近年、摂食・嚥下障害の領域では超高齢社会の影響によりサルコペニアが注目をされています。

サルコペニアとは主に年齢を重ねることによって引き起こされる、筋肉量と筋力の減少のことを指します。摂食・嚥下障害の多くは脳卒中の後遺症によって引き起こされますが、この記事では最近注目のサルコペニアについてと、一見関係のないように思われる嚥下障害との関連についても紹介したいと思います。

サルコペニアの原因と健康への影響について

サルコペニアは、運動不足や食事の問題、体内のホルモンの変化、体の炎症など、さまざまな原因で起こります。この状態になると、筋肉が弱くなり、転倒しやすくなるほか、普段の活動量が減ったり、気分が沈んだり、考える力が落ちたり、骨が折れやすくなったり、歩きにくくなったりします。

これらの問題は、健康で長生きする上で大きな障害となります。そのため、サルコペニアを防ぐことは、元気に長生きするためにもとても大切です。予防には、バランスの良い食事と適度な運動が特に重要です。

栄養面からのサルコペニアの予防

サルコペニア予防には適切な食事が重要です。特に、筋肉を守るためにはたんぱく質が非常に重要になります。高齢者は、一般的な成人よりも体の一部分あたりに必要なたんぱく質が、少し多く必要で、体重1kgにつき1.0～1.2g食べるのが推奨されています。

これは、歳をとると筋肉をつくる力が落ちるためです。たんぱく質は、肉や魚、卵、チーズのような動物性の食べ物だけではなく、豆腐や納豆のような大豆由来の食べ物にもたくさん入っています。これらを毎日バランスよく食べることが大切です。

また、歳をとると、食べる量が減ったり、好き嫌いなどの好みが変わったりすることもあるため、食事を楽しめるように工夫することも大事になります。例えば、食事をきれいに盛り付けたり、食べやすいように切ったりして、食べることをもっと楽しくしましょう。

特に、飲み込むのが難しくなったり、水分を飲むのが苦手になったりすることもあるため、肉や魚を食べるのが難しくなることもあります。そんな時は、周りの人が気づいて、食事の仕方を変えてあげることが大切です。

運動面からのサルコペニアの予防

サルコペニア予防には、適度な運動が非常に重要です。筋肉を強化する筋トレと、心と体を元気にする有酸素運動が特に良いとされています。週に2～3回、筋トレをすると筋肉がしっかりして、サルコペニアを予防できます。特に、足の筋肉を鍛えることが良いとされています。

なぜかというと、体の筋肉の70%が足にあるためです。足を鍛えると、歩いたり立ち上がったりが楽になり、日常生活がもっと快適になります。さらに、週に150分程度歩いたり自転車に乗ったりする運動（有酸素運動）も効果的です。

もしそれらの運動が難しい高齢者の場合は、日々の生活で少し歩いたり階段を使ったりすることから始めましょう。これなら無理せずにできます。

サルコペニアと嚥下障害

ここまではサルコペニアの原因や予防について伝えてきました。ここからはサルコペニアと嚥下障害はどのような関連があるのかを説明したいと思います。

嚥下は口や舌、喉の筋肉を動かして食物を飲み込むことです。つまり、関連する筋肉が低下すると嚥下機能も低下することになります。サルコペニアを認める高齢者すべてが嚥下障害になるわけではありませんが、全身の筋力が落ちることで、喉の筋力も落ちて結果的に嚥下障害を引き起こす可能性があります。実際に脳卒中など明らかに摂食嚥下障害を引き起こす疾患のない入院高齢者の約4割に摂食嚥下障害を認めたとする報告もあるのです。

また、サルコペニアが原因で嚥下障害になることもあれば、嚥下障害が原因でサルコペニアになることも知っておきましょう。実際に私が言語聴覚士として病院で嚥下訓練をしていた時も、大腿骨頸部骨折が原因で入院した高齢者が寝たきりになり、筋力が低下したことで誤嚥性肺炎になってしまったケースを何度か経験したことがあります。

また、その患者さんが治療過程の中で十分な栄養を摂取できない場合もあり、筋力をさらに低下させ嚥下障害を悪化させてしまったケースもあります。

サルコペニアを原因とした嚥下障害の対策

サルコペニアが原因で嚥下障害になってしまう可能性があることは理解してもらえたと思いますが、対策はどうすればいいのでしょうか。

基本的には栄養補給と運動の組み合わせが重要になりますが、嚥下障害の方は身体機能も低下しており、運動が十分にできない方も多いです。そうなるとまずは栄養面からのアプローチが優先となります。

よく使用する補助食品として株式会社 明治のメイバランスという商品があります。

メイバランスはタンパク質、ビタミン、ミネラルなど、サルコペニアの患者が必要とする栄養素をバランス良く含んでいます。これらの栄養素は筋肉の維持と回復、体力の向上に役立ちます。特にメイバランスはドラッグストアなどでも手に入れやすいことと、ジュースのみでなくアイスクリームタイプもあるため、より重症度の高い嚥下障害の方にも使用しやすいので個人的にもおすすめです。

他にもその方に応じた補助食品があるため、医師や管理栄養士、言語聴覚士と相談しながら、使用してみてください。