キユーピーに行き
介護食の話を聞いた
皆さんは、市販されている大人の介護食を買ったことはありますか?いつもの食事が食べにくくなったご家族がいらしたら、「これっていいのかな?」と思う方もいらっしゃるだろう。
先日、キユーピー株式会社にお邪魔した。介護食についてじっくりお話をしたいとおっしゃってくれたからだ。
話の発端は、以前他媒体で書いた原稿だった。
食わず嫌いだった介護食。体の状態が悪かったとき、ペースト状のおかずを試してみた。 そのときは仕方なく食べたのだ。
知人がおすすめするキユーピーの介護食だった。食べてみたら「なんだ、美味しいじゃないの、ふつーに美味しい。これだったらいけるかもしれない」そう感じて気を良くしたボクは、他の介護食も試すようになった。
そんなに毛嫌いするほどのことはない。思っていたより随分、いやかなり美味しいのだ。
けれど、結局は食べなくて良いなら食べたくはないよね、となっていった。何でだろう?美味しいのに。というような原稿だった。
(写真提供:石川正勝)
市販の介護食は
完成度が高い
市販されている介護食は、プロが研究し尽くしていて、妻が頑張って作ってくれたものよりも完成度は高い。実際に作っている妻本人もそう言う。
どこが違うのか。まず、素人がミキサーにかけてつくるものとは滑らかさが違う。舌触りというか、あれだけ滑らかに家庭でつくるのは至難の業だ。同じペースト状でも舌触りがざらついていると美味しさは半減する。
もちろんわざとそういう作り方をしている料理もあるだろうけれど。たくさんの食材が混ざっているものだし、あれだけ滑らかにすることは、なかなか家庭では難しい。
今回キユーピーで、いろいろな介護食をいただいたが、色味がみんな似ているんだなあと思った。とはいえ、家でミキサーにかけたものはそんな綺麗な色ではない。ときには「ん!?」とちょっとびっくりするような色になった食事もある。それがハンバーグと言われたって、食べたくないようなもの。市販のものはそんなことはない。
栄養価だって市販の介護食の方が優っている。いただいたものの中には、量をあまり食べられない方のために、一袋100グラムほどの小さい袋に入ったものもあった。こんなに小さいサイズで160カロリーも取れるだなんて驚いた。

(写真提供:石川正勝)
生姜や出汁の風味が効いた
ボクのお気に入りもあった
今回はペースト状のものを中心にいただいたが、「容易にかめる」「歯ぐきでつぶせる」「舌でつぶせる」「噛まなくてよい」と介護食は大体4段階に分かれているらしい。
そのなかで、「容易にかめる」「歯ぐきでつぶせる」などは、食材によって調理時間が違うだろう。にもかかわらず、そういうものもすべて同じような柔らかさに仕上がっているのである。
家庭ではこっちをこの硬さにしたら、こっちは煮崩れしちゃって形がないなんてことになりかねないが、もちろんそんなこともなく見栄えが良い。
そして何より味が良い。介護食なんて薄味で美味しくないんでしょ?の概念を取っ払ってくれた。
美味しいものがたくさんあった。中でも特にボクが気に入ったものは、「なめらかおかず豚肉と野菜(豚肉の生姜焼き)」とかつお節のだしを使用した「鶏ときのこの雑炊」だ。
生姜が効いていたり、出汁の風味が全面にきていたりと味にインパクトがあり、大人の味で美味しかった。ボヤッとしていない味なのに、伺ってみると濃い味付けなわけではないそうだ。今まで食べた介護食と比べてもさらに美味しかった。ちゃんと大人の良い味だ。
ちょっと挙げただけでも、市販の介護食はこんなに魅力的だ。 考えてみたら、家庭で作ることがなんて大変な作業が必要かってこともわかってくる。
それが市販されている。良いことずくめじゃないか。いろいろ忙しい家族は、これに頼っても良いと思う。

(写真提供:石川正勝)
スティックミキサーで作る
我が家の介護食「肉じゃが」
我が家の普段の食事の話をしよう。
その日のメニューが「肉じゃが」だったとする。ごく普通に作った肉じゃがをじゃがいもと玉ねぎ、人参、さやえんどうを別々にミキサーにかける。
すべて一緒にかけて味、色などで失敗を繰り返したので、今は別々にミキサーにかけることにしいるらしい。
さやえんどうは少量ということと、筋があるので、なかなかうまくかけられない。少量でもさやえんどうは味にインパクトがあるし、彩と割り切ってミキサーにかける。ちょっとぼやけた色のさやえんどうのペーストもどきができる。
じゃがいもは汁も混ぜてつぶす。妻がいうには、玉ねぎが加わるとグッと肉じゃが感が出るらしい。
あとは人参。人参は介護食にとって救世主だと妻はいう。彩には欠かせず、繊維質も少なく柔らかくなるが煮崩れもしないで調理しやすいらしい。ペーストも滑らかにできるとのこと。
肉じゃがなのに肉はペーストにできない。やってできないことはないそうだけど、美味しくできないとのこと。肉と白滝はパスされる。汁がまさしく肉じゃがの味になっているので、肉がなくても物足らなさは感じない。
それぞれの野菜が、同じ器の中に入って我が家の「介護食肉じゃが」となる。
ボクの体の状態によって、潰すだけで良いときも、ペーストになるときもあるわけだけど、使うのは昔から妻のお気に入りのスティックミキサー。
30年ほど前に買って今は3代目。介護食用に買ったわけではない。玉ねぎのみじん切りやミックスジュースを作ったり、餃子の種を作ったり。みじん切りやペースト状にする際、少量でも対応できるところも良い。
我が家にあるものはパワーもかなりある。一度別の会社のものを購入したが、パワー不足だったらしい。ケチってはいけない。
我が家には、ミックスジュースを作るために購入した馬力のあるミキサーもあるのだけど、これはボク一人の肉じゃがを作るために出すサイズのものではないらしい。

(写真提供:石川正勝)

(写真提供:石川正勝)
家族と一緒のものが食べられる
それが完食できる理由
改めて我が家の「介護食肉じゃが」の行程を書くと大変そうに聞こえるが、妻曰くそんなには大変じゃない。適当。とのこと。
我が家のメニューは介護食にもできるものが定番だ。カレーだったり、マカロニグラタンだったり、肉じゃがだったり、シチューだったり。鍋なんかも結構いけるそうだ。要するに潰せるものがメニューになる。
これもかなりの失敗作もあり、ミキサーにかけてみて一発勝負。
けれど出されたものはほとんど食べられるのだ。何でだろう? 味も見栄えも市販の方が優っているだろうに。
考えてみた。一番の違いは、家族と一緒のものを食べているということ。それは、たとえボクの目の前にある器の中にペースト状のものが入っていたとしても、何を食べているかわかるということになるのだ。
食べているものが魚なのか、かぼちゃなのかわからない。それが一番食欲を減退させられる。
赤ちゃんが離乳食を食べるのとは訳が違う。こちらは経験値を積んだ人間なので、ペースト状のわけのわからないものを目の前に出されても、食欲は湧かないっことだと思う。
元はこんなもんだったんですよ〜ってわかれば、市販の介護食ももっと抵抗なく食べられるのかもしれないな。

(写真提供:石川正勝)
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