撮影当時の関口監督の心境は?

母の場合、オカネは単なる「お金」にあらず。お金を通して母の生きざまが見えてきました

この動画から見て取れるのは、何度となく話し合った自宅の火災保険料の振り込みをどうしても覚えられない母の姿です。

こういった母の言動や行動をじっと<観察>し、母の認知症の進行具合を見極めようとしていましたね。

とはいえ、預金通帳を紛失して気落ちしている母でしたが、定期預金の通帳が見つかるとゴキゲンになります。まさに現金!(笑)

動画のキャプチャー1

お金の問題は、本人にとっても家族にとっても大きな問題です。

しかも母の場合、オカネは単なる「お金」にあらず。権力のシンボルであり、母と娘の力関係の象徴でもあります。

保険料を払い込んだら、そのお駄賃として、お釣りをくれるという姿勢からも分かります。娘の私はとっくの昔に成人しているというのに…(喜んで頂戴しましたが!)。

大げさにいえば、母の生きざまがお金を通して見えてくる…。常に目の前で起こっている事象からいろいろなことを読み解くようにしていましたね。

まさに私が唯一無二の認知症ケアと考えるようになったパーソン・センタード・ケアの<探偵になる>というアプローチの仕方です。

そして、不思議と<探偵>モードのスイッチをオンにすると、問題が大きければ大きいほど張り切っちゃうんですよね。これは私の性格だと思います。

母のお金の問題もいずれは起こるだろうと考えていたので、まずは<探偵>になってじっくりと何が起こっているのか<観察>することから始めます。

このように私にとって、母への介護は「私の心のスイッチの切り替えをどう上手くするのか」ということでもあるのです。

そのとき関口監督がとった行動は?

私がすべきことは、母の性格をしっかり把握すること。だからこそ、あえて通帳探しには手を出さなかった

母には酷だったかも知れませんが、本人が納得するまで私は一切手を出さずに、母自身に通帳探しをしてもらいました。

認知症ケアにおいて重要なことは、これまでに何度も書いてきましたが、認知症の人の人となりをしっかりと理解するということです。

マントラのように「認知症になっても十人十色」を心にしっかりと刻む。

ケアをする側がここを理解していれば、「認知症になると…」とか「認知症の人は…」などと最大公約数的な言い方は、絶対にできないはず。

当時の母は自分を認知症だとは思っていません。というか、自分と向き合い、自分が認知症であるということを受容することは、母にはできない。

母は負けず嫌いでプライドが高く、娘の助けを拒否するタイプなのです。

ですから、私がすべきことは、このような母の性格をさまざまなシーンでしっかりと把握することであり、その結果、母の通帳探しに手を出さなかった。

動画のキャプチャー2

ただし、母の必死な通帳探しを目の当たりにして、私はプランBを考え始めます。

母が見つけた定期預金の通帳の情報をもとに、どうやって母の年金をゆうちょ銀行への振り込みに変更するのか…。

お金に関する情報を、母だけでなく、私も把握できるような体制をどう作っていくのかを考えたのです。

こうやって<探偵>のように考えていくと、お金の問題は大変は大変ですが、活路を見出すことは不可能ではありませんし、プランBのアイデアを考えている時間を私も結構楽しんでいるのです。

関口監督から読者へ伝えたいメッセージは?

認知症の方ご本人の性格を鑑みて、冷静に個別のケアを

この連載もすでに13回目になりました。きっと読者の皆さんも「毎アル」からのメッセージがどのようなものになるか、予測がつくようになってきているのでは、と期待します。

今回のオカネの騒動について、気をつけるべき点は2つあると私は考えています。

  • ①母のように通帳のありかを覚えていないのは、記憶の問題から来ているということを再確認すべし。
  • ②介護者である私は、勝手に母の部屋に入って通帳を探したりせずに、まずは母のプライドを尊重すべし。

特に2は1よりも重要です。ここで個別化されたケアの差が出てくるはず。なぜなら2は、認知症の症状はまったく関係ないからです。

私の場合で言えば、母の性格を熟知しているので、私が母を手伝い、一緒に貯金通帳を探すという行動は、ますます母の<失敗>を強調することになり、母の<プライド>を傷付ける結果になってしまいます。

現に母は、一人で通帳を探し、定期預金の通帳を見つけることに<成功>し、母親として娘の私にお駄賃をくれるという<主従>の威厳を保つことができました。

動画のキャプチャー3

一方、母のように強気ではない認知症の人でしたら、一緒に探すという行為が功を奏すのではないでしょうか。

要は、ケアの原点はすべからく、ご本人の性格を鑑みて決定するという介護者の冷静さが求められると思います。

そうすれば、後々の本人との関係性や介護がグーンと楽になる。このパーソン・センタード・ケアのアプローチこそ認知症ケアにおいて唯一無二の方法であると思っています。

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