創作活動は自分を表現するのにぴったり

第86回でも書いた『福祉を超えろ!「わたしの居場所をつくるVR」』という企画が一歩前進した。

今メタバース界でもっとも輝いているVRアーティストのせきぐちあいみさんがスペシャルアドバイザーに就任し、東京大学先端科学技術研究センターの登嶋健太さんと社会福祉法人千楽という障がい者施設がこのプロジェクトを実行する。

そして施設の皆さんが描いたVRアートの展覧会をするためにクラウドファンディングで資金を調達している。2日目にして早くも目標額に達成して、注目していただいているんだなあと実感する。いろいろな場所で展示ができるように8月までクラファンは続いているそうだ。

普段喋ることが苦手だったり、感情をうまく表現できなかったり、コミニケーションを取るのが苦手だったりする方にも創作活動は大切だ。

創作活動をすることで、新しい自分を発見できたり、今までできなかったことの扉が開いたりする。

創作プログラムは以前から発達障がいや引きこもりの方を中心に活用されている。絵画や染色、農作業などの創作活動は、当事者の心が見えるものだ。

いつ見ても感動するライブパフォーマンス

イベントの新しい取り組みとして、VR(人工現実感)のなかにつくり出すアートを施設の皆さんに紹介することを始めた。

せきぐちあいみさんに施設でライブパフォーマンスを披露してもらい、その場でVRアートの世界をみてもらった。

VRゴーグルの中の世界をみた人たちは「わあ、すごい!」と声をあげてその世界に没入していくのがわかった。

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施設の方々も興味津々だったイベントの様子

ボクもその現場にお邪魔していたが、せきぐちあいみさんがVRアートを描いているパフォーマンスを見ているだけでも引き込まれていく。違う世界に行く準備がされていく感覚になっていた。

そしてVRゴーグルをせきぐちさんにつけていただいたとき、ボクは「おお!」と、つい声を上げてしまった。VRゴーグルの中では思った100倍ぐらいの感動があった。

せきぐちさんがパフォーマンス中、プロジェクターで映し出された2Dの作業映像を見ていたわけだけど、ゴーグルの中は別世界が広がっていたのだ。

言葉で表現するのは難しいけど、立体的な絵の中に自分がいる感じがした。

せきぐちさんはその日、未来に羽ばたいているように見える鳳凰のような絵を描いた。

VRの世界でその中に入っていくと、キラキラ輝いている鳳凰(ほうおう)が今まさに飛び立とうとしているのが見えた。

その先には行ったこともない街並みや楽園が広がっていて、もちろんその世界の中を実際に歩くこともできる。

ボクも車椅子でその世界の中を進んでいった。その瞬間はその世界に確実に自分はいるわけだ。

ボクは、高次脳機能障がいや、半身麻痺、言語障がいなどのさまざまな障がいを持っていて、控えめに言っても現実の世界ではちょっと苦労する。

できないことも多いし、行けない場所もあるし、感情を抑え込んだり、喋れないことへのストレスなども現実世界では感じる。でも、VRの世界に行くとそんな体が自由になった気がするのだ。

神足裕司そのものでいてもいいけど、VRゴーグルをかぶったボクは別の人間になっていてもいいわけだ。

VRアートを描こうとすれば左手にもリモコンを持つので、自由には使えないけれど、VR上で出会う人たちから見ればそこにいる神足さんであって、車椅子に乗った現実世界の神足さんではない。

そこの中で0から自分ができていく。新しい自分が、見たこともないアートの世界に佇む。

まずは、VRアートの中に入ってその不思議さを体験してみてほしいと思うのだ。

VRアートの中は別の世界が広がっている

ちょっと話はそれてしまったが、VRアートの世界的アーティストであるせきぐちさんの作品をゴーグルの中でみられた人々は本当にラッキーだったと思う。

ゴーグルでVR空間を見ただけでも感動するだろうに、今この世界の第一線で活躍されている、せきぐちさんの世界に入っていけたのだから。

せきぐちさんの作品をみた施設利用者は「すぐに描いてみたい」と言っていた。それぐらいの衝撃だったのだと思う。

02
皆さんVRの世界に惹きつけられていた

ボクは今まで、VRの人工現実世界の中でいろいろな体験をしてきた。

体が不自由な自分がいけない場所にVR上で旅に行ったり、VRアートで自分の中の何かを表現したり、開放感を味わったり、自由な自分を取り戻すことは多々あった。

高齢者の皆さんとVR上で絵を描くと、描いているときは集中しすぎて会話が無くなることも多いが、それでも一緒の時間を過ごすという一体感や達成感を味わえる。

VRゴーグルをかぶっているときは個であるわけだけど、「どうやるの?え?それどうやったの?」と会話が生まれることもある。

同じ部屋にいて普通絵を描いていたら隣の人がどんな絵を描いているか、わかってしまうのだけれど、自分が満足のいく作品ができるまでは自分だけの世界でいてもいいわけだ。これはVRで絵を描くメリットでもある。

そうとはいえ、描けたものをどこかで発表したいという欲求も生まれる。それは人工現実の中に生まれた不思議な感覚のアートのせいでもあると思う。

VR上では線を1本引いただけでも、まるをひとつ書いただけでもアートとなる。せきぐちあいみさんのような素晴らしいアートもアートなのだけど、初めて描いたグルグルな線の塊がボクには無限に広がるこれからの世界に見えたりもするのだ。

せきぐちさんも「VRアートは、これまでの絵を描くという表現以外にも別の世界にいくという体験を届けられる。そこが違うところ」とおしゃっている。

いろいろな意味で活きづらかった人たちが、そんな体験から活路を見出してくれたならと思う。

動画提供:登嶋健太

VRの世界でまだまだ挑戦していきたい

ボクは5年前にVRの世界に出会い、少なからずそれまでとは違う世界が広がった。

違う世界にいける体験ができたVRを、福祉施設で、このように活用しているんだという前例を作って、ここから発信していけたらいい。そしてそれが世界に広がっていけばいいと思う。

ボクも今回のプロジェクトで「わたしの居場所」をテーマに絵を描いてみることになった。

それが思った以上に悩んで悩んで筆が進まない。絵の構想を練ってこれも違う、アレも違うと、なかなか決まらない。

紙に2Dで描いてみたり、VRの中で何十回も試してみたり、日々奮闘中。まだまだ画力も足りないので「こう書きたいけど、どうやるんだろうか?」と、そんな初歩的なジレンマにもぶつかっている。

妻がいないとゴーグル内のソフトを始められなかったり、拡大や縮小など両手を使わないといけない場面で手が止まってしまったり、脳が更新不可能でゴーグルをかぶったまま数十分手が止まってしまったり、ポンコツな脳とうまく付き合いながら作品制作を始めた。

でも悩みながらもまた新しい境地までやってきた感覚もある。仕事でもなく、制約もないこんな機会を与えてくれたことは、それこそ新しい「わたしの居場所」が発見できる機会かもしれない。そう思って壁を乗り越えるべく毎日作品の制作に取り組んでいる。

福祉施設の皆さんにも新しい「わたしの居場所」を発見してもらえたらと思っている。

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