Q.127 役所は民間企業経験者の採用を増やすべきだという意見についてどう思いますか?(ひろ・会社員)
役所は民間企業経験者の採用を増やすべきだという意見について、宇佐美さんはどう思いますか?
個別のポストに必要な能力を考え、社会全体で適材適所の人事を実現させていくべき
単純に民間企業経験者の採用を増やせばいいというものではなく、役所も民間企業も含めて社会全体で労働流動性を高め、適材適所を実現していくことが大事なのだろうと思います。
現在でも役所と民間企業の間では人事交流がかなり行われており、私自身も法案作成の現場では弁護士事務所からの出向者と法的論点を詰めたり、研究開発プロジェクトの現場では電機メーカーの研究所からの出向者と開発計画を練ったりといった具合に、様々な民間団体からの出向者と机を並べて仕事をしました。
役所が民間企業出身者を採用するメリットとしては、
- 民間企業の現場感覚を省内に取り入れることができる
- 省内では育成が難しい専門家人材を短期に手当てできる
- 従来の役所にはない発想での政策立案が促される
などの効果が挙げられます。
他方で「では、民間企業出身者を役所に入れたらいいことばかりなのか?」というと、必ずしもそういうわけではなく、出身母体である企業に利益誘導を図ろうとする傾向があったり、個別の商談の発想に囚われすぎて「制度創設」という大きな視点で物事を見ることができなかったり、専門家としては優れているが発想がタコツボ化していたり、などといった具合でうまく機能しないこともたくさんあります。
そう考えると、やっぱり制度創設を担当するポストは役所出身者の方が手馴れているだろうし、最前線のビジネス現場の専門知識を必要とするようなポストは民間企業出身者の方が適性があるだろうし、政策立案などは多様な視点で検討されたほうがいいだろうし、といった具合に、個別のポストに必要な能力をきちんと考えて適材適所の人事を実現させていくべきということなのだろうと思います。
このような前提の下で、現在は各省庁と民間企業はお互い「出向」という形で人材を提供し合っているわけですが、個人的にはこういう形での人事交流は癒着につながりかねず、また人材選定プロセスも不明確なので問題が多いと思っています。
それよりも、本来は官民双方にオープンな形で人材募集が行われ、個々人が官民の垣根を超えた転職を通じてキャリアアップをするのが当たり前になり、その結果、官民を通じた社会全体の適材適所が達成されていくことが望ましいのだろうと思います。
他方で現在の日本では、契約期間のない長期雇用—内部昇進という人事慣行が主流で、これを一朝一夕に変えるということもできませんから、少しずつ人事交流とオープンな人材募集という形で官庁内部の適材適所が実現していけば良いのではないかと思います。