撮影当時の関口監督の心境は?

認知症になった本人が一番つらい。だからこそ母に笑ってもらいたい

撮影をしていた2014年当時も今も、私たちは<認知症になったらお先真っ暗で、人生おしまい>という概念に憑りつかれていると思います。主にメディアと一部の医師や介護業界の人たちの喧伝(?)によるものかもしれません(苦笑)。

このコラムでも繰り返し書いてきましたが、認知症になった母はいい意味で力が抜けて、認知症になる前よりずっと魅力的な人間になりました。介護側に必要なのは<人間観察力>です。外野の騒音には耳を傾けず、必要な情報を取捨選択して惑わされないよう、ぶれずにしっかりと目の前の本人と向きあう。

決して忘れてならないのは、「認知症になった本人が一番つらい」ということです。だからこそ、母をどう盛り上げて、どうしたら笑ってもらえるか、試行錯誤しなければならないのです。関口家では、「笑う」ことは、料理ができなくなったり、パンツを履き忘れたりすることより、ずっとずっと大事なことなのです。

動画のキャプチャー1

そのとき関口監督がとった行動は?

私の友人から手品を教わった息子“タッキー関口”を大抜擢!

困ったときの神頼みに匹敵するのが、息子の先人(さきと)です!京都の私の友人に簡単な手品を教えてもらってから、息子は一時期手品にハマっていました。

友人は、妻のバンドの前座で手品を披露していたそうで、そのとき彼は芸名で「タッキー〇〇」と呼ばれていました。息子が大喜びしたのは、手品もさることながら、<タッキー=tacky(ダサい、安っぽい)>という意味だったから。友人も<タッキー>の英語の意味を知って大喜び。息子は、友人ににわか弟子入りをして、タッキー関口と呼ぶことを許された(笑)。そんな経緯でした。

そして、私がそんな息子を見逃すわけはないですよね!後は、動画を見ての通りです。

動画のキャプチャー2

関口監督から読者へ伝えたいメッセージは?

相手に求めるのではなく、私たちが楽しく介護する姿勢が大切です

在宅介護で煮詰まってしまう場面は、多々あると思います。そんなときにこそ<笑い>は、救世主です。

でも同時に<笑い>は一番難しいことかも知れません。なぜなら、認知症の母から笑いを取らなければならないからです。“笑う”ではなく、“笑わせる”には、スキルが必要なのです。

「一日一笑」

私が介護をするうえでのモットーです。息子は、おあつらえ向きのピエロ役でしたね。毎回ドンピシャリのハマり役!学校の勉強ができるよりもはるかに大事なことだと思っています。

動画のキャプチャー3

つくづく介護は、一方通行はダメだということです。往々にして、介護者からの一方的な熱き思いで、「介護される側を動かしたい、アレもコレもしてあげたい」というケースが多いように思います。そういう思いは尊いものかもしれませんが、明らかに上から目線だし、自分の思い通りにいかないと、いら立ってしまうのではないでしょうか。

一方、息子を巻き込んだ介護は、楽しいことばかり。母ではなく、意識的に息子を動かすのです。ついでに母の記憶問題も楽しんじゃう。そうすることで、双方向の人間関係が築けるんですね。そして、そんな関係になることができれば、大抵の介護の問題には答えを見つけることができると思います。

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