経営者、すべてにとって必要不可欠なことは間違いありません。過去に日本経済が製造業分野で人材不足の時期に世界を驚かすイノベーションを実現したように、人材不足は介護業界が変わっていくチャンスなのかもしれません。