新型コロナが蔓延する今、車の旅が流行っているらしい
福祉車両の改造を手がけるオフィス清水を訪ねた

オフィス清水の清水深社長を訪ねた。オフィス清水さんといえば福祉車両、介護車両改造を手がけている会社だ。しかも、相談して自分が足りない部分を補う装置を今ある車につけてもらえる。ボクが頭の中で思い描いていた「こんなのやってくれるとこあったらいいのにな」を実際やってくれる会社だという。

清水深社長と神足さん

何年も前からボクは清水さんとお話してみたかった。けれど、お会いするときはテレビの取材だったり雑誌の取材だったりで、いつもばたばたしていてゆっくりお話できないでいた。

新型コロナが蔓延している昨今、車での旅が流行っていると聞いた。公共機関の乗り物は怖い。だけど、ちょっとの自由は欲しいというわけだろう。車の中はとりあえず安全な空間だと思うのだろう。

旅とまでいかなくても、いつも一緒にいる人と車の中から外を眺めるのは許されてほしい。

家にこもりっきりじゃ足腰は弱るし認知機能にも影響する
でも、車椅子になっちゃったから今の車じゃあね…

新型コロナの自粛期間、高齢者や障がいを持っていたり体が弱かったりする人は、自宅にこもりっきりの生活を余儀なくされていた。自主的に新型コロナが怖いからと外に出なかった高齢者も多い。

「新型コロナにならなくたって家に閉じこもって病気になっちゃうよ」そんな声も聞こえてきた。「お年寄りは自宅にいるのに慣れてるから新型コロナで出られなくたって上手に過ごすでしょ?」そんなことを言う人もテレビの中にはいてびっくりしたけど、誰とも会わない、しゃべらない、歩きもしない日々が続いて足腰だって弱るし、認知機能にだって影響する。

そんな家族を外に連れ出したいじゃないか。ちょっとでいい。車に乗って外の空気に触れさせてあげたい。風に触れたい。

けれど、「最近ちょっと足腰の弱ったおばあちゃんを車に乗せるのには、車高が高くってちょっと乗り辛くなっちゃったんだよね」とか、「車椅子になちゃったから今の車じゃあね…」などなど、今乗っている車では高齢者を乗せるのは無理かもしれないと躊躇する。

ボクはベンツに乗りたかったけど、福祉車両にはなかった
外国の車に乗ってきた高齢者は何に乗っているんだろう?

気に入っている自分の家の車が家族の身体の変化で乗れなくなってしまう。そんな困ったところをオフィス清水は拾い上げてくれる。

ボクの家でもそうだった。

ボクが倒れてからはじめて車を買うことになった時、もちろん福祉車両も候補に挙がった。ボクは自分で立つこともできないから移乗だって大変だし、車椅子だって乗せなきゃいけない。

福祉車両に乗る神足さん

もう車を購入することも最後かもしれないと思っていたボクは、どうしてもベンツに乗りたいと考えた。贅沢なのはわかっていた。わがままなのも。だけど最後のお願いだからと言ってむりをきいてもらうことにする。

そこでハタと気がつく。国産車には福祉車両とうたった車が各社あるのに、外国車には一台もないのだ。ベンツもアウディもBMWも。ボクだって昔から車雑誌に連載を持っていた男だ。いろいろ調べたくなる。

どうやら、新車を納車のときに福祉車両でというのは外車の場合ない。オプションでもなかった。では、「今まで大好きで外国の車に乗ってきた人たちは高齢になって何に乗っているんだろう?」そう思った。

選べることが大切なんだ
好きな車を、乗りやすい状態に改造する自由があっていい

結局ボクは国産の福祉車両を購入。そのあと本当にまもなくだった、ヤナセとオフィス清水が業務提携したというニュースを見たのは。

「ついにきたぞ!そうだよなあ。外車を福祉車両に、っていうのは社会全体からしたらニーズとしてはわずかかもしれない。だけど選べることが大切なんだ」そう思った。健常者と体の不自由な人が車を選ぶとき、どちらも同じようにいろいろ選べる世の中が理想だ。

体が不自由だから限られた車種しか乗れないのは悲しい。清水社長もおっしゃっていた。「体の具合でこういう車のほうが乗りやすいですよっていうのはあったとしても、自分が好きな車をその人が乗りやすい状態に改造する、そんな自由があって当然だ」と。

外車だけではない。6人乗りのまま車椅子のリフトをつけたいとか、既存の福祉車両にはないこともオーダーできる。もちろん障がいを負った方が自分で運転できるように改造することも少なくない。

運転席に乗り込むときに便利なスライドシートや車椅子をしまうのに便利なリフト。今まで見たこともないと感動したのは、助手席がそのまま車椅子に変身する優れもの。助手席が回転可能なシートになっていて、車椅子の土台となるシャーシーにスライドし、車の座席があっという間に車椅子に変身する。

車椅子に変身する座席

車のシートなので、背もたれの角度も自在だ。車椅子のタイヤになる部分にもノーパンクタイヤを使用したりと細部までこだわっている。

ベンツのVクラスやアルファード、ルノーマスターなどにスロープをつけたり、トヨタのボクシー、ダイハツブーン、ワーゲンなどに回転椅子を取りつけたり、とにかく多彩なのだ。

清水さんは乗る人の思いをしっかり受け止めて車をつくる
だからこんなにかっこいいんだ

ボクは、清水さんのお話を伺いながら清水さんご自身にも興味がどんどんわいてきた。

相談がきたら、とにかく「詳しくお客様の話を聞くこと」を心がけているという。ごく当たり前のことに聞こえるかもしれないが、時間をかけて信頼関係を築いていく。

「思っている、想像している車により近い車をつくるためには、乗る人の思いをしっかり受け止めないとできない。」と聞いて納得した。「だからこんなにかっこいいんだ」そう思った。

一人ひとり障がいや体の具合は違う。それにあったカスタマイズをオフィス清水が実現してくれるのだろう。そして帰りには、ボクの家の新しい車を改造している妄想で頭が一杯になった。

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