撮影当時の関口監督の心境は?
母のために何ができるか考えて実行することは、大変でもあり、楽しいことでもあります
母の閉じこもりは認知症だからではなく、本人の性格からで。いやぁ、頑固でしたね!今回の動画を撮影したときは、丸2年閉じこもっていました。認知症ケアにおいて、いくら「本人の意思を尊重する」といっても、さすがにこの長きにわたる母の閉じこもりがよくないことは、重々承知していました。
それと同時に「母はなぜ閉じこもるのか」という考察が大事でした。母は、人一倍負けず嫌いな性格だったので、記憶障がいによっていろいろなことに混乱し、以前はできていたことができなくなっていく自分に対して、一番失望していたと思います。そのことを理解できれば、本人を責めたり、説得したりということは、介護者としてできなくなるのではないでしょうか。本人の行動や意見の中で共感を持てるポイントを探すことはとても重要です。
次に私のすべきことは、「そんな母をどうすればいいのか、どうやって閉じこもりを終えて外に出られるようにすればいいのか」という「プランB」を考えることでした。
母は、娘の言うことは絶対に聞かず、説得にも応じない。この性格を理解したうえで、プランBの計画を立てる。ここで適材適所のキャスティングが必要になってきます。今回は、介護福祉士の浜崎さんをキャスティング、という訳です(笑)。こうやって考えて実行していくことは、介護者である私にとって大変ではありますが、同時に結構楽しいんですよね!

そのとき関口監督がとった行動は?
母が大好きな<イケメン介護福祉士>をキャスティング。自然と楽しく会話をしてもらえるようにしました
私がいつも言っている適材適所のキャスティングで、今回白羽の矢を立てたのは<イケメン介護福祉士>の浜崎さん!
母の担当のケアマネさんが、「宏子さんが閉じこもっているのは良くないから、なんとかデイサービスへ行けるようにしましょう」と提案してくれていました。しかし本人は、「そんなところへ行って、チーチーパッパなんかやりたくない!」と断固拒否。私も母の立場になったら、きっとやりたくないだろうと思ったので、無理強いはできませんでした。
しかし前述したように、母は2年以上にわたって家に閉じこもっていました。そこで、母がデイサービスに行きたくなるような方法を考えることにしました。そして母はイケメンが大好きなので、すぐに「イケメン介護福祉士だ!」と思いついたのです。
私は早速、当時の母の担当のケアマネさんに<イケメン介護福祉士>を探してもらうようにお願いしました。そして2週間後に見つかったのが、浜崎さんだったのです。
母と浜崎さんが手を握り合うシーンは「毎日がアルツハイマー」(2012年公開)の中でも編集で落とさずに使いましたよ!記念すべき母のナンパシーン(!)ですからね(笑)。

関口監督から読者へ伝えたいメッセージは?
よい認知症ケアに求められるのは、価値観やこだわりからの脱却です
これまで何回も認知症ケアについて表現を変えて書いていますが、最も困難な問題の根幹は、「介護側の姿勢」にあるということです。
私たちは、ついつい認知症の人たちの行動を<問題行動>として見がちです。しかしそれを正確に言えば、「私たちの観点や立場から見て問題である」ということに過ぎません。自分の価値観やこだわりからの脱却ができなければ、よい認知症ケアは生まれないと言えるでしょう。

そのうえで、例えば私の母のように2年半にわたる閉じこもりや、3年半の間、入浴できていないことをどう解決するのかについて考え、実際にクリアしていく能力が求められます。しかもただ解決するのではなく、母を上手に乗せて嫌がらせずに、可能であれば本人にとって楽しいものであることが大切です。
だから認知症ケアは、高度なスキルと能力が必要なのです。何のトレーニングも受けていない家族ができないのは、しごく当然だと思います。(と言い切ってしまったら身も蓋もないんですが〜!)